公益財団法人日本デザイン振興会 公益財団法人日本デザイン振興会

テーマ企業インタビュー:株式会社開工精機製作所

2024年度東京ビジネスデザインアワード

「東京ビジネスデザインアワード」は、東京都内のものづくり中小企業と優れた課題解決力・提案力を併せ持つデザイナーとが協働することを目的とした、企業参加型のデザイン・事業提案コンペティションです。

企業の持つ「技術」や「素材」をテーマとして発表、そのテーマに対するビジネスモデルを含めた新たな製品・用途開発・ブランディング案をデザイナーからの「提案」として募集しています。

2024年度はテーマ9件の発表をおこない、10月30日(水)23:59までデザイン提案を募集中。本年度テーマに選ばれた9社へのインタビューをおこない、技術や素材について、本アワードに期待することなどをお聞きしました。


金属から削り出される唯一無二のかたちを

目に見えないところに使われている金属部品は、私たちの暮らしを日々支えている縁の下の力持ちのような存在である。普段目にする機会はないが、その精巧に削り出され磨かれた金属部品もまた熟練したつくり手たちの手と目によって大切につくられている。開工精機製作所は1937年の創業以来、旋盤などの金属加工機械を使い四輪車の試作部品、シャフト部品、ボルトなどの金属部品を製作する。国内の製造業は縮退していく社会状況において困難を極めている。だがデザイナーなどとの協業での事業展開や経営にイノベーションを起こす可能性は残されているに違いない。

お話:代表取締役社長 伏見伸一朗氏


長年培ってきた金属加工技術

ーー創業して伏見さんで何代目になりますか?

祖父が創業した会社で私で三代目になります。長年金属加工の下請け業の町工場としてやってきました。私自身は学校を卒業して2年ほど外部で働き、今年で入社して36年目になります。

ーー入社されたのは世の中はバブル景気の頃ですね。

1988年でしたのでバブルの後半頃でした。私が入社した当時は昭和39年に始まった本田技術研究所さんの研究開発部門の仕事と日本たばこ産業のタバコを巻く機械の部品加工を請け負っていました。本田さんは二輪から始まって四輪、F1に参入するようになるとその部品製作の仕事もさせていただきました。そのような感じで良くも悪くも今まで本田さん一本、依存するようなかたちで仕事をしてきました。

ーー現在何名の方が働いていますか?

私の入社時は8名ほどおりましたが、高齢になって引退されたりで現在は現場が4名体制になります。

ーーメインのお仕事としては金属切削になりますか?

はい。エンジンの試作部品の加工請負になり、先方からもらった図面通りのものを作り、納めるという商売になります。近年は脱炭素の流れから自動車の電動化が急速に進み内燃機関であるエンジンの試作関連の仕事も激減して、いよいよこれではいかんということになって、取引先新規開拓などにも取り組んでいるところです。その成果もでつつある状況ではありますが、弊社の技術をこれまで活用してこられなかった業界への接点、新しいことへのチャレンジも含め模索しているところです。ですがなにぶん小さな所帯になりますので、新規を追いかけて本業に手がまわらなくなる...ということにならないよう苦慮しているところでもあります。ここ3年ほど一般の仕事をとりつつ販路開拓に取り組んでいます。

ーー「一般の仕事」にはどのようなものがあるのでしょうか?

様々ですが半導体関連、製薬、食品関連の製造装置やその他産業機械の仕事になります。ですが採算的に厳しいものも多くて。

ーーやればやるほどマイナスにということでしょうか?

そういうケースもままあります。

ーー厳しい状況のなかこれまで培ってこられた独自の技術で挽回を目指しておられると思うのですが、御社が得意とする金属切削による軸物加工技術について教えてください。

簡単に言うと、旋盤という工作機械を使って棒状の金属を削る加工方法です。

弊社もそうですが、一般的な旋盤は材料を横向きに咥えて回転させ、刃物で切り込んで部品を削り出します。タテにするとロクロのようなイメージでしょうか。ほかの種類の工作機械もありますが、私の代では長く旋盤加工をメインにやってきました。これからも暫くは限られた社内リソースを旋盤加工を中心に取り組んでいきたいと思っています。今回のアワードでは、その旋盤加工の技術に焦点をあてて弊社のテーマとしました。

限られたリソースをどう生かすか

ーー今回のアワードでは旋盤を用いた加工ということで、現状どのような可能性があるとお考えでしょうか?

旋盤加工を用いたB to Cの商品開発に限らずに、現状の課題、限られたリソースの活用、弊社が持っている旋盤加工の技術を持って、私たちがこれまで思いつかなかった異なる切り口でどのような商売ができるのか。ビジネスモデルと言ってもいいと思いますが、そのような提案を期待しています。

ーーこれまでブランディングやコンサルティング会社などに相談に行ったことはありますか?

コンサルなどではありませんが、東京都中小企業振興公社さんによる支援事業で、中小企業の経営層とデザイン人材の方々が共に参加する「デザイン経営スクール」にまず私が参加する機会を得ました。その後“自社で製品開発のサイクルを回すことが出来る様に”という「事業化チャレンジ道場」という事業に従業員中心で3年間参加させてもらい、その中で講師の先生方、デザイナーや中小企業診断士の方などとの出会いがありました。

ーーどのようなアドバイスがありましたか?

経営相談の中で出てきたのは、弊社の小規模で小回りが利くという特性を生かして特注品やワンオフの製品やディスコン部品を手掛けてみてはどうかということでした。他には趣味によった製品開発という切り口の提案もあったのですが、それをまず自社主体でどうにかするというところまではいかない、というのが現実でした。私自身もそうですが従業員にもこれからのモノづくりをする上で同じ言語を持ってもらいたくて参加をしましたが、それもなかなかうまくいきませんでした。

また「新製品開発」は相応の(絶対的な)情熱や、それこそ社会課題を解決するぞといった使命感をもって取り組まないと厳しい、というアドバイスもありました。

ーー東京ビジネスデザインアワード(以下TBDA)は企業がもつ技術を理解したデザイナーが提案するところから始まってビジネスを一緒に作っていくというところに特徴があると思います。そのためにも単に作るだけでなく、それがあることで社会にどう役立っていくのか。それを考えて作ることも重要だと思います。

そうですね。今回テーマ企業審査の段階でこちらの仮テーマに即して削り出しで作った加工サンプル品をお見せしたところ、TBDAの審査委員長の山田遊さんに言われたのは、「御社の技術を活用していいものができたとしても、それだけでビジネスを作っていくことは難しい、でもそれが世の中で必要とされ、それがなくては困るというものができればチャンスがある」というようなお話でなるほどと思いました。

ーー御社がもつ技術についてもう少しお聞きしたいのですが、テーマにもある高精度な軸物加工の高精度とはどれほどの精度のことをいうのでしょうか。

寸法的なことでいいますと、今回のテーマである旋盤加工ですと、0.1ミリ単位は普通で1/100ミリ単位台での寸法公差のことを高精度といいましょうか。ただそれは弊社でなければできないかというとそうではありません。ですが長年大手の試作部品を作ってきた経験から、決められた精度保証を持ったものを厳しい状況下で作り込んできたことは弊社の技術面の大きな強みになっています。

精度に関してはその必要性と予算との兼ね合いもありますので、お客様と事前のすり合わせをした上でご要望に応えることができることも強みになってくると考えます。

ーー現代の機械加工においては職人の手業とともにコンピューター制御によるプログラミングのスキルの重要度も増していますが、御社がもつ高精度の加工を支えるものは職人技によるところが大きいものなのでしょうか。

熟練の職人の手業の重要性もあるにはあるのですが、おっしゃる通り現状は加工段階でコンピューター化された機械を使わなければならないプロセスもあります。ただ、その機械をどういう条件でどう使うかということも同じように熟練の技術によるものと思います。機械の性能・仕様が全く違いますので、手動機械のツールや条件をそのまま転用する訳には行きませんが、加工手順やツールの選定、回転数、切削速度、切込み量、送り量といった加工条件の設定には手動機械で培われた職人の経験がものをいいます。また加工中の状況判断や加工後の仕上りチェック、トラブルシューティングにも経験値が生かされています。

新しいかたちを熟練した技で作る

ーー今回のアワードではビジネスモデルの提案と、御社の金属切削の技術を用いた軸形状のプロダクト開発になるのでしょうか。

はい。棒状(軸形状)、あるいは少し手のひらにのるようなものなど旋盤を使って加工する製品になります。プロダクトの開発を通したビジネスモデルのご提案やあるいは、弊社の加工請負いの業態(サービス)自体を活用したビジネスモデルのご提案もあるかも知れません。

ーー御社で切削が可能な金属の大きさについて教えてください。

最も扱いが慣れているのは外径寸法が50~60mm位までで太くても80mm程度まで、長さは500mm位までで、細いものですと外径寸法が20~30mmくらいあってくれるとやり勝手が良いです。

ーー最小のサイズも教えてください。

外径8mmから10mmくらいでしょうか。元々自動車ものの部品をやってきたので光学系の機器に用いるような肉薄のパイプ形状になりますと道具や設備も違ってきますので苦手としています。あとは複雑形状や、多軸機でしか加工出来ないフィギュアのような3D形状のものは弊社の現行設備では加工が出来ません。

ですが今回ご提案いただければ、弊社が持っている機械と技術で出来そうなことであれば、これまで苦手としてきたことや、やってこなかったことにもチャレンジしてみたいと思っています。

ーー心強いです。旋盤での加工ということで形状に関しては基本円筒形、仕上がりの形状は左右対称のものに限られますか?

旋盤の加工だけですと基本は円筒形状になります。ただ弊社でも旋盤だけで完結する仕事は少ないです。旋盤で加工したものにフライス加工で一部穴を開けたり切り欠き加工などをして仕上げていくのが通常の工程になります。ボルト部品で例えるとネジ部分は旋盤でできますが、スパナをかける六角の頭は旋盤加工では対応できません。フライス盤やマシニングセンタという機械を使って二次加工を施します。フライス盤やマシニングセンタでは「フライス加工」を行います。旋盤とは違い、加工対象物を固定して刃物を回転させて加工します。基本的にはXYZの三軸の制御軸を持ち、穴や平面の加工を行います。

普段私たちが作っている部品は“機能部品”で機械装置の一部に組み込まれてしまうものばかりで、装飾的な用途のものは殆どありません。意匠性に重点を置いた表に出る製品なども弊社の設備で加工出来ると思います。デザイナーさんの知見を活かして弊社としても積極的に新しいことに取り組んでいきたいと思っています。

ーー今回のアワードでの提案に対して扱える素材を教えてください。

鉄系、高合金鋼、ステンレス、アルミニウム、銅合金などになります。逆に扱えない素材は木材、プラスチック、ガラス、セラミックなどです。プラスチック(樹脂)は普段仕事として請ける事はありませんが、それでもご要望があれば材種や形状にもよりますが、トライする事は出来ると思います。

ーー新規の顧客開拓というお話もありましたが、あらためて今後希望としてどのようなものを手がけてみたいとお考えでしょうか。

まずは堅い販路開拓で、現状の弊社設備・技術と親和性の高い業界の仕事を獲得して経営のてこ入れを図ることを第一に行っています。これまで自動車メーカーの研究開発用の試作部品を中心に作ってきたこともあり、弊社がどのようなものを作ってきたのかをオープンにしづらい面もありましたが、今は積極的に外部に情報発信をしてPRしようと努めています。

また今後の希望について、何か具体的なイメージや事例を言ってしまうとTBDAに応募頂くデザイナーさんの検討の幅を狭めてしまうかもしれませんが、それらの事は一旦置いておいて個人の趣味的なことを言うと文房具や、ガジェットもののデザインや機能性にも興味があります。そういったものを自分のところで作ることができて、ゆくゆくはブランドとして確立することが出来たら面白いだろうなとは思います。

ーー日々感じられている御社の仕事のやりがいを教えてください。

金属の塊を削って形を作る仕事です。普段は予算と時間の中でどうやって図面の指示通りのものを作るかということに注力しています。そこに面白さを感じることはあまりないのですが(笑)仕事ですので…、もちろん目論見通りにパチッと加工が仕上がった時などは満足感や充足感が得られるものだと思います。一方その質問をいただいて少し考えたのですが、金属の塊を削っていろんな形が出来ることはすごく面白いという気がします。

私は子供の頃からこの仕事を身近にみて育ちました。世の中にある金属製品の多くは量産前提で作られています。鋳造や鍛造の型で作ったものを削って作られていたり、仕上がりもそれなりに最低限の必要十分なコストで…ネジでいえば規格通りにできていて締まれば用をなすというものなのですが、私たちが作っているのは、ある程度の精度があって、量産では必要がないかもしれませんが、全ての工程を削り出しで作っています。意外と身の回りにそういったものってないんですね。

ーー 日用品で、金属で、となると一点ものって確かにあまりないかもしれませんね。

はい。そういったものを日々手がけていますので、自分たちでもこんなものを作っているんだ!と気分が上がる時があります(?)。ですので今回のTBDA でも普段皆さんが目にされ、手に触れているものとは少し違ったものが作れるのかなとは思っています。

ーーデザイナーへのメッセージをお願いします。

今回どのような巡り合わせがあるかわかりませんが、以前TBDAの審査委員長をされていた廣田尚子さんが「企業はもっとデザイナーと一緒に仕事をして下さい!」と言われていて。

ーーそうですね。デザイナーは中小企業の皆さんにとってのパートナーなんです。

はい。狭い意味での意匠に関わるデザインだけでなく、企業が課題だと感じていることや見過ごしている課題を発見して解決に導くような、もっと広い意味でのデザインができる存在ですとおっしゃっていて、なるほどと思いました。今回は幸運にもTBDA に参加する機会をいただきましたので、ぜひ素敵なご縁が繋がればと思います。どうぞ宜しくお願いします。

インタビュー・写真:加藤孝司


テーマ名:金属切削による高精度な軸物加工

テーマ企業:株式会社開工精機製作所(板橋区)

企業HP:https://kaiko.co.jp

各テーマの詳細はこちら:https://www.tokyo-design.ne.jp/designer/#design_theme


2024年度東京ビジネスデザインアワード

デザイン提案募集期間 10月30日(水)23:59まで

応募資格:国内在住のデザイナー、プロデューサー、プランナーなど、テーマに対してビジネスモデルを含めた新たな製品・用途開発・ブランディング案などを提案できる方

応募費用:無料

詳細は公式ウェブサイトをご覧ください https://www.tokyo-design.ne.jp/designer/


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