公益財団法人日本デザイン振興会 公益財団法人日本デザイン振興会

2026TBDAテーマ企業インタビュー:株式会社やましたグリーン

2026年度東京ビジネスデザインアワード

「東京ビジネスデザインアワード」は、東京都内のものづくり中小企業と優れた課題解決力・提案力を併せ持つデザイナーとが協働することを目的とした、企業参加型のデザイン・事業提案コンペティションです。

企業の持つ「技術」や「素材」をテーマとして発表、そのテーマに対するビジネスモデルを含めた新たな製品・用途開発・ブランディング案をデザイナーからの「提案」として募集しています。

2026年度はテーマ8件の発表をおこない、10月27日(火)23:59までデザイン提案を募集中。本年度テーマに選ばれた8社へのインタビューをおこない、技術や素材について、本アワードに期待することなどをお聞きしました。


テーマ名:庭木を廃棄せず循環させる植木事業

テーマ企業:株式会社やましたグリーン

企業HP:https://www.yamashitagreen.com/

『庭木にあらたな命を吹き込む』

東東京の東、東京都八王子市。やましたグリーンが営む「もらえる植物園」には、様々な事情で個人宅やマンションから引き取られてきた樹木が息づいている。建物の解体や「庭じまい」に伴い、長年愛されてきた庭木が廃棄処分されるケースは少なくない。やましたグリーン代表の山下力人氏は、幼少期の自然体験と庭師への憧れから造園の世界へ飛び込み、職人として腕を磨く中で「命ある植物を廃棄する」ことに強い疑問を抱くようになった。こうして誕生したのが引き取り手のない庭木を引き受け、次の育て手へとバトンを繋ぐ「植木の里親」事業だ。山下氏の原体験から創業の経緯、既存の造園業界が抱える課題、そしてビジネスモデルの革新や、共に未来を描くクリエイター像について、じっくりとお話を伺った。

お話:株式会社やましたグリーン 代表取締役 山下力人氏


自然の中で育まれた庭師像

──まずは創業の経緯について伺いたいのですが、その前に、これから応募を考えているデザイナーやプランナーの方々に向けて、山下さんの人となりを知っていただきたいです。これまでにどのような経歴を辿り、この「やましたグリーン」を創業するに至ったのでしょうか。

山下:子供の頃まで遡りますと、小学校低学年までは昔から桑都(そうと)と言われるこのエリアに住んでいました。母の実家が東京都檜原村にあり、その中でもさらに山奥に位置していたんです。当時はまだ道路がなく、車でたどり着いた場所から30分ほど登山をして祖父母の家に向かうような環境で、よく連れて行ってもらっていました。そのため、自分にとっては自然が身近にある環境が当たり前だったんです。新任の先生が学校に来ると「この辺りは自然が豊かで」と必ず口にするのですが、「それは絶対言わなければいけない決まり文句なのかな」と思うほど、ごく日常の光景でした。

都会に出ることもあまりなく、自然に囲まれて育つ中で、檜原村に行くのが非常に好きでした。親戚のおじさんには建築家や大工などの職人が多かったんです。当時はまだ茅葺き屋根の母屋があり、それを保護するためにトタンを被せようとなった際、「みんなでやろう」と小学生ながら手伝わされた記憶があります。そうした体験を通じ、体を動かしながら働く職人という仕事に面白さを感じていました。

そんな折、テレビで『いじわるばあさん』の実写ドラマを観ていたところ、劇中に庭師が登場したんです。その姿を目にして「こんなに魅力的な仕事があるのか」と感銘を受け、庭師になろうと決意しました。小学校の頃にはすでに庭師への憧れを抱いていたわけです。

その後もこのエリアで小・中・高校時代を過ごしました。高校入学時、たまたま同級生の実家が造園会社を営んでいたんです。「夏休みなどの長期休暇だけでもバイトさせてほしい」と頼んだところ快諾してもらい、そこから造園の世界へ足を踏み入れました。以来、ずっと造園一筋で歩んできました。

──それは運命的な出会いでしたね。植物や自然に寄り添いながら成長してきたわけですが、その中で独立に至った背景には、どのような経緯があったのでしょうか。

山下:独立への意識、もっと言えば「社長」という存在への憧れを抱いた背景には、幼少期のひとつの原体験があります。自身の父親は一般的なサラリーマンで、バブル期ではあったものの、子供の目から見てその恩恵を大きく受けている感覚はありませんでした。

一方で、そのバブルの恩恵を受けているであろう建築業界の社長たちがいたんです。ある時、父の会社の保養施設を利用した伊豆旅行でのことです。節約旅行だったため、入ったお蕎麦屋さんでは「うちはみんな『かけそば』ね」と注文が決まっていました。そこへ、自身と同い年くらいの子供を連れた家族が入ってきました。その父親はいかにも社長といった風貌で、「お前たち、何でも好きなものを食べていいぞ」と言い放ちました。「これほどまでに差が出るものなのか」と幼心に大きな衝撃を受けました。そこから「絶対に社長になる」という憧れが芽生え、「社長×庭師」という目標が定まりました。造園の世界に入った時点から、最終的には独立して会社としてやっていくことを決めていたんです。

──現在は造園業を営む傍ら、庭木を廃棄せず循環させる事業、いわゆる「植木の里親」事業も手がけられています。現在の事業内容や構成について教えていただけますか。

山下:はい。現在はほぼ100%近くが民間のお客様や法人からの依頼です。事業は大きく分けて3つあります。ひとつは個人宅や施設の植栽管理、ふたつ目は庭のリフォームや新規造園を行う造園工事、そして3つ目が「植木の里親」事業です。年によって変動はあるものの、概ねこの3つが均等な比率で成り立っています。

──「植木の里親」事業をスタートすることになった最初のきっかけについて詳しく教えていただけますでしょうか。

山下:あるご家族が住んでいた家でのことです。娘さんふたりが独立して家を離れ、さらにご主人が亡くなられました。奥様おひとりでは建物が広すぎるため、家を小さく建て替える「減築」をすることになったんです。現在の庭のスペースに小さな家を建て、完成後に母屋を解体するという計画でした。

 その際、庭にある木が工事の邪魔になるため伐採せざるを得ず、私たちが現地へ赴きました。いざ作業に入ろうとしたところ、奥様が非常に悲しそうな表情をされていたんです。「どうされたのですか」とお尋ねしたところ、「亡くなった夫がとても大切にお手入れしていた木なので本当は切りたくない。でも、そうするしかないのよね」とおっしゃいました。

そこで深く考えず、「では自分たちで育てましょうか」と提案し、資材置き場へ移植するつもりで掘り出して持ち帰りました。これが全ての始まりです。以降、同様の事情を抱えたお客様に話を聞くと、「切るのは忍びない、できることなら引き取っていただきたい」と望まれるケースが非常に多かったんです。それで、引き取る木が増え続け、敷地が手狭になってきたことから、「次に育ててくれる人へ託そう」と現在の「もらえる植物園」の形が出来上がっていきました。


「造園業が誰かの木を引き取る」ということ

──「もらえる植物園」の植物は、主に鉢植えの状態で管理されています。それにはどのような理由があるのでしょうか。

山下:次に植栽する際、時期を問わず誰でも簡単に植え付けできるようにするためです。地面に直接植えてしまうと根がのび、すると、根切りができる季節が限定されてしまいます。いつでも次の里親さんへ引き渡せるよう、鉢に入れた状態で管理しています。持ち帰りが可能なサイズのものは利用者が自分で持ち帰ることもできますし、大型の樹木については私たちがマッチングを行い、ご自宅まで配送・植栽するサービスを提供しています。

──それはすごいですね。引き取りの依頼はどの程度の頻度であるものなのでしょうか。

山下:ばらつきはありますが、平均すると月に5~6件の個人宅から引き取りを行っています。1件あたり平均5~6本ほどですので、月に30本前後の植物が入ってくる計算になります。引き受ける樹木も、大きなお庭の樹木から、マンションのベランダで育てていた小さな鉢植えまで樹種や大きさは様々です。遠方ですと愛知、新潟、福島、あるいは大阪から数十万円の運搬費をかけてでも「やましたグリーンに引き取ってほしい」とご依頼いただくこともあります。

──知る人にとっては「やましたグリーン」がある種の安心をもたらしてくれるブランドになっているのですね。素晴らしい。この事業は、やましたグリーンという会社においてどのような意味を持つ存在になっているのでしょうか。

山下:当初は「良いことをした」という程度の認識で、事業構想としてスタートしたわけではありませんでした。しかし、必要に迫られて形を整えていく中で、今や会社にとってなくてはならないアイデンティティとなりました。「これがあるからこそやましたグリーンが成り立っている」と言える存在です。

実はこれらを展開することで求人にも大きな効果がありました。以前は技術重視の職人が中心でしたが、現在は「会社員として働いていたが、植物と関わる仕事がしたい」と中途で入社してくる人や、「この事業に携わりたい」と志す温和で優しい職人たちが集まっています。この事業がなくなれば、もはややましたグリーンとは呼べないような存在に育ってくれました。

──山下さんが造園の修行をされていた当時、造園業界や「庭師」を取り巻く環境はどのような状態だったのでしょうか。

山下:造園業界に入った当時、すでに「庭じまい」という動きが広がりつつありました。

──「庭じまい」ですか?

山下:はい。文字通り庭じまいです。1990年代後半あたりのことです。勤務していた会社でも、入社当時は個人宅と公共事業が半々ほどの割合でしたが、徐々に個人からの依頼が減り、庭を駐車場に変える工事が増えていきました。それに伴い、会社としても公共事業へシフトしていく過渡期だったんです。

しかし、公共事業に取り組む中で違和感を覚えるようになりました。丁寧な仕事をしても直接評価される機会が少なく、樹木を通じたコミュニケーションもほぼありません。そのようなやり方に、強い抵抗感を抱いていました。

同時に、庭の解体を請け負う中で、木を伐採・伐根する作業が非常に苦痛でした。好きで選んだ職業であるはずなのに、なぜ庭を壊す仕事をしなければならないのか。従来の造園会社であれば、「庭の木を動かしたい」と相談されても「処分して新しいものを買い直した方が安い」と提案するのが一般的だったんです。

──なるほど。業界の構造や慣習として、伐採して捨ててしまうのが当たり前だったわけですね。

山下:そうです。造園業界というのは非常に閉鎖的なところがあって、従来の枠組みの中では新しい試みが受け入れられにくく、最初は遠巻きに「そんなことをやったって儲かるわけがない」「管理はどうするんだ」と言われることもありました。

また、ビジネスの構造的にも課題があります。私たちの仕事は労働集約型であり、お施主様から依頼を受けて人工(にんく)を算出し、対価をいただく仕組みです。

引き取りの際も「伐採」なら1名で済む作業が「移植」となると3名ほどの手が必要になります。作業自体の売上規模は大きくなりますが、持ち帰ったあとの管理コストは自社で負担し続けなければなりません。

在庫期間が長引くほど利益が圧迫されるため、運が良い時は利益が出ても、長期保管になると損をしてしまうというバランスの難しさを抱えています。


枠を超えた発想でビジネスをデザインする

──そうした背景や課題がある中で、今回「東京ビジネスデザインアワード」に応募された動機について伺いたいです。

山下:応募動機はまさに「私たちの活動をもっと広く知っていただきたい」という点にあります。

何年も前に切ってしまってから「やっぱり残しておけばよかった」と後悔されているお施主様のお話を聞くたびに、もっと早く知っていただけていればと感じるからです。

そしてもうひとつの大きな理由は、私たち全員が現場の「職人」であるという点です。社内に営業担当もおらず、現場に行って木を扱うことは得意なのですが、それを持続可能な事業として成り立たせるノウハウが不足していました。

これまでは自社内で完結させようとする傾向が強く、デザインやPRも可能な限り自分たちで手がけてきました。職人特有の「作るのが好き」という性質もあるのですが、在庫が溜まり、事業の広がりにおいて限界を感じた時に、「やはり外部のクリエイターや専門家の力を借りなければダメだ」と痛感したんです。

──これまでは外部のデザイナーやブランディングの専門家などと共創した経験はなかったのでしょうか。

山下:経験はありません。勉強会に参加したり、コンサルタントの方からアドバイスをいただいたりする程度で、「ゼロから一緒に新しいものを作り出す」という共創の取り組みは行ってきませんでした。教えてもらったことを自分たちで動かそうとしてもうまくいかず、限界を感じていたのが正直なところです。

──やましたグリーンとして、この活動を通じて社会や人々の暮らしにどのような価値を届けていきたいと考えていらっしゃいますか。

山下:強く記憶に残っているお客様がいます。実家に多くの庭木がありましたが、ご本人はそれまで植物に興味がありませんでした。しかし家を解体する際、「親が大切にしていた木を自分の代で全て処分するのは忍びない」とご依頼いただいたんです。

作業当日、私たちが一生懸命に木を掘り起こす姿をご覧になり、後日「これまで一人で家へ帰る時は寂しさを感じていましたが、街の街路樹を見るだけで幸せな気持ちになれるようになりました」とお手紙をいただきました。植物に対する見方が変わったとおっしゃってくださったんです。それは嬉しかったです。

独立する前、職人たちの姿勢や庭じまいで木が物の視点として壊されていくのが嫌でした。自分の中のテーマとして、植物を「物」として見るか、「生命」として見るかという問いがあります。植物を単なる資材ではなく生き物として捉え、「人と植物が親友になれる世界」を作っていきたい。それが私たちの根底にある思いです。

──その思いを広げていくために、現場や事業の面で具体的に手をつけたい部分はどこでしょうか。

山下:まずは現場を支える若い職人を育成・増員していきたいですね。現在は私を含めて7名の職人がいますが、あと2名ほどは迎え入れたいと考えています。職人が育つのには3年から5年ほどかかりますが、現場の基盤がしっかりしていなければ事業を回していくことができません。現在はハローワークなどの「待ち」の姿勢で、採用や育成の面でも魅力的な環境を作っていきたいです。

──今回の東京ビジネスデザインアワードを通じて、どのようなビジネスモデルや展開を実現したいとお考えでしょうか。

山下:実は、そこが自分たちだけでは全くイメージできていない部分なんです。だからこそ、様々な視点からの提案を聞いてみたいと思っています。

過去に大手ハウスメーカーの若手担当者様から「新築マンションのエントランスに『もらえる植物園』の木を使いたい」とご提案いただいたことがありました。しかし、担当者様も若手で社内調整の力が弱く、私たち側にもビジネスとして交渉・提案する知識がなかったため、結果として「植物を買い取って納品して終わり」になってしまったんです。背景にあるストーリーやフィロソフィーが伝わらないまま消費されてしまい、非常に歯痒い思いをしました。

──単なる素材提供にとどまらず、思想や循環の仕組みそのものをビジネスとして機能させたいわけですね。

山下:はい。職人に営業をやらせようとしても長続きしません。だからこそ、職人が現場に集中しながらも、事業が回っていく売る仕組みやプラットフォーム、あるいはその部分を担っていただけるようなビジネス構造へ転換したいと考えています。

アワードの過去事例にあった「さかなかるた」のように、本来の用途とは異なる視点から発想を転換させ、「そう来たか!」と思わせるようなアイデアに出会いたいです。自分たちの既成概念を崩してくれるような展開を楽しみにしています。

──最後に、今回応募を検討しているデザイナーやプランナーの方々に向けて、どのような人と出会い、共に何をやってみたいかメッセージをいただけますでしょうか。

山下:一言で言えば、共にワクワクできる「チャレンジングな人」と出会いたいです。これまで色々なアドバイスを受けてきた中で、数値を細かく分析して「毎年5%ずつ売り上げを伸ばしていきましょう」といった固い提案だと、自分自身がワクワクできず、「苦行」のように感じてしまうことがありました。

もちろん数字も大切ですが、順番が重要だと考えています。「こんなことをやったら面白そう」「こんな世界ができたら最高だよね」という夢やビジョンをまず一緒に描き、そこに向かっていくプロセスを楽しみたいんです。

社風としても枠にはまらない自由な会社ですし、高尾駅の現場に来ていただければ送迎もいたします。現場の空気や植物たちに直接触れていただきながら、雑談のような気軽な対話の中から面白いアイデアを生み出していければと思っています。思いに共感し、一緒に新しい未来を作ってくださるクリエイターの皆様からのご提案を心よりお待ちしています。


インタビュー・写真:加藤孝司


2026年度東京ビジネスデザインアワード https://design-award.metro.tokyo.lg.jp/award.html

各テーマ8件の詳細はこちら https://design-award.metro.tokyo.lg.jp/designer/#design_theme

デザイン提案募集期間:10月27日(火)23:59まで

応募資格:国内在住のデザイナー、プロデューサー、プランナーなど、テーマに対してビジネスモデルを含めた新たな製品・用途開発・ブランディング案などを提案できる方

応募費用:無料

詳細は公式ウェブサイトをご覧ください https://design-award.metro.tokyo.lg.jp/designer/

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