Vol.5 「地域×デザイン」
公設試から見る地域のデザイン活用(前編)
2024年6月、経済産業省デザイン政策室の監修にて、日本デザイン振興会から『デザイン白書2024』(制作:三菱総合研究所 DESIGN × CREATIVE TEAM、アクシス、以下デザイン白書と表記)が発行されました。(URL: https://www.jidp.or.jp/2024/06/04/wpd2024)
デザイン白書は、「世界×デザイン」「地域×デザイン」「企業×デザイン」「行政×デザイン」「文化×デザイン」「資料」の6章で構成され、様々な角度からデザイン活用の取り組みを掲載しています。
当連載では、三菱総合研究所 DESIGN × CREATIVE TEAMのデザイン白書制作メンバーにてデザイン白書に関連する関係者に、デザイン関係者ならではのデザイン白書の印象、デザイン白書には掲載しきれなかった事例の裏話、今後の展望などをお伺いします。
― 今回は、デザイン白書の「地域×デザイン」パートにご協力いただいた、都道府県などが設置する地域の産業振興や技術開発の支援を行う公設試験研究機関(公設試) 富山県総合デザインセンター 堂本拓哉さん、𠮷田絵美さん(富山県、p.92-93)、山形県工業技術センター 月本久美子さん、大場智博さん、木川喜裕さん(山形県、p.72-73)から、公設試のデザイン活用支援についてデザイン白書で語り尽くせなかったお話を伺います。
― 早速ですが、完成したデザイン白書をご覧になっていかがでしたか。
堂本:47都道府県1つ1つの地域動向を一覧して見られるのが新鮮でした。
月本:「地域×デザイン」のパートでは、全国各地の取り組みがビジュアルとともに掲載されていて、様々な取り組みを知ることができて興味深かったです。大学の研究など、改めて知る情報もあり、勉強になりました。
― ありがとうございます。具体的に気になった事例やメッセージがあればお伺いしたいです。
大場:私は特に、日本デザイン振興会の秋元氏による記事の“デザインされる側だった人々が、デザインの可能性を咀嚼”という表現にハッとしました。いわゆるデザイナーではない、これまではデザインを使う側だった人たちが新しいデザインの可能性を広げていると私も感じていましたので。
月本:そうですね。山形エクセレントデザイン※1への応募動向を見ても、確かにそのように、デザインされる側、使う側だった人が、社会の課題に向き合って解決を目指すような動きは広がってきているなぁと感じながら読んでいました。
堂本:それに、秋元氏の記事で取り上げられていたOriHime※2やUNI-ONE※3は、個人的にも素晴らしい事例だと思っていたので、こうして白書に掲載されて多くの方に知っていただけることは良かったですね。
月本:デザイン白書を通して多様なデザインの取り組みを多くの方に知ってもらえる点はもちろん、デザイン白書の制作に多くの方が関わっていることも素晴らしいなと思います。デザインに携わる者として、全国各地で奮闘されている方がこんなにたくさんいる、ということが見えて、とても心強く感じました。
― そのように感じていただき、大変嬉しいです。
さて、皆さんには「地域×デザイン」パートの富山県、山形県の原稿を執筆いただきました。人々のデザインの認識・デザインへの理解といった点が共通の課題のように感じましたが、山形県工業技術センターでは、具体的にこれらの課題に対する事業が行われていますね。
大場:はい。「デザインの認識を広げる」という点では、企業のパーパスを探り、デザイン経営に繋げる「やまがた&Dプロジェクト」※4を行っています。
10年ほど前から、デザイン思考普及のために企業への伴走支援事業を行っていたのですが、デザイン思考(プロセス)を繰り返す中で目的を見失い、フェードアウトしてしまう企業が多くいました。その迷子になる原因を、パーパス(目的)が明確にできていないからだと考え、新たに始めたのがこのプロジェクトです。
月本:山形県では、企業の「下請けからの脱却」を目的として色々な施策を行ってきたのですが、「そもそも、なぜ自分たちはこの事業をしているのか、何を大事にしていきたいのか」という問いにはしっかり向き合えておらず、このプロジェクトで初めてそこに踏み込むことができました。パーパスを起点に企業経営におけるデザインの活用を具体的に考えることで、デザインが真に経営に活用できるという認識を企業の皆さんに持っていただけたのではないかと思います。
山形県工業技術センター やまがた&Dプロジェクト
― なるほど。「下請けからの脱却」の真の目的に向き合ったことで、デザイン思考のポテンシャルが発揮されたのですね。
一方で、富山県総合デザインセンターは、企業だけでなく一般県民の理解に言及されていた点が印象的でした。
堂本:以前、KESIKIの石川氏が、富山県内の企業が抱えるES向上の課題について、「上手くいっている会社では、会社の出来事のすべてに自分のポジションがある(自分事化ができている)」と仰っていたのですが、デザインセンターは、それでいう“自分事化できている企業”をはじめ、感度のいい人に対して訴求するだけでなく、一般の人の目線や感性を引き上げることにも焦点を当てることが大切だと思ったんです。デザイン白書には、そのような様々な感度、目線の方を繋いでいくという意味で「さまざまな領域に存在する素材(人、技術、環境など)を「つなぐ」役割がデザインセンターには求められる」と書きました。
月本:自分事化できるかは重要ですよね。「やまがた&Dプロジェクト」の勉強会では、経営者やリーダークラスの方と、担当者クラスの方の2名に参加してもらうのですが、担当者クラスの方に、いきなり会社のパーパスを深めるワークをしてもなかなかうまくいかないんですよね。まずは個人のパーパスを考えてもらうことで、会社が大事にしていることとの繋がりを感じたり、そもそも「こういうことを考えてもいいんだ」と気づいてもらうきっかけを作るようにしています。
― 企業の支援だけでなく、一般の個人に気づいていただく、ということも公設試の重要な役割なのですね。
堂本:そうですね。富山県ではさまざまな事業を「Well-being」の概念に関連付けて取り組んでいますが、デザインセンターの立場での商工支援の枠の中で仕事を考えると、個人の幸福感を具現化する事業の立案は難しく、Well-beingという目線を持ちづらいと感じています。ただデザインは、支援する企業の先にある社会や県民のWell-beingにも目を向けていかないと、当事者の感覚を超えた「一般の個人」の目線は持つことができないのではないかと思い、意識しています。
月本:私たちの支援においても同じようなことが言えそうです。マーケットやユーザーを想定して支援をしていますが、やはりその先の社会へも目線を配って取り組んでいく必要があるなぁと思います。
堂本:富山県総合デザインセンターではアップサイクルをテーマにした取り組み※5を行っていて、製品を作る企業側の視点では、「なぜそれをする必要があるのか」という「意義」に価値があるという考え方が浸透してきたと思います。さらに、製品を受け取った消費者が、その意義を理解するための十分な教育を受けられているかも重要と気付きました。
富山県総合デザインセンター アップサイクルをテーマにした取り組み
大場:そういった点では、山形エクセレントデザインは、「消費者の理解」に対する機能があるかもしれません。受賞理由という「意味」の部分もデザイン展で示したり、取材してまとめた冊子を配布したりするなど、県民の皆さまにもデザインの意味をわかりやすく伝えることを心掛けています。
月本:山形エクセレントデザインの受賞企業は、明確な目的意識をもち、受賞したその事業を実施するために立ち上げられたという企業も多いです。たとえば、2023年に受賞した、福祉事業所や学童の運営団体など様々なステークホルダーが集まって立ち上がった特別目的会社株式会社夢の公園の「シェルターインクルーシブプレイス コパル」※6は、すべての子供たちにとって居心地の良い場所をつくるため、事業者と行政が連携し、地域の方も巻き込んでそれを実現したというところが受賞背景になっています。
山形県工業技術センター 山形エクセレントデザイン展 キッズワークショップ
山形県工業技術センター 山形エクセレントデザイン展 展示の様子
― 「県民」には子供や学生も含まれると思いますが、教育や学びの場の提供といった点で、何か取り組まれていることはありますか。
月本:10年ほど前になりますが近隣の中学生300名ほどが、授業で山形エクセレントデザインの展示へ足を運んでくれたことがありました。たくさんの子供の目にデザインが触れるこういった機会を、今後増やしていけると良いなと思っています。
堂本:それは素晴らしいですね。 私たちは、毎年インターンシップを開催していて、3-4名の高校生が参加しています。今年はデザインセンターの仕事(小学生向けのワークショップ)を提案する課題を設けました。高校生がインターンシップで提案したワークショップの企画は、デザインセンター内での調整を経て実際に小学生向けワークショップで扱ったのですが、小学生の理解力や技量に合った、1時間以内に完成できる工作が企画されていて、プログラムを立案する実践的なインターンシップができたことがわかり、やりがいを感じました。
𠮷田:2016年からは大学と連携した事業※7も進めています。デザインセンターが複数の企業を取りまとめて、合同で開催するインターンシップ事業なのですが、学生が企業のものづくりの現場に近づけるということで、回を重ねるごとに魅力が口コミで広がって応募者が増えています。ただ、インターンシップへの協力企業がまだ少なく、企業側の受け入れ体制の強化が今後の課題です。
富山県総合デザインセンター 高校生向けインターンシップ
― ありがとうございます。皆さんが公設試の立場から、企業、従業員、消費者である県民の皆さま、そしてこれからデザインを担う学生に対して、デザインの理解を深めてもらうことを重要な役割だと考え、様々な角度から取り組みをされていることがよく分かりました。
取材・執筆:三菱総合研究所 DESIGN × CREATIVE TEAM 渡邊絢音
※1 山形エクセレントデザイン https://www.yamagatanodesign.jp/yed
※2 2021年グッドデザイン大賞を受賞したOriHime https://www.g-mark.org/gallery/winners/9e60a2ab-803d-11ed-af7e-0242ac130002
※3 2022年グッドデザイン金賞を受賞したUNI-ONE https://www.g-mark.org/gallery/winners/7711
※4 やまがた&Dプロジェクト https://www.yamagatanodesign.jp/report/conjugation/3347/
※5 富山県と富山県新世紀産業機構が取り組むアップサイクルプロジェクト「BACCAing / ばっかいんぐ」 https://www.instagram.com/baccaing_toyama/
※6 山形エクセレントデザイン2023にてエクセレントデザイン大賞を受賞した「シェルターインクルーシブプレイス コパル」(山形市南部児童遊戯施設) https://copal-kids.jp/
※7 とやまデザイントライアル https://www.toyamadesign-trial.net/






