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テーマ企業インタビュー:タピルス株式会社

2023年度東京ビジネスデザインアワード

「東京ビジネスデザインアワード」は、東京都内のものづくり中小企業と優れた課題解決力・提案力を併せ持つデザイナーとが協働することを目的とした、企業参加型のデザイン・事業提案コンペティションです。

企業の持つ「技術」や「素材」をテーマとして発表、そのテーマに対する企画から販売までの事業全体のデザイン提案を募ります。2023年度は、テーマ11件の発表をおこない、10月30日(月)14:00までデザイン提案を募集中です。本年度テーマに選ばれた11社へのインタビューをおこない、技術についてや本アワードに期待することなどをお聞きしました。


テーマ:細い繊維径の不織布 

「織らない」布である不織布はマスクなど目に見るところから、フィルターなどの見えないところまで、様々な物やシーンで使われている私たちの暮らしの身近にある製品だ。素材にはポリエステル、ポリプロピレン、レーヨン、コットン、麻、パルプなど熱可塑性樹脂が用いられ、衣料、建築、衛生用品、生活用資材として、それぞれの原料の特性を活かし用途ごとの製法で作られている。タピルス株式会社は樹脂からダイレクトに作る、メルトブロー不織布の専門メーカー。産業界を中心にその技術で長年企業の課題解決に取り組んできた。その強みを新たなものづくりに展開するアイデアが求められている。


お話:営業部長 亀井寿一氏、技術部長 開米教充氏

■高機能性でさまざまなニーズに対応
 ーー「細い繊維径の不織布」というテーマをあげていただきました。まずは今回のテーマを選ばれた理由から教えてください。

 大きくは多孔質という特徴を持つ不織布には、湿式、スパンボンドなどいくつか種類があり、私たちが作っているメルトブロー不織布は一般の方にはなかなか目に触れることのない、いわゆる縁の下の力持ち的役割を担ってきた素材です。そういったものをデザインの力でどのように姿を変えていくことができるのか、そこに興味を持ちこのテーマにしました。
 ーー不織布は最も身近なところではマスクなど私たちの生活の身近なところに使われている素材です。縁の下の力持ち的な存在というお話がありましたが、その用途展開も含めて現在お持ちの課題を教えてください。
 長年メルトブロー不織布を手がけてきましたが、これまでの展開はすべて技術課題の解決により用途拡大を図ってきました。近年ですとコロナ禍で必需品となったマスクを筆頭に、障子紙の代替として不織布が使われるようになったり、私たちの暮らしの身近な場所で使われるようになっている技術です。私たちが作っているメルトブロー不織布に関しましては、なかなか目に見えるところに出たことがありません。メルトブロー不織布は、極細繊維に特徴があり、そこに対する技術的な部分から産業界にアプローチをしてきた訳ですが、また違った切り口でのアプローチはないものかと長年苦慮してきました。そこでデザイン的な考え方など、全く異なる切り口から不織布を見ていただくことができれば、また違った用途展開が見えてくるのではないかと思った次第です。

ーー御社はメルトブロー不織布の専業メーカーで国内における先駆者でおられます。一般的にはあまり耳に馴染みのないメルトブロー不織布について教えてください。
 メルトブロー不織布の製法はアメリカの海軍研究所で開発され、Exxon社が技術継承した製法になります。一般的な不織布は、樹脂チップを溶融したもので糸を作りそれを布状に分散させ絡めたものを接着して作る「織らない布」のことです。一方、メルトブロー不織布は同じ不織布でも樹脂からダイレクトに作るという違いがあります。似たような方法で製造される不織布にスパンボンド不織布があります。メルトブロー不織布は機械的に熱で溶けているうちにコレクターで集め繊維同士を絡ませ定着させているのに対し、スパンボンド不織布は集積した繊維を熱エンボスなどで接着をするという違いがあります。私たちが普段使用しているマスクを例にとりますと、大まかに三層構造になっています。外側と肌に直接触れる部分に強度や吸水する役割としてスパンボンド不織布等、その二つに挟まれウイルスなどを吸着させるフィルターの役割をしている目の細かなものがメルトブロー不織布、と考えていただけるとその違いが分かるかと思います。
 ーーメルトブロー不織布の代表的な使用例や素材としての特徴を教えてください。
 先ほども申しました通り、メルトブロー不織布は従来の不織布と比べて繊維を細く作れるという特徴があります。用途はマスクのメインフィルター、半導体工場の純水や飲料メーカーなど細かい粒子を取らなければならない産業用の液体用フィルター、空気中のエアフィルター、ビルや車、空気清浄機、リチウム電池の内部などさまざまなものに使われています。見ためも、目の粗いざらざらとしたものからきめ細かな布のようなスムーズな質感をもったものまであります。それとカーテンのようにドレープ性が良く、形に寄り添うという特徴もあります。繊維径も幅広いものが使えるので、いろいろな用途を持った不織布を作ることが可能です。あと9割は空気でシートの厚みも自由自在で作れ、水をはじいて油だけを吸う特性もあるため、海難事故など油流失の際には油吸着シートとして使われることもあります。製造面においては他の種類の不織布に比べて設備を比較的コンパクトに出来るというメリットもあります。

 ーーちなみに細い繊維で作るメルトブロー不織布は工業用フィルターとして多くのシーンで使われています。これが出来るまではどのようなものがその機能を代替していたのでしょうか?
 主にはガラス繊維で作ったガラスフィルターです。これは経済的な理由から現在も使われていますが、人体に影響があることから空気中に使うものとしてはあまり良くないと言われています。

 ■求められる新規な切り口の使用用途
 ーー不織布の定義と使われる素材、どのような用途目的で開発されたのかなどについて教えてください。

 縦糸と横糸を織ったり編んだりして組む「織布」に対して、「織らない布」が不織布で様々な製造方法があります。弊社のメルトブローですと1970年代に日本に導入された時点で、現在使われているようなマスクやセパレーター、液体フィルターへの展開は、既に注目されていました。当初使われていた素材はポリプロピレンであり、その後、耐熱性を高くするためポリエステルへの展開、親水性を持たせるためのナイロン等への展開が進んでいきました。また、ポリエチレンに関しては、耐溶出性能、耐紫外線等の理由で市場からの要求があります。

 ーー今回のテーマが細い繊維径の不織布とありますが、不織布製造における細さの定義を教えてください。
 一般的な不織布に使われる繊維径が15〜30ミクロンほどの直径であるのに対し、メルトブロー不織布の平均繊維径は1ミクロンと数字だけみても極細であることがお分かりいただけると思います。ウェブといわれるシートの厚みも重要で一定の厚みになるようにプレスにより調整します。
 液体の場合は濾過する粒子の大きさによって繊維径や目の細かさが変わってきます。例えば搾りかすを濾過するワイン製造における工程では、細すぎるものだとすぐに目が詰まってしまいます。そういったものですと粗い繊維を使いますし、半導体のようなものでも段階的に粗さの異なるフィルターを何層か使います。

 ーーマスクのように単品で使われることもあれば、身近なものですとアウトドアツールの濾過器のように繊維径の異なるシートの組み合わせで使われることもあるのですね。
 そうです。用途によって一種類のフィルターの場合もあれば、粗いもの、細かいものと異なる何種類もの不織布を使うこともあります。
 ーー今回のアワードでは素材の優れた機能性とともに、メルトブロー不織布の素材としてのユニークさに着目される方もおられると思います。不織布のプロであるお二人が考える素材としての面白さとその可能性についてお聞かせください。
 面白い素材であることは間違いがないのですが、使ってみると違いが分かっても見た目は白い布状のものですし、その面白さが伝わりにくい素材であるのも課題です(笑)。それとこれはどんな業種にも言えるのかもしれませんが、中の人間だけでは新しい発想を生み出しにくいという難題があります。特にメルトブロー不織布は、小さな粒子を取り除くフィルター性能を売りに用途展開されてきました。各種フィルターや、マスク、セパレーターも同じ発想から生まれた製品になります。


ーー最近ですとどんな使われ方がありますか?
 近年メルトブロー不織布の繊維の細さが、高音域の吸音に有効であることが認められてきており、吸音材などへの展開も始まっています。スパンボンド不織布に限りますと最近は切花の包むものにも使われています。メルトブロー不織布の場合は現状強度の問題もありなかなか難しいのですが、このように新しいコンセプトに基づき新しい用途展開が可能になっていると感じており、新たな切り口がないかと探っています。
 ーー確かに、メルトブロー不織布は目の細かさにもよりますが木綿のようなやわらかな触り心地であったり、和紙やコピー用紙のような質感、しなやかでほどけやすいものもあったり実に個性的ですね。ビジネスモデルとの兼ね合いにもなると思いますが、着色や、不織布+何かなど他不織布や布との貼り合わせ、別素材との組み合わせなどどのようなことが現状可能でしょうか?
 技術的には着色は可能なのですが工場内ではコンタミネーション防止の観点から現在着色等の加工は行っておりません。委託加工を受けてくれる会社があれば可能ですが、実施経験がございません。他不織布との貼り合わせは、協力会社において複数の手法で実績があります。水系の含浸処理も二次加工として経験があります。

 

■困り事を解決する新しいアイデア
 ーーメルトブローの製造工程では樹脂繊維を吹き付けてシート状のウェブに加工しますが、例えば板状のものや球体、ランプシェードの骨組みのようなものなど、既存のものへ繊維を塗布することは可能でしょうか?

 弊社では量産をする際の大型の機械の他に試作をするパイロット機もあります。吹き付けて口に支持体のようなものをかざし、そこに塗布することは原理的に可能です。ただパイロット機を1日動かすと20万ほどかかり価格的なネックはあります。球体等、形の異なるコレクターへの吹付においては、通常の設備使用状況と異なりますので、作業の安全を確認して実施する必要があります。具体的なアイデアは工場の承認を得て実行することになりますが、まさに我々が思いつかない使い方とはそういうことなのではないかと思います。
ーー不織布は平らなものという印象ですが、器のような形に繊維を吹きかけて形を作り、その形を保持することは可能ですか?
  私たちはウェブで平に作っていますが、繊維同士が融着していて絡まり合っていますので、形を保つことは出来ます。
ーーこれまでトライして出来なかったものはございますか?
  以前、支給していただいた別のシートに繊維を吹き付けて一体化した製品を作りたいというご要望をいただいたことがありました。ですが先ほどのランプシェードのように他の素材に吹き付けて形作ることは原理的には出来るのですが、吹き付けるだけでは別のシートと一体化させることはできず、接着力がないため簡単にはがれてしまいました。
 ーー今回はデザイナーやプランナーなどとの協働事業になります。御社がビジネス展開をする上で課題とされていることを教えてください。
 価格も一つ課題としてあると考えます。メルトブローは生産性があまり高くなく、生産性の高いスパンボンドと比べると値段が割高になります。ですので包装材のような同じ用途ですと、安価なスパンボンドが使われるのはやむをえないことだと思います。
 メルトブロー不織布の特徴を活かした分野は、かなり限られたニッチな市場であり、さらに新しい分野へのビジネス展開にはこれまでにない発想と出会いが必要であると考えます。これまでも技術的アプローチだけで新たな分野に展開できた事例はわずかで、いまだに半世紀前から期待されていたフィルター、マスク、セパレーターが主要市場になっています。新たな柱としての新規市場の開拓が急務であり課題と考えています。

 ーー素材や技術的なことに興味がある方など、どんなデザイナーやプランナーと出会ってみたいですか?
 我々のメルトブロー不織布をつくる技術は、まだ知らないだけで世の中の困りごとの解決に一役かうことができるものだと考えています。技術的なことを全くご存知ではない方でも全然構いませんし、この素材を活かすことができるアイデアを一緒に考えてくださる方と出会いたいと切に希望しています。

インタビュー・写真:加藤孝司


タピルス株式会社

細い繊維径の不織布 

企業HP:https://www.tapyrus.co.jp

各テーマの詳細はこちら:https://www.tokyo-design.ne.jp/designer/#design_theme


2023年度東京ビジネスデザインアワード

デザイン提案募集期間 10月30日(月)14:00まで

応募資格:国内在住のデザイナー、プロデューサー、プランナーなど

応募費用:無料

詳細は公式ウェブサイトをご覧ください https://www.tokyo-design.ne.jp/designer/

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