公益財団法人日本デザイン振興会 公益財団法人日本デザイン振興会

[Report]内藤廣さんが東大での10年間を振り返る特別講義を実施

当会の評議委員であり、2007年度〜2009年度のグッドデザイン賞審査委員長を務めて頂いた内藤廣さんが、本年3月をもって東大を退官。それを記念した特別講義「若者たちへ 建築、都市、土木を横断する」が7月12日に行われました。


本来、この講義は「最終講義」として3月11日(金)に実施されるはずでした。しかし、開始44分前に東日本大震災が発生。社会基盤学科としてこのまま続行する訳にはいかない、と東大工学部1号館の大銀杏の木の下で再度の開催が約束され、解散となった経緯がありました。あれから4ヶ月、「特別講義」として実施された講義を拝聴してきました。


会場は、あの日とおなじ東大理工学部一号館、15号室。100名の定員のところ、250名以上が集まり、部屋の収容人数をオーバー。別の2部屋でモニター中継されながらの講義となりました。内藤さんからは、初めに緊急避難口の確認が(先日、松本に出張されていた際も震度5の直下型地震に遭遇された「地震を呼ぶ男」なのだそうです)。
講義は、東大に来られた当初のこと、そしてその在学中に取組まれたコロンビアのプロジェクトについて、そしてこれからについて。建築や都市工学、土木を志す後進たちへの示唆に富んだ内容でした。


内藤さんは出身大学ではない東大、そして専門ではない社会基盤学科=「土木」分野に教授として招かれました。一つの棟にありながら全く交流がなかった「建築」「都市工学」「土木」に、風穴を開ける、3つを繋ぎ合わせることが期待されてのスカウトだったと言います。
就任時に内藤さんが決めたのは以下の3つのこと。


「何になったか、ではなくて、何をしたか」東大の教授になった、のではなく、その機会を活かして何ができたか?

「多少のことは気にしない」色々言われるかもしれないが、気にしないでどんどんやる

「挑戦的に。」そして、勇気をもって実行する。



10年間の教授期間のなかで「建築」「都市工学」「土木」が一緒に取組むCOEプログラム、学内改革、キャンパス計画・要綱改正など、実にさまざまな事に取り組まれ、よい結果が導かれました。

ちなみに、学外で行ったこととして、グッドデザイン賞審査委員長の事にも触れていただきました。「教授会で『審査委員長をやります』と言ったらみんな知らなくて、“デザイン”は関係ない分野なのか、と衝撃だった」とか。


10年のなかで最も印象深かったプロジェクトとして内藤さんがあげたのが、コロンビア第2の都市であるメディジン市との交流の中で依頼された、図書館・公園を中心とする都市計画です。
市街地の70%がスラム街で、誘拐殺人が年間600件、という同市を「教育」で再生しようというセルジオ・ファハルド前市長の思いを受け、研究室一丸となって取り組んだそうです。
プロジェクトの進行や仕事の分担など日本とは全く違う環境にもかかわらず、図面も引いたことのない学生が参加する、まるで「幼稚園児のヒマラヤ登山」だったとのこと。
とはいえ、市長を始めとするパートナーと強い信頼関係が築かれ、無事に2008年3月に完成。オープンには1,000人もの市民が公園に集い、その全員から強烈な歓迎と感謝のハグを受け、東大で土木をやらなかったら体験できなかった出来事で、非常に感銘をうけたお仕事だったそうです。


このプロジェクトでも強力なリーダーシップを発揮した、91%という驚異の支持率を持つ41歳のセルジオ・ファハルド前市長は、他に120もの計画を遂行されたそうです。
彼が内藤先生に語った「プロジェクトに取組む人に重要な4つのこと」。


「Knowledge」「Passion」「Honesty」「Sensibility」
「深い知識があるか?」「情熱があるか?」「仕事に対して正直か?」「相手のことを感じ取れているか?」


今も、この言葉をご自身の様々なお仕事にあてはめ、しきりに反芻されるそうです。


講義の最後に、「贈ることば」として挙げたのはパレスチナ系アメリカ人、文学研究者・思想家の故・エドワード・サイード氏の言葉、「知性による悲観主義・意思による楽観主義」「戦略的楽観主義」です。
考え巡らす時は知性による悲観主義、そして、行動を起こす時は意思による楽観主義。
これが「今必要なことではないか」と話されました。
そして、学窓の皆への感謝の言葉として次の言葉が贈られ、講義が締めくくられました。


「魂の自然の動きは全て重力に支配されている。恩寵だけが除外されている。」(シモーヌ・ヴェイユ「重力と恩寵」より)



講義後、最後の教え子である学生からのメッセージと、一緒に映された3年間のさまざまな場面をまとめたスライドなども拝見し、まさに「皆さんが恩寵に満ちた10年間をすごされたのだなあ」と感じました。

現在は「岩手県津波防災技術専門委員」という立場で復興に関わられている内藤さん。今後の益々のご活躍をお祈りすると共に、復興が波にのり、日本中が一息つける日がくる事を願って、当会も共に働いていきたいと思います。










記事/川口真沙美(JDP)


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