テーマ企業インタビュー:株式会社トリアド工房
2019年度東京ビジネスデザインアワード
「東京ビジネスデザインアワード」は、東京都内のものづくり中小企業と優れた課題解決力・提案力を併せ持つクリエイターとが協働することを目的とした、企業参加型のデザイン・事業提案コンペティションです。企業の持つ「技術」や「素材」をテーマとして発表、そのテーマに対する企画から販売までの事業全体のデザイン提案を募ります。2019年度は、テーマ9件の発表をおこない、10月27日(日)までデザイン提案を募集中です。
本年度テーマに選ばれた9社へのインタビューをおこない、技術についてや本アワードに期待することなどをお聞きしました。
お話:株式会社トリアド工房 取締役社長 阿部知行氏
トリアド工房は1970年に創業した博物館や資料館といった文化施設の展示造形物製作を中心に行っている会社。創業以来、文化財のレプリカなど各種模型製作、文化財の保存・修復、展示造形物製作、常設展・企画展などの展示施工といった、幅広い分野の事業をおこなっている。日本では数社しかいない国指定重要文化財を扱える会社であり、唯一無二の仕事を行っている。近年ではそれまでの完全一点ものの手仕事によるレプリカ製作に加え、3次元計測による非接触によるレプリカ製作技術を導入。昔ながらのローテクと最新のハイテクを駆使したものづくり企業としての地位を確立している。
アイデアを形にする確かな技術力
ーーまずは今回のレプリカ製作で培った「模型製作技術」というテーマについて教えてください。
弊社は博物館などの展示物を製作している会社で、創業は地形模型製作の仕上げの下請けとしてスタートしました。その仕事の流れで文化財レプリカのお仕事をいただくようになり、今では自社の工場でものづくりをしながら、博物館等の展示ディスプレイの内装全般を企画設計から展示工事・施工後のメンテナンスまで一貫して手がけるようになりました。
ーー御社の強みはどのようなところでしょうか。
ものづくりの技術です。建設業としての展示工事、ものづくりでは模型をつくる製造業を両軸で行っているところになります。今回テーマとして文化財レプリカと書かせていただいたのは、当社で行っている模型造形業務全般の中でも、文化財レプリカに関しては特に高評価をいただいているためです。ただ、長年文化財レプリカを含めた模型造形製作をしてはいるのですが、それは実物と同じように製作するとか、設計図面通りに製作するという技術であり、自分たちでオリジナルの商品やデザインをして作るということはこれまで出来ていませんでした。ものづくりとは本来クリエイティブなものですので、新たなものづくりをするきっかけになればと思ったのが今回の応募のきっかけです。
ーーミニチュア模型のような小さなものから実寸に近い大きなジオラマのようなものまで自社で一貫生産が出来るのは素晴らしいですね。
ありがとうございます。大量生産は得意ではないのですが、昔ながらの手加工を続けながら、現在では3Dスキャナーやデジタルカメラなどを用いて作成した3Dデータをもとに、3Dプリンターや光造形機で出力するなど、複数の技術を複雑に組み合わせて一つの模型づくりを行っています。そもそもほとんどが一点ものになりますので、これと決まったつくり方があるわけではありません。三者いれば3通りのやり方があり、正解がないのがこの業界のものづくりの仕方だと思います。
ーー手仕事を大切にしながら、テクノロジーの進化に合わせて新しい工作機械を取り入れ、ものづくりをされているのですね。
そうです。全部手で作っていた時代もありました。時々、昔製作した模型の修理を依頼していただくことがあるのですが、3Dプリンターなどのデジタル機器のない時代に作ったものが結構良く出来ているんですよね。
ーー現在でもハイテクとローテクをミックスしたものづくりをされている理由を教えてください。
いろいろ理由はありますが、特に仕上げの色付けなどは手でやらないとお客様が求めているグレードを出すことができません。
ーーハイテクの部分は模型製作の主にどのような部分に使われているのですか?
レプリカでいえば、昔は土器等のレプリカを作る際には、シリコンなどで型をとるなど直接土器に触れて製作をしていました。最近では資料保全のために直接資料を触れることは少なくなり、形状のデータを得るために非接触の3Dスキャナーを使ったり、そのデータを形にするために3Dプリンターを使ったりしています。模型でいえば、CADで作成したデータを使ってレーザー加工機で材料をカットしたり、3Dプリンターでプリントしたパーツを組み込んだりしています。
ーー文化財の精密なデータをとるなど、ハイテクでしか出来ないことも増えているのでしょうか。
3Dデータは精巧なレプリカを作ること以外にも使い道があり、例えば計測した3Dデータで、形状はオリジナルに忠実なまま自由な縮尺でミニチュアを作ったり、データの二次利用が出来るというメリットがあります。
ものづくりを支える前向きなチャレンジ精神
ーー模型製作にはどのような素材を使うのですか?
いろいろな素材を使います。FRP、アクリル、ABS、ケミカルウッド、硬質ウレタン、発泡スチロールなどの樹脂材、木材、あとは石材を使うこともあります。協力企業にお願いすれば金属パーツの加工をすることも出来ます。
ーーこれまで手がけてきたもので、ユニークなものはどのようなものですか?
大型模型として、屋外展示製品で荒川の上流から下流まで、川の流域を再現した170メートル以上の規模の模型を作ったことが記憶に残っています。実際の水を流して東京湾まで再現しました。これを模型と言っていいのだろうか?と当時感じたことを思い出します。
ーー日々お仕事をされていてどんな時に喜びを感じますか?
仕事を通じて人との出会いがあり、その中で地域社会発展のお手伝いをすることができ、そこで作ったものが博物館などに展示されてお客様に見ていただけることは大きな喜びとしてあります。大変ですがやりがいがある仕事ですし、中小企業でありながら作るものが皆さんの目に触れる最終の形になるということは恵まれた仕事だと思っています。
ーーどんな人が働いていますか?
美大卒の人、昔からプラモデルづくりが好きな人、歴史が好きな人、などさまざまです。私自身は手でものをつくることは得意ではありませんが心がけていること、そして社員にいつも言っているのは、いろんなことに好奇心を持とう、やったことのないことにも前向きにチャレンジしょう、ということです。経験がその後のノウハウとしてしっかり蓄積する仕事だと思っていますので、どんどん新しいことにチャレンジしていきたいです。
ーー今回のアワードでマッチングが決まりものづくりがスタートした際には社長さんとチームを組みものづくりをする形になりますか?
はい。今までも前例のないものをその都度試行錯誤しながら作ってきましたので、どんな斬新なアイデアであっても形にする力はあると思っています。どんなお仕事でも難しいことは出てくると思いますが、それを実現するために努力しますし、それが弊社の技術者の自信にもつながると思っています。
ーーB to C、B to Bなど目指したい方向性はありますか?
これまでの仕事がB to BやB to Gでしたので、一般の方に対してものを売るということはありませんでした。ですので今回のマッチングをきっかけに、一般の方にも喜んでいただけるものを作りたいという思いがあります。あとは企業さん向けにお役に立てるようなお仕事もあると思います。デザイナーさんと一緒にいろいろ考えてみたいと思っています。
ーー今回のデザイナーとのものづくりで期待することはどんなことですか?
デザイナーさん頼みに聞こえてしまうかもしれませんが、弊社の技術を客観的に見ていただき、こんなことも出来るんだというような私たちも驚くようなアイデアを楽しみにしています。自分たちでも弊社発信で何かをやりたいと常々話してはいるのですが、面白いアイデアが一向に出てきません。黙々と手作業で仕事をしている毎日ですので、デザイナーさんのアイデアに刺激を受けたいという思いもあります。皆様からのたくさんのご提案をお待ちしています。
株式会社トリアド工房(八王子市)https://www.toriado.co.jp
テーマ:文化財レプリカ製作で培った「模型製作技術」
1970年、創業者が「人と同じことはしたくない」という想いで始めた模型製作会社。博物館や資料館で展示される模型造形物や文化財レプリカ等を製作。全てが完全ハンドメイドでの一点物であり、近年では3Dデータ等のデジタル技術と、手作業のアナログ技術を融合した、他社では容易には習得し難い技術水準やノウハウを持つ。従業員の平均年齢は約40歳。ここ数年の設備投資や3D等新技術の導入もあり、社員たちの挑戦意欲がより高まってきている。
インタビューと写真:加藤孝司
2019年度東京ビジネスデザインアワード
デザイン提案募集期間 10月27日(日)まで
応募資格 国内在住のデザイナー、プロデューサー、プランナーなど
応募費用 無料
詳細は公式ウェブサイトをご覧ください