2025TBDAテーマ企業インタビュー:株式会社サルトル
2025年度東京ビジネスデザインアワード
「東京ビジネスデザインアワード」は、東京都内のものづくり中小企業と優れた課題解決力・提案力を併せ持つデザイナーとが協働することを目的とした、企業参加型のデザイン・事業提案コンペティションです。
企業の持つ「技術」や「素材」をテーマとして発表、そのテーマに対するビジネスモデルを含めた新たな製品・用途開発・ブランディング案をデザイナーからの「提案」として募集しています。
2025年度はテーマ8件の発表をおこない、10月29日(水)23:59までデザイン提案を募集中。本年度テーマに選ばれた8社へのインタビューをおこない、技術や素材について、本アワードに期待することなどをお聞きしました。
テーマ名:デジタルの精度と手仕事の技量が共存する加工・生産体制
テーマ企業:株式会社サルトル【新宿区】
企業HP:https://sarutoru.com
『できないを可能にする多彩な生産体制』
デジタルクリエイターとして活動していた佐々木哲氏が2017年に創業した、高精度なデジタル加工と手仕事を融合した制作会社。印刷物や既製品の制作、高精度なカット、アートや一品ものの制作、他社が断るような難題まで、自身の経験を活かしたきめ細やかな対応力でクリエイターや企業からの信頼も厚い。町工場的なフットワークの良さで、デジタルから伝統工芸までをカバーする多彩な技術という強みを活かした、新たな可能性との出合いが求められている。
お話:代表取締役 佐々木哲氏
必要な技術は自ら習得し可能にする
ーーデジタル系のクリエイターとして長年活動していた佐々木さんが、加工に特化したものづくりブランドを設立した理由を教えてください。デザイナーが作り手側もかねるということはよくあることなのでしょうか。
生まれが芸術系の家庭でして、私はデザイナーというよりも学生時代は建築家を目指していました。ですが受験に失敗し、間違えてITコンサルにいってしまいました(笑)。広告代理店に出向した際にシステム案件をメインにしておりました。グラフィックとシステムの融合をする際に意見が衝突することがありました。グラフィックを理解せずに仕事をするのは危険だと思い、社会人向けのデジタルアート系の学校に通いアウトプットを作る側に転向しました。それで個展をしたり展示会をしたり、映像を作る仕事をし、プロジェクションマッピングを作るようになりました。
ーーエンターテイメントのなかでもプロジェクションマッピングは人気がありますね。
すごく忙しかったです。それで屋外展示の際に舞台装置が必要になり外注に依頼をするのですが、その時、例えば、木と金属など異素材の組み合わせで作りたいと細かな注文をしていたら制作会社に嫌われてしまいました(笑)。多くの製作会社ではできることが限られていたりで、だったら自分でやってしまおうと2017年に制作会社としてサルトルを創業しました。
ーーご自身のアイデアを具現化する会社として世の中にありそうでない会社を創業されたのですね。社名の由来を教えてください。
フランスの哲学者で文学者でもあるジャン=ポール・サルトルの「実存主義」が好きでそこから名づけました。
ーー独立はいつ頃から考えていたのでしょうか。
全く考えていませんでした。大手企業と契約する際に、個人ではちょっとと言うことがあったので、契約のタイミングで法人化しました。
ーー確かに。技術はどのように身につけていかれたのですか?
基本的な技術は実家がクリエイター系の親族が揃っていましたので、叩き込まれました。学生時代も造作のバイトをしていたので、基礎的な所はできていました。それでも足りない点は機械メーカーの開発者、職人の先輩方に教えていただきました。腕が良い技能士の方や、鍛冶屋さんには毎週のように遊びに行っていたのが、懐かしい思い出です。具体的には一流と呼ばれる加工の再現をひたすらやりました。越えるべき目標が目の前にあったので、やりやすかったです。使いたい技術があったら専門家のところに押しかけていたので、、、もちろん手土産は持参してです。
ーー最初導入したのはどのような設備でしょうか。
最初は大判プリンター一台でした。大判ポスターは実寸の型が欲しかったからです。ベースとなる型を手書きでかくとどうしてもズレがあったり効率が悪いんです。そのうち手加工でのカットは精度的な壁に当たることになり、レーザー加工機や、大型のCNCを導入しました。
ーー当初から自分ですべてを担いたいと思っていたのでしょうか。
いや、そうでもなかったんです。最初は足りない設備は外注にも頼っていたんですが、加工屋が違うと微妙な誤差を吸収できなくて、結局手作業での修正が発生し、非常にストレスでした。品質と効率を求めた結果、全て内製化することになりました。(※機械が毎月増えるので妻やスタッフは呆れていました。)
おかげで他社が断った仕事や、納期に厳しい仕事が舞い込むようになりました。
ーーなるほど。
機械を買うために、他社が断った仕事でもなんでも全て引き受けてしまうんです(笑)。仕事は増えていきつつ、個人的にはお金をいただいて勉強しているという意識が当時は強くありました。気づいたら今のような感じになってしまいました。
デジタルと手仕事の融合を極める
ーーどのような企業や職種からのご依頼が多いのでしょうか。
ブランドメーカーさん、材料メーカーさん、機械メーカーさん、デザイナーさん、OEM、試作、一点もの、量産ものまで幅広いです。素材は紙ものから木工、アクリル加工、フェルト、革、一部金属まで、口コミで、仕事が仕事につながるパターンが多いです。現在では制作にまつわるややこしい仕事はサルトルに頼んでおけ、という嬉しいようなありがたいような複雑な状況です(笑)。
ーー仕事が繋がって、作れるもの、扱える材料、それを加工するための機械も増え技術も蓄えていったということですね。お客様からのご依頼に対して、やったことがないからできないではなく、やったことがないならやってみよう、ないなら機材も入れよう、という極めてポジティブなスタンスでものづくりをされてきた会社なのですね。それは会社員時代のご自身の体験からそうなったということですね。すごいです。
よく言えばそうなります(笑)。私たちはアイデアを形にする最終的なアンカーだと思っています。専門が違うからできないは極力無くしたいと考えています。特定の専門家でなく、アイディアを形にする専門家です。扱う幅が広いと中途半端になると思われがちですが、異素材の加工は、加工全般に良い影響があります。大雑把な言い方ですが素材がなんであれ「切る」「接着」「組み立てる」です。そのための機械が異なるだけなので、全て共通していると考えています。どの加工でも共通するのが「材料の基準」です。加工する前に、社内で製材するのは材料の誤差を限りなく0にしたいからです。
ーーこれはアワードへの応募動機にもなるかと思うのですが、そんな佐々木さんのビジネスをされる上での課題を教えてください。
悩みは二つあります。
一つ目は、良いものを作りたいとの思いで会社をやっております。間に何社か入ると、設計したデザイナーさんと直接話ができない場合があります。単に請負仕事をしている認識はありません。最終的な品質を上げるために、設計と加工の話し合いができる関係性で仕事をしたいです。直接話し合いができない関係で仕事を受けるのは悩みです。
2つ目は、弊社の守備範囲が広いため、どんな加工ができるか、どんな事ができるのか説明が難しい点です。せめて、過去の事例を公表できれば良いのですが、何社か入ると公開許可が出ることは珍しいです。過去事例は公開できない事でモヤモヤしております。
ーーそのようなこともあり御社の理念は「表現に制限を設けない、ものづくり」会社ということですね。
はい。そうなります。
ーーでは、アワードへの応募動機を教えてください。
弊社はものを実際の形にするための技術と知識のある会社です。実は昨年も事務局さんにお誘いいただいていたのですが、忙しくてお返事できていませんでした。今年もお声がけいただき、先ほど申しましたような困り事もあり、デザイナーさんと直接関わりながらものづくりができる絶好の機会だと思い参加させていただきました。
ーー多くの技術をお持ちですが、だからこそテーマ選びも難しかったのではないでしょうか。
そうなんです。実際に弊社にお越しいただいて見ていただかないと始まらないだろうなという思いもあり、そこは悩みました。
ーーそこでいただいたのが高精度デジタル加工+職人技による「デジタルの精度と手仕事の技量が共存する加工・生産体制」というテーマでした。こちらについて教えてください。
最新のCNCルーターやZündカッター、レーザー加工機などによるデジタル制御の高精度加工、機械加工で作ったものに手作業で漆を塗ったり、金箔を貼った上に鏡面仕上げを施したりと、デジタルに職人技を併用することができます。手加工だけでもデジタル加工だけでもつまらない。両方の組み合わせができるのが弊社の最大の強みだと思います。それと、現代のものづくりでは単一素材だけでなく、複数の素材を組み合わせることで新しい価値が生まれます。私たちは精度と温もりの両立を目指してきたため、デジタル加工の正確さと、素材ごとの表情を最大限引き出す「領域横断加工技術」が最も自社を象徴するテーマだと考えました。
ーデジタルと手仕事のハイブリッドということですね。その御社の強みをもう少し教えてください。
まずデジタル加工におけるプログラミング、オペレーション、加工の技術を極めることでデザイナーさんの設計の意図をアウトプットに正確に反映できることです。それと試作から量産、仕上げ、発信するまでを一気通貫で支援できる体制も私たちの大きな強みです。
ーー御社では手仕事に機械加工を融合させるメリットはどのようなところにあるとお考えですか?
ひとつには手作業ばかりをしているとどうしても少量生産になり利益を残すことが難しくなります。機械加工もすることで逆に手加工の時間も残せますし、それに対する対価が払いやすい環境も作れるのではと思っています。とはいえ、機械加工だからといって誰でも同じ結果が得られるわけではありません。私自身はもともと得意な手加工の精度を機械に翻訳させているだけで、手が機械に変わっただけとも言えるわけです。ですので、私の機械加工は手加工の延長でもあります。両方できるからそのようなこともできると言えるのですが。
デザインは成果を社会に届ける「形」
ーー御社ではどのような材料を扱うことができますか。適切な材料の調達も御社の強みだとお聞きしました。例えば木材に関しては御社では材料の調達に独自のルートをお持ちだとか。
はい。林業従事者の方と繋がりがあり、ウォールナット、メープル、黒壇から貴重な銘木まで、さまざまな木材の調達ができる体制を整えています。ほかの材料ですと、アクリル・PETなどの樹脂、布、革・合皮、スエード、真鍮、アルミなどの金属、カーボンや複合素材仕入れルートを確保しております。加えて技術面ではデジタルを用いた高精度加工に加えて、先ほど申しましたが金箔貼り、指物などの伝統的表現も可能です。
ーー御社のものづくりのこだわりを教えてください。
ひとつには最良のものづくりには最適な材を選択できる知識は欠かせません。最高の材料でものづくりをするのと同時に、木取りもそうですが、材の特質を知っているかそうでないかで作るものが変わってきます。私はいつも料理に例えるのですが、人次第で同じ素材でも味が変わってきます。素材の良さを最大限活かしたものづくりをすることに非常にこだわっています。
ーーどんな大きさのものの製作が可能ですか?小さなものから大きなものまで具体的なサイズで教えてください。
小さなものは数センチ単位のアクセサリーから、機械加工のみでは最大で1800mm×2500mm、厚み50mmまで一括加工が可能です。それ以上のサイズは手加工で希望のサイズで制作しております。名刺サイズの小物から家具や展示什器まで幅広く対応できます。
ーー「量産」、「一点もの」どちらを得意とされていますか?
どちらも対応可能ですが、特に一点ものや少量多品種の試作や特注に強みがあります。量産においても、高精度を求める小ロット案件に適しています。ですがアクリル小物などは1000個単位で製造することができます。
ーー具体的にこれまでどのようなものを作ってこられましたか。
老舗仏具店の特注品、美術館やギャラリーの展示什器、ハイブランドのOEM製作、メーカーの試作や開発、建築家やデザイナーの作品製作などです。
ーー今回はビジネスデザインに関するアワードです。デザインという部分ではどのようなことを期待していますか?
デザインは、私たちがものづくりの「アンカー」として機能するための重要なパートナーだと思っています。私たちが素材や加工精度を突き詰める一方で、デザインはその成果を社会に届ける「形」として昇華させてくれる。互いの領域を尊重し合いながら、一緒に未来を描ける関係を築いていきたいと考えています。
ーー現状どのような協働が可能だとお考えですか。
まずは直接受注できるような製品づくりをしてみたいです。デザイナーさんのアイデアを形にする試作やプロトタイピング、展示会やブランド案件での特注什器製作、素材や加工方法の研究・共同開発はすぐにでもお任せください。技術的にはZündデジタルカッターは高精度なデジタルカットマシンで1800×2500mmを一発加工できるという最大の強みを持ちます。このマシンを使ったVカットは他社でやっているところが少ないため、差別化には良いかなと思っています。Vカットと何かの組み合わせもいいかなと思っています。とはいえ、私たちに考えられることは限界があります。その部分でデザイナーの方と協働をしたいと思っています。
ーー御社のものづくりの面白さを教えてください。
同じ機械や材料、刃物を使っていても、扱う人間によって仕上がりがまったく異なる点が面白いと感じています。また、領域を横断して技術を学んでいくと、異なる分野の中に重複や共通点が見えてきます。その差分を自分の中で組み合わせることで、すでに習得した技術が別の領域でも活き、掛け算的に新しいアイデアが生まれていきます。この「つながり」と「掛け算」が、ものづくりの一番の醍醐味だと思います。基本、好きを基準にできることをやってきたら仕事の幅が広がってきた会社です(笑)。
ーー今回のアワードではどのようなビジネスモデルを想定されていますか。
企画・製造から販売までを一貫して自社で行うビジネスモデルを考えています。自社ECでのオーダーカットサービスから、ハイブランド・企業案件までを一気通貫で対応し、「クラフト+テクノロジー」をベースに多様な収益源を持つスタジオを今回出会う方と構築していきたいです。
ーー最後に、デザイナーやプランナーへのメッセージをお願いします。
私たちは精度と温もり、機械と手仕事を両立させる技術と姿勢を持っています。みなさんのアイデアに「質感」と「物語」を吹き込むために、素材や加工の制約を越えて共に挑戦できることを楽しみにしています。ぜひ一度、工房にも足を運んでいただけたら嬉しいです。(サルトル工場見学会は、1回目満席、【増枠・2回目】2025年10月2日(木)13:00-14:00で実施予定)
インタビュー・写真:加藤孝司
2025年度東京ビジネスデザインアワード https://design-award.metro.tokyo.lg.jp/award.html
各テーマ8件の詳細はこちら https://design-award.metro.tokyo.lg.jp/designer/#design_theme
デザイン提案募集期間:10月29日(水)23:59まで
応募資格:国内在住のデザイナー、プロデューサー、プランナーなど、テーマに対してビジネスモデルを含めた新たな製品・用途開発・ブランディング案などを提案できる方
応募費用:無料
詳細は公式ウェブサイトをご覧ください https://design-award.metro.tokyo.lg.jp/designer/






