Vol.6 「地域×デザイン」
公設試から見る地域のデザイン活用(後編)
2024年6月、経済産業省デザイン政策室の監修にて、日本デザイン振興会から『デザイン白書2024』(制作:三菱総合研究所 DESIGN × CREATIVE TEAM、アクシス、以下デザイン白書と表記)が発行されました。(URL: https://www.jidp.or.jp/2024/06/04/wpd2024)
デザイン白書は、「世界×デザイン」「地域×デザイン」「企業×デザイン」「行政×デザイン」「文化×デザイン」「資料」の6章で構成され、様々な角度からデザイン活用の取り組みを掲載しています。
当連載では、三菱総合研究所 DESIGN × CREATIVE TEAMのデザイン白書制作メンバーにてデザイン白書に関連する関係者に、デザイン関係者ならではのデザイン白書の印象、デザイン白書には掲載しきれなかった事例の裏話、今後の展望などをお伺いします。
― 前編(https://www.jidp.or.jp/2025/06/23/wpd2024-vol5)に続き、デザイン白書の「地域×デザイン」パートにご協力いただいた、都道府県などが設置する地域の産業振興や技術開発の支援を行う公設試験研究機関(公設試) 富山県総合デザインセンター※1 堂本拓哉さん、𠮷田絵美さん(富山県、p.92-93)、山形県工業技術センター※2 月本久美子さん、大場智博さん、木川喜裕さん(山形県、p.72-73)から、公設試のデザイン活用支援についてデザイン白書で語り尽くせなかったお話を伺います。
― 前編では、各県の企業や県民の「デザインがどういうものか」という認識やデザインの意義に対する理解についてお話を伺いました。後編ではデザイン人材活用の取り組みと、公設試の事業推進の工夫や役割について、何点かお話を伺いたいと思います。
― 早速ですが、デザイン人材活用に関する取り組みとして、山形県工業技術センターは「やまがたデザ縁」を行っていらっしゃいますよね。
大場:はい。「やまがたデザ縁※3」は、デザイナーと企業が良い関係で繋がることを目指している事業なのですが、実はこれは、私が以前研修で、富山県総合デザインセンターで1か月半ほどお世話になったときに、「富山県は、なんて上手にデザイン関係者を巻き込むんだろう」と感銘を受けたことが、企画のきっかけのひとつにもなっているんです。
富山県総合デザインセンター(左)、展示室(右)
木川:「やまがたデザ縁」は、企業がどうやってデザイナーを見つけたら良いか分からない、仮にデザイナーと繋がったとしても対等な関係が築きにくいという課題を受けてスタートした取り組みです。双方が互いの価値観や考えを丁寧に理解し合うことで、信頼関係を育み、より良い協働環境をつくることを目指しています。その結果、多くの新たな連携が生まれ、地域の産業やデザイン文化の活性化につながっているのが特長です。
やまがたデザ縁(デザイナーによる仕事紹介プレゼン、交流会)
堂本:富山県では、デザイナーとのマッチングで良い成果を得られた企業が、他の企業に対してデザイナーと協働することのメリットを伝える機会が不足しており、なかなかスムーズに広がっていかないところに課題があります。他社に感銘を与えたり、伝播するような成功事例を増やし、単発的な成果に留まらず、連鎖的で広範囲に影響を及ぼすアウトカムにしていきたいと志向しています。そのためにどんなアクションを取ればいいのか、という問いに対し考え続けていますが、なかなか答えは出ないですね。
― 企業を直接支援するだけでなく、うまくいった事例が連鎖し広がっていくような仕掛けが大切なのですね。
𠮷田:企業の成功事例の連鎖という点では、人材活用だけでなく産学連携においても同じことが言えます。大学から大学へは比較的連鎖しやすいと感じますが、企業から企業へはなかなか連鎖しないのですよね。
大場:連鎖を促すにはアルムナイのようなコミュニティが重要ではないか、とKESIKIの石川氏が仰っていました。その通りだなと思って、当センターでもそういった取り組みをやってみようかと画策しています。
月本:やまがた&Dプロジェクト※4で、勉強会への参加後に事業化を成功させた企業は、プロジェクト終了後2年ほどかかっており、勉強会後にも独自に動き続けていました。アルムナイがあれば、こういった継続的な動きが見られることで刺激になり、他の企業の継続的な取り組みにもつながるのではないかと思いますね。
やまがた&Dプロジェクト
堂本:アルムナイも良いと思いますし、センターが主催するセミナーで、終了後にそのまま解散せず、必ず交流会を行うようなことができたら良いのかなと思います。セミナーには同じ関心を持って聞きに来ている人たちが集まるわけですから、1つのコミュニティとしてデザインセンターが拾えるといいのではないでしょうか。
― ここまでお話を伺った中でも、企業のデザイン活用支援やセミナー開催、デザイン人材のマッチング、高校生向けインターンなど様々デザインに関わる支援を行われている両センターですが、事業を推進する上で、自組織の体制について感じられていることや工夫されていることはありますか。
堂本:行政では職員同士の情報共有がよく課題になります。私たちもなるべくセンターの中で情報共有できることが重要と考えています。
月本:そうですね。私たちデザイン科*の場合は、数年前に木川がTCL(多摩美術大学クリエイティブリーダーシップ)に参加した経験を踏まえて、学びを振り返る機会を隔週程度で設けています。その中で個人パーパスを共有し、さらにデザイン科*のパーパス“デザインを開き、やまがたを拓く”も設定しました。このパーパスは、2024年の山形エクセレントデザイン展※5,6のサブタイトル「山形をひらく、みんなのデザイン」にも繋がっていて、科内で同じ認識を持てているなと感じています。
山形工業技術センター 科内での検討の様子
大場:デザイン科*のメンバーは少数なので日々の会話や情報交換は結構できているのですが、パーパス検討の機会を設けたことで初めて、各々の考える「個人パーパス」を知りました。各々の個人パーパスを共有して言語化したことで、一人一人の価値観を知ることができた気がして良かったです。
堂本:最近、事業を本当に良くするには、事業の内容だけでなく、私たちの体制や運営方法に対する反省も必要と感じるのですよね。もっとセンター内で連携したり外部の視点を取り入れたりしていたら、新たな可能性が見えてきたのかもしれないなと思うことがあります。ただ、締め切りに追われて仕事をしている部分もありますし、期間内に事業を通してこれを達成しなければというプレッシャーもあり、難しいところですね。
月本:同感です。
堂本:デザインセンターの強みとしては、職員の異動が少ないため、専門的な知見や信頼関係を蓄積しやすい点が挙げられますが、これが逆に新鮮な視点の欠如を招くこともあると思います。今後は、組織内の連携と共に、自分たちの運営方法を振り返り、新たな改善策を見つけることが必要だと強く感じています。
𠮷田:体制や運営方法の見直しには、既に取り組んでいる部分もあります。一昨年、県民がオーディエンスとなって、県の事業や行政サービスの効果や効率を評価・改善する「官民協働事業レビュー」※7,8を産学官連携の取組として導入されました。官民協働事業レビューは、富山県の事業を、県内企業の社長や大学生を含む県民が委員となってレビューし、実施機関とディスカッションするものです。レビューでは、事業に対する厳しい意見も挙がりますが、このレビューを行うことで、県民の行政への理解が進むと感じます。
堂本:厳しい指摘を受けることもありますが、改善すれば事業を継続することができます。レビューを行うことで、我々も意地になって事業をブラッシュアップし、アップデートした面がありました。事業を表に出して、矢面に立って説明する努力も重要だと感じましたね。もしかすると、課題解決の火種は組織の内側にもあるのかもしれないです。
富山県総合デザインセンター デザイン工房(左)、バーチャルスタジオ(右)
― 最後に、公設試という立場からデザイン支援を行うにあたって、ポイントとなるのはどのような点か、お聞かせいただきたいと思います。
堂本:公設試は、組織として信頼があり、ニュートラルな立場だという見られ方をする点が恵まれているなと思います。ただ、公設試にできる仕事のボリュームは限られています。ですから、その後どう広がっていきそうか、どこを攻めたら一番広がるのかという点まで考察して仕掛けることが必要です。
月本:私たちも日々、広げるためにどうすべきかを考えていますね。例えば、当センターの隣にあるINPIT(知財総合窓口)でもデザイン経営のワークショップなどを行っているのですが、そういった外部の組織と協働して支援していくことも重要となってくると感じています。
堂本:広がりという点では、学生向けのインターンシップを行った際に高校の先生とお話ししたことで、高校でデザインを教える先生たちが最新の情報やツールをもっと勉強したいという新たなニーズを見出せました。今後は、高校の先生も巻き込んだ課題授業なども、我々公設試ができることではないかと感じています。そのために、例えば県の教育委員会に向けたデザイン活用支援などができればいいなと考えています。
大場:当センターは県庁のリスキリングセミナーで県や市町村の職員にデザイン思考のセミナーを行ったのですが、そのセミナー参加者が関心を持ってくれて、連絡してくださったことがありました。取り組みを広げていくことでニーズに応えられると思いました。
月本:デザイン活用を広げていくには、業界内外を問わず、デザインの考え方を理解してくれる人を増やしていくことがとても重要だと思うのですよね。「工業技術センターのやるべき仕事ではないのでは?」という考えもあるかもしれませんが、デザインの考え方を理解してくれる人を増やすべく、今、領域を広げる取り組みも行っています。
堂本:富山県庁内では近年兼業に力を入れていて、少額ながら県の費用で、1つのテーマを設定して部署連携で提案ができる枠があります。そこで色んな部署の関心ある人と連携して、まずは庁内に向け、デザインとは何なのかといぶかしげに見ている人にデザインの意義を伝え、デザインの領域を取り払う訴求をするような取り組みができたらと面白いなと考えています。デザインは狭く限られたものではなく、いろいろなところに使える要素が無限にあって、何とでも繋がることもできるものなんですよ、と。
大場:公設試の大きな特徴は「いわゆる“デザイナー”ではない」ことだと私は思います。デザインができる人とデザインが分からないという人の間に立ち、伝える、繋ぐことが、公設試に課された役割なのではないでしょうか。昨年度までデザインを伝えるための研究を行っていて、今年3月に「デザイン的発想力 次の一手を引き出すみんなのデザイン」という冊子※9を発行しました。デザインを分かりやすく解説すると共に、日々の業務や課題に創造的に取り組むための新しいアプローチを提案しています。反響が大きくて、県内の関心の高さに驚いているところです。
冊子「デザイン的発想力 次の一手を引き出すみんなのデザイン」
― 公設試が持つニュートラルな立場を活かしつつも、限られたリソースでどのように最大効果まで広げていくかが鍵となるのですね。そして、デザイナーではない公設試だからこそ担える橋渡し役として、多様な視点を持つ人々を繋ぎ、デザインの考え方を広めていくことが、デザインの価値を広げるために必要なのだと認識しました。
本日はありがとうございました。
*デザイン科は2025年4月より、「企業支援部デジタル・デザイン活用支援室」に組織改編
富山県総合デザインセンター (左から)堂本氏、𠮷田氏
山形県工業技術センター (左から)大場氏、月本氏、木川氏
取材・執筆:三菱総合研究所 DESIGN × CREATIVE TEAM 渡邊絢音
※1 富山県総合デザインセンター https://toyamadesign.jp/
※2 山形県工業技術センター https://yrit.jp/
※3 やまがたデザ縁 https://www.yamagatanodesign.jp/designer/
※4 やまがた&Dプロジェクト https://www.yamagatanodesign.jp/andd/
※5 山形エクセレントデザイン展2024 https://www.yamagatanodesign.jp/report/good-design/3705/
※6 山形エクセレントデザイン https://www.yamagatanodesign.jp/yed/
※7 富山県 官民協働事業レビュー https://www.pref.toyama.jp/kensei/kenseisanka/kenseisanka/kanminkyodo/index.html
※8 富山県 令和5年度官民協働事業レビュー https://www.pref.toyama.jp/110411/kensei/kenseisanka/kenseisanka/kanminkyodo/review2023-02.html(8月26日(土曜日)実施分「クリエイティブ人材リカレント教育事業」参照)
※9 デザイン的発想力 次の一手を引き出すみんなのデザイン https://www.yamagatanodesign.jp/report/conjugation/4420/






