2026TBDAテーマ企業インタビュー:菱華産業株式会社
2026年度東京ビジネスデザインアワード
「東京ビジネスデザインアワード」は、東京都内のものづくり中小企業と優れた課題解決力・提案力を併せ持つデザイナーとが協働することを目的とした、企業参加型のデザイン・事業提案コンペティションです。
企業の持つ「技術」や「素材」をテーマとして発表、そのテーマに対するビジネスモデルを含めた新たな製品・用途開発・ブランディング案をデザイナーからの「提案」として募集しています。
2026年度はテーマ8件の発表をおこない、10月27日(火)23:59までデザイン提案を募集中。本年度テーマに選ばれた8社へのインタビューをおこない、技術や素材について、本アワードに期待することなどをお聞きしました。
テーマ名:プラスチックに準じた扱いが可能な高木材混合率の循環型素材
テーマ企業:菱華産業株式会社
企業HP:https://www.ryokasangyo.co.jp/
『「MIRAIWOOD®︎」がひらく、新しいものづくり』
1946年、紙の卸売から始まった菱華産業株式会社。時代とともに事業領域を広げ、現在は射出成形による食品・医療関連製品などを手がけている。そんな同社が、長年培ってきた成形技術を生かして開発しているのが、木粉と生分解性樹脂を組み合わせたバイオマス樹脂「MIRAIWOOD®︎」だ。木材のように削ることができ、漆や塗装、印刷による加飾にも対応。木粉の種類や配合によって、硬さや重量感などの特性も調整できる。さらに、射出成形による量産性と、成形後に削る二次加工を組み合わせることで、量産品でありながら一点もののような表情を生み出す。現在は食器を中心に展開しているが、同社が見据えているのは「プラスチックの代替」にとどまらない。天然木の代替や高級品への応用、さらには企業から排出される植物材料を新たな製品へとアップサイクルするBtoBビジネスまで、射程は広がっている。東京ビジネスデザインアワードへの応募を機にひらく、MIRAIWOOD®︎の新しいものづくりについて話を聞いた。
お話:菱華産業株式会社 代表取締役社長 合田一朗氏、営業部事業開発グループエグゼクティブマイスター 都地盛幸氏、営業部環境素材プロジェクトマネージャー 荒木浩二氏
木粉を成形して、自由な形状をつくる
──1946年創業という長い歴史をお持ちですが、菱華産業はどのような会社として始まったのでしょうか。
合田社長:最初は、紙の卸売から始まりました。紙やパルプの原紙を各紙メーカーなどに卸していたことが創業時の事業です。そこから取引先との関係のなかで扱う商品が広がり、コークスなどを扱っていた時期もあります。商社としてさまざまなものを扱ってきました。
そのなかで、創業者の人脈から自動車などに使われるバッテリーの容器、その枠をつくる仕事が生まれました。それが射出成形の分野へ入る大きなきっかけです。その後、大手電機メーカー、食品メーカー、医療器メーカーなどに射出成形品を提供する事業へと広がっていきました。
──都地さんは、長く射出成形の技術に携わってこられたそうですね。
都地:私はずっと技術畑で、射出成形に携わってきました。そのなかで東京都立産業技術研究センターへ試験をお願いするためによく通っていたのですが、「地球に優しい食品容器の開発」というテーマでの公募型研究の募集がありました。当時、私たちは食品関係の容器も手がけていたので、「何かできないか」と考えて応募しました。それが採択され、天然材料の成形材料に取り組むようになりました。
──荒木さんは、どのような経緯でMIRAIWOOD®︎に関わるようになったのでしょうか。
荒木:私はこの会社に入って8年になります。それ以前は銀行に全く違う仕事をしておりました。2018年、2019年頃に海洋プラスチック問題が大きく取り上げられるようになり、当社でも「これからプラスチックだけでは難しい。プラスチックに代わる成形材料の開発をしなければならない」という話になりました。
そのタイミングで、都地が取り組んでいた東京都立産業技術研究センターの公募と結びついたのです。もともと都地が木粉を使った技術を持っていたので、木粉を使った材料を開発していこうということになりました。
──御社が取り組む環境材料とはどのようなものなのでしょうか。
都地:長い歴史のあるウッドプラスチックという考え方があります。木材とプラスチックを組み合わせることで、それぞれの弱点を補完できるのが特徴です。
ただ、木粉とプラスチックを混ぜると流動性が非常に悪くなります。そのため従来は板材のような押し出し成形が中心で、ところてんのように押し出していくため、複雑な形状をつくるのは難しかった。そこに射出成形の技術を組み合わせることで、自由度の高い形状をつくれるようになりました。ウッドプラスチックの発展の背景には、ここ10年余りの添加剤など、流動性を助ける技術が発達してきたこともあります。この新技術により、MIRAIWOOD®︎は比重の51%以上かつ体積の80%以上を木材とすることができました。経産省の基準で「木製品」にできたことが従来のウッドプラスチックとは大きく異なる特徴です。
──御社の環境材料ブランドである「MIRAIWOOD®︎」にはどのような木材が配合されているのでしょうか。
都地:未処理の材料を使って新たな付加価値のある製品にしています。最初の開発ではミズノさんの工場で出る野球バットの削った際の木粉、ホワイトアッシュとメイプルを回収してアップサイクルしました。
荒木:石川県の伝統工芸山中漆器をつくる我戸幹男商店さんの製造工程から出る欅の木粉も使っています。漆器は欅などの木を削って器をつくりますが、その過程で大量の木粉が出ます。重要なのは、すでに使われた木材や、何が含まれているかわからない廃木材を使っているわけではないことです。乾燥した木材を加工する工程から出た、トレーサビリティを確保した出所の明確な木粉を活用しています。
都地:植物系の材料を使うときには、安全性の確認が重要です。たとえば、竹は、土壌に含まれる水銀などの重金属を吸収し、それを竹自身の中で生物濃縮する性質があります。私たちも当初は竹でも試作しましたが、そうした可能性があるため食品用途には使えないと判断して採用しませんでした。
建築材料などに使われている木材も、防腐剤などが含まれている場合があります。食品に使う材料については、出所が明確で、薬剤などが混入していない木材を選び、ゴミとなったものではなく、工場で排出される段階で回収することを徹底しています。
──なるほど。アップサイクルといっても食器としても使える安全性にも最大限の留意をはらっているのですね。配合される木材の種類によって、MIRAIWOOD®︎の性質も変わるのでしょうか。
都地:変わります。木によって硬さが全然違うので、用途に合わせて素材を調整する必要があります。たとえば欅は非常に硬く、そのままだと削る刃物が欠けてしまうことがあります。そこでヒノキを混ぜ、削りやすくするといった工夫もしています。他に何か提案があれば、アップサイクルをするというストーリーに繋がり、そこも含めたご提案ができるといいかなとは思います。
荒木:木材とほかの材料を混ぜることで、硬くしたり柔らかくしたり、特性を変えることができます。そこは材料開発として取り組める部分です。
現在は木粉だけでなく、チョコレートの製造工程から出るカカオハスクをアップサイクルした商品も作りました。さまざまな植物由来素材についても可能性を探っています。世界の目標になっているサステナブルな循環を目指しています。
木の代替素材という新しい発想
──MIRAIWOOD®︎から御社が作る器などの食器類は、本物の木材とみまがう仕上がりで驚きました。現在手がけられているのは食器メインなのですか?
合田社長:はい。ただ、そこが今回の応募動機にも繋がるのですが、私たち自身、食器から始めたので、どうしても「食器」という概念から拡がりが持てないということが課題です。
食器としてはさまざまな反響があり、着実に進んでいます。ただ、「次に何をつくるのか」というアイデアの拡張の面で苦戦しています。だからこそ今回の東京ビジネスデザインアワードでは、「食器」という概念からいったん離れた、新しい発想の提案に触れられるのではないかと期待しています。ウッドプラスチックというと、「プラスチックの代替素材」というイメージがありますが、弊社では「木の代替」として考えることもできると思っています。その思いで今回のアワードでは新しいものづくりにチャレンジしてみたいと思っています。
都地:もうひとつの大きな課題は、プラスチックや木材と比べると、どうしても価格が高くならざるを得ないという問題があります。普通のプラスチックと価格で競争するのは簡単ではありません。
一方、木材の代替として考えると話が変わります。
天然木から器を削り出す場合、大きな木の塊からその9割以上を削って捨てることもあります。その木粉を使ってMIRAIWOOD®︎をつくれば、廃材の処分費を減らしながら新しい製品を生み出すことができるようになります。しかも、金型である程度の形をつくれるので、木の塊から削り出すより材料を無駄にしにくい。そう考えると、木の代替としての価格競争力も出てくる可能性があります。
荒木:一つの木の塊から細い持ち手や飲み口まで削り出すとなると、大量の木粉が出ます。その木粉をまたMIRAIWOOD®︎の漆器として伝統工芸に使えば、一つの木材から二つの価値を生み出すこともできます。それと近年、ウッドショックといわれて、世界的に木材が高騰し、手に入りにくくもなっているという現状があります。木が手に入らないと物が作れないし、そうすると伝統工芸の持続性にも影響がでるという新たな課題が生まれているとききます。環境意識が高い欧州市場に打って出るには環境素材でないと欧州市場が受け入れてくれないという状況もあります。そういった点でもMIRAIWOOD®︎がその解決の一助になるのではないかと思っています。
──そうですね。いま伝統工芸のお話もありましたが、MIRAIWOOD®︎ならではの加工方法についても教えてください。
都地:射出成形した後に削るという二段階の加工ができるので、少量多品種にも対応できます。同じ型からある程度の形状のものを成形し、その後、デザイナーや職人の感性や技術で削って仕上げる。そうすれば、一つの型からさまざまなバリエーションをつくることもできます。
都地:MIRAIWOOD®︎は木材の配合率の高さからプラスチックではなく「木製品」に分類されます。プラスチックと同じ射出成形でありながら、木材なので削れることが大きな特徴です。
都地:しかし成形技術の開発は必ずしも簡単ではありませんでした。肉厚のものをつくると、バイオマス材料は熱によってガスが発生し、内部に気泡が残ることがあります。表面からは見えなくても、削ってみると穴が出てくるのです。
──木も削ると節がでてくることがありますね。いわゆる「す」ですね。
都地:最初の試作でも、見た目には問題ありませんでした。でも実際に削ると穴が開いていることがわかりました。そこで金型と成形技術を組み合わせ、内部に気泡が残らない成形方法を研究しました。その技術については特許も取得しています。
──MIRAIWOOD®︎にはさまざまな表情があることにも驚きました。
都地:例えば木なのに焼き物のような風合いがあります。複数の木種をブレンドしているので完全に均一には混ざらず、その不均一さが味わいになることもあります。成形品なので量産化できますが、一つひとつに個体差が生まれ、量産品でありながら、一点ものがつくれるのです
荒木:MIRAIWOOD®︎は、プラスチックと異なり、漆や塗装がきれいにのります。そのため、高級な加飾ができる。天然素材としてのデザインの可能性はかなり高いと思います。
荒木:伝統工芸の我戸幹男商店さんには、アップサイクルした木材とは思えない魅力的なものづくりに挑戦していただいて、伝統工芸と最新の技術とモダンアートの融合というものを作っていただいています。有名なデザインホテルやデザイン指向の高いレストランなどからの評判も高いようです。
──木材の配合や形状によって、重さや硬さも調整できるのでしょうか。
都地:できます。
都地:施設や給食などで大量に使うものなら薄く軽く、高級感を求めるものなら少し重めにする、といった調整も考えられます。
荒木:木そのものだと逆に軽すぎる、という場合もあるんですね。木材の配合によって重量感を調整できることは、一つの特徴だと思います。
──お話をお聞きして建築や建材への展開も考えられそうですか?
都地:建築金物なら、金物の機構部分はできませんが、ハンドルや手すりの加飾部品などは可能性があります。アルミなどの金属とMIRAIWOOD®︎の押し出し成形を組み合わせることもできます。
また、木製サッシにも可能性があると思っています。アルミとMIRAIWOOD®︎を組み合わせ、外側を木のような素材で覆う。そうした建材も考えられます。
内装材にも可能性があります。住宅やマンションでは、内装デザインにこだわって木を使っていても、スイッチやコントロールパネル、ブラインドの部品など、細かなところにプラスチックが残ることにゼネコンやハウスメーカーからのニーズを聞きました。そうした「最後に残るプラスチック」を置き換えていくことも、一つの方向だと思います。
環境に良いからだけではない、新しい価値づくり
──現在は食器を中心に製品化されていますが、そもそもなぜ食器から始めたのでしょうか。
都地:食器ならワンピースで成形でき、組み立てが必要ありません。また、菱華産業の平塚工場は、食品衛生法などの厳しい安全基準に適合する成形品をつくってきた実績があり、得意分野だったからです。
ただ、私たちは決して「ずっと食器をやりたい」というわけではありません。だからこそ、次は食器ではない、もっと面白いアイデアがほしいと思っています。
──今回、東京ビジネスデザインアワードへの応募を決めた理由を教えてください。
荒木:東京ビジネスデザインアワードという素晴らしい取り組みがあるのだから、アワードを通じていろいろなアイデアを募ってみたらどうかと提案しました。
荒木:これまでMIRAIWOOD®︎は食器というところに引っ張られていました。今回はそこから一度離れて、新しい発想で出口を考えていただけることが非常に面白いと思っています。
──どのようなデザインやデザイナーとの出会いを期待していますか。
荒木:最初からBtoB、BtoCという枠を決めないほうがいいと思っています。当社としてはBtoBが良いのですが、アワードだからこそ、まずは多くの人々や企業にも注目してもらえるような、楽しい提案があってもいいと思っています。
私たちが今苦労しているのは、「環境材料に対するイメージを変える」ことです。「環境にいいから、多少高くても我慢して使いましょう」ではなく、「こんな素敵なものができるんだ」というところから認識を変えていきたい。
デザインの力で環境材料への認識を変えることができれば、その先にBtoBの展開も見えてくると思っています。
──単なる環境配慮型材料という視点だけではなく、新しい材料そのものの魅力を伝えるためのデザインですね。
荒木:まさにそうです。まず「これが素敵だから買う」という流れを作りたい。デザインが気に入った、ものとして魅力的だったから買った。そのあとから「実は環境にもいい材料だった」と分かる。それくらいが理想です。
合田社長:私も、環境材料だから高いものを我慢して使うとか、使いにくいものを我慢して使うという方向にはしたくありません。木の代替として考えたときに、デザイナーの皆さんの柔軟な発想によって「これは木ではできないけれど、MIRAIWOOD®︎だからできる」というものを見つけていきたいです。
──最後に、今回の東京ビジネスデザインアワードで、デザイナーの方々に期待することを教えてください。
荒木:驚かせていただきたいですね。「そんな見つけ方があるのか」と思うような提案です。最初からBtoB、BtoCという枠をつくらず、まずは「この素材で何ができるのか」を一緒に考えてみたいと思っています。
合田社長:プラスチックの代替から生まれた材料ですが、私たちが作っているのは木の代替になりうる材料です。そこをさらに超えて、「今ある材料ではできないけれど、MIRAIWOOD®︎だからできる」、「MIRAIWOOD®︎だから手軽につくれる」というものが出てくれば非常にうれしいです。
都地:私たちは長年、射出成形の技術を積み重ねてきました。そこに木粉や植物由来の材料を組み合わせることで、これまでにはなかったものがつくれる可能性が生まれました。その技術を使って、まずは一つ、象徴的なものをつくりたいですね。そこから「こんなものもできるんだ」と企業や社会の認識が変わり、次の時代につながっていけばいいと思っています。
荒木:その先には、企業が排出するさまざまな材料をアップサイクルして、新しい価値のある製品に変えていくような展開もあると思います。MIRAIWOOD®︎という一つの素材をきっかけに、ものづくりの可能性を広げていきたいですね。
インタビュー・写真:加藤孝司
2026年度東京ビジネスデザインアワード https://design-award.metro.tokyo.lg.jp/award.html
各テーマ8件の詳細はこちら https://design-award.metro.tokyo.lg.jp/designer/#design_theme
デザイン提案募集期間:10月27日(火)23:59まで
応募資格:国内在住のデザイナー、プロデューサー、プランナーなど、テーマに対してビジネスモデルを含めた新たな製品・用途開発・ブランディング案などを提案できる方
応募費用:無料
詳細は公式ウェブサイトをご覧ください https://design-award.metro.tokyo.lg.jp/designer/






