メッセージ
会長あいさつ
内藤 廣 公益財団法人日本デザイン振興会 会長
公益財団法人日本デザイン振興会(以下、JDP)からの要請を受けて、川上元美さんの後任の大役をお引き受けすることになりました。大事業であるグッドデザイン賞の選定は審査委員団を率いる審査委員長が差配しますし、母体であるJDPは着実にデザイン振興の活動領域を広げています。もはや七十年近くの伝統がある活動ですから、わたしの立ち位置はその後見役みたいな役割なのかもしれません。大過なくことが進めば、さしたる出番はないものと思っています。
もとより、プロダクトはそれを手に入れたいと思う人がいなければ成り立ちません。その姿形はデザインによって決められます。しかし、残念ながらわが国では、これまでデザインにまつわることは、さほど政策的に重視されてきたわけではありません。製品輸出で外貨を得るしかない国にもかかわらず、です。
おそらく、デザインに関しては、企業それぞれの知恵に託されてきたのでしょう。良いものは市場が評価して売れる。良くないものは市場から淘汰される。つまり、その善し悪しは市場が評価すれば良い、ということだったのだと思います。経済が順調な拡大傾向にある時代は、それでもよかったでしょう。しかし、気候変動、情報技術の革命的な進化、急激に高齢化し成熟期を迎えつつあるわたしたちの暮らし、激しく追い上げる新興国が国策として取り組んでいる、などを考えれば、わが国のデザインに対する姿勢がこのままでよいはずがありません。デザイン振興を目途とするJDPとグッドデザイン賞の社会的な役割は、より大きなものになっていくはずです。
今まで何気なく使ってきたデザインという言葉も、より戦略的かつ創造的なツールへと発展させる時期に来ています。デザインという言葉は、モノのデザインはもとより、近年ではモノの背後にあるシステムにまで、広汎な範囲で使われるようになってきています。いずれにせよ、どのようなものであれ、人を惹き付ける優れたデザインには「近未来の手触り」があると思っています。人はデザインを通して新しい暮らしを思い浮かべ、それを手に入れた自分を想像し、その未来に望みを託して自分のものにしようとするのです。だから、すべてのデザインは未来を向いています。それも夢物語のような遠い未来ではなくて、個人個人が手に入れられるすぐ近くの未来です。人は必要な機能を得るのと同時に、その「近未来の手触り」に希望を託して手に入れようとするのです。
携帯電話、液晶テレビ、パソコン、インターネット、ハイブリッド車など、時代を変革するような多くの機器や技術が生み出されてきました。それらの優れたものには、必ず「近未来の手触り」が備わっています。そこには無数の夢が詰まっていて、それにふさわしい「近未来の手触り」がデザインされています。
1957年に外貨獲得のための商品造りとして始まったグッドデザイン商品選定制度、以来、なにがGOODなのか、なにが優れたデザインなのか、審査という作業を通して毎年のように熱い議論が重ねられてきました。GOODの意味もデザインの意味も、技術革新や時代の空気とともに変わっていきます。しかし、どのような時代であれ、新たな「近未来の手触り」を見つけ出して評価し、広く社会に認知していただく、という本会活動の本質は変わらないはずです。
この活動を会長という立場で支えていきたいと思っています。
理事長あいさつ
深野 弘行 公益財団法人日本デザイン振興会 理事長
2023年度グッドデザイン賞の募集を開始いたします。
コロナ禍による長いトンネルの先にようやく光が見えてきました。今年度は社会全体としてこれまでの様々な制約を見直し、人々の活動を活性させていくタイミングとなります。グッドデザイン賞も、新しい審査委員長による新体制のもと、応募される皆様がデザインに直接触れ、交流する機会をできるだけ増やしたいと考えております。その一環として、受賞展(GOOD DESIGN EXHIBITION 2023)についてはベスト100(GOOD DESIGN BEST100)に限定することなく、受賞作品全件の紹介を行うことといたします。
皆様もご承知の通り、グッドデザイン賞はデザインを特定のジャンルに限るものではありません。それぞれのデザインを創出するきっかけとなった人々の思い、それを形にしていくプロセスまでを多くの専門家が丁寧に読み解いていくところに、グッドデザイン賞ならではの特質があると考えております。この点に対する皆様からのご期待の表れとして、世界をリードする大企業から地域の中堅・中小企業、スタートアップ、行政や地域貢献活動をされている皆様など、幅広い層からのご応募をいただいています。グッドデザイン賞の傾向を見れば、この国が、世界が、いまどこを目指しているかを知ることができます。応募いただく皆様が自らの立ち位置と進むべき方向を知る手がかりを得ることにつながるでしょう。
本年は、デザイン界にとって特別な年になります。10月には、世界からの参加を得て「WDO世界デザイン会議東京2023(World Design Assembly Tokyo 2023)」が開催されます。時代の大きな曲がり角にあって、デザインが目指す方向や直面する課題などを議論する国際的な場となります。本年の受賞展はこの時期に合わせて開催いたします。世界と日本のデザイン関係者に対して、日本のデザインがいまどのようであるのか、グッドデザイン賞の受賞作品を通じて力強く示す機会にしたいと考えております。
2023年度のグッドデザイン賞に皆様からの活発なご応募をいただきますことを、主催者として心より念願しております。
2023年4月4日