Vol.4 「伝わるまち」から「誇れるまち」へ
旭川市が挑む、デザインでまちを変えるしくみ
2024年6月、経済産業省デザイン政策室の監修にて、日本デザイン振興会から『デザイン白書2024』(制作:三菱総合研究所 DESIGN × CREATIVE TEAM、アクシス、以下デザイン白書と表記)が発行されました。(URL:https://www.jidp.or.jp/2024/06/04/wpd2024)
デザイン白書は、「世界×デザイン」「地域×デザイン」「企業×デザイン」「行政×デザイン」「文化×デザイン」「資料」の6章で構成され、様々な角度からデザイン活用の取り組みを掲載しています。
当連載では、三菱総合研究所 DESIGN × CREATIVE TEAMのデザイン白書制作メンバーにてデザイン白書に関連する関係者に、デザイン関係者ならではのデザイン白書の印象、デザイン白書には掲載しきれなかった事例の裏話、今後のデザインへの期待などをお伺いします。
本記事では、デザイン白書の「行政×デザイン」章でも紹介されている旭川市の取り組みを取り上げます。2023年から市役所を起点に始まった「デザインシステム」は、「まちの魅力や市の情報を、もっと一貫性をもって、もっと自然に伝わるようにしたい」という想いから生まれたプロジェクトです。市民・職員・地域の事業者がともに“まちの世界観”をかたちにしていく、その仕組みづくりの背景や現在進行中の取り組み、そして今後の展望について、株式会社KESIKIの代表取締役であり、旭川市のチーフ・デザイン・プロデューサー(CDP)を務められている石川俊祐さんと、旭川市役所にて広報部門を統括されている吉田昌史さんにお話を伺いました。
― まずは、旭川市がデザインシステムを導入することになったきっかけについて、お聞かせいただけますか?
石川:もともとは市の広報物に一貫性を持たせたいという相談から始まりました。「配布物のガイドラインを整備しよう」という動きだったんですが、それだけでは課題解決(地方創生)に繋がらないと感じたんです。
「市民にちゃんと伝わり・行動が起きるデザインとは何か」を考えていくうちに、より大きな枠組みが必要だと感じて、デザインシステムというアプローチを提案しました。イギリスやノルウェー・オスロ市の事例を参考にしながら、旭川市でもガイドラインとツールボックス、それから地方創生のためのデザインプロデューサー人材を一体的に設計しています。
地域に新しい価値を生み出すデザインプロデューサーを育成する
― ありがとうございます。最初はガイドラインづくりという入り口だったのが、より本質的な「伝わるための仕組み」へと展開していったんですね。海外の先進事例も参考にしながら、旭川らしい形を模索されたというお話に、すでにこのプロジェクトの奥行きを感じます。
ちなみに、旭川市は国連教育科学文化機関(UNESCO)の「ユネスコ・クリエイティブシティーズネットワーク」(UCCN)にも加盟されていますが、今回の取り組みとそのあたりの関係性についても、少し教えていただけますか?
吉田:いわゆる、ユネスコの「創造都市ネットワークのデザイン分野」に2019年に加盟しました。ただ、「旭川がデザイン都市?」と感じる市民もいたと思います。でも、家具や木工の歴史、そこに携わる職人や事業者の存在を見れば、実はデザインと密接なまちなんですよね。
私たちはこれまで、あさひかわデザインウィークやまちなかキャンパス1、デザインプロデューサーの育成など、まちづくりの中でさまざまな取り組みを進めてきました。その延長線上に、今回のデザインシステムの導入があります。
― たしかに、家具や木工のまちとしての背景を知ると、「デザイン創造都市」という肩書にも深い説得力がありますね。従来の取り組みが土台となって、今の動きにつながっているという流れも、とても自然に感じられます。では、その「デザインシステム」とは、具体的にはどのような仕組みなのでしょうか?
石川:旭川市の徽章の色や形といったモチーフを基につくられたデザインのルールと仕組みです。旭川市のデザインシステムでは、誰でも使えるデザイン要素を整理した「ツールボックス」を用意しており、これを使えば、広報物、看板、Webサイト、名刺、ポロシャツなど、様々な媒体で一貫したデザイン表現が可能になります。
特徴的なのは、「一貫性」と「柔軟性」を両立しているところ。つまり、ルールはあるけれど、職員や市民が主体的に創造性を発揮できる“のり代”もちゃんと残してあるんです。駅や空港、動物園など、市内に点在する公共施設や空間が「面」としてデザインの一貫性でつながり、旭川らしさを感じられる世界観が広がっていく仕組みです。
旭川市の徽章
デザインシステムの活用イメージ
ツールボックスを活用して制作したポロシャツ
― なるほど、誰もが使えるツールでありながら、使い手の自由も大切にされている点が印象的です。点在する場所や情報が一つの世界観でつながっていくというお話は、「まちの魅力をどう見せるか」という視点からも非常に面白いですね。職員の皆さんの間では、このデザインシステムにどのような変化や反応が見られましたか?実際に使ってみての手応えなどがあれば、ぜひ教えてください。
吉田:職員向けに制作したポロシャツが500枚売れたのは、象徴的な出来事でしたね。ロゴを見た市民が「それ、何?」と聞いてくれることで、自然と会話が生まれます。職員も、自主的にプレゼン資料にロゴを入れたりするようになってきています。また、デザインシステムと接続するような地域政策として「あさいち」を考案し、街の若いデザインリーダーらによって形作られて数千人を超える来場者を迎えるような成功もおさめています。
今後は「デザインジェネレータ」というツールも導入予定です。職員が文字を入力するだけで、ガイドラインに沿ったレイアウトでチラシや資料を自動生成できるもので、業務の効率化も期待できます。
石川:Canvaなどのツールを使うのは職員の本業ではないし、時間もかかります。デザインジェネレータがあれば、楽しみながら、でもちゃんと伝わるものがスピーディに作れます。働き方にも良い影響があると思っています。
デザインジェネレータの利用画面(導入予定)
デザインジェネレータの利用イメージ(1/2)
デザインジェネレータの利用イメージ(2/2)
― 「楽しく、でもきちんと伝わる」ものが誰でも作れるようになるというのは、行政にとっても大きな変化ですね。デザインが特別な人の仕事ではなく、日常業務の中に自然と入り込んでいく様子が目に浮かびます。一方で、地元のデザイナーの皆さんにとって、このデザインシステムはどのような影響を与えているのでしょうか?可能性や課題について、感じていらっしゃることがあればお聞かせください。
石川:デザインシステムが整っていれば、地元のクリエイターも「旭川らしい提案」がしやすくなります。仕事が減るのではなく、むしろ可能性が広がると感じています。
吉田:市としても地元のデザイナーとより深く連携していきたいと思っています。情報共有や協働の機会をつくっていく方針です。
― 行政と地域のクリエイターがフラットにつながっていくというビジョン、すごく良いですね。官民の境界を越えて、一緒にまちの文化を育てていくプロセスが見えてきます。では最後に、これからの展望についても伺えればと思います。5年後、10年後に向けて、この取り組みがどのように育っていってほしいとお考えでしょうか?
吉田:まずは市の職員3,000人がデザインシステムを理解し、ツールを自然に使えるようになることが目標です。それを足がかりに、事業者や市民にも広げていければと考えています。
石川:理想を言えば、全庁横断的な旗振り役として、デザインを担当する専門部署が生まれるといいですね。行政のなかにリサーチや価値創造を担う常設チームがあること。オスロやロンドンでは当たり前にあるものですが、日本の自治体にも必要だと思っています。
― まずは市役所の中で当たり前に使われるようにして、そこから少しずつ外へ広げていく。その流れがとても現実的ですし、デザインをまちづくりの土台と考える姿勢にも、今後の広がりへの期待を感じました。
― 旭川市が進める「デザインシステム」は、単にロゴや見た目のルールを整えるものではなく、市民や職員、地域の事業者が、自分たちのまちの魅力を共有し、参加していける“文化の土台”を育てる試みだと受け止めました。自分らしく関われるけど、旭川らしさはちゃんと伝わる。そんな仕組みを通じて、まちの中の点と点が線になり、やがて面となり、最終的には“誇り”として定着していく。
デザインの力でまちを変える。その挑戦が、静かに、しかし着実に進んでいることを強く感じました。本日はありがとうございました。
取材・執筆:三菱総合研究所 DESIGN × CREATIVE TEAM 山越理央
写真:旭川市
1 まちなかキャンパスは、ユネスコデザイン創造都市を推進し、前に進めていくための新しい仕組み。「デザイン」「まちづくり」「SDGs」について学生・生徒が日頃探求していることを、公共空間で一斉に展示し、小・中学生とともに互学互修する。2021年にオンラインで初開催し、22年には対面開催で6万3千人、23年には6万8千人が参加した。2022年、グッドデザイン・ニューホープ賞に「仕組みのデザイン」として入賞。






