テーマ企業インタビュー:株式会社研恒社
2019年度東京ビジネスデザインアワード
「東京ビジネスデザインアワード」は、東京都内のものづくり中小企業と優れた課題解決力・提案力を併せ持つクリエイターとが協働することを目的とした、企業参加型のデザイン・事業提案コンペティションです。
企業の持つ「技術」や「素材」をテーマとして発表、そのテーマに対する企画から販売までの事業全体のデザイン提案を募ります。2019年度は、テーマ9件の発表をおこない、10月27日(日)までデザイン提案を募集中です。
本年度テーマに選ばれた9社へのインタビューをおこない、技術についてや本アワードに期待することなどをお聞きしました。
お話:株式会社研恒社 代表取締役 神崎太一郎氏 営業部 次長 中村友美氏
東京九段に1972年に創業した、ポスター、チラシ、パンフレットなどの商業印刷を、企画から校正、校閲など制作までトータルに行っている会社。近年ではウェブページでの簡単な操作で1冊からオリジナルノートを注文できるオーダーノート作成サービス「kaku」、折り畳み運べる大型パネル「折りパネ」など、長年印刷物に関わってきた経験を生かした、世の中にないならつくるといった発想をもった自社企画の製品づくりでも注目を集める。既成概念にとらわれず、真摯なものづくりで変わらない価値を提供し続ける研恒社二代目の神崎太一郎さんと営業部の中村友美さんに話を聞いた。
書くから始まる新しいコミュニケーション
ーーまずは今回のテーマにもなっている出版印刷をメイン業務とする御社が、新たな事業の一環としてオーダーノート作成サービスを始めた経緯を教えてください。
弊社は今年で50期を迎える会社で、私で二代目になります。30年ほど前から各省庁の答申書などをまとめた「月刊ニューポリシー」という雑誌を発行していたり、数年前まで5年間ほど日本料理のお店も営んでいました。以前より紙離れと言われ、危機意識を持ってきた中で、仕事をただ受けるだけでなく自分たちからも何かを発信しないといけないと思っていたのですが、これまであまり積極的には出来ていませんでした。今の時代にあったもので、何かブランドを自ら発信するものを模索するなかで、2013年から、オリジナルノートをオーダーできるサービス「kaku」を始めたという経緯があります。
ーーkakuは御社の本業である紙にまつわるものということに関連して立ち上がったサービスなんですね。
はい。世の中には多くのものが溢れていますが、顧客が本当に満足する商品は、50%は自分たちのライフスタイルや仕事で活用できるもの、残りの50%はオリジナル性が高いものだと思っています。その考えをベースに立ち上げたのがkakuというサービスになります。
ーーホームページでの簡単な操作で、表紙から罫線の種類、紙の大きさまで組み合わせて世界で一冊のノートが作れるユニークなサービスなのですが、すでに完成されたサービスのようにも見受けられます。今回のデザイナーからの提案では、どのようなことを期待されての応募になりますか?
このサービスを始めるにあたり、世の中にあるたくさんのノートを購入し勉強をしました。紙にこだわっているもの、表紙にこだわっているもの、値段で工夫しているところなどさまざまでしたが、私たちは紙には携わっていますがノートのプロではありません。私たちが唯一できることは、ノートを作るために必要な選択肢を少しでも多く広げそれをサービスとして提供することです。あとはそれをお客様ご自身で自由にピックアップして選択していただければ、こだわりをもったお客様は自由に選んでくれるだろうという期待からつくったサービスです。そのためにオンライン上でオーダーできるシステムをつくりました。今回デザイナーさんには、そこから派生した世の中に受け入れられる商品として、kaku(書く・画く・描く)から発想したものを一緒につくっていけたらと思ったんです。
ーー御社の既存のシステムや取り組みを整理しながら、よりユーザーの心に響く商品をつくるということですね。先ほど月刊誌ニューポリシー のお話がありましたが、研恒社さんではこれまではどのようなものをつくられてきたのですか?
メインはさまざまなジャンルの商業印刷になります。その中でもパンフレット、封筒、アンケート用紙をつくりそれを集計し発送するといったことなどを行っています。それに加えて「書く・画く・描く」コンテンツとして、一冊からオーダーでノートをつくることができるウェブサービス「kaku」を新しいブランドとして立ち上げました。
ーーB to Bを主軸に、「kaku」でB to Cにも取り組まれるようになったんですね。
はい。これまでのB to Bの取り組みに加え、kakuというB to Cの活動をすることで、それらが相乗効果となって、より企業として推進力がアップすることを期待してます。
ーー創業もこの場所ですか?
創業から、ずっと千代田区内でやってきました。
ーーこのエリアは近くに日本の大学発祥の地や世界有数の古書街として知られる神保町があったり、文化度の高い場所ですよね。太一郎さんが考える御社のポリシーを教えてください。
50%変えて、50%変えないようにということをつねに考えています。時代に合わせて変えるべき部分、変えてはいけない部分を意識し、その中で社員と力を合わせていろいろなことにチャレンジしていくことを大切にしています。
ーー現在社員さんは何名で平均年齢はおいくつですか?
19名です。平均年齢は約30歳です。
デザインの力でこれまでにないサービスと製品を生み出す
ーー得意とする技術を教えてください。
印刷業は細分化されていて、特に中小企業の場合、印刷を中心に大きく分けて後工程と前工程に分かれています。後工程は製本やデリバリーなど、前工程はデザイン、レイアウト、文字校正などのコンテンツに関わります。私どもの会社は前工程屋さんで、私たちは校正に関してはこだわりをもっています。おしゃれさではなく実直に真面目に、正しい情報を正しく返そうというマインドはウチの会社の特徴だと思っており、そういう人材が集まります。一部からノートをつくるkakuに関しても、決められた納期よりも早くお客様に届けよう、という考えは誰に言われなくても、社員一人一人が持っている会社です。もし何か問題があった場合はすぐに社員間で共有し、丁寧に対応する心意気をもった会社です。
ーーいまおっしゃった部分は仕事をする上で信頼関係をつくるためにもとても大切な部分ですよね。
弊社は前工程に関わる企業ですが、少部数の印刷および製本する技術も設備も社内にあります。前工程だけでなく、すべての工程を順序よく段取りする経験も高い会社です。それをコンテンツビジネスに昇華させるのが私の仕事だと思っています。
ーー今回応募されたこともそうですが、御社の現在のものづくりにおける課題を教えてください。
弊社では「kaku」を軸に発想したオリジナル製品の開発にチャレンジしております。これらの開発製品を、商品としてさらに質の高いものにすることが現在の課題で、その部分でもデザイナーさんのお力をお貸しいただければと思っています。
ーー今回のアワードでデザインにもっとも期待することはどんなことですか?
kakuから生まれた商品開発です。現在はWEBで展開しているサービスを使って、お客様が商品を設計するため、店舗などで販売する商品がありません。エンドユーザーが直接手に取れる商品開発を期待しております。また、これまで作成したオリジナル製品をデザインの力でリカバリーしていただければ嬉しいです。
ーープロダクトデザインだけでなく、経営やビジネスモデルのデザインを含めた提案についてはどのようなことを期待しますか?
そういった意味では弊社には社外に製品のデザインに関してアドバイスをしていただいている方がいて、デザインを資産とする考え方はもともと持っている会社です。会社のあり方そのものを考えるマインドをもった方とぜひマッチングさせていただきたいと思っています。
ーーデザインが企業にとって資産となる。その部分にデザインのひとつの価値があるのではないでしょうか。
それはあると思っています。自社でそれまでブランドを持ったことのない会社がいまそれに挑もうとしているのですが、デザインする力がない人間がつくったものを、気合とガッツだけで売っていてもしょうがないですからね。デザイナーさんにはぜひ力を貸していただきたいと思っています。
ーーそれをすることがビジネスにデザインが入っていくことにつながると思うので、それはぜひ実現したいですね。そういった意味では新たな取り組みとしてB to Cをやってみたいという思いがあるのでしょうか?
そうですね。正しくはB to C to Bですかね。Cという小売に関して、しっかりとした商品を提供し続け、信頼を得ることができれば、その先にある企業に広がる機会があるのではと期待しております。これまでにも、kakuという媒体を通じて、企業さんから例えば販促物としてノートや、周年記念のノートなどを300冊オーダーいただくなどというご依頼をうけておりますので、これを引き続きチャレンジしていきたいと考えております。
ーーC向けにもB向けにも両軸で動けるような仕組みが整うといいですよね。デザイナーさんに向けてのメッセージをお願いします。
弊社の弱い部分を補ってくださるパートナーとして力を貸してください。また製品化して、それをユーザーに伝えていくところまでともに走りきってくださるデザイナーさんとご一緒できたら嬉しいです。逆にデザインだけ、発注して終わりというような1〜2年のお付き合いには興味がありません。長くお付き合いしていただける方とご一緒させていただきたいと思っています。
株式会社研恒社(千代田区) http://www.kenkousya.jp
テーマ:あらゆる仕様をユーザーが自由に選べる「ノート設計システム」
1970年に千代田区で設立、その後一貫して千代田区で印刷業を営む。一般的な印刷会社が印刷設備を持ちその稼働率を上げることに重点を置くのに対し、創業以来最小限の設備に抑え、機械に縛られない企業経営を徹底。編集スキル(企画、デザイン、校正など)が求められる頁物に重点を置きつつ商業印刷全般を手掛けてきた。50年の社歴相応に、古参(50・60代)と中堅(40代)と若手(20・30代)が1対1対2くらいのほどよいバランスで、和気あいあいと仕事に取り組む。社員の大半が紙の手触りや温もりに親しみを持っており、紙文化の伝承者としての心意気を大切にしている。
インタビューと写真:加藤孝司
2019年度東京ビジネスデザインアワード
デザイン提案募集期間 10月27日(日)まで
応募資格 国内在住のデザイナー、プロデューサー、プランナーなど
応募費用 無料
詳細は公式ウェブサイトをご覧ください