公益財団法人日本デザイン振興会 公益財団法人日本デザイン振興会
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テーマ企業インタビュー:株式会社セルファイバ

2019年度東京ビジネスデザインアワード

東京ビジネスデザインアワード」は、東京都内のものづくり中小企業と優れた課題解決力・提案力を併せ持つクリエイターとが協働することを目的とした、企業参加型のデザイン・事業提案コンペティションです。企業の持つ「技術」や「素材」をテーマとして発表、そのテーマに対する企画から販売までの事業全体のデザイン提案を募ります。2019年度は、テーマ9件の発表をおこない、10月27日(日)までデザイン提案を募集中です。本年度テーマに選ばれた9社へのインタビューをおこない、技術についてや本アワードに期待することなどをお聞きしました。


お話:株式会社セルファイバ 代表取締役創業者 安達亜希氏

ひも状三次元組織「細胞ファイバ」は、東京大学生産技術研究所 竹内昌治研究室で開発された、生きた細胞をまるで糸のように扱えるという特性をもつ紐状の構造体。株式会社セルファイバは、その細胞ファイバを使って再生医療、健康食品、化粧品、環境等の分野にイノベーションを起こすことが期待されるスタートアップ企業だ。管理が容易ではないために細胞はこれまでものづくりに活かすことが難しかったが、細胞ファイバをいれものにして紐状に加工することで、細胞を幅広く活用することができる。見た目も美しく医療だけでなく、食品や美容の分野でのものづくりへの応用が期待されている。竹内昌治研究室出身でセルファイバ代表取締役創業者の安達さんに細胞ファイバの可能性について聞いた。

あらゆる生命を構成する細胞をより身近なものに。

ーー細胞ファイバとはどのようなものですか?ファイバ自体は人工物ですか?

人工物です。ゲルでできた細いチューブの中に生きた細胞や微生物を入れたものになります。細胞ファイバ技術は細胞を閉じ込めた管状の紐をつくることができる技術で す。チューブの中には、細胞以外にも液体などをいれることもできます。

ーーチューブの素材について教えてください。

アルギン酸といってゼリー状の物質でできています。食品にも使われている海藻由来の安全なもので、密閉度が高く中に入れた細胞などが外に漏れることはありません。細さは髪の毛のような細いものから、1mmくらいのものまであります。長さは原理的に材料が続く限りつくることができます。

ーー今回の応募動機を教えてください。

細胞ファイバ自体が本来何のために研究開発されたかというと、ファイバの中に細胞を入れて、医療に役立てたり薬をつくれないかということを目的としています。弊社としてはそれを本業として取り組んでいます。ですのでもとは一般消費者向けに開発された技術ではないのですが、この技術を通じて細胞を身近に感じていただきたいと思ったのが応募動機になります。ただ必ずしもファイバの中に細胞を入れなくてもいいと思っていて、というのも細胞を入れると栄養の入った培養液に入れたり、温度管理など中の細胞を生かしておくことが大変で、それですと今回の場合逆にアイデアの自由度が下がってしまうのではないかと思っています。見た目の面白さ、紐としてなにかつくるということであれば、中に入れるものは細胞であることにはこだわりません。

ーーとても難しい技術だと思ったので安心しました。それですと開発の幅が広がりますね。

はい。個人的にはファイバを使ってインスタ映えするお菓子がつくれないかなと思っていました(笑)。

ーー海藻由来のゼリー状のものですので食べるのも問題ないですし、食感も面白そうですね。

韓国でポッピングボバというゼリー状のものの中に液体が入ったスイーツがありますが、食品という切り口ですとそれの紐バージョンがつくれるんじゃないかと思いました。

ーー会社概要を教えてください。

2015年に東京大学初のベンチャーとして創業しました。もとは東京大学生産技術研究所 竹内昌治研究室で開発された技術をもとにしてできた会社になります。

ーーこれまで製品として開発されたものはありますか?

今年で4年目になりますが、これまでは開発フェーズでして、世に出ている製品があるわけではありません。現在は製薬会社さんやメーカーさんと契約して共同研究を進めています。研究段階から製品化や商業化に移るにあたって開発が必要な部分がまだあって、現在はその部分に取り組んでいます。

ーー細胞とお話を伺ったときに、デザインとマッチングにおいて新しさがあると同時に、難しさも感じたのですが、お話を伺ってファイバ自体をカジュアルにプロダクトとして使えたり、ものすごく可能性の広がりを感じました。

まさにおっしゃる通りで、細胞ファイバの開発コンセプトとして「細胞を使ったものづくり」というアイデアがあります。細胞って扱いにくいもので、小さくてすぐに死んでしまうものなんですね。だいたいが平面培養といって培養シャーレの底に貼り付いていて、温度管理も必要ですし、扱うこと自体とてもむずかしいことなんです。それを三次元である紐状にすることで、長期保存をすることが可能で、扱いも持ち運びも容易になります。紐なので編んだり折ったりすることもでき、現在の技術では容易ではないのですが細胞を使った織物をつくることも物理的には可能です。細胞ということにとらわれず、敷居を低く使っていただけるといいのかなと思っています。

ーー管理の難しい細胞を細胞ファイバの中に入れてこれまでより身近に「見る教材」としても使えるのですね。ファイバ自体は液体で保存する必要があるのですか?

細胞を生かしておくためには培養液に入れて適切な温度管理をしておく必要がありますが、そうでない食べ物のようなものであれば、必ずしも液体の中に入れておく必要があるわけではありません。

ーー例えば食品のグミのように扱うことも可能ですか?

 そうですね。食感的にはもずくのさらに細いものという感じです。

ーー先ほど太さのお話がありましが、1mmが限界ですか?

そうですね。それ以上になると原理的につくれなくて、例えばうどんのような太さのものはつくることができません。

ーーそれと中空であるというところが肝ですよね。

はい。ただの細いゲルの紐であればこの技術である必要がなくなってしまいます。

ーー見た目がきれいなので、食品だけでなく液体とともに容器に入れてアクセサリーにもなりそうですね。

 ファッションにもいいですよね。社内の雑談レベルですが、自分の細胞が入った細胞ファイバをアクセサリーとして身にまとうというアイデアもありました。


細胞で社会に貢献できるものづくりを。

ーーそもそもこの技術に着目した理由を教えてください。

もともとバイオとエンジニアリングの境界でできたものですので、これでいろんなものがつくれたらいいなと思っています。細胞ってすごくて、現在の技術では人工的につくることができないものなんです。それをものづくり材料として使うことができれば、ものをつくるということの可能性がすごく広がるのではと考えています。例えば、細胞でつくったものを体の中で機能させるという意味では、人工臓器もその延長にあります。ペースメーカーのような金属でできたものを人体に埋めるという技術がありますが、それだと自然とはいえない状態です。遠い未来の話にはなりますが、それをもともと体をつくっている細胞でつくることができれば、より自然な状態を実現することが可能になるのではないかと思っています。

ーー細胞ファイバは細胞を入れて保存したり培養する容器でもあるんですね。

そうです。アルギン酸に包まれているので、振ったりゆすったりしても中の細胞には影響が少ないという特徴があります。それは遠方への細胞の輸送にもメリットがあります。それと細胞を薬のようにして扱うという医療が行なわれはじめていて、細胞ファイバの中で増やした細胞を使ったり、薬自体を細胞につくらせてそれを投与するということも可能になります。

ーーさまざまな可能性をもった技術なんですね。サンプルで見せていただいたものは、液体に入った色のついた液体が封入された紐状のもので、細胞ファイバ自体が単純に美しいことに驚きました。

ありがとうございます。透明なものだけではなくいろんなものをつくることが可能になってきています。見た目的な面白さという意味で、細胞ファイバを使ったものづくりにも可能性が広がっていると思います。

ーーラボ内はまさに研究室といった感じですが、設備はどのようなものがありますか?

 細胞ファイバをつくる道具として、液体を注射器で連続して押し出すポンプ、ファイバなどを保存するための冷蔵庫、細胞を一定の温度に保つ培養器、遠心分離機などがあります。

ーー今回の製品の開発にあたっても研究者の方と密接なものづくりが可能ですか?

 はい。まだまだ小さな組織ですがデザイナーさんと一緒にものづくりができればと思っています。

ーー今回デザインにはどのようなことを期待されますか?

私の思いとしては、細胞や先端技術を今より身近なものにしたいという思いがあります。一般の方は、研究室で考えたりつくったものに対して、どうしても気持ちが悪いという印象を受けがちだと思います(笑)。もっとスマートで、見た目にもキャッチーなものができれば多くの方に手に取っていただくものができるのではないかと。細胞ファイバを使ってカッコいいとか可愛いと思ってもらえるようなデザイン性のあるものができればと思っています。

ーー実際今回拝見して、これまで考えたことがなかったような細胞の扱い方や、科学っていろんなことが出来るんだと細胞を見る目が変わりました。

そういっていただけると嬉しいです。私自身、人体やバイオテクノロジーが好きで、子供の頃は医者になりたいと思っていました。勉強していくうちに生き物がもつ自然の能力の凄さを知りました。それをうまく使うことで、より社会がよくなるものがつくれるんじゃないかという思いから、バイオテクノロジーと工学を一緒に研究できる研究室に入りました。最近ではAIのほうが注目されていて、科学離れとか言われていますが、ウェットなものの存在感が薄れていたら寂しいと思っています。細胞は生き物ですので、細胞ファイバの技術を通じて、生きているものの良さも感じてもらえるようなものが開発できれば嬉しいです。

株式会社セルファイバ(文京区)https://cellfiber.jp

テーマ:生きた細胞をものづくりの材料に変える「細胞ファイバ技術」

細長いひも状の細胞構造体を作製する技術「細胞ファイバ」の実用化を目指し、2015年に設立された東大発のスタートアップ企業。代表一人から始まり、大学発ベンチャーならではの困難を乗り越えて拡大。現在は、博士号を取得したメンバーを含む常勤7名の体制で研究開発に取り組む。細胞や微生物という生きた素材とものづくり技術を組み合わせ、医療・創薬・食品などさまざまな分野で新たな価値を生み出すことを目指す。30代前半~半ばの研究者出身のメンバーが多く、各自が社内でのミッションを持ちながら自由研究にも取り組むことで、日々新たな成果が生まれている。

インタビューと写真:加藤孝司


2019年度東京ビジネスデザインアワード

デザイン提案募集期間 10月27日(日)まで 

応募資格 国内在住のデザイナー、プロデューサー、プランナーなど 

応募費用 無料 

詳細は公式ウェブサイトをご覧ください

https://www.tokyo-design.ne.jp/award.html

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