公益財団法人日本デザイン振興会 公益財団法人日本デザイン振興会

Vol.1 「地域×デザイン」の最前線を生きる

グッドデザイン賞審査委員から見た、

デザイン白書の意義や魅力

2024年6月、経済産業省デザイン政策室の監修にて、日本デザイン振興会から『デザイン白書2024』(制作:三菱総合研究所 DESIGN × CREATIVE TEAM、アクシス、以下デザイン白書と表記)が発行されました。(URL: https://www.jidp.or.jp/2024/06/04/wpd2024
デザイン白書は、「世界×デザイン」「地域×デザイン」「企業×デザイン」「行政×デザイン」「文化×デザイン」「資料」の6章で構成され、様々な角度からデザイン活用の取り組みを掲載しています。
当連載では、三菱総合研究所 DESIGN × CREATIVE TEAMのデザイン白書制作メンバーにてデザイン白書に関連する関係者に、デザイン関係者ならではのデザイン白書の印象、デザイン白書には掲載しきれなかった事例の裏話、今後のデザインへの期待などをお伺いします。

2024年度グッドデザイン賞の審査委員を務め、デザイン白書における「地域×デザイン」で掲載した事例との関係性も深い、以下の3名のデザイン関係者にお話を伺いました。
「地域×デザイン」では、日本全国および47都道府県のデザインの動向について、地域のデザインに深く関わっているデザイン関係のご有識者に執筆や取材を依頼し、各有識者がデザインジャーナリストの視点からデザイン活用の事例や課題をまとめています。
今回は、デザイン白書掲載事例にも深くかかわっている、デザイナーの原田祐馬さん(関連事例:佐賀県 さがデザイン、デザイン白書p.142)、新山直広さん(関連事例:福井県 RENEW、同p.96 等)、プロデューサーの山出淳也さん(関連事例:大分県 CREATIVE PLATFORM OITA、同p.148)のお三方へのインタビューを通じて、デザイン白書の意義や魅力、地方におけるデザイン活用の可能性について考えます。

― 早速ですが、今年の6月に本邦初の白書として『デザイン白書2024』(以下デザイン白書)が発刊されました。今回の本邦初となるデザイン白書の発行について、その意義など感じられたことを教えていただけますでしょうか。

『デザイン白書2024』表紙

新山:デザイン白書が日本デザイン振興会や経産省も関与する形で発刊された、というムーブメントそのものに価値があると考えています。また、10年前にデザイン白書が発行されていたら、と想像すると、「地域×デザイン」というパート自体が存在しなかったのではないかとも感じます。

山出:そうですね。私も、時代ごとに「デザイン」という言葉の定義や作品は異なっているという印象を持っています。様々な要因によって、その時代が求めるデザインの在り方が違うのは当然だし、これからも変化していくでしょう。つまり、2024年、この時代に発行された白書という目線で、それぞれの事例を捉えることが重要です。そして、デザイン白書を2024年単発の取り組みとせず、継続的に発刊を行い、その経過を観察していくこともデザイン業界にとっては大切なことでしょう。

― そうですね、私たちもデザイン白書を継続的に発行し、「デザイン」の変化や多様な取組、その有効性などを定点観測できないかと考えています。次に、実際にデザインに関係するお立場として、デザイン白書を読んで感じた感想を教えていただけますか。

原田:私は普段、大阪に拠点を置いて生活しているのですが、記事を読んでみても知らない取り組みがたくさんありました。限られた文字数で掲載できる事例には限りがあるので、地域のデザインのすべてを白書に載せることが難しいこともよくわかります。一方、「白書」という名前で発行されている以上、ここに掲載されている事例は、その件のデザイン動向を物語る代表事例という印象を与える可能性もあるとは思います。ここに掲載されている事例以外にも、各地域の中には多様な取り組みがあることは知ってほしいと思いますし、デザイン白書内外で、そうした情報発信の機会が増えていってほしいとも考えています。

― 今回のデザイン白書では、「地域×デザイン」パートについて、各県から執筆者を選定して、執筆者自身が地域のデザインを語るデザインジャーナリストの視点で記事を書く、という形で原稿の執筆を依頼しました。したがって、地域のデザイン動向を特定の個人の視点から記述している点も、「地域×デザイン」パートの特徴といえるかもしれません。

原田:個人の視点から地域のデザイン動向を描く場合、執筆者やその方の所属する組織によって、リーチできる情報にも偏りが生まれてしまいそうですね。例えば行政組織が執筆者になる場合だと、その組織と直接のネットワークが薄い事例は、なかなか取り上げられにくくなってしまう側面もあると思います。そうした事例をどのように拾っていくかが、今後、白書を発展していく上でのポイントになるかもしれないですね。

山出:原田さんの言うように、誰に話を聞くかで取り上げる事例は三者三様だと思います。フラットに地域のハブになる存在を見つけていくことは難しそうですね。

新山:デザイン支援の役割が機能している大きなデザインセンターなど、確かに一部の行政機関であれば、そこが地域のデザインのハブの役割を担えているかもしれません。一方で、個人のデザイナーや自治体職員などがハブの役割を担っているケースも多いと思います。必ずしも、公設試等の行政機関がネットワークを形作る必要はないと思うので、今後も多様な視点から地域のデザイン動向を掴んでいけると良いですね。

「地域×デザイン」パートについて語る原田氏

「地域×デザイン」パートについて語る原田氏

― デザイン白書の制作にあたり、情報収集においては三菱総合研究所 DESIGN × CREATIVE TEAMも地域の有識者の方と並行して各地のデザイン動向を調査し、情報共有を行いながら記事執筆を行っていました。今後は、各地域の多様なデザイン関係者を更に巻き込んで、コミュニティを形成しながら情報収集ができるようになると素晴らしいですね。 ところで、地方では、東京などの都市部と比較してデザイナーの数が少ないという話題を耳にすることも多い印象です。デザイナーなどのデザイン関係者が少ない中で、地方部では、どのようにしてデザイン関係者間のネットワークが形成されているのでしょうか。

山出:地域の課題を地域内のデザイン関係者のみで解決するのではなく、必要に応じて適切な方をマッチングして成果が出た事例はたくさんあります。CREATIVE PLATFORM OITAの『クリエイティブ相談室』※の取り組みの中で、原田さんと大分県内の企業をマッチングしたことを思い出しました。また、新山さんにインタビューし、CREATIVE PLATFORM OITAにて紹介したこともありました。地域内外の複数のデザイン関係者がコラボして課題と向き合うことも少なくありません。このように、地域の垣根を超えて関係者同士がつながる活動がごくごく当たり前に起こっている印象です。
(※『クリエイティブ相談室』とは、大分県内の企業とクリエイティブ人材を繋ぐプラットフォーム。2021年3月まではCREATIVE PLATFORM OITA内の取り組みとして実施)

原田:そうですね。ネットワークを強固にしていくためには、デザイナー同士が、いかに有機的に連携できるかが重要でしょう。そこで暮らすデザイナー、訪れるデザイナーたちが仕事に限らず、様々な場面で互いに相談し合える環境を作っていくことで、デザイン産業は底上げされていくと思います。

新山:私は、地域のデザイナーと出会うと、親友と再会したような特別な感情を抱くことがあります。普段の生活では、周囲にお手本として参考になるデザイナーがそこまで多くはない環境に身を置いていることも事実です。そうした中で、別の地域で活躍するデザイナーと出会うと、強い共感を抱きますし、ディスカッションも弾みます。拠点が違えば、メインの仕事で競合することが少ない点も、相談などを気兼ねなくできる関係性の背景にはあるのかもしれません。前のめりにネットワークを作ろうとしなくても、友達感覚でデザイナー同士の距離感が近づいていくように思います。

地域のデザイナーについて語る新山氏

原田:確かに、友人のような関係ですね。仲の良い、気の合うデザイナーが見つかると、そこを起点にネットワークは自然と広がり、仕事にもつながってくる、というサイクルが自然に起きていると感じます。情報交換や価値観の共有を行い、お互いのアップデートに貢献するということを、地域のデザイナーたちは無意識というよりも自然に、また積極的にやっているのでしょう。

山出:あえて繋がろうとしなくても、繋がる人同士は出会っていくのですかね。何か新しいことを仕掛けなくても、すでに、良いネットワークの土壌はできていると感じます。今回のグッドデザイン賞の審査を通じても、デザイナーのつながりが強まっていることを十分感じることができました。

デザイナーのつながりについて語る山出氏

― 今回の白書では、都道府県ごとにデザインの動向をとりまとめていきましたが、実態は各地域のデザイナー同士が有機的につながって、情報交換を行いながら各地域のデザインの発展に寄与していることがよくわかりました。デザイン白書も、多様なデザイン関係者がつながるためのメディアとして、皆さまと一緒に発展していけると良いと思います。最後に、デザイン白書について、今後期待されていることはありますか?

原田:産業だけに直結しない場面での、デザイナーの活躍の場づくりに繋がればいいと考えています。オランダなどでは、国や行政の補助金を活用して、デザイナーが自らの興味・関心を研究する動きもあります。デザインジャーナリストの育成という意味でも、そうした研究の動きがもっと普及し、その発信の場にデザイン白書が位置付けられると良いのではないでしょうか。

新山:確かに、デザイン白書の文献的価値は非常に高いと思いますし、そうした動きがあるとよいですね。そうした意味でも、デザイン白書は紙媒体でも発行をしてほしいです。過去のデザイン関連の統計を集約的に整理した統計パートの内容も含め、日常的に手に取って参考にしたい情報が多く記載されておりますので、是非手に取れる場所に保管しておきたいです。

山出:紙での発行は是非してほしいですね。また、紙での発行ができた場合には、全国の自治体に配布してみるのも良いのではないしょうか。多くの人の手に届くところにデザイン白書を配布することで、デザイン白書の認知度向上だけでなく、自らデザイン白書に情報提供をしたいと考える人も増えてくるのではないかと思います。デザイン白書の発信を通じた、更なるデザインネットワークの広がりに期待したいです。

左から山出氏、原田氏、新山氏


取材・執筆:三菱総合研究所 DESIGN × CREATIVE TEAM 町田匠人
写真:湊亮太

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