2026TBDAテーマ企業インタビュー:株式会社エージー・クルー
2026年度東京ビジネスデザインアワード
「東京ビジネスデザインアワード」は、東京都内のものづくり中小企業と優れた課題解決力・提案力を併せ持つデザイナーとが協働することを目的とした、企業参加型のデザイン・事業提案コンペティションです。
企業の持つ「技術」や「素材」をテーマとして発表、そのテーマに対するビジネスモデルを含めた新たな製品・用途開発・ブランディング案をデザイナーからの「提案」として募集しています。
2026年度はテーマ8件の発表をおこない、10月27日(火)23:59までデザイン提案を募集中。本年度テーマに選ばれた8社へのインタビューをおこない、技術や素材について、本アワードに期待することなどをお聞きしました。
テーマ名:手吹きガラスの魅力を最大限に引き出すステンドグラス制作技術
テーマ企業:株式会社エージー・クルー
企業HP:https://azcrew.com/
『手吹きガラスの美しい揺らぎを未来へ。』
1985年の創業以来、ドイツ・ランベルツ社の最高峰の手吹きガラスなどを用い、数々の建築や空間を彩ってきた株式会社エージークルー。職人の手仕事と高度な接合技術により、古典的なステンドグラスの領域を超えた独自のモノづくりを展開する。一方で、国内市場の縮小や職人の高齢化、制作過程で生じる高品質なガラス端材の活用といった課題にも直面しているという。同社の歩みや職人技の強み、ステンドグラスが持つ歴史的背景から現在の建築表現における役割、そして「東京ビジネスデザインアワード」を通じて共創を目指すデザイナーへの思いを聞いた。
お話:株式会社エージー・クルー 代表取締役 西方真理子氏
職人の手仕事により生まれる繊細なガラス
──御社は1985年に創業され、現在二代目になるかと思います。ウェブサイトを拝見したところ、先代がきっかけとなる作品を発見されて立ち上げられたとのことですが、創業の経緯や精神について教えてください。
西方:私が小学校高学年の頃だったと思いますが、父はもともと住宅メーカーの営業マンをしていました。普段はほとんど家にいない人だったのですが、物心がついた頃からステンドグラスの見学や、湯河原にあるベルギー人の方の工房へ連れて行かれるようになり、急にステンドグラスが身近にある生活へ変わった印象があります。
大きくなってから、父がステンドグラス工房を経営しているのだと理解しました。身近にガラスがあり、いろいろな場所へ連れて行ってもらったことが、私にとって創業の精神を間近で見ていた思い出です。
当時はバブル期で事業も追い風に乗っており、急に家が裕福になったような感覚が幼少期から中学時代にかけてありました。しかし、バブルがはじけると一気に経営が大変になりました。海外出張も行かなくなり、大変そうな状況が強く印象に残っています。
私はもともと父親を助けたいという思いがあり、別の仕事をしていましたが、「会社に来てほしい」と言われたタイミングで入社しました。当時は父から創業の精神について詳しく聞いたわけではありませんでしたが、とても良い仕事だと感じていましたし、手伝いたいと漠然と思っていました。
──伝統的なステンドグラスの歴史観や背景について教えていただけますか。
西方:ヨーロッパにおけるステンドグラスは、教会のバラ窓や窓枠にキリストや聖母マリアを描き、文字が読めない人々にも宗教的な教えや物語を伝える絵画的・宗教的な道具としての歴史がありました。雨や光が挿し込む中で拝むための対象でもあったわけです。 一方、日本にはそうした宗教的背景がないため、独自のデザイン文化が育ってきました。歴史的な絵付け技法から、現代では美しいガラスそのものの色や質感、幾何学的なラインを楽しんだり、インテリア空間を彩ったりする要素へと役割が変化しています。
──御社がこだわり続けている「ドイツのガラス」とはどのようなものでしょうか。
西方:当社は、先代がドイツのランベルツ社のガラスと出会ったことから始まっています。そのため、創業当時からメインで同社のガラスを使用しています。ランベルツ社のガラスは「マウスブロー製法」というフルハンドメイドの手吹きで作られており、マシンメイドのものと並べるとガラスの美しさや豊かな表情の差は歴然です。当社はその良さをお客様に届けられるよう営業を展開しています。
サンプル帳にあるもの以外にも、本国のランベルツ社には約5000色のバリエーションがあります。特注色も制作可能ですが、その場合はフルシートで40枚からの発注になります。
厚みは3mmほどしかありません。私が一番好きなのは通称「リーミークリア」と呼ばれるクリアガラスです。透明だからこそ、手吹きならではのガラスの流れや気泡、揺らぎが非常に綺麗に見えます。
──具体的にどのような素材や方法でステンドグラスは作られているのでしょうか。
西方:ステンドグラスは「鉛線(レッド)」と呼ばれる鉛の素材を使い、ガラスを間に挟みながら手ハンダで固定して作ります。ハンダの技術やガラスの選定などは工房によって異なり、熟練の技術が求められます。
鉛線の間にパテ材という粘土のようなものを詰める作業があるのですが、これはガラスのガタつきを抑えるために不可欠です。職人が手を汚しながら塗り込み、乾いたら掃除をするという大変な手作業です。繊細な作業であるため機械化が難しく、技術革新を起こしにくい分野だと感じています。
さらに、ガラスに直接描く「絵付け」という技法もあります。グリザイユ、カマイユ等専用の絵の具を使い、筆で描いては窯で焼き付ける作業を何度も繰り返してグラデーションや表情を作ります。熟練の技が必要です。当社にもアメリカなどで修業を積んだベテランのOBがおり、素晴らしい技術を持っていました。
──他社が簡単に真似できないエージー・クルーならではの技術や強みはどこにありますか。
西方:ステンドグラスの製法工程が工房によって大きく変わるわけではありません。だからこそ、優れたガラスを見極める目、ドイツのランベルツ社との情報共有を含む関係性、そしてデザインの良さで勝負しています。そこに本当に力を入れて取り組んでいます。
ステンドグラスに使われる鉛線は水分を嫌うため、基本的には屋内で使用するアイテムになります。外から見える住宅の窓に入っている場合も、外側に窓ガラスがあり、部屋の内側にステンドグラスを1枚配置する二層構造(2重構造)の収まりになっています。欧米の教会のように単板(ガラス1枚)で修復しながら使う文化と異なり、日本の住環境に合わせた精度の高い施工や設計提案が求められます。
──現在、ステンドグラスはどのような場所で使われているのでしょうか。著名な建築家との協業実績についても伺えますか。
西方:住宅のフィックス窓やドアの明かり採り、欄間、あるいは店舗や施設のインテリアパーティションなど幅広く使われています。また、ステンドグラスとはまた異なるアプローチの作品も手掛けています。例えば、NAP建築設計事務所 中村拓志代表の御自邸兼ショールームにて ”押し花ガラス” と ”チップガラス”の制作を担当させて頂きました。
──中村拓志さんは、ガラスの使い方や表現が非常に印象的な建築家の方です。
西方:建築家として尊敬しており、ご要望や求められるハードルは非常に高いです。「普通はできない」と思うような表現にも挑戦させていただき、やりがいがあります。ガラスを主体としつつ、スチール、ステンレス、真鍮といった異素材と組み合わせるため、全国の優れた技術を持つ金属工場を探して提携しながら開発を行っています。
ガラス端材をいかに有効活用するか。
──現在のステンドグラス業界全体における課題についてどのように捉えられていますか。
西方:ステンドグラスへの憧れを持ち、ご予算ができてから取り入れる方もいれば、若い方が気軽に取り入れられるケースもあります。ただし、日本国内のステンドグラス市場自体は小さいため、当社ほどの規模の工房は全国でもごくわずかです。お客様の奪い合いになる中で、いかに差別化を図り、工房の技術とガラスの魅力を届けられるかが肝になってきます。
多くの建築家やデザイナーにとって、ステンドグラスはまだ「必須ではないもの」と捉えられがちです。もっと気軽に、様々な用途で試してほしいという思いがあります。
──今回のアワードに応募された最大の動機は何だったのでしょうか。実績をお持ちの一方で、技術の継承や認知度といった課題をお持ちなのでしょうか。
西方:おっしゃる通りです。一番感じているのは、ステンドグラス自体の認知度の低さや、ポピュラリティのなさです。デザイナーの方に関わっていただくことで、私たちが思いつかないような異なる角度から世の中に広めていただけるのではないかと考えました。
それと制作で生まれるガラスの端材の有効活用です。自社内だけではどうしても視野が狭くなり、端材の活用法についても革新的なアイデアが出ず、良いガラスが捨てられずに溜まっていく一方でした。この高品質なガラス端材を活かしたいという思いが一番の動機です。
ただ、ガラスを溶かしてひとつの材料にすることもできるにはできるのですが、元の素敵なテクスチャーが失われてしまいます。また、ガラスの種類によって融解度が異なり、混ぜると割れやすくなるため、なるべく溶かさずに活かしたいと考えています。現状では、端材を細かくしてワークショップの小物作りに活用するのが精一杯です。
──社内の体制や職人の育成状況など、エージー・クルーが抱えている課題はいかがでしょうか。
西方:作り手ですと、ベテランの職人は50代が中心で、最若手で35歳です。立ち仕事ですし、手や腰を痛めながらも満身創痍で取り組んでくれており、若手の育成が急務です。現在、工房にはアルバイトを含めて15名が在籍しています。デザインを描きたいという若い方は比較的集まるのですが、実際に現場で手を使ってモノを作る職人を志望する人が非常に少ないのが現状です。
ステンドグラスがある空間
──東京ビジネスデザインアワードを通じて、具体的にどのようなことにチャレンジしてみたいですか。
西方:アワードのテーマは「吹きガラスの魅力を最大限に引き出すステンドグラス制作技術」です。
例えば、ゆらぎのあるガラスと写真を組み合わせたプロダクトや、光を透過させつつ空間を優しく区切るインテリア空間の提案、あるいは個人の暮らしに馴染む生活雑貨など、作り手の固定観念を超えた新しい扱い方を知りたいと考えています。
──最近はミニマルやシンプルなデザインが主流ですが、その一方で日本の工芸や陶器のような温もりのある質感、人間味のあるフォルムへの注目も高まっています。クラシックな歴史を持つステンドグラスを新しい解釈で捉え直すと、面白い素材になりそうです。
西方:ありがとうございます。近年はアップサイクルやSDGsに取り組む企業が注目されていますし、オーダーを受ける際もアップサイクル素材を活用した提案を求められる機会が増えています。設計者やデザイナーの方にとっても、オリジナリティを表現する上で非常に適した素材です。まずは当社の技術や素材を知っていただくきっかけにしたいと考えています。
当社の作業台で作れる基本サイズは、およそ1200mm×2200~2400mm程度(現場搬入を含めた一般的な最大サイズは1200mm×2600mm程度)ですが、小さなプロダクトから大型の空間表現まで幅広く対応可能です。
──事業展開やビジネスモデルについての構想をお聞かせください。
西方:現在はBtoB(企業間取引)が売上の約95%を占めています。今後は一般の個人のお客様と直接つながるような仕事や、手軽に家に飾れる小物などのBtoC領域、自社ECサイトのブランド化なども育てていきたいと考えています。
──もしデザイナーの方とマッチングした場合、構造上の補強や強度計算といった専門的な技術面は、御社側でサポートしていただけるのでしょうか。
西方:もちろんです。ステンドグラスは補強線の配置や線のつながりなど、構造上のルールがあります。実現可能なデザインになるよう、技術的なフォローやアドバイスをしっかりと行います。
当社のような10~15人規模の小規模なモノづくり企業が、手仕事や技術を残していくことの大切さも伝えていきたいです。日本人の丁寧さや手先の器用さ、納期を守る誠実さといった強みを活かし、ステンドグラスを通じて日本のモノづくり文化を発展させていきたいと考えています。
──応募を検討しているデザイナーやブランディングに携わる方へ向けて、どのような方と出会いたいか、メッセージをいただけますか。
西方:ビジネススキルをお持ちの方と、自由で柔軟な発想でデザインをしてくださる方の、両方の視点を持った方と出会えたら嬉しいですね。二人組でチームを組んで応募していただくような形も歓迎です。
──販売チャンネルや販路をお持ちの方とつながることができれば、商品開発から展開までのスピード感も上がりますし、新たな開拓にもつながりますね。
西方:そうですね。試みとして、私自身が銭湯やサウナが好きということもあり、以前、東中野にある「松本湯」さんでイベントを開催させていただいたことがあります。非常に盛況だったのですが、人気のある銭湯ではオリジナルグッズなどを展開されていますよね。そうした気軽に取り入れられるアイテムや、銭湯の空間設計に携わっている方とのコラボレーションも面白そうだと思っています。
──夕方の銭湯などは差し込む光がとても綺麗ですし、ピンポイントではありますが非常に魅力的な提案ですね。浅草など下町エリアにも歴史のある銭湯が残っています。
西方: ステンドグラスは個人邸だけでなく、多くの人が集まる場所にこそ映える素材だと感じています。そういった意味でも、銭湯やパブリックな空間は相性が良いですね。実は趣味が高じて、後継者のいない銭湯を引き継いで経営し、そこにステンドグラスをたくさん入れた空間を作りたいという夢もあるほどです。
──面白いです。東京をはじめとする都市部において、銭湯は歴史ある重要な文化ですが、廃業や建替えなどで減少傾向にあります。一方で、リノベーションによって新しいコミュニティ拠点として再生する動きも増えています。
西方:本当にそうですね。銭湯は大人から子どもまでが集まり、地域の人々をつなぐ素晴らしいコミュニティの場です。地元を卒業してもまた集まれるような魅力的な場所ですし、失われてほしくない文化だと感じています。人が集う場所とステンドグラスを組み合わせることで、新しい価値を生み出していきたいですね。
──最後に、今回コラボレーションする提案応募デザイナーへ向けたメッセージをお願いします。
西方:柔軟な発想でデザインをしてくださる方はもちろん、ビジネス視点を持った方とも出会いたいですね。また、当社ではお客様一人ひとりの思いに寄り添うヒアリングを最も大切にしています。ただ図面を引くのではなく、どのような思いでオーダーされたのかを深く掘り下げて形にできる方と一緒に、楽しくチャレンジしていきたいと思っています。
インタビュー・写真:加藤孝司
2026年度東京ビジネスデザインアワード https://design-award.metro.tokyo.lg.jp/award.html
各テーマ8件の詳細はこちら https://design-award.metro.tokyo.lg.jp/designer/#design_theme
デザイン提案募集期間:10月27日(火)23:59まで
応募資格:国内在住のデザイナー、プロデューサー、プランナーなど、テーマに対してビジネスモデルを含めた新たな製品・用途開発・ブランディング案などを提案できる方
応募費用:無料
詳細は公式ウェブサイトをご覧ください https://design-award.metro.tokyo.lg.jp/designer/






