公益財団法人日本デザイン振興会 公益財団法人日本デザイン振興会

テーマ企業インタビュー:ダイヤロン株式会社

2020年度東京ビジネスデザインアワード

「東京ビジネスデザインアワード」は、東京都内のものづくり中小企業と優れた課題解決力・提案力を併せ持つデザイナーとが協働することを目的とした、企業参加型のデザイン・事業提案コンペティションです。企業の持つ「技術」や「素材」をテーマとして発表、そのテーマに対する企画から販売までの事業全体のデザイン提案を募ります。

2020年度は、テーマ9件の発表をおこない、113(火・祝)までデザイン提案を募集中です。本年度テーマに選ばれた9社へのインタビューをおこない、技術についてや本アワードに期待することなどをお聞きしました。


お話:ダイヤロン株式会社 代表取締役社長 五十嵐秀典氏、取締役 生産部 部長 根岸尚登氏、取締役 営業部 部長 西河進氏

日光へと続く旧街道の宿場町である埼玉県幸手市。いまも古い町並みが残るこの街に工場を構えるダイヤロンは日本製樹脂製畳のリーディングカンパニー。一般に広く普及し、いくつもの優れた機能性をもった樹脂製畳表。そのあらたな使い方が求められている。


次の時代のあたらしいものづくりを

ーーどのようなことをしている会社ですか?

一日で500枚、月で1万枚、年間では10万枚以上という生産力をもつ畳のメーカーになります。国内で年間14万戸あるという新築の分譲向けの畳を多く手がけさせていただいています。そのおよそ7割程度に畳が入っているという計算で約10万戸、その中の10軒中1軒に弊社の畳が入っています。業界では知られていないのですが実は畳のトップメーカーです。 

ーー創業の経緯を教えてください

福井県の越前市に平成8年に創業しました。ほかのメーカーと違うところは化学掛かりの 畳を中心に製造しているところです。製品には抜群の耐久性がありましたことから主に旅館やホテルなど、製品に耐久性が求められるところに納めてきました。現在は埼玉で製造をしていますが、一番いいとき で越前と埼玉に3ヶ所の工場を持ち生産をしてきました。わたしは社長としては二代目で7年前に課長として入社をし、その翌年に社長に就任しました。

ーー創業当初は旅館など宿泊施設が中心だったんですね。

そうです。自然災害などでホテル業界の不振もあり実は一度倒産しています。私の代になってから住宅向けに特化したかたちへと方針転換いたしました。

ーー畳には葦草など自然素材でつくったものが知られていますが、御社では創業時から耐久性を重視して樹脂製畳表の製造に特化していたのですね。

はい。そうなります。


ーー当時も樹脂製畳表というのは一般に流通していたのですか?

ほとんどなかったと思います。現在では樹脂や和紙などいくつかメーカーもありますが、時代がついてきたということなのだと思います。現在住宅では樹脂製の半畳サイズのへりなしのものが主流になっていますが、弊社では当初からそれだけをつくってきました。今は畳というと天然素材のものではなく樹脂製、そしてサイズも半畳のものが主流になりました。そのようにみんながつくるようになりましたので、社員みんなで次のあたらしいものをつくろう!となったのも今回のアワードへの応募動機のひとつになっています。

ーーある意味日本の樹脂製表の畳のトップランナーということです。 

はい。そういっていただいて問題はないと思います。

ーー現在御社では何名働いていますか?

20名しか従業員がいない会社ですが、ここにいる根岸や西河を筆頭にお陰さまで人に恵まれまして、日本の畳の1/10をつくらせていただけるまでになりました。


ーー御社のものづくりへの思いを聞かせてください。

畳は日本の衣食住には欠かせないものでありながら、これまであまり脚光を浴びることはありませんでした。特に食などは和食として世界遺産になるなど世界中に知れ渡っています。そんな大切な衣食住のひとつである住、そしてそれをささえる畳がこれまで築いてきた伝統というものをさらに高め、次の千年間をつくろうという気概をもって畳をつくっています。


デザインと技術の化学反応を

ーー今回のアワードに応募されるにあたりどのような問題意識をお持ちでしたか?

ほぼB to Bの会社で自社ブランドの確立もできない、いわゆる中小企業で下請けという立ち位置です。まずそこから脱却するためのブレイクスルーをするような案は、残念ながら自社ではでてきません。そういったときに、今回のデザインアワードをご紹介いただきました。デザインと技術の化学反応がアワードのテーマだと思うのですが、弊社にいま足りなくて、いま求めているものはまさにそれなんですね。ウチはものづくりには特化できるし形をつくることは得意ですが、マーケットや意匠性に関してはまったくだめで、その部分をぜひデザイナーさんに助けていただきたいと思っているところです。

ーー今回工場を拝見し、御社が手がける次世代畳「ターテック」を触らせていただき、天然素材の畳と同じような細い繊維状のもので編まれている形状だったり、触り心地がよく快適でというところに驚きました。しかも防炎耐水仕様で水に強いなど機能性をもっている。

まさにそのままお伝えいただければと思います(笑)。ビニールは足ざわりがペタペタするイメージがありますが、これはそれがありません。というのもいうなれば一本一本の草を織ってターテックの畳表をつくるのですが、顕微鏡でみると糸の表に天然葦草と同じ繊維のミクロの筋ができるゆえに、それが湿気などを吸着して夏場でもペタペタしない、滑らないという特徴があるんですね。

天然ものの畳ですと液体をこぼした場合、シミになったり浸透し てしまいますが、これはその心配はありません。ですので畳なのにお風呂場にも敷くことができるのです。食品衛生基準も満たしているのでなめても大丈夫です。

ーーそれはすごいですね。

畳が一般に普及したのは昭和初期なのですが、現代の高気密高断熱住宅の住宅では天然のものだとカビが生えダニが繁殖してしまう。そのなかで弊社の安全で安心、耐久性が高い化学 畳というものが生まれてきたという背景があります。最初は商業施設、そして最近では住宅 でもスタンダードになりました。

ーーしかもどこで切ってもほつれにくいところは、天然素材の葦草でつくった畳ではありえない加工性の高さだと思います。その技術的な部分での秘密について少し教えてください。

これにはいくつかお話がありまして、五十嵐社長がこれから住宅に特化するという方針を打ち出し、であればへりなしの畳でいきましょう、そのためにもまずは量産体制を整えるにあたり設備をすべて新しいものに入れ替えた、というのがはじまりでした。生産効率を上げるにあたり、ご存知のように畳の表はバラバラとほどけますので、裁断するときに目止めをする必要があるのですが、それにはものすごい手間がかかります。その効率を上がるために、最初から目止めがされた畳ってできないのだろうかと考えました。ですのでこれをつくるために目止めを考えた訳ではないんです。

ーーどのような素材でできているのですか?

ポリプロピレン製の糸状のものでつくった織物を特殊な樹脂で固めて畳表をつくり、それを再剥離できるレピタク に取り 付けて製品にしています。

ーー大きさはどのようなものがつくれますか?

幅1メートル、長さは20メートルのロールでつくります。色もいろんな色をつくれます。しかし、なんで出来ちゃったんだろうかと顕微鏡で裁断面を見たりしていたのですが、これは詳しくは言えないのですが本当にたまたまなんですね(笑)。だからものづくりというものは、弊社のような前衛的な考え方をもって誰もやったことのないことをやる、という取り組みのことなのかなと思っています。偶然というか運と巡り合わないと諦めない気持ちがないと、こういったものは生まれてこないということなのではないでしょうか。

ーー世の中にないものをつくりたい!という御社の思いが生み出したものだったのですね。

根岸:そうなんです。偶然といってはかっこ悪いので、素晴らしい出会の産物だと思っています。私は隣町春日部の畳屋5代目で現社長に誘われてこの会社の立て直しで入社しました。この会社のいいところは、ターテックのような前衛的ともいえるものづくりから、古典的な畳、寺社仏閣に携わる有職まで全部できる技術をもった会社なんです。製造部の課長は全員一級技能士の資格をもっています。

ーーいまでは多くのシェアを獲得していますが、日々どのような思いでお仕事をされていますか?

弊社が目指しているのは畳業界全体の繁栄です。だから古典的な畳だけでなく、化学畳の素晴らしさをより多くの方に知っていただきたい。昔ながらの畳屋さんがどうすれば今の時代を生き抜いていけるのか。それを身を持って仕事をしています。


柔軟な発想で畳の価値を見出す 

ーー今回のアワードでどんなことをしてみたいですか?

化学 畳がどう広がっていくのか楽しみです。これまでも弊社では新築の住宅から畳の部屋が減るなかで、どうやって畳の価値を伝えていくかということをやってきました。ですが視点を変えれば畳はインテリアにも入っていけるし、単に住宅における床、壁、天井の床の部分を担うだけではない、畳屋さんはそこだけに留まるわけではないということをやっていきたいと思っています。

ーー今回どんなデザイナーと出会ってみたいですか?

それですよね。弊社の化学 畳がデザイナーさんとの出会いによってどう変わるのか。それが今回期待をするところです。私たちのアンテナなんてたかがしれているもので、デザイナーさんとの出会いで化学反応を起こしたい。そして弊社の人間はつくったものを世に送り出すことに熱い人間がいます。日々市場の調査もしていますし、私たちがつくるものを待っているお客様もたくさんいますので、世の中に出す営業は任せてください。だからデザイナーさんも面白いと思いますよ。



ーーそれは頼もしいですね。

それと畳から始まってこれを敷物として考えていますけれど、ウチのFC加工をテキスタイルとしてみていただくことも可能です。たとえば壁に使っても、アパレルに使ってもいいと思っています。若いコたちも興味をもつようなカッコいいものをつくりたいです。 

ーー最後にデザイナーに向けてメッセージをお願いします。

今回のアワードでは、住宅産業や業界といったカテゴリーにとらわれることなく、ビジネスモデルとしてこれまでターテックで築いてきた同じ市場規模をつくるという意気込みでのぞみます。それとこの技術がどのような部分に使われるのかまだ未知数に思っていて、カットにしても複雑なRなど特殊な加工ができるのですが、いまのところそれを発揮する機会もありません。私どもの凝り固まった頭は想像もできない、柔軟な発想でご提案をいただければと思っています。


ダイヤロン株式会社(中央区)https://www.diaron.co.jp

テーマ:貼ってはがせて自由に切れる「樹脂製畳表素材」

1996年7月創業。創業当初は数々の有名ホテル・旅館・商業施設に樹脂畳の納入を行う。樹脂製畳は水に強い事を背景に、お風呂の洗い場用「浴室畳」を開発。住宅の洋室化、建築的条件に対応するため、接着技術を用いた「縁無し半畳」の量産、フローリングと同じ厚みの「薄畳」を開発。5年前より住宅メーカーに営業を特化してきた。50代の親方3名の下に20代~30代の若い人材を配置し、日本が誇る「畳」という文化を守ってきた畳職人たちとともに、その伝統を自ら破り、凝り固まった固定観念から離れて、次の千年のための畳の製造、開発を行っている。

インタビューと写真:加藤孝司


2020年度東京ビジネスデザインアワード

デザイン提案募集期間 113(火・祝)まで 

応募資格 国内在住のデザイナー、プロデューサー、プランナーなど 

応募費用 無料 

詳細は公式ウェブサイトをご覧ください

https://www.tokyo-design.ne.jp/designer/  

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