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Milano Salone Description報告会レポート

さる6月7日、東京ミッドタウン・デザインハブでMilano Salone Descriptionによる2016年ミラノデザインウィーク報告会が行われました。ミラノデザインウィークとは、毎年4月中旬に開催されるミラノサローネ国際家具見本市と、同時期にミラノ市内で行われる無数のデザインイベントの総称です。Milano Salone Descriptionは、デザインジャーナリストの土田貴宏とクリエイティブディレクターの青木昭夫が、その様子を現地からほぼリアルタイムで紹介するフェイスブックページとして2013年にスタート。東京での報告会も恒例になっています。


今年のミラノサローネ国際家具見本市は、来場者数が37万人を超えて過去最高となりました。これは、世界の家具市場におけるミラノサローネの存在感が、ますます増していることを示しています。その中から今回の報告会で紹介したブランドは、ヴィトラ、カッシーナ、アルペール、MDFイタリア、マルニ木工など。最初に取り上げたのはヴィトラの新作椅子の「APC」で、これは昔ながらの木の椅子を思わせるフォルムを、プラスチックを使って再現したものです。フレームも座面や背もたれもすべてプラスチックですが、あえて一体成型でなく、複数のパーツを用いることでカラーリングに変化を与えています。この椅子は、今年から新たに始まったサローネ・デル・モービレ・ミラノ アワードの椅子部門に選ばれました。

VITRA/APC/Jasper Morrison

またカッシーナは、昨年秋からイタリアを代表する人気デザイナーであるパトリシア・ウルキオラがアートディレクターを務める体制になってから、今回が初めてのミラノサローネでした。彼女のセンスを感じさせる、新しい色使いが目を引く過去の名作も登場し、来年90周年を迎えるカッシーナのアグレッシブな姿勢を印象づけました。もうひとつ話題になったのは、マルニ木工がミラノサローネの会場のホール16に出展したこと。世界の名だたるブランドが並ぶホール16に日本企業が独自出展したのは初めてで、それだけでも快挙と言えます。深澤直人やジャスパー・モリソンによる木と金属を組み合わせた新作椅子などが発表されました。

CASSINA BEAM SOFA SYSTEM/Patricia Urquiola, WINK/Toshiyuki Kita, UTRECHT/Gerrit Thomas Rietveld

CASSINA/GENDER/Patricia Urquiola, MARUNI WOOD INDUSTRY/'T' CHAIR/Jasper Morrison

新作家具の見本市を中心とするミラノサローネに対して、ミラノ市内では多種多様なデザインイベントが開催されます。今年は、そんな市内のイベントの盛り上がりがきわめて印象深い年でした。デンマークのHAYは、ミラノ中心部のブレラ地区の大会場で、ロナン&エルワン・ブルレックやドーシ・レヴィンら人気デザイナーの新作を取り揃え、勢いを見せつけました。同じくブレラ地区で注目を集めたのは、デザインストアのスパツィオ・ポンタッチョで発表されたパトリシア・ウルキオラとフェデリコ・ペペの共作「CREDENZA」。ケルン大聖堂にあるゲルハルト・リヒターによるステンドグラスにインスパイアされたコレクションで、伝統的なステンドグラスの技術を生かしながら、コンテンポラリーなセンスが発揮されたものです。

HAY CAN/Ronan and Erwan Bouroullec, DAPPER LOUNGE CHAIR/Doshi Levien, SPAZIO PONTACCIO/CREDENZA/Patricia Urquiola+Federico Pepe

ミラノ市内の展示は、エリアごとに豊かな個性があるのも特徴です。3年前から始まった、ミラノ中心部南西寄りのエリアで開催される5VIE(チンクエ・ヴィエ)は、高度にキュレーションされた力の入った展示がいくつも行われました。そのメイン会場と位置づけられるスパツィオ・サンレモでは、ロンドンのロウエッジズが個展「Herringbones」を開催。染料を入れた容器を斜めにして無垢材を浸し、それを繰り返すことで色の組み合わせやグラデーションの美しいパーツをつくります。そのパーツによって構成した椅子、テーブル、パーティションなどが、制作のプロセスとともに展示されました。

HERRINGBONES/Raw Edges

今年のミラノデザインウィークでは、家具以外のブランドの展示も例年以上に充実していました。象徴的だったのは、スニーカーで有名なナイキによるエキシビション「THE NATURE OF MOTION」です。エキシビションの第1部は気鋭のデザイナーを起用したスペースで、フライニットやエア技術といったナイキ独自のテクノロジーを応用し、動きをテーマとする家具などの作品を展示。マルティノ・ガンパー、マックス・ラム、ザヴェンなどデザイナーのセレクトが的確で、テクノロジーの扱い方にもそれぞれに驚きがありました。また第2部は、ナイキのインハウスのデザイナーたちが自由に発想したスニーカーのコンセプトモデルやインスタレーションで構成。ミラノの新名所であるアート施設、フォンダツィオーネ・プラダに近い会場のロケーションも今年らしいセレクトです。

NIKE/THE NATURE OF MOTION Bertjan Pot, Sebastian Wrong

ファッションブランドのcosは、日本人建築家の藤本壮介を起用して「FOREST OF LIGHT」と題した展示を行いました。これは暗転したスペースにスモークを満たし、上からいくつものスポットライトで光を当てて、森林のような風景をつくり出すというもの。シンプルな要素で幻想的なイメージを創造しました。またシチズンの展示「time is “TIME”」では、パリの建築事務所DGT.の一員である田根剛が腕時計の基盤(地板)を使ったインスタレーションを2年前に続いて手がけました。空中にランダムに地板を配置したスペースを抜けると、規則的に地板を配したスペースになります。人の視点や見る方向により、空間に幾何学的なパターンが浮かび上がるという不思議な体験をすることができました。

COS/FOREST OF LIGHT/SOU FUJIMOTO, CITIZEN/time is TIME/Tsuyoshi Tane (DGT.)

報告会の最後には、今年のデザインウィークから浮かび上がってきたいくつかのトレンドやトピックスと、土田と青木それぞれの独断によるベスト3の発表がありました。青木が選んだのはパトリシア・ウルキオラ&フェデリコ・ペペの「CREDENZA」、ロウエッジズの「Herringbones」展、ナイキの「THE NATURE OF MOTION」展。土田が選んだのはマジスの新作家具でジャージー・シーモアがデザインした「Bureau for the Study of Vivid Blue Every-Colour Inhabitations of the Planet, the Transformation of Reality, and a Multitude of Happy Endings」(通称Happy Endings)、ピエロ・リッソーニがグラスイタリアから発表したガラス製のキャビネット「Commodore」、そしてアメリカ人照明デザイナーのリンジー・アデルマンによるシャンデリア「Cherry Bomb Fringe」です。ピエロ・リッソーニの「Commodore」は後日、サローネ・デル・モービレ・ミラノ アワードの家具部門に選ばれたことが発表されています。

MAGIS/Happy Endings/Jerszy Seymour, GLAS ITALIA/Commodore/Piero Lissoni, NILUFAR DEPOT/Cherry Bomb Fringe/Lindsey Adelman

近年のミラノデザインウィークは、家具やインテリアを超えた国際的なデザイン業界の祭典として、また関係者のコミュニケーションや出会いの場として、ますます存在意義を増しているようです。異業種のメーカーによる力の入った出展や、テクノロジーを取り入れたデザインがいっそう目立つのも、その傾向を裏付けています。情報を伝える側にも、より広い視野と探究心が求められるようになってきました。SNSの普及などにより、情報発信のあり方も転換期を迎えています。Milano Salone Descriptionは、そのような変化をふまえながら、来年もいっそう自由で充実したレポートをしたいと考えています。

2016ミラノデザインウィーク
Milano Salone Description報告会レポート
日時:2016年6月7日
会場:インターナショナル・デザイン・リエゾンセンター(東京ミッドタウン・デザインハブ)
スピーカー:土田貴宏/青木昭夫(Milano Salone Description)
文: 土田貴宏

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