2025年度デザイン助成プログラム
2025年度デザイン助成プログラムは、2024年12月11日(水)〜2025年2月3日(月)の申請期間中、デザイン研究に7件、デザイン振興に44件の応募がありました。
有識者で構成する審査委員会が審査を行い、デザイン研究2件、デザイン振興2件を助成対象として決定しました。
研究・活動の成果は、助成期間終了後に公表する予定です。
助成期間: | 2025年4月1日〜2026年3月31日(1年間) |
助成金額: | 50万円/件 |
助成対象一覧
デザイン研究
研究代表者: | 井登 友⼀(⽴命館⼤学 経営学部 教授 / 株式会社インフォバーン 取締役副社長) |
共同研究者: | 渡邉 文隆(京都⼤学 成長戦略本部 特定准教授 / 信州⼤学 社会基盤研究所 特任講師) 阿座上 陽平(株式会社Zebras and Company 代表取締役) |
研究タイトル: | デザイン経営実践による『ゼブラ企業』へのトランジションについての研究 |
研究概要: | 2018年の「デザイン経営」宣⾔以来、デザインによる「イノベーション⼒」と「ブランディング⼒」向上への期待から、国内企業のデザインに対する投資と、デザイン経営実践の機運が⾼まっている。斯様なデザイン経営への期待の潮流と併せて、近年、投資判断を含めた企業価値を⾒定める新たな視点として、経済的実現と社会的実現を⼆項対⽴に扱わず、双⽅を⾼次のレベルで両⽴する新たな企業観として「ゼブラ企業(Zebra Company)」という概念にも注⽬が高まりつつある。 申請者である私は、この「ゼブラ企業」がデザイン経営実践の先にある経営観ではないかという仮説を打ち立て、その仮説を検証する。 具体的には、国内で「ゼブラ企業」として社会的な認知と評価を受けている複数の企業責任者に対して、半構造的インタビューによる定性調査、および⼋重樫ほか(2022)が企業のデザイン⼒を測定するためのツールとして開発した「DAM(Design Attitude Measurement)」を⽤いた定量調査を実施。質的、量的双⽅の側⾯からデザイン経営との関連性と相関性を確認する。 <参考⽂献> ⼋重樫⽂, 安藤拓⽣, 後藤智&森⽥崇⽂(2022)「企業のデザイン⼒を測定するためのツールの開発」, 『デザイン科学研究』第1集, pp. 103 ー 118. |
研究代表者: | 吉岡(小林) 徹(一橋大学 イノベーション研究センター 准教授) |
共同研究者: | 秋池 篤(東北大学大学院 経済学研究科 准教授) 勝又 壮太郎(大阪大学大学院 経済学研究科 教授) |
研究タイトル: | 製品カテゴリーを超えた製品外観のデザインの借⽤:技術イノベーションとの関係性とその効果の意匠特許による試⾏的な検証 |
研究概要: | 技術イノベーションがある製品カテゴリーに起きると、製品の外観の選択が重要になる。機能的な価値を伝える必要や、機能上の制約から既存の形状が採⽤できなくなること、さらには、製品カテゴリーとしての正統性を外観により補う必要が生じるためである。そのような時に、他の製品カテゴリーの外観と類似性・共通性を持たせることが好ましいことが理論的・実務的には予想されるが、既存研究は事例研究にとどまる。本研究では、意匠特許データとそこに記録された引⽤情報を⽤いることで、製品カテゴリーを超えた外観の借⽤と、当該外観デザインのインパクトの関係、および、その境界条件について⼤規模な実証を行う。インパクトについてはデザイン賞の受賞との対応関係に基づいて、多⾓的な検証を試みる。本研究は、技術イノベーションの発⽣時に⽬指すべき外観デザインの指針を与えうるものである。 |
デザイン振興
代表者: | 満森 美香(mangrove 代表) |
活動タイトル: | 「キッズデザインスクール mangrove」ー 創造⼒を育むデザイン教育プログラム |
活動概要: | 「キッズデザインスクール mangrove」は、⼩学⽣から中学⽣を対象としたデザイン教育プログラムであり、デザイン思考を取り入れたワークショップを通じて、⼦どもたちが⾝近な課題を発⾒し、創造的に解決する⼒を育む。単なる造形活動にとどまらず、「考える・試す・伝える」といったプロセスを重視し、社会との関わりを意識した実践的な学びの場を提供する。 |
代表者: | 阿部 浩之(佐賀大学 芸術地域デザイン学部 准教授) |
活動タイトル: | 肥前窯業圏のうつわのデザインリサーチをもとにした、パッケージデザイン・プロトタイピングとスタディー |
活動概要: | 佐賀県各地にある伝統料理は、肥前窯業圏で作られたうつわに盛り付けて振る舞われることがある。本研究では、うつわと料理がつくりだす魅⼒や特徴を調査分析し、⾒えてきたデザインの⽅法をパッケージデザインの⼀つの原点と捉え、地域住⺠と検討しながら、特産品やお⼟産品のパッケージデザインに応⽤できるようなデザイン案のプロトタイピングを⾏うことを⽬的とする。 |
審査総評
デザイン研究
鷲田 祐一 一橋大学大学院 経営管理研究科 教授
デザイン助成プログラムのデザイン研究への応募総数は7件であった。初めての試み、そして応募期間が短かったことを勘案すれば、十分な応募数であったといえる。提案された研究計画は、よく練られたものが多かったという印象で、本プロジェクトの企画意図にそったものであった。また、実務組織である日本デザイン振興会が募集するプロジェクトらしく、いずれの計画も現代のデザイン産業や関係する企業に直結する実務的側面を持つ研究内容であった点も特筆するべきであろう。
審査は、「課題性」「独創性」「有用性」「実現性」「将来性」の5つの観点からの書面採点、および本プロジェクトの狙いとの合致度評価の結果をもとに審査委員と日本デザイン振興会メンバーが深く議論し、最終的には審査委員の判断で進められた。
採択された2件については、以下のような評価であった。まず「製品カテゴリーを超えた製品外観のデザインの借用:技術イノベーションとの関係性とその効果の意匠特許による試行的な検証」については、着目した現象自体のユニークさと実務上の有用性が非常に優れているといえる。斬新ゆえに未知のものとして敬遠されるリスクを抱える新商品の弱点を補うこのような外観借用はこれまで当たり前のように実施されてきたがその理論的効用は解明されていなかった。この研究によって解明が進むことを期待したい。
「デザイン経営実践による『ゼブラ企業』へのトランジションについての研究」は社会課題解決と経済的利益追求の両立を目指す「ゼブラ企業」に対して、デザインを重視した経営スタイルがどの程度親和性を持つのかを既存の評価尺度を用いて手堅く調査することで、現代的な課題についての将来的な知見の蓄積を意図している点が評価された。新興企業の経営については財務的な視点での評価が優先されがちだが、あえて経営の質的な問題を持ち込むことの意義は大きい。
2件とも、既存研究を土台にしつつも新しい課題、新しい視点に重点を置いた計画で、今後の発展が大いに期待されるものである。
デザイン振興
渡邉 誠介 長岡造形大学 造形学部 教授
デザイン助成プログラムのうち本分野は「デザインを通じた地域づくり、まちおこし」と「デザインを通じた子どもの教育」の振興を目指して募集した。
全体的に「地域づくり、まちおこし」のテーマが多く、「子どもの教育」や「両テーマを包含する複合的」テーマのものは前者に比べると少なかった。これは、実際に現在の日本でデザインを通じた地域づくりが今回応募された個人から団体まで様々なステークホルダーにより着実にその裾野を広げているからであろう。一方で、子どもの教育に「デザイン」をキーワードとして関わる機会がいまだ限定的であろうことが想起され、今後いかにしてこの分野を充実させるかが課題である。
今回採択された申請は、第一にデザインの力を通した「地域づくり」や「子ども教育」に対してありそうでなかった新規性があることが評価された。また第二に、デザイン振興の観点から、他の地でも参考になり同様の展開するための先行事例として扱える可能性が高いことが評価された。同様の評価を受けた申請は他にも数例あったが、すでにある程度事業が完成している申請よりはスタートアップ性の高いものが採択された。
今後の本分野の申請希望者には、是非単独ではなく、地域や子どもの教育を取り巻く多様なステークホルダーとの「座組」をデザインした上で申請いただきたい。そのことが地域への波及効果や自律性、持続性につながると考えるためである。
今回の申請者は、デザイン助成プログラムの応募一期生にあたる。採択者は是非この助成をベースに事業をすすめ、事業終了後はその事業のエッセンスを他地域に普及させることに協力いただきたい。また惜しくも採択とならなかった申請者もデザインを通して地域や子どもに貢献しようとしているチャレンジャーでありその姿勢は勇敢な冒険者である。今後もデザイン冒険の海をたくましく航海し続けてほしい。