<REPORT> ソーシャルデザイン実践セミナー 2013.10.10
2013年10月10日、ソーシャルデザイン実践ガイドの出版を記念して、著者であり、またissue + designの代表者でもある、筧祐介氏によるセミナーが東京ミッドタウン・デザインハブのリエゾンセンターにて行われた。
issue + design(2008年発足)とは、地域社会にまつわる課題(= issue)に対し、その地で暮らす市民を主導に計画を立て(= design)解決へ導くプロジェクトを推進している団体であり、自らの活動をソーシャルデザインの試みとして表している。彼らには、今までにもいくつかのプロジェクトに取組み、実際に依頼地域が抱える課題を解決した実績がある。扱ってきた課題は震災、観光PR、若者の鬱病、婚活、出産・育児などと、領域に際限はない。実は、issue + design という団体になるよりも前から、筧氏はソーシャルデザインを実践してきた。活動のきっかけとなったのは、1995年に起きた阪神淡路大震災である。阪神淡路大震災では、多くの人がボランティアとして被災地に駆けつけたが、当時はボランティアという立ち位置や役割がはっきりとしておらず、ボランティアと被災者との間にトラブルが起きるなど、救援活動に支障をきたしてしまう事態が起こった。そして、2011年3月11日に再び起きた大震災。東日本大震災では、阪神淡路大震災での反省を活かし、ボランティア一人一人が持つ技術を背中に大きく記した「できますゼッケン」を考案し、救援活動を円滑に進めることに貢献した。
筧氏は、過去のソーシャルデザインプロジェクトを進めていくにつれ、実践時に必要となる段取りをロジカル化し、それをフレームワークとして落とし込んだ。それが、今回のセミナーの主題であり、書籍のメイントピックスである、ソーシャルデザインの実践ガイドだ。
ソーシャルデザインは、筧氏の言葉を借りると「森の中に道をつくる活動」となる。「道をつくる」ためには、「1森を知る2声を聞く3地図を描く4立地を選ぶ5道を構想する6道をつくる7仲間をつくる」という7つの手順が必要であり、これが筧氏の提案するフレームワークである。
セミナーの最後には、行政の現場で働く来場者がお互いに担当する地域の課題を共有し、ソーシャルデザインとしてどう落とし込むか談義していた。
成熟した社会で暮らす日本の国民は、物質的、あるいは経済的豊かさが必ずしも幸福に繋がるわけではないと気づき始めており、消費者としての欲求も、より経験や共感といった、数値として測れない抽象度の高いものに移り変わってきている。またそれは、生活者としての悩みにも同様なことが言える。
事実や客観的データに頼るのではなく、地域住民の目線から課題を見つめ、現地の声に耳を澄まし、市民主導で独自の「道をつくる」ソーシャルデザインの試み。もしかしたら、従来のような行政主導の事業計画や、統計に重きを置いたコンサルティングよりも、手間がかかるかもしれない。しかし、理論だけに頼った政策を打つだけでは、地域ごとに埋もれる小さなヒントを拾いきれない。一方でソーシャルデザインはその小さな閃きのきっかけとなる声を取りこぼさない。そして何より、地域ぐるみで課題に挑むという経験と、そこから生まれる団結力は非常に重要であり、いま実際にあらゆる地域からイノベーションを起こし始めている。ソーシャルデザインによって引き起こされる、共感やあたたかみは、現代のニーズにまさしく好適であり、今後、より一層の広がりを見せるはずだ。
(齋藤悠也)