2026TBDAテーマ企業インタビュー:株式会社ピリカ
2026年度東京ビジネスデザインアワード
「東京ビジネスデザインアワード」は、東京都内のものづくり中小企業と優れた課題解決力・提案力を併せ持つデザイナーとが協働することを目的とした、企業参加型のデザイン・事業提案コンペティションです。
企業の持つ「技術」や「素材」をテーマとして発表、そのテーマに対するビジネスモデルを含めた新たな製品・用途開発・ブランディング案をデザイナーからの「提案」として募集しています。
2026年度はテーマ8件の発表をおこない、10月27日(火)23:59までデザイン提案を募集中。本年度テーマに選ばれた8社へのインタビューをおこない、技術や素材について、本アワードに期待することなどをお聞きしました。
テーマ名:選別・洗浄が不要な混合廃プラスチックからのリサイクル技術
テーマ企業:株式会社ピリカ
『ごみの「出口」をデザインする』
道端のごみや、川から海へ流れ出すプラスチック。目の前から消えたごみが、その後どこへ行くのかを私たちはあまり考えることはなくものを消費している。2011年に京都大学発のスタートアップとして創業した株式会社ピリカ(代表・小嶌不二夫氏)は、ごみの自然流出問題を起点に、回収、可視化、リサイクルまでさまざまな角度から環境問題に取り組んでいる。なかでも注目されるのが、河川調査から見えてきた人工芝をはじめ、選別・洗浄が難しい混合プラスチックを板材へと変える取り組みだ。ごみを回収する「入口」はあっても、リサイクルした素材の「出口」がなければ循環は生まれない。ピリカのリサイクルチームの市川翔太氏に、これまでの取り組みと、デザインに託す未来について聞いた。
お話:株式会社ピリカ リサイクルチーム 市川翔太氏
ごみの自然流出を止めるために
──まず、株式会社ピリカについて、創業の経緯や、どのようなことをしている会社なのか教えてください。
市川:株式会社ピリカは、2011年に京都大学から始まったスタートアップ企業です。現在は、環境問題の中でも、まず「ごみの自然流出問題」に取り組んでいます。
ごみの自然流出問題とは、道端に落ちているものや、海岸に漂着してしまったものなど、適切に処理されず自然に出ていってしまったごみの問題です。私たちは、その解決を目指しています。
会社のミッションとしては、2040年までに、自然に出ていってしまうごみの量よりも、回収される量のほうが多い状態に逆転させたいと考えています。
そのために、どこにごみがあるのかを調査したり、ごみが出ないようにするにはどうすればいいのかを考えたり、回収量を増やすための取り組みも行っています。
市川:具体的には、ごみ拾いボランティアの方々のためのアプリや、道路の写真から画像認識技術でごみを把握するサービス、企業や自治体への提言・助言などがあります。私が所属しているリサイクルチームでは、回収量を増やすためにリサイクル製品の開発や営業を行っています。最近は新規事業で海岸のごみを回収するロボットも作っています。
──ロボットもですか。有名なのが「SNSピリカ」や「タカノメ」、「アルバトロス」ですね。
市川:SNSピリカは、ごみ拾いを共有するSNSです。「ピリカ」はアイヌ語で「きれい」「美しい」という意味があります。現在、このアプリを通じて137の国と地域で4.6億個以上のごみが回収されています。(2026年9月時点)
投稿すると「いいね」の代わりに「ありがとう」が届く仕組みになっています。人から感謝されることをモチベーションにして活動している方もいると思います。私自身も旅行のような感覚で、いろいろな地域でごみを拾っています。
──自宅の前ならいざ知らず、街の中でごみを見つけてもなかなか拾って適切に処分するまではいきませんが、そのきっかけになるツールですね。「タカノメ」はまさにタカの目になって、ごみがどこにあるかを可視化するツールであるとか?
市川:はい。「タカノメ」には徒歩版と自動車版があります。道路を撮影し、画像認識技術でごみの位置や量を把握して地図上に可視化します。ごみの多い場所を事前に知ることで、清掃活動の効率を高めたり、灰皿を置くなどの対策につなげたり、対策後の効果を検証したりできます。
実験では、ごみが多いと分かった場所で清掃活動を行っていただくことで、その地域での回収量が3倍になったという結果もあります。
もうひとつ、「アルバトロス」、これは水鳥のアルバトロス(あほうどりの英名)から名付けています。水域におけるマイクロプラスチックを調査する装置です。この調査を通じて、日本の河口や港湾に流れつき、大量に海に流出しているマイクロプラスチックに、「人工芝」が非常に多いことが分かりました。
── 「アルバトロス」を用いて人工芝が、自然流出するごみとして見えてきたわけですね。
市川:そうです。日本の川を約100カ所調査したところ、採取したごみのうち20~25%くらいが人工芝だったと分かりました。
人工芝はサッカー場やフットサル場、学校など、さまざまな場所で使われています。屋外に敷設されているものなので、流出する可能性が高い材料です。人工芝は芝・基布・充填材などの複数素材で構成されているためリサイクルが難しい製品です。また、人工芝の張り替えの際に発生する大量の廃棄人工芝や、充填材として使用されるゴムチップの流出問題も深刻です。ゴムチップは水より重いため、川の水面からは採取されません。実際には人工芝よりさらに流出量が多い可能性があります。
破砕前の人工芝
ごみは一方的な「悪者」ではない
──市川さん自身は、もともとなぜこの仕事に携わろうと思ったのでしょうか。
市川:もともと環境問題にはなんとなく興味があり。ごみが捨てられているのが嫌だなという気持ちはありました。
私は大学院までプラスチックなどの高分子に関する研究をしていたので、知識を生かせそうだと思って入ったのがきっかけです。入社したのは2024年です。
──どうやってピリカを知ったのですか?
市川:ITや技術系の情報をまとめているサイトで、「ごみ拾いで儲けている会社がある」という記事を見たことがありました。「そんなことで儲けられるのか」と思ったことを覚えていたんです。
その後、たまたまピリカが採用しているのを見つけて、「あのときの記事の会社だ」と思いました。それで受けてみたら、運よく受かって、今に至ります。
──人工芝については、環境に悪いものだからリサイクルを、という単純な話ではないですよね。
市川:私たちは人工芝そのものを悪いとは全然思っていません。使うのであれば、適正な使い方があると思っています。
その一つとして、フィルターを使って川や海に流れ出ないようにすることなど、複合的に取り組むことが重要です。そうすれば自治体にとってもメンテナンス性が良くなりますし、環境にとっても川に出ないので汚染が少なくなります。
──人工芝は、もともとは科学によって生まれた「夢のある素材」だったわけですよね。それが何十年後かには環境問題になっている。
市川:そういうことは、多くの同様の未来素材に対して言えると思います。
もちろん人工芝に限りませんが、流出が多いものは、なるべく流出する前にしっかり止めて、リサイクルできるような仕組みを作っていきたいと思っています。その第一歩として、まずこれをしっかりやりたいと思っています。
──その意味でも、「使い終わったものが、その後どこへ行くのか」を想像することが大切なのかもしれません。
市川:そうですね。
破砕後の人工芝
選別も洗浄もいらない混合廃プラスチックから作る板材
──今回のテーマである「選別・洗浄が不要な混合廃プラスチックからのリサイクル技術」について教えてください。
市川:現在の技術では、プラスチックを種類ごとにそれぞれ分離しないと、リサイクルが難しいと言われています。
プラスチック製品同士は見た目が似ていても、中の分子の形が違います。分子の形が違うので、溶ける温度も違います。そういうものを一緒に混ぜるとリサイクルしにくくなります。
そのため、基本的にはプラスチックの種類や製品ごとに分別し、異物を入れないために洗浄する必要があります。
私たちが取り組んでいるのは、そうした選別や洗浄が難しい、雑多なプラスチックごみを原料にできる材料です。
──その技術を開発した会社との出合いにより、取り組みが前に進んだということですね。
市川:混合廃プラスチックを選別不用で加工品の材料にするという、このリサイクル技術を作ったのは私たちではありません。栃木県の建設会社である「株式会社GoodHouse」が作った技術で、現在私たちが回収した人工芝を持ち込み、今は一緒に製品作りに取り組んでいます。
以前は人工芝をペレットにして別の製品を作っていましたが、人工芝は複合製品なので、分離する費用が高く、洗浄も必要でした。そこで、分けなくてもいい、複数のプラスチックが混ざったままでもいいものを作れるようになりたいと考え、この技術に出会いました。
現在は、人工芝と、工場で扱っているさまざまなプラスチックごみを混ぜて板材にしており、その板材の活用を本アワードのテーマとさせていただきました。
製造した板材(雑多なプラごみ由来)
──板材は、どのように加工するのでしょうか。
市川:押出成型で作っています。厚み2センチ、幅8センチのもの、厚み3センチ、幅9センチのもの、8センチ角のものなどがあり、大体180センチ、私の身長くらいまで成形されたものが出てきます。
それをカットしてベンチにしたり、サンプルとして出したりしています。
板材は木材のように丸ノコのようなもので切ることができますし、穴を開けたり、削ったり、ビスで留めたりできます。木材のように加工できますので、三次元的に使うこともできます。
ただ、かなり硬いので、木材よりも刃が早く欠けるという話はあります。
──耐久性はどうでしょう?
市川:プラスチックなので木材と異なり腐りません。5年分の耐候性試験では、照射後も推奨強度が維持されることを確認しています。20年以上ベンチとして使われている場所もあります。耐久性という面では木材より優れていると思っています。
──人工芝はグリーンですが、板材の色も特徴的ですね。
市川:人工芝を入れると、たまたま緑色になります。工場では色を統一するために着色剤を入れてグレーにするのが基本ですが、「芝から作られた」ということを知ってほしくて、着色剤を入れずに作ったものがこの色です。
木材の代わりなので「茶色にできませんか」という声も多く、茶色は作れることを確認しています。今後、配合を調整して、安く安定して作れるようにしたいと思っています。
製造した板材(一番左:原料に人工芝を配合、その他2つ:雑多なプラごみ由来)
「入口」はある。でも「出口」がない
──この素材が普及することで、社会にどんな変化が起きてほしいですか?
市川:まず、人工芝の問題を知ってほしいと思っています。
漁業の網などは、動物が絡まったというニュースが取り上げられることがあります。でも人工芝については、あまり認知が広がっていません。
こういうリサイクル素材が普及することで、「人工の芝だからプラスチックなのか」と知ってもらい、実はいろいろなプラスチック繊維が河川などに流れ出て、環境汚染につながっているということを知るきっかけになればと思っています。
もう一つは、川に流れつき廃棄されていたものが、こんな硬い板になるんだと知ってもらうことです。「それなら、ほかのものもリサイクルできるかもしれない」と、分別する意識につながれば、より良い社会になるのではないかと思っています。
──今回、東京ビジネスデザインアワードに応募した理由も、そこにあるんですね。
市川:そうです。私たちとしては、入り口となるごみについては、いろいろな相談をいただいています。そのため、入り口はある程度確保できると思っています。
一方で、出口が今は多くありません。せっかく入り口がたくさんあっても、出口がなければ、リサイクルしたくてもできません。まさに出口を広げるような施策や、それが広がっていくような製品を一緒に作っていきたいと思っています。
──これまでにもデザインとの取り組みはあったのですか?
市川:去年、ベンチをもっとかっこよくするデザインや、そもそもベンチ以外のものを作れないかということで、製品ラインアップを広げるためにデザインに取り組みました。
ただ、板材が結構大きいんです。木材のようにしか加工できないものなので、一般の方が手に取るようなものや、別の形のものは、私自身まだほとんど試したことがありません。
本当は、みんなが手に取りやすくて、できるだけ多くの出口があったほうがいいと思っています。そこを作っていくために、今回応募しました。
──具体的に、作ってみたいものはありますか?
市川:あくまで個人的にですが、ハンガーを作りたいと思っています。ハンガーにはプラスチックや木材などの素材で作られたものがありますが、基本的には木材のほうが高級に見えるので好まれます。一方で、木材は高いので、値段を重視する人はプラスチックを使います。
プラスチックも石油価格などの影響で高くなっていて、クリーニング店などの経営を圧迫していると聞いています。
そもそもハンガーにはワンウェイの要素があります。クリーニングのハンガーなど、一回使ったら終わりというものです。そういうものをリサイクル製品に置き換えていければいいのではないかと思っています。もちろんハンガー以外にもあると思います。
──ウッドデッキなど、建材のような使い方も可能ですか?
市川:できます。リサイクルで作られるベンチと同じ試験規格なので、ベンチと同様にウッドデッキにも使うことができます。
建材のような使い方も、金型の大きさを変えれば可能だと思います。ただし、建材になると建築基準法や難燃・不燃性などの問題があります。瓦なども可能性はあると思いますが、家の場合は見栄えや色の統一が大事になるので、そこをどう安定させるかが課題になります。
破砕後の人工芝
デザインの力で「出口」を増やす
──では、今回どんなデザイナーと出会いたいですか?
市川:環境問題に関心のあるデザイナーの方はもちろん、お客さまが廃棄物の扱いに困っているという方とも出会いたいです。そうした廃棄物を私たちが素材として活用し、デザイナーの方と一緒に新しい製品をつくることで、お客さまの課題解決につなげられるかもしれません。デザイナーの方にとっても新たな提案の機会になるような、三者それぞれに価値のある取り組みができればと思っています。
ご自身の課題だけでなくても構いません。「こういうお客さまが廃棄物で困っていたな」と思い出したのであれば、そういう方にも応募していただき、一緒に取り組んでいけたらと思っています。
──実際に素材を見たり、工場へ行ったりしながら進めることもできるんですね。
市川:もちろんです。私も月に一回くらいは栃木に行っていますので、工場に来ていただけるのであればご案内いたします。
図面を作っていただいて、それを木工所の方に見てもらい、「ここは補強材を入れたほうがいい」といったフィードバックをもらう。そこで修正して、実際に組んでみて、みんなで確認するという工程になると思います。
──これまでベンチも作ってきましたが、自治体向けには課題もありますよね。
市川:ベンチを提案すると、「工事までしてくれ」と言われることが多いです。動かされたり盗まれたりしないように、地面に打ち付けてほしいと言われます。
そうすると自治体の許可や、施工に関する資格などが必要になります。それを私たちが日本全国で持つのは厳しいと思っています。
また、人工芝から作るため、廃棄物処理法に則って最初はごみとして引き取り、いろいろな処理をして有価物にしたものを買い取っています。そのため、どうしてもコストがかかります。現在、Amazonでもベンチを販売していますが、競合商品との価格差もあり、まだあまり売れていません。
──民間のほうが可能性はありそうですか?
市川:これまでは自治体中心に提案してきましたが、例えば商業施設の屋外に、買い物客が座れるものを提案することも今後視野に入れたいです。
ベンチは都内ですと、隅田公園や、多摩の方でも10基程度設置しているので、実際座っていただける場所があります。
──そうなんですね。
市川:はい。自治体からは「杭を作ってほしい」と言われたこともあります。土地の境界などを示すために使うものです。ただ、これも入札案件になると、許可証や申請などの課題があります。
──ごみを集めるだけではなく、実際に使ってもらうところまでが重要なんですね。
市川:そうですね。売りたいです。売ったら、また回収できますから。
──最後に、2040年までに「自然に出ていくごみより、回収する量を多くする」という目標について、今どのくらい進んでいると感じていますか?
市川:まだ10万分の1程度で、今後も取り組みを大きく広げていく必要があります。一方で、製品をつくる企業が使用後の回収やリサイクルにも責任を持つ「拡大生産者責任」の考え方が各国で制度に取り入れられるなど、ごみの回収やリサイクルを後押しする仕組みは少しずつ広がっていると感じています。
私たちも、人の手による回収だけでなく、AIやロボットの技術開発を続けながら、回収量を増やす取り組みを加速していきたいです。
──その一方で、リサイクルをきっかけに、これまでつながっていなかった業界とも関係が広がっているという例はありますか?
市川:そうですね。漁業メーカーさんや漁具メーカーさんなどとも取り組んでいますし、サッカーチームともリサイクルをきっかけにたくさん取り組んでいます。横浜F・マリノスさんや名古屋グランパスさんなどです。
──デザインの力によって、人工芝から生まれた板材の「出口」が増えていけば、回収できるごみも増えていく時代が訪れるかもしれませんね。
市川:そうですね。デザイナーの方には絶対に私にはない視点をいただけると思います。ぜひご一緒させていただけるように私たちも頑張ります。
製造した板材(原料に人工芝を配合)
インタビュー・写真:加藤孝司
2026年度東京ビジネスデザインアワード https://design-award.metro.tokyo.lg.jp/award.html
各テーマ8件の詳細はこちら https://design-award.metro.tokyo.lg.jp/designer/#design_theme
デザイン提案募集期間:10月27日(火)23:59まで
応募資格:国内在住のデザイナー、プロデューサー、プランナーなど、テーマに対してビジネスモデルを含めた新たな製品・用途開発・ブランディング案などを提案できる方
応募費用:無料
詳細は公式ウェブサイトをご覧ください https://design-award.metro.tokyo.lg.jp/designer/






