2026TBDAテーマ企業インタビュー:株式会社サン・ブレーン
2026年度東京ビジネスデザインアワード
「東京ビジネスデザインアワード」は、東京都内のものづくり中小企業と優れた課題解決力・提案力を併せ持つデザイナーとが協働することを目的とした、企業参加型のデザイン・事業提案コンペティションです。
企業の持つ「技術」や「素材」をテーマとして発表、そのテーマに対するビジネスモデルを含めた新たな製品・用途開発・ブランディング案をデザイナーからの「提案」として募集しています。
2026年度はテーマ8件の発表をおこない、10月27日(火)23:59までデザイン提案を募集中。本年度テーマに選ばれた8社へのインタビューをおこない、技術や素材について、本アワードに期待することなどをお聞きしました。
テーマ名:色彩表現を拡張できるオンデマンドメタリック印刷と特殊加工
テーマ企業:株式会社サン・ブレーン
企業HP:https://sunbrain-corp.co.jp/
『印刷の可能性をアイデアとともにひらく』
「オンデマンド」「メタリック印刷」「特殊加工」「オリジナルブランド開発」という4つの要素でどのような印刷を展開していけるのか。株式会社サン・ブレーンが手がける「LUMI-CO®︎」(読み:ルミコ)はオンデマンド印刷で対応するメタリックカラー印刷。印刷会社として培ってきた技術を、単に「印刷するための技術」としてではなく、新しい表現やプロダクトを生み出すための可能性として捉え直す。これまでの歩みと印刷技術の可能性、そしてこれからのものづくりについて聞いた。
お話:株式会社サン・ブレーン クリエイティブディレクター 伊藤景明氏、制作ディレクター 中川真由美氏
印刷会社の新しい可能性へ
──まずは今回のアワードを担当される伊藤さんのご経歴を教えてください。
伊藤:大学時代は武蔵野美術大学でデザインを学びました。卒業後はいくつかの制作会社、食品系の卸会社のデザイン部門などを経験し、インハウスデザイナーとして活動していた時期もあります。
サン・ブレーンに入社したのは2020年です。数年前から営業・クリエイティブディレクターも務めています。営業活動をしながらプロジェクトを推進するという、二つの側面が自分の役割になっています。
──サン・ブレーンはどのような経緯で生まれた会社なのでしょうか。オンデマンドに取り組み始めた経緯も教えてください。
伊藤:サン・ブレーンは、設立当時のメインクライアントの制作物を組版するための部署として設立されたと聞いています。
当時、母体となるサンエー印刷では比較的ロットの多い印刷物を扱っていたため、小ロットの印刷物を受ける受け皿がありませんでした。そこでオンデマンド事業部が立ち上がりました。
その後、オンデマンド印刷で小ロットに対応するため、メタリック印刷ができるデジタル印刷機「Iridesse」を導入しました。
ですが、メタリック印刷を行っている印刷会社は少なくありません。そこで他社との差別化を図るためにも、「LUMI-CO®︎」というメタリック印刷サービスのブランドを商標登録して展開したと聞いています。
サン・ブレーンとして一番差別化できる部分が、このメタリック印刷です。そこを打ち出していきたいという思いがありました。ただ、販促や営業活動が十分ではなかったこともあり、印刷機を導入したものの、なかなか仕事が入ってこない状態でした。
メタリック印刷が広げる表現領域
──今回のテーマであるメタリック印刷や特殊加工に取り組むようになったことで、どのような変化がありましたか。
伊藤:一番可能性を感じるようになったのは、クリエイターさんとの出会いです。私が入社してからは出身校というつながりもあり、武蔵野美術大学出身で複雑なデータをダイアグラム化し、それをグラフィックとして視覚化するグラフィックデザイナー、アートディレクターの松本聖典さんとご縁がありました。松本さんとは定期的に協業させていただき、メタリック印刷と特殊加工の技術を磨いてきました。
中川:松本さんの作品を「LUMI-CO®︎」で印刷するようになって、特殊紙などいろいろな紙を実際に使う機会が増えました。印刷の仕上がりを見ることで、「こういう紙を使うと、こういう見え方になるんだ」と印刷による仕上がりの違いや可能性を現場とも共有できるようになったのは大きかったですね。
──具体的にどのような印刷だったのでしょうか。
中川:松本さんはもともとインクジェットで作品を印刷されていましたが、「LUMI-CO®︎」で黒い紙にシルバーを使って印刷してみたところ、印象的な仕上がりになりました。
そこからメタリック印刷に可能性を感じていただき、作品制作をご一緒する機会が増えていきました。こうした取り組みが、弊社としてメタリック印刷に本格的に取り組むきっかけとなりました。
──技術の可能性を広げていくうえでは、やはりまずはアイデアが重要なのでしょうか。
伊藤:そうですね。アイデア次第でいろいろな表現ができる印刷技術であると思っていて、これからの展開は「アイデア」がすべてだと感じています。もちろん職人や技術者の経験や感覚も重要なのですが、どういったものをつくりたいかというアイデアがないと、新しいものは生まれにくいと思います。
伊藤:アイデアがベースにあって、それを形にする手段として、職人や技術者の経験が生かされます。面白いのは、扱う紙によってメタリックの出方が全然違うことです。紙によってメタリックのパーセンテージを変えたりするので、そういったところでは職人の技術が生きる場面でもあると思います。
──紙そのものも、表現を考えるうえで重要な要素になるわけですね。
中川:そうですね。クリエイターさんが好む紙でいうと、ファンシー系と言われる、結構ザラザラした紙が多い印象です。有名な紙ですとヴァンヌーボなどの高級紙があります。
色のついた紙への印刷も面白いですね。色紙に白インクを乗せたり、白インクをベースにしてその上にCMYKを重ねたりすることで、通常の白い紙への印刷とは違った仕上がりをつくることができます。
一般的な印刷は、白い紙にCMYKの4色を印刷するイメージが強いと思いますが、色のついた紙に白やシルバー、ゴールドなどを組み合わせることで、仕上がりの印象も変わってきます。また、クリアトナーを重ねることでニスを厚盛りしたような表現もできます。
こうした新しい表現を実際に形にしていくことに、印刷の面白さややりがいを感じます。工夫次第で、さらに新しい印刷表現を生み出せる余地があることも、魅力の一つです。
伊藤:通常の印刷はCMYKで表現するので、どうしても平面的な感じになります。一方、「LUMI-CO®︎」のような特殊印刷では、金や銀、白インクなどが使えます。そこに特殊紙などを組み合わせることで、印刷物に立体感を与えることができます。表現に階層ができるというところが、一番違うところだと思います。
「印刷する会社」から「一緒につくる会社」へ
──お話をお聞きして印刷会社というと、大量に同じものをつくるイメージがありました。しかし、サン・ブレーンが目指しているのは、それだけではないと感じました。
伊藤:はい。印刷そのものは、技術だけで考えると、今では同じような機械がいろいろな会社にあります。だから、技術だけで差別化するのは難しい時代だと思っています。そこにデザインや企画、付加価値を加えていかないといけない。
私が考えているのは、クリエイターさんに自由にサン・ブレーンを使ってほしいと思えるような窓口、器をつくることです。クリエイターさんからの「こういうことを印刷で表現したい」という相談に対して、こちらが「こういう方法ならできます」と一緒に考える。そういう場をきちんとつくりたいと思っています。
──それはとても重要ですね。実際にクリエイターと一緒にものをつくるときは、どのように進めるのでしょうか。
伊藤:社内にはコラボスペースがあるので、そこにクリエイターさんに来ていただき、いろいろなサンプルを見てもらいます。こんなことができるんだ、というところから始まって、クリエイターさんが「こういうものをつくりたい」とアイデアを提示してくれる。それに対して、できることや、こんな感じならできそうであったり、出来ないことはできないとお伝えもします。ですが弊社の技術では難しそうなことでも、ディスカッションを重ねながらできる方法を模索していきます。人と人との出会いによって、技術が覚醒するというか、化学反応が起きるのだと思います。
──その「化学反応」を今回の東京ビジネスデザインアワードでも期待されているわけですね。
伊藤:そうです。クリエイターさんの力を借りて、新しいものができればと思っています。具体的には、美術館のミュージアムショップやMoMAストアのような場所に置かれるような、美しい商品をつくりたいという希望があります。また、今回つくったプロダクトをBtoBtoCの会社に提案して販売することや、将来的にはECサイトをつくり、自社でプロダクトを販売することもできたら嬉しいです。もう一つは、ブランディングです。「LUMI-CO®︎」を単なるメタリック印刷のブランドではなく、特殊紙や加工、カッティングなども含めた新しいブランドとして生まれ変わらせてほしいと思っています。
中川:松本さんとのコラボレーションによって、メタリック印刷の可能性が社内でもある程度周知されるようになりました。だからこそ、今回も新しい視点やアイデアを持った方に来ていただければと思っています。そして「こういうことはできますか」と提案されて、それに向かって私たちがチャレンジすることも、会社の成長にとっていい起爆剤になると期待しています。
オンデマンドだからこそできる、小さなものづくり
──メタリック印刷については、現在どのくらいの需要や発注がありますか?
伊藤:基本的にはまだ少ないです。そもそも弊社がメタリック印刷ができることを知らないお客様がほとんどです。そういう意味では、まだ認知活動が足りないと思っています。ただ、このメタリック印刷を好んでくださるお客様は一定数いると感じています。特にクリエイティブ業界に関わる人たちは、本当は通常の印刷ではできないことをやりたいのに、予算の都合などでできないことも多いと思います。「本当はやりたい」という気持ちを持っている人たちに、何かアプローチが必要だと思っています。
──小ロットで試すことができるオンデマンド印刷ならではの強みもありますね。
伊藤:そうです。大きなロットで大量につくるだけではなく、小さなロットで試してみて、そこから新しい表現を見つけることができます。サン・ブレーンには足立区小台に工場があり、そこにオンデマンド事業部と印刷機があります。メインオフィスがある田端から工場までも近いので、指示書を送って、できたものを確認するという体制があります。デザイナーさんにとっても、アイデアをすぐ形にできるというのは利点になると思います。
主な設備 https://www.suna.co.jp/about/group.php#Sunbrain
──東京にはデザイン、ファッション、出版、広告、アートなど、クリエイティブ産業が集まっています。サン・ブレーンが東京にあることも、クリエイターとの協働において強みになるのではないでしょうか。
伊藤:そうですね、東京に拠点を置いているので、出会いの機会も少なくなく刺激を受けることも多いです。今後は受注して印刷するだけではなく、プロジェクトの入口から関わり、一緒にものづくりをしていくというのが理想です。
──印刷物としての面白さや価値をどのようにお考えですか?
伊藤:現在では、情報を伝えるツールはいろいろとありますが、印刷物には見るだけではなく、触って感じるという普遍的な価値があると思っています。見る角度によって見え方が変わるものもありますし、インクで刷ったものにはインクの匂いもあります。五感に訴えるプロダクトとしての価値が、印刷物の面白さだと思います。
中川:私が印刷物について一番感じるのは、「記憶」という部分です。デジタルにはデジタルの役割があり、情報を伝えるスピードではデジタルの方が優れています。ですが、印刷物は目で見るだけではなく、匂いを嗅いだり、触って手触りを確かめたりすることができます。そういう意味では、より記憶に残りやすい媒体だと思っています。クリエイティブな作品や本をつくることで、より多くの人の記憶に残る。そこが、紙に印刷することの大きなポイントだと思います。
「関係」から生まれるものづくり
──サン・ブレーンがこれから目指すものづくりについて教えてください。
伊藤:自分がデザイン畑出身ということもあって、クリエイティブありきで印刷物をつくっていきたいと思っています。印刷会社は、どうしても技術ありきになりがちです。でも、私はそこがすごくもったいないと思っています。サン・ブレーンでは、そういった印刷会社のイメージを覆したい。
──確かにクリエイター目線で印刷物に向き合っているところはまだまだ少ないと思っています。印刷所の役割が変化している今だからこそ、その部分での可能性はこれからますます広がっていくのだと思います。
伊藤:そう言っていただけると嬉しいです。僕はグラフィックデザインやブランディングを手がける北川一成さんのGRAPHの仕事が大好きで、そういう会社になりたいという思いがあります。そこをベンチマークとして目指していきたいです。そのためにも、まずは今回のようなプロジェクトで、一つのプロダクトをつくることが大切だと思っています。いきなり会社全体のブランディングではなく、まずは具体的なプロダクトをつくる。会社組織として動いている以上、実績を一つひとつ積み上げていくことで、次の動きにつなげていけるのではないかと思っています。
中川:私自身、ブランディングに携わる仕事の経験があるのですが、ブランディングは目に見えない部分も多いので、その効果を周囲に伝えていくことには難しさがあると感じています。だからこそ、まず具体的なプロダクトをつくって、実績をつくる。そのうえで、そのブランドを軸に少しずつ取り組みの幅を広げていく方が、現実的だと思っています。今回の取り組みが、そのきっかけの一つになればいいなと思っています。
──最後に、今回のアワードを通じて、どんな人と出会いたいですか。
伊藤:まずはご自身のアイデアを印刷で表現したいという想いをもっている方に「こんなことができますか」と相談してほしいです。今回のアワードを通して、今まで出会ったことのないクリエイターさんと出会い、新しいものをつくることができれば嬉しいです。技術だけを売るのではなく、クリエイターさんと一緒に考えて、一緒につくる。そういう関係をつくっていきたいと思っています。そして、その一つのプロダクトから新しいビジネスが生まれたり、「LUMI-CO®︎」というブランドが広がったり、サン・ブレーンのものづくりそのものが変わっていけばいいと思っています。
──技術そのものはすでに世の中にあります。だからこそ、これから必要なのは、それをどう使うかというアイデアと、それを一緒に形にする人との関係なのですね。
伊藤:そう思います。サン・ブレーンが目指しているのは、単に「印刷できる会社」ではありません。クリエイターの発想を受け取り、技術者の経験と掛け合わせ、新しい価値として社会に送り出す会社です。オンデマンドメタリック印刷、特殊印刷や特殊加工という技術を入り口に、これまで印刷会社の中だけでは生まれ得なかった表現やプロダクトを、外の世界と共につくっていく。その先に、サン・ブレーンが考えるこれからのものづくりがあるのだと思っています。
インタビュー・写真:加藤孝司
2026年度東京ビジネスデザインアワード https://design-award.metro.tokyo.lg.jp/award.html
各テーマ8件の詳細はこちら https://design-award.metro.tokyo.lg.jp/designer/#design_theme
デザイン提案募集期間:10月27日(火)23:59まで
応募資格:国内在住のデザイナー、プロデューサー、プランナーなど、テーマに対してビジネスモデルを含めた新たな製品・用途開発・ブランディング案などを提案できる方
応募費用:無料
詳細は公式ウェブサイトをご覧ください https://design-award.metro.tokyo.lg.jp/designer/






