公益財団法人日本デザイン振興会 公益財団法人日本デザイン振興会

[寄稿]インダストリアルデザインの問題意識と希望

WIDD(World Industrial Design Day)は、「国際インダストリアルデザイン団体協議会」(International Council of Societies of Industrial Design/ICSID)の設立50周年である2007年を機に毎年、設立記念日の6月29日前後に世界各国で行っている様々なICSIDイベントの総称だ。例年、WIDDとして各地でインダストリアルデザインに関わるテーマでのディスカッションやセッションなどが展開されている。


日本でも6月14日(木)にデザインハブの武蔵野美術大学デザイン・ラウンジにてイベントが開催された。毎年、日本ではWIDDに合わせて公開シンポジウムを開催しているが、今年は新理事となったエレファントデザイン(株)代表取締役会長の西山浩平氏の提案により少し趣向を変え、関係者によるワークショップを行った。
何故あえてこんな閉じたイベントにしたのか?それというのも、今回はテーマが「ICSIDどうする?」だからである。もちろん表向きのテーマは違うのだが、実際のところはこの話題である。これについては、冒頭に西山氏より説明があった。今回はその内容についてレポートするにあたり、ICSIDそのものについて知らない人もいるかと思うので、はじめに簡単に説明する。


ICSIDは1957年にイギリス・ロンドンで設立したインダストリアルデザイナーの職能団体である。奇しくも1957年はグッドデザイン賞が設立した年でもあり、ICSIDとGマークは同い年である。そもそもはフランス人デザイナーであるJacques Vienotが1953年に提案をしたところから始まり、その実活動は1959年にスウェーデン・ストックホルムで開催された国際会議が最初と言われている。以後、様々な国際会議やセミナー、イベント等を行っている。
現在、その最も大きな規模のイベントに隔年毎に行うWorld Design Capitalがあり、2012年はフィンランド・ヘルシンキで開催され、2014年には南アフリカのケープタウンで開催する予定である。なお、現在の事務局オフィスはカナダにある。

さて、そんなICSIDであるが、いったい現在どんな問題を抱えているのか? 平たく一言でいうと「ICSIDの求心力が無くなっている」という話であり、これについては前理事のGKデザイン機構の田中一雄氏および西山氏より自己紹介を兼ね説明があった。
求心力の消失は「会員数の減少」として表出しているとのことであった(特にヨーロッパ圏の会員数減少が激しく、アジア圏については微増傾向にある)。
実はこの現象はICSIDに限ったことではない。これについては日本インダストリアルデザイナー協会(JIDA)の浅香 嵩氏より説明があった。浅香氏によると、日本のデザイン職能団体においても、会員数の伸び悩みや会員の年齢バランスの非均質化は多く見られる現象であるという。

以降、自己紹介を含め、産業・学術領域の両方の視点からデザイン業界が抱える問題点・ICSIDの問題点に関するブレインストーミングが行われた。この詳細については後日正式な議事録が公開される予定のため割愛するが、話を聞きながらふと頭に浮かんだのは「果たして設立当初のICSIDメンバーはどんな心持ちでICSIDを運営していたのであろう?」という疑問である。というのも実は先日、ふとしたことから日本デザイン学会の学会誌「デザイン学研究」の創刊号を発見したので読んでみたのである。そこには当時のデザイン業界が抱えていた問題に関する記述とともに、清々しいまでに前向きな「意思」が述べられている。その一節が以下である。


デザインの「学」が成り立つか否かというような問題は未解決であるが,本学会の構成員はおそらく,そのような疑問にしりごみすることなく,むしろやむにやまれぬ知的愛に駆られて,それぞれのテーマに取り組んでいるに相違ない。そういう知的愛がなかったら本学会は生まれなかったであろうし,また成長もしなかったであろう。
学会の発足以来3ヶ年余を経過したが,まだ誇るに足る業績をあげるにいたらない。しかし解決すべき問題や研究テーマは無数にあって,研究者の意欲をはげしくかき立てゝいる。つまり本学会はまだ未開拓の原野の入口に立ったばかりだといえる。 

  



この文章を読むと、創刊時に関係者がいかにこの本を作るのを楽しんでいたかが伺える。今回のディスカッションの中にもチラッと話が出ていたが、何か物事が盛り上がって盛況になるには、関係者自身が希望を持って楽しむという事がとても重要なのではないかと思う。この文章を読みながら改めてそれに気づかされると共に自身を反省した次第である。


さて、話は元に戻り、ICSIDの場合もきっと発足時は問題点と共に何らかの希望に満ち溢れていたはずである。もしかすると、今の問題点はその当時あった希望がどこかに行ってしまったところにあるのかもしれない。ただ、発足当時にも何らかの問題意識はあったであろう点を考えれば、今回のような問題意識が「希望」に転換した時、そこにとてつもない「何か」が生まれる可能性もある。そういった意味で問題点に正面向き合った今の状況は「まだ未開拓の原野の入口に立ったばかり」なのかもしれない。


ICSIDが今後、どんな希望を見出すかが楽しみである。



執筆/蘆澤 雄亮(千葉大学大学院工学研究科・工学部助教)


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