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2026TBDAテーマ企業インタビュー:篠原工業株式会社

2026年度東京ビジネスデザインアワード

「東京ビジネスデザインアワード」は、東京都内のものづくり中小企業と優れた課題解決力・提案力を併せ持つデザイナーとが協働することを目的とした、企業参加型のデザイン・事業提案コンペティションです。

企業の持つ「技術」や「素材」をテーマとして発表、そのテーマに対するビジネスモデルを含めた新たな製品・用途開発・ブランディング案をデザイナーからの「提案」として募集しています。

2026年度はテーマ8件の発表をおこない、10月27日(火)23:59までデザイン提案を募集中。本年度テーマに選ばれた8社へのインタビューをおこない、技術や素材について、本アワードに期待することなどをお聞きしました。


テーマ名:薄板や小物の精密工作を得意とする金属プレス加工技術

テーマ企業:篠原工業株式会社

企業HP:https://www.sinohara.co.jp/index.php

『「しっくりくる」を極めた精密薄板加工技術』

戦後の東京・目黒で金型製作から始まった篠原工業株式会社。現在は八王子を拠点に、厚さ0.1mm前後という極薄の金属板を、精密な金型によって加工している。その原点には、戦前から製造業に携わり、戦後の混乱のなかで「生きるために」仕事を探した創業者の姿がある。篠原工業三代目の篠原謙介氏が今考えているのは、培ってきた技術をどう未来へつなぐかということだ。薄板加工技術と、同社が開発した「メタルカード」を足がかりとして、デザイナーとの協働にも挑戦する。その背景にあるのは、新しい商品を作るだけでなく、70年間東京でものづくりを続けてきた企業として、「東京にもちゃんと工業がある」ということを次の世代へ伝えたいという思いである。

お話:篠原工業株式会社 代表取締役社長 篠原謙介氏


代々受け継いできたモノづくりの精神

──まず、篠原工業さんの創業の経緯から教えてください。

篠原社長:当社は戦後、私の祖父が東京の目黒で始めました。その後、品川、府中、八王子と拠点を移しながら、ずっと東京でものづくりを続けています。祖父は栃木の田舎の出身で、戦前から東京に出てきて製造業の仕事をしていました。戦中は整備兵として製造の仕事をしていたそうです。戦後、その経験を活かし、金型屋さんに勤め、そこから独立したのが篠原工業の始まりです。

ただ、最初から金属加工だけで食べていけたわけではありませんでした。父から聞いた話では、文房具のバインダークリップを作って納品したり、近所から依頼されてポンせんべいを作ったりしていたそうです。つまり、生きていくためにいろいろな仕事をしていたんですね。当時は自分で工場や機械を持っている会社も少なく、機械を借りながら金型や加工の仕事をする職人が多かったそうで、祖父もその一人でした。

──そこから電気部品の仕事へ進んでいったのですね。

篠原社長:そうです。祖父が機械を借りに行っていた会社の工場長から、「うちの社員が今度独立するから、彼の仕事を手伝ってみないか」と声をかけられたそうです。その方は、後に大手電機メーカーへ成長する会社を創業された方でした。そこから金型や、プレス電気部品の仕事をいただくようになり、特にラジオなどに使われる可変コンデンサの部品が大きな仕事になりました。当時は電気製品の小型化が急速に進んでいました。その流れの中で、私たちも小さく精密な部品を作る技術を身につけていきました。

篠原社長:日本の小型家電が世界へ広がっていった時代、その舞台裏には私たちのお客様である電機メーカーがいて、その下請けとして篠原工業がいたわけです。

携帯ラジオやポータブルオーディオ機器など、当時のヒット商品に使われた部品にも数多く関わりました。もちろん、製品に私たちの名前が出ることはありません。でも、「あの製品の中には、実はうちが作った部品が入っている」というものはたくさんあります。現在でも、スマートフォンやハンディターミナルなど、電気基板の上に載っている小さな部品を中心に仕事をしています。

──篠原さんが入社されてからは、御社と業界的にはどのような変化がありましたか。

篠原社長:私が入社したのは2007年です。翌年がリーマンショックで、その3年後には東日本大震災があり、その後にはコロナショックもありました。入社前までは、日本国内でプレス加工を続けていく雰囲気がまだあり、お客様も篠原工業を理解してくださっていて、それなりに仕事が回っていたと思います。ところがリーマンショック以降、中国や東南アジアで製造するのが当たり前という風潮が強くなりました。加えて円高もあり、大手企業が次々と海外へ事業を移していき、それまで国内の会社に出していた仕事が現地調達へ切り替わっていきました。

──そうでしたか。

篠原社長:祖父や父の時代は生産量が増えていく時代でしたが、私が入社してからは、その逆方向の流れが続きました。ただ、ここ数年になって少し空気が変わってきたような気がしています。国内外の社会情勢の変化もあって「日本で作ることが大切なのではないか」「日本のものづくりを守らなければいけないのではないか」という話が出てきたように思います。本当に、ついこの前まで逆風が吹き続けていたような感覚がありますが、だからこそ今、これまで培ってきた技術をどう次につなげるかを考えています。

「しっくりくる」を極める、0.1mmの精密加工

──御社が得意とされる「精密薄板加工技術」について教えてください。

篠原社長:創業以来、私たちは金型を作ってきました。金属抜き型の基本は、パンチとダイスという2つのパーツです。パンチは凸で、丸や四角など、製品の形をしています。ダイスはパンチと対応した形の穴となっており、両者を組み合わせて使います。2つの間に板材を入れ、パンチをダイス穴に打ち込むと、その形に材料が打ち抜かれ、製品が出来上がります。薄板加工で重要なのが、そのパンチとダイスの間にある「クリアランス(隙間)」です。この隙間を極限まで詰めて、擦るか擦らないかくらいのところまで合わせる。そこがずれていると、金属がぐしゃぐしゃになったり、バリ が出たりします。切れない包丁で切るのと同じです。

──刃が合っていないと、切断面がギザギザになるんですね。パンチとダイスがギリギリはまる、ガチガチに合わせる感じでしょうか。

篠原社長:「ガチガチに合わせる」というより、「しっくりくるように合わせる」という方が近いですね。私は当社の技術を「しっくりくる」という言葉で表現します。

よく切れる刃先を作り、それをピタッと合わせる。そこから精密薄板加工が始まります。さらに、抜いたものを曲げたり絞ったりする場合も、金型の部品同士を正確に合わせる必要があります。つまり、最初から最後まで「合わせ」が重要なんです。金型は実際にはネジやスペーサーなどを使っていて、多少の遊びがあります。その部品を職人が「ここだ」という位置に持っていき、締め具合を調整する。そうして、すべてのパーツがしっくりくる状態を作ります。

──それは職人の経験によるところも大きそうですね。

篠原社長:大きいと思います。私たちはここ十数年、廃業されたプレス加工会社さんの金型を預かり、生産を引き継ぐ仕事もしています。図面もなく、工程も分からない金型を解析して、自社のプレス機で打ってみる。そうすると、世の中には「とりあえず使えればいい」という金型もあることが分かります。

たとえば、パンチとダイスの合わせが甘く、片側にはバリが出ているのに反対側は綺麗、ということもあります。とはいえ、お客様が納得して利用しているのであれば、それでも、不良品ではありません。でも私たちは、「ただ使えるもの」と「安心して安定して使えるもの」は違うと思っています。お客様に納めるものだから、良いものを納める。それが我が社のDNAです。そして、その技術を育ててくれたのはお客様でもあります。精密な電気部品を作ってほしいという要求に応え続けた結果、精密加工の技術が身についていったのです。

──実際にはどのくらいの厚みの金属のことを薄板というのでしょうか。またどんな金属の加工ができますか?

篠原社長:一般的には0.3mm以下になると薄材、薄板材と呼ばれます。私たちは、その中でも0.1mm前後の世界で仕事をしています。材料は国内のメーカーが作ったものを商社から仕入れています。金属の種類は、お客様の用途に合わせて選びます。電気を通したければ銅、軽くしたければアルミ、強度が必要ならステンレス、コストを抑えるなら鉄。もちろん、銅にもさまざまな種類がありますので、用途を聞いて材料を提案することもあります。基本的には、プレス加工で抜ける材料なら幅広く対応できます。

──特殊な材料や加工の事例もありますか。

篠原社長:以前、ステンレスの強度が欲しいけれど、電気基板にはんだ付けしたい、さらに高温にも耐えたいという相談がありました。そこで、ステンレスとニッケルを貼り合わせたクラッド材(2種類以上の異なる金属を貼り合わせた複合金属材料)を提案しました。さらに、一部は絶縁したいという要望があり、金属表面に樹脂を部分的に塗る技術を組み合わせたものをプレス加工して必要な形に仕上げました。当時は携帯電話の技術として使われていましたが、試行錯誤して実現した仕事の一つです。

──御社での製品づくりに対応できるサイズを教えてください。

篠原社長:当社の得意なサイズは、指先から手のひらくらいまでが一つの目安です。金型を作れば、平たい形に抜くだけではなく、曲げたり、突起を出して立体的にしたり、星型の穴を開けたりすることもできます。さらに化学研磨やレーザー加工、印刷など、協力先の技術と組み合わせて、手のひらより大きなサイズの商品も対応することもできます。

──金属素材の魅力はどのようなところにあるとお考えですか?

篠原社長:金属は無機物ですが、扱っていると「金属って温かいよね」とか「鉄が言うことを聞かなくてさ」と普通に言うんです。思った通りにならないところも含めて、生き物のように感じます。そんな材料と向き合い、コントロールしていく。そこに、ものを作る楽しさがあります。


熟練したものづくりから始まる「挑戦」

──東京ビジネスデザインアワードに応募されたきっかけを教えてください。

篠原社長:商工会の方から紹介していただいたのが最初です。私たちは非常に専門的で、一般の方には分かりにくい仕事をしているかもしれません。だからこそ、技術を言葉やデザインで表現してくれるプロのデザイナーさんと組めば、自分たちだけでは見つけられない答えが出てくるのではないかと思いました。

以前からデザイナーさんと話す機会はありましたが、仕事として進めるにはなかなか踏み出せませんでした。今回のアワードなら、決められたスケジュールの中で一緒に取り組む機会をいただけて、それなら挑戦したい!と思いました。

──すでに「メタルカード」という自社商品も開発されていますね。こちらについて教えてください。

篠原社長:神社でプラスチック製のお守りカードを見たのがきっかけです。「かっこいいけれど、素材ゆえの軽さがある。金属で作ったらもっとかっこいいのでは」と思ったのがきっかけでした。

具体的には、自社型で薄い金属板を綺麗に抜き、仲間の事業者に渡してインクジェットで印刷してもらい、カードにしています。金属は、薄くても金属らしい質感があります。最近は中小企業が作った金属製のアウトドア用品なども人気ですが、そこには「金属だからかっこいい」という価値があると思っています。

カードは一つの形式であり、この加工技術を応用すれば、まだ世の中にないものを作れるのではないかと考えています。具体的な商品はまだ決まっていませんが、今回デザイナーさんと一緒に考えてみたいと思っています。


──アワードを通じた取り組みについて、どのようなビジネスモデルを想定されていますか。

篠原社長:具体的な製品化につなげたいです。OEM部品生産が本業であることは変わりませんが、自分たちで商品を考え、商品そのものを持つことは、これからの会社にとって重要だと思っています。自分たちが作ったものが誰かの手に渡って使われるのは純粋に嬉しいはずです。社員にとっても、自分たちの仕事が世の中とつながっていると実感するきっかけになります。

──都心のクラフトショップや、出張先の駅ナカショップや道の駅などで地域のモノづくりが紹介されていると、気になって見てしまいます。本来、東京のモノづくりもそうあるべきだし、もっとアピールする機会はないものかと思っています。

篠原社長:本当にそうですね。地方のものづくり企業が東京で「地域の町工場が作りました」と発信している例がありますが、私たちも「ここにいるよ」と伝えたい。東京はオフィスや観光の街と言われますが、私たちは70年間、東京でものづくりをしてきました。「東京にもちゃんと工業がある」ということを、もっと知ってもらいたいんです。東京の工業の存在感をもう一度発信したいと思っています。

──どんなデザイナーやプランナーなどと出会いたいですか。

篠原社長:まず、素材としての「金属」を楽しんで、面白がってくれる方です。

その上で、日本らしさや東京らしさを発信できるプロダクトを一緒に考えていただきたいと希望しています。単に無機質で普遍的なデザインではなく、「日本」や「東京」の味わいが感じられるものがいいですね。外国人観光客向けのお土産や、学校の文化祭・卒業記念のメモリアルカードなど、大切な思い出として残るものも面白いと思います。「東京の会社に頼んで作ってもらった」というストーリーまで含めて、愛着を持ってもらえるものを作りたいです。

──高尾のこの工場から生まれる物たち、とても楽しみですね。最後に、篠原工業のこれからについて聞かせてください。

篠原社長:私たちは70年間、東京でものづくりを続けてきました。祖父の時代には、生きるためにいろいろな仕事をしてきました。そこから電気部品の仕事をいただき、精密加工の技術を身につけました。そして今、日本でものを作る意味があらためて見直されようとしている機運を感じます。だから私たちも、次の段階へ行かなければいけないと思っています。技術を守るだけではなく、それを新しい形で使っていく。そのために、デザインの力をお借りしてみたい。私たちは金属を加工する技術を持っています。でも、技術だけでは新しい価値を届けられません。デザイナーさんや異なる分野の人たちと出会って、「そんな使い方があるのか」と自分たちが驚くようなものを作ってみたい。そして、その製品を通じて、「東京にも、ちゃんと工業がある」と伝えていきたい。それが、これからの篠原工業が目指していきたいことです。


インタビュー・写真:加藤孝司


2026年度東京ビジネスデザインアワード https://design-award.metro.tokyo.lg.jp/award.html

各テーマ8件の詳細はこちら https://design-award.metro.tokyo.lg.jp/designer/#design_theme

デザイン提案募集期間:10月27日(火)23:59まで

応募資格:国内在住のデザイナー、プロデューサー、プランナーなど、テーマに対してビジネスモデルを含めた新たな製品・用途開発・ブランディング案などを提案できる方

応募費用:無料

詳細は公式ウェブサイトをご覧ください https://design-award.metro.tokyo.lg.jp/designer/

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