公益財団法人日本デザイン振興会 公益財団法人日本デザイン振興会

テーマ企業インタビュー:三祐医科工業株式会社

2024年度東京ビジネスデザインアワード

「東京ビジネスデザインアワード」は、東京都内のものづくり中小企業と優れた課題解決力・提案力を併せ持つデザイナーとが協働することを目的とした、企業参加型のデザイン・事業提案コンペティションです。

企業の持つ「技術」や「素材」をテーマとして発表、そのテーマに対するビジネスモデルを含めた新たな製品・用途開発・ブランディング案をデザイナーからの「提案」として募集しています。

2024年度はテーマ9件の発表をおこない、10月30日(水)23:59までデザイン提案を募集中。本年度テーマに選ばれた9社へのインタビューをおこない、技術や素材について、本アワードに期待することなどをお聞きしました。


究極の滑らかさを生み出す金属加工のディープテク

医療器具は人の体の弱ったところやデリケートな箇所に直接触れるものであるため、その製作や仕上がりには高度な精密さが求められるのはいうまでもない。三祐医科工業株式会社は長年金属医療器具を手がけてきた足立区にある金属加工メーカー。身体に挿入したり患部に直接触れても安心安全な滑らかさを生み出すのは職人の感覚による手仕事での仕上げ。近年医療という専門性の高い滑らかさと精巧さをもたらす金属加工の技術を使った耳かきが評判を呼び、医療以外の分野でのその技の活用が期待される

お話:営業 小林祐太氏


数値化できない誇りあるものづくりを。

ーー御社は創業1972年ということで小林さんの祖父が創業されたと聞きました。

はい。この会社は私の祖父が創業して、現在は父が代表をしています。私自身は大学卒業後3年ほど外で働き2020年に戻ってきました。現在は弊社で開発したB to C向けの「医療器具屋さんが作った耳かき」の営業と会社全体の経理を担当しながら、後継のための勉強中になります。

ーー御社の歴史と創業の経緯、お仕事内容などを教えてください。

私の祖父が医療器具製造販売をする会社として立ち上げた会社です。のちに医療器具と並行して自動車のアンテナ部品、工業用計測器の部品等の製造もはじめました。祖父は15歳で医療器のメーカーに修行に入り、25歳で弊社を立ち上げた人です。現代表の私の父もものづくりが好きな人で、中高の時から家の手伝いをしていました。大学は夜間に通い日中は家の仕事を手伝い卒業後に弊社に入りました。

ーーなぜ医療器具だったのでしょうか?

プライドと誇りを持ってものづくりに励みたいと祖父は願っていたそうです。それで、どういったものをつくれば誇りを持てるかと考えた時に、人の命を預かる医療器具に出合ったそうです。

ーー 一言で医療器具といっても本当に繊細さが要求されるものづくりだと思います。医療器具をつくる上での難しさを教えてください。

体の中に入れるものですので僅かのバリや傷が品物にあると体を傷つけてしまいます。難しさは安心安全な製品としての信頼をもたらす高度な加工の精度を求められるところでしょうか。

ーーどのように加工していますか?

仕上げの部分にはなりますが、弊社では機械ではなく全て手作業、ヤスリや研磨機を使い職人の手の感覚でバリや傷を無くしているところが弊社ならではの技術の高さになります。

ーー全て手でこの滑らかな仕上がりとはすごい技術ですね。

ありがとうございます。手仕事のよる滑らかな仕上げは数値化しにくい部分ではありますが、職人の感覚の世界になります。

ーー最終的なチェックはどのように行いますか?

顕微鏡で細かくチェックをしてから出荷になります。

ーー医療器具もさまざまだと思いますが三祐さんが手がける医療器具はどのような用途で使用されるものになりますか。

鋼製小物と呼ばれる医師や看護師の手のかわりになって働く金属製の医療器具になります。上は脳外科から、耳鼻科、外科、整形外科、下は肛門科、泌尿器科まで、あとは獣医さんの道具まで、金属製のカテーテルや注射針など、1000種類以上多岐にわたる金属製の医療器具を手掛けてきました。

業界がしてこなかった新しい取り組みを目指して。

ーー誰もが驚く高い技術をお持ちですが、現状どのような問題意識をお持ちでしょうか。

売り上げが最盛期に比べて3割ほど落ちています。理由としては安価な海外製品が入ってきたこと、これは良いことでもあるのですが薬が良くなり病院にかからなくなったことも一つ要因としてはあります。ですので耳かきや爪切りをつくったり、一般のお客様向けの商品を販売することで売上のバランスをとる取り組みをしているところです。

ーー耳かきや爪切りにしても創業者が人の役に立ちたいという思いで磨かれてきた手加工の技術があったからこそ生み出しえたものですね。

はい。弊社にとっての宝であり、ありがたいです。

ーー医療器具全般のお話だとは思いますが医療のあり方も変化しているように思います。テクノロジーの活用でハイテク化も進んでいますが、御社でつくられる金属製医療器具のかたちにも変化はあるのでしょうか?

いや、時代は変わって技術が進歩しても、人体の構造は変わりませんので私どもが扱う医療器具のかたちは昔からほぼ変わっていません。

ーーかたちは変わらない中で、確かな技術を継承してきたのが御社の医療器具製造技術なのですね。ものづくりにおいて御社が大事にしていることを教えてください。

私たちがつくる製品は、いわば人の命を預かるための道具です。人の体内に挿入されるものも多いので、その製造過程や仕上げには細心の注意を向け、常に「より安全に」「より安心して」使っていただける製品をつくる、ということをモットーとして日々製造に励んでおります。

ーー使われているお医者さまからのフィードバックはございますか?

実は弊社ではそこが課題の一つとしてあります。というのも取引をさせていただいているのが医療商社さん小売店さんで、実際に使われるエンドユーザーであるお医者さんとの直接のつながりはありません。現在は商社さんのカタログの既製品をつくっているかたちになり、お客さんのニーズ通りのものができているのか実感がありません。エンドユーザーであるお医者さんの声を聞かない限り次の進展もないというのが切実な思いです。

ーー今回のアワードではデザイナーであったり、御社のビジネスモデルを新たにつくっていくためのパートナーとの出会いが望まれるところだと思うのですが、御社が手がけられている金属製医療器具の分野でのデザイナーとの協働の例と可能性はどのようなところにあるとお考えでしょうか。

先例に関しては私が聞いた限りではありません。ただデザインアワードに今回応募させていただいた理由は、今後の私のビジョンとして、お医者さんと組んで医療器具分野での新たなものづくりを手がけたいという思いがきっかけにあります。ですので本事業を通してデザイナーさんが新商品をつくるにあたりどういった考え方をするのか、どのように新製品をデザインするのかということを間近で見て学び一緒に取り組ませていただきたいと思っています。先例はありませんが私がつくっていきたいと考えています。

ーーというのも、ものに関して言えば、日常使いのものがあって、その一方にハイエンドなものがあります。そのどちらも対極にあるのではなく、芯の部分ではお互いが補完し合っていたり影響し合って存在しています。今まで参入したことのなかったデザイナーの力を借りてこれまでにないものを生み出すことができれば、足立に金属製医療器具で面白い試みをしている会社があると気になる存在になることができるかもしれません。きっとそこから始まる何かが必ずあると思います。

そうなんです。色々組んでやってみたいです。

 

ディープテクで世の中にないものづくりを。

ーー御社の製品が使われているのは国内のみですか?

薬事法との関連もあり門屋さんからは基本流通は国内のみだと聞いております。

ーーオリジナル製品の製造販売などさまざまなことにチャレンジされていたので海外も視野に入れておられるのかと思いお聞きしました。インバウンドも含め、海外進出に向けてトライされていることはございますか?

ステップを積み重ねる必要があるのかなと思っています。まずは国内でお医者さんと組んで真の意味の自社オリジナル医療器具ができたらその先に海外があると思っています。ただ医療器具はつくるのも売るのにも、取り扱うのにも資格が必要です。現状弊社ではつくること、売ることの国内の資格はあるのですが、多分海外になると別の許可証が必要になります。参入障壁の高さがあるのですが、とはいえ海外の方が圧倒的にマーケットは広いですし、ゆくゆくはそこを目指すべきかなと考えております。

ーー製品についてもう少しお聞きしたいのですが、パイプ状に中が空洞の製品は板を折り曲げて溶接をしてつくっているのでしょうか?

最初からパイプに加工されている材料があり、それを仕入れてカットし研磨して仕上げます。物によっては板を丸めて溶接してカーブをつけて磨いて、という加工も可能ではあります。ですのでパイプのものを仕入れて加工すること、板を丸めて加工することのふた通りが可能です。

ーー御社のモノづくりの精神でもある「ハイテクでもローテクでもないディープテク」について教えてください。

現代表が考えた言葉になります。ハイテクでもローテクでもない、機械加工ではできない弊社ならではの職人が長年培ってきた「手仕上げ」に関してディープテクと言っています。やすり、溶接は感覚・感触の世界で削りすぎても炎が強すぎてもダメで、培ってきた感覚がものをいう世界です。社長自身も職人なので自分たちがやっていることへの誇りも込めてそう呼んでいます。

ーーもう一つ、「職人経営者」という言葉も掲げています。どのような経営者像でしょうか?

技術、知識だけでなく、医療、社会に対して貢献するためにも経営を継続することが肝要です。職人としてのプライドを持ちながら、経営においては当たり前ですが利益のことを考え会社を維持することにも知恵を絞る。職人、経営者、双方の考えを兼ね備えビジョンを持った経営者像を弊社ではそう呼んでいます。

ーー医療器具の分野に限らないお話ですが、御社の技術が世の中に必要とされるためにもそのバランスはとても重要ですね。御社が手がけられる耳かきに関しても、少子高齢化の影響などもあり業界が縮小していく中で、御社のもつ手仕事の加工の技を生かすために開発されたものなのでしょうか。

はい。2008年に試作をつくり2012年に製品の販売を開始しました。開発の経緯としましては、ある展示会出展の際に、弊社の製品をみた異ジャンルの方から、耳かきですか?と聞かれたことがあったそうです。その時父はいぶかしく思ったそうですが、金属製医療器具に明かるくない方が見たらそう思うのなら、一度つくってみようと思ったそうです。どうせやるなら弊社が得意とする磨きや切削加工の技術を用いて究極の耳かきを、と奮起してつくったのが「医療器具屋さんが作った耳かき」です。

ーー勘違いから新製品がということは本当にあるのですね。耳かきはフィニッシュまで御社の工場でできるのですか?

メッキのみ外注ですが、それ以外は弊社で行っています。

ーーお客様の声はいかがですか?

先端にポリアセタールという樹脂を使っておりしなりがあるので、耳の中で力が加わりにくく、傷つけにくいという特徴があります。耳垢もとれ気持ちがいいという声をいただいています。

ーーいま、金属以外で樹脂をというお話がありましたが、御社の工場で加工ができる素材を教えてください。

主に真鍮とステンレスです。それと銀、ポリアセタールという一部樹脂も加工ができます。医療器ということでチタンの加工できるかと聞かれることがあるのですが、できないことはありません。金属では他に、アルミも可能です。

ーー逆に扱えない素材はありますか?

木、それとステンレスの中でも硬度の高いステンレスは扱えません。

ーーあらためてアワードへの応募動機を教えてください。

売り上げが落ちてきていることもあり、デザイナー様のお力添えをいただき弊社の耳かきに並ぶような商品を開発し売り上げの向上を狙いたいというのがひとつです。もうひとつは、先ほどお話させていただいた通り、今後のビジョンとしてお医者さんと組んで新しい医療器具をつくりたいという思いが私にはあります。そのためにもデザイナーさんがものを生み出すプロセスを間近に拝見したいという思いがあり応募させていただきました。

ーーでは、今回出会うかもしれないデザイナーがその重要なパートナーになるかもしれないということですね。

はい。良いデザイナー様と出会えたらパートナーとして長くご一緒させていただきたいと希望しています。

ーーだからこそ経営者目線も兼ね備えたデザイナーが御社には求められているのかなと思いました。

高価な材料を使うこともあり、理想は費用対効果も含めて一緒に良いものを考えていただけるデザイナー様だとありがたいです。

ーーすでに事務局とのやりとりがあると思いますが、TBDAへの期待感を教えてください。

応募をして実際にテーマ企業として採択していただき、審査員長の山田遊さん、Makuakeの坊垣佳奈さんなど普段交流ができない方と実際にお会してアドバイスいただけるのはとても貴重な機会になっています。まだ回数は多くはありませんが、ご相談にのっていただくなかで、私たち自身も新しい可能性に気づけるのではないかとすでに手応えを感じています。今回はB to Cでのものづくりを目指していますので、あとは今後どのようなデザイナー様との出会いがあるのか今からワクワクしています。

ーー優れた技術、製品に対して認定される地元足立区の足立ブランド(FC ADACHI)認定事業者にもなられているそうですね。

はい。足立区の援助も受けてギフトショーにも出展させていただきました。商品ができたらどれだけ広く披露できるかが肝だと思っています。耳かきで開拓してきた販路もありますし、クラウドファンディングの経験もあります。新商品ができたらそのようなものを活用してどんどん売り込んでいきたいと思っていますのでよろしくお願いいたします。


インタビュー・写真:加藤孝司


テーマ名:医療器具水準の滑らかな仕上がりをもたらす金属手加工

テーマ企業:三祐医科工業株式会社(足立区)

企業HP:https://www.sanyu-med.jp

各テーマの詳細はこちら:https://www.tokyo-design.ne.jp/designer/#design_theme


2024年度東京ビジネスデザインアワード

デザイン提案募集期間 10月30日(水)23:59まで

応募資格:国内在住のデザイナー、プロデューサー、プランナーなど、テーマに対してビジネスモデルを含めた新たな製品・用途開発・ブランディング案を提案できる方

応募費用:無料

詳細は公式ウェブサイトをご覧ください https://www.tokyo-design.ne.jp/designer/


BACK TO TOP

NEWS LETTER

JDPより最新のデザインニュースをお届けします。
ご登録は無料です。お気軽にご利用ください!

  • GOOD DESIGN AWARD
  • GOOD DESIGN Marunouchi
  • GOOD DESIGN STORE
  • DESIGN HUB
  • 東京ビジネスデザインアワード
  • TOKYO DESIGN 2020
  • SANSUIGO