Vol.7 「地域×デザイン」の最前線から見えてきた、
地域におけるデザイン活動の実態と、実践におけるポイント
2024年6月、経済産業省デザイン政策室の監修にて、日本デザイン振興会から『デザイン白書2024』(制作:三菱総合研究所 DESIGN × CREATIVE TEAM、アクシス、以下デザイン白書と表記)が発行されました。(URL: https://www.jidp.or.jp/2024/06/04/wpd2024)
デザイン白書は、「世界×デザイン」「地域×デザイン」「企業×デザイン」「行政×デザイン」「文化×デザイン」「資料」の6章で構成され、様々な角度からデザイン活用の取り組みを掲載しています。
当連載では、三菱総合研究所 DESIGN × CREATIVE TEAMのデザイン白書制作メンバーにてデザイン白書に関連する関係者に、デザイン関係者ならではのデザイン白書の印象、デザイン白書には掲載しきれなかった事例の裏話、今後のデザインへの期待などをお伺いします。
今回は、後日談Vol.1に続き、2024年度グッドデザイン賞の審査委員を務め、デザイン白書における「地域×デザイン」で掲載した事例との関係性も深く、日ごろからデザイナーやプロデューサーとしてご活躍されている原田祐馬さん、新山直広さん、山出淳也さんの3名に、地域におけるデザイン活用についてお話を伺いました。
後日談Vol.1では、「地域×デザイン」の最前線を生きる2024年グッドデザイン賞審査委員の目線から地方におけるデザイン活用の可能性を紹介しました。(URL: https://www.jidp.or.jp/2025/04/28/wpd2024-vol1 )
本編では、彼らが実際に取り組んでいる地域のデザイン活用の取り組みにフォーカスを当てて、地域におけるデザイン活用の実態や実践におけるポイントを紹介します。
― Vol.1では、地域で活躍するデザイン関係者だからこそ見えてくる関係者同士のネットワークや今後の期待について教えていただきました。一方で、地域でデザイン活用に取り組みたいと思うデザイナーやプロデューサーの難しさもあると思っています。地域でデザイン活用に取り組んでいく際のポイントなどを教えていただけますでしょうか。
山出:特に地方におけるデザインでは、デザイナーが担う役割の幅が広くなる傾向があります。リーフレットの作成やイベントの開催などの目に見える取り組みだけでなく、行政の目線に立った制度の見直しや移住促進への取り組みなど、多様な課題に対するデザインが求められるようになってきています。そうした課題に対し、地域固有の魅力や制約を踏まえた、地域に寄り添ったデザインを実現していくためにも、様々な課題に対して、デザイナーが継続的に関わっていける仕組みを作ることが重要なポイントになると考えています。
新山:私は、前職は鯖江市役所の商工政策課や広報課の職員として、眼鏡のウェブマガジンや観光パンフレットのデザインなどの制作に、行政職員のデザイナーとして携わってきました。行政では公平公正が常に要求されるのですが、公平性とより良いアウトプットを両立しながら、地域のデザイナーと協働していくことは常に難しいと感じていました。地域のデザイナーを横並びで紹介するための窓口やカタログが用意できていたとしても、デザイナーの特徴を踏まえた適切なマッチングまでできているケースは少ないと思います。一方で、広島市の事例※1など、上手に仕組みをデザインできている事例も最近は見られます。このように、デザイナーとデザインを活用する企業や行政の接点を丁寧にアレンジし、継続的な取り組みにつながるマッチングを、一つずつ行っていくことが重要でしょう。
当日の対談の様子(写真:湊亮太)
― 地域の課題に対して、適切なデザイナーが長期的な目線で関わっていけるマッチングの仕組みを作ることは大事ですね。では、デザイナーと地域が継続的に関わり成果をあげている事例について、もう少し具体的に教えていただけますか。
原田:私は、さがデザイン※2の事例を通じて佐賀県のデザインと深く関わっています。普段は大阪を拠点に活動を行っているのですが、県から外部のデザイナーとして「デザインについて語ってほしい」と依頼を受けたことがさがデザインと関わるようになったきっかけでした。それからは、県庁職員との壁打ち役など、日常的な対話の機会も少しずつ増えてくるようになり、時間をかけて予算取りなどの段階から議論に入れていただく機会も増えてきたと感じています。こうした継続的な対話を経て、2025年には「SAGA DESIGN AWARD」として地域の「コトのデザイン」に着目したアワードを実現するに至りました。※3
地域で取り組みを継続するためには、「外からデザイナーがやってきた」という見え方にならないよう、地域に溶け込むことが大切だと思います。地域の飲み屋にいけばいつもいる存在と思われるくらい、深く地域にお邪魔し、いろいろな方との会話の中から輪を広げていったことで、「SAGA DESIGN AWARD」のような、行政とともにデザインが広がる場を実現できたのだと思っています。
原田氏が企画や審査委員として関与している佐賀県主催のデザインアワード『SAGA DESIGN AWARD』
― 地域に寄り添ったデザインを実現していくためには、時間をかけて地域のステークホルダーと対話を重ね、信頼を獲得していくことが大事ですね。ところで、地域だからこそ輝くデザイン活用の事例には、どのようなものがあるのでしょうか。
山出:地場産業の振興など、地域ならではの資源に着目したデザインが脚光を浴びていると思います。越前鯖江の「RENEW」※4や燕三条の「工場の祭典」※5など、単なるデザインのイベントではなく、産地や地域だからこそできる取り組みこそが、デザイン活用を通じて地域を生活から変えていく、真価を発揮しているデザイン活用の事例ではないでしょうか。
原田:たしかにそうですね。ここ数年のグッドデザイン大賞の受賞対象に着目しても、地域の取り組みが多い印象です。
新山:RENEWは、私もプロデューサーとして関わっている工場見学のイベントですが、イベントを通じて確かに産地での意識の変化が起きたと感じています。分業制の中では露出が少ない下請け会社であった企業が、イベントを通じて自分たちで製品をつくるようになり、さらには自社の店舗を構えるケースまで増えてきました。RENEWの活動を通じて産地の人々の意識が変わっていく姿は、小さな産業革命のようだと思っています。取り組みを通じて、意識レベルから地域の生活を変えていくことができる可能性が、地域におけるデザイン活用の確かな魅力でしょう。
新山氏がプロデューサーを務める、福井の持続可能な産地づくりを目指した産業イベント『RENEW』
― 産地の意識改革など、生活者のマインドから変化を生みだせる可能性が、地域のデザイン活用ならではの魅力でありポテンシャルだと理解しました。一方で、地域で活動してきた中で、地域ならではの活動の難しさなどもあれば教えてほしいです。
山出:私はプロデューサーの立場で、大分を拠点にこれまで1,000以上のプロジェクトに関わってきました。プロジェクトの中には、著作権などのデザイナーの権利が守られなかったり、デザイナーが安く使われてしまったり、といった好ましくない状況に発展するケースもありました。このように、デザイナーを受け入れる地域の、デザイナーの権利への理解不足は根深い問題だと感じています。「一度デザインしてもらったものは好きに使っていい」と考えてしまう人も多いので、そうではないことは正しく啓蒙していく必要があると思っていますし、自身がプロデューサーとして関わる際には、権利関係について、紹介の際にはクライアント側にも丁寧に説明するなど、権利を守るための防波堤の役割を担おうとも意識しています。
新山:各県に山出さんのような存在の人がいてほしいと切実に思います。私は、地域でデザインをするにあたり、上からものを言う立場にはならずに、対等でフレンドリーな関係性を築くことを日ごろから意識しています。一方で、「いい人」になりすぎてしまうと、損をしてしまうリスクもあると感じています。クライアントとデザイナーがお互いに尊重し合える関係性を紡いでいくには時間がかかりますし、デザイナー単独で働きかける難易度は高いです。関係性の構築にあたっては、デザイナーを守ってくれる山出さんのような存在こそが、非常に心強い味方になると実感しています。
山出氏が事業プロデュース、ブランドディレクターを担った、大分県内事業者の持続的な主力商品を創出する『Gifts from OITA』
― 地域におけるデザイン活用の魅力から難しさまで、様々なポイントについてよくわかりました。最後に、地域におけるデザイン活用をさらに加速させていくために、重要となりそうな視点についてご意見をいただけますか。
原田:私は、各県内のクリエイティブの制作をどれだけ地域のデザイナーやクリエイターが関わっているかを示す指標として、最近、「クリエイティブ自給率」という概念があっても良いのではないかと考えています。地域のデザイナーが、自身の住む地域の様々な場面でデザイナーとして活躍し、地域にいてもデザイナーとして生計を立てられる状況を作っていくことが、その地域に対しても更なる愛着を持てようになるはずです。そうした状況を作っていくために、例えば行政の視点では、「クリエイティブ自給率」のような定量的な指標があれば、目標が明確になり、デザイナーそれぞれの活躍の幅も広がっていくのではないかと期待しています。
新山:デザイン白書の最後には、デザイン事業所の都道府県別の所在数など、デザインにまつわる様々な統計が整理された「資料パート」も掲載されています。そこでは、事業所の約半数が東京と大阪に集中している一方で、私のいる福井県の事業所は58件しかないことが示されていました。この状況は、ポジティブにも捉えられると、私は思っています。都市部では、デザイナーも細かく分業化され、仕様が単純化された、単発のデザインが求められることも多いです。一方、地域では、一人のデザイナーが、上流から下流まで、多様な場面でデザインを支援できるチャンスが多いと思います。地域ならではのチャンスを活かして、様々なデザインに挑戦するデザイナーが増えていってほしいと思っています。
山出:積極的なデザイン活用をする地域が少しずつ増えてきてはいるものの、多くの地域ではデザインが膠着(こうちゃく)化しているように感じています。仕様が固定化し、同じ人への仕事の依頼や、同じようなデザインの量産から抜け出せない地域も多い印象です。だからこそ、既に活躍しているデザイナーたちは、これまでにないデザインを地域に投げかけ続け、地域のデザインへの寛容度を高めていくことが重要だと思います。「こんなことをしてもいいんだ」「この地域ではこんなデザインも許されるんだ」という気付きを若手のデザイナーに与えられるように挑戦を続け、自然と新しいことが生まれ続ける地域の風土を培っていくことが、持続的に地域のデザイン活動を発展させていくために重要なポイントとなるでしょう。
― デザイナーとして地域で活動することの魅力や、地域だからこそ挑戦できる幅広いデザインとの関わり方についてよくわかりました。 貴重なお話をどうもありがとうございました!
上段左:山出淳也さん、上段中:原田祐馬さん、上段右:新山直広さん、下段:三菱総合研究所 DESIGN × CREATIVE TEAM 渡邊絢音、町田匠人、田丸文菜
取材・執筆:三菱総合研究所 DESIGN × CREATIVE TEAM 町田匠人
※1 企業が地域デザイナーと協業しやすい環境を整備するためのマッチング事業「と、つくる」や、広島広域都市圏で生まれた優れたデザインの商品等を表彰しデザイン振興やデザインの理解醸成を目指す「ひろしまグッドデザイン賞」などの取り組みを広島市が展開。詳細はデザイン白書p.128を参照。
※2 クリエイターと県庁各課をつなぐハブの役割を担い、事業構想の段階からデザインの視点を加えることで、創造性のある事業や施策の創出を目指していくための佐賀県庁の組織。詳細はデザイン白書p.142を参照。
※3 佐賀から始まる、佐賀を心地よくする「デザイン」を発見し、讃え、県民に広く知ってもらうための、佐賀県主催のデザインアワード。 詳細はSAGA DESIGN AWARDのHP( https://saga-design-award.jp/ )を参照。
※4 福井の持続可能な産地づくりを目指し、2015年に始まった産業イベント。ものづくりから「まちづくり」「ひとづくり」へとつなげ、産地の未来に向けた好循環を生み出すことを目的に毎年開催している。詳細はデザイン白書p.310を参照。
※5 燕三条エリアを舞台に、産地の金属加工、鍛冶、木工、印刷、農業をはじめとするものづくりの現場を見学・体験できるオープンファクトリーイベント。詳細はデザイン白書p.304を参照






