テーマ企業インタビュー:株式会社石川
2018年度東京ビジネスデザインアワード
「東京ビジネスデザインアワード」は、東京都内のものづくり中小企業と優れた課題解決力・提案力を併せ持つデザイナーとが協働することを目的とした、企業参加型のデザイン・事業提案コンペティションです。
企業の持つ「技術」や「素材」をテーマとして発表、そのテーマに対する企画から販売までの事業全体のデザイン提案を募ります。2018年度は、テーマ9件の発表をおこない、10月25日(木)までデザイン提案を募集中です。
本年度テーマに選ばれた9社へのインタビューをおこない、技術についてや本アワードに期待することなどをお聞きしました。
高度な手作業による革小物製造技術
お話:株式会社石川 代表取締役社長 石川豊氏、専務取締役 石川二郎氏
ラボのような美しく清潔に整えられた工場で日々作り続けられている革製品。株式会社石川は1968年の創業以来、国内生産にこだわり紳士用財布を筆頭に、経年変化を楽しむことが出来る上質な革小物を手がけている企業。熟練した職人を多く擁し、全ての行程を社内でまかなうことが出来る。若手の人材育成にも積極的に取り組む同社の代表取締役社長の石川豊さんと専務取締役の石川二郎さんに話を伺った。
ーー創業は何年ですか?
革職人であった現会長が革小物製造メーカーとして1968年に創業しました。創業以来国内生産にこだわってものづくりをしてきた会社です。1981年には株式会社石川として設立し、昨年4月に本社を新設しました。
ーー社内の工場にはたくさんの職人さんがいらっしゃいましたが、現在何名ほど働いているのですか?
70名の従業員がいてこの社内のみで主に財布を作っています。革製品の製作行程には大きく分けて裁断、版押し、漉き、縫製の4つの行程があります。社外にもこの4つの専業者がおり、それぞれに仕事を依頼しています。というのも数を作るにはこの社内だけではまかなうことが出来ないという理由があり、専業者の方にお仕事を依頼しています。これはこのエリアの革製品製造には昔からそのような流れがありましたので、今でもその流れのままものづくりをしています。同時に社内でもその4つの工程が出来るようにもしています。
ーー御社の製品にはどのようなものがありますか?
弊社では紳士用財布をメインに、名刺入れ、キーケース、手帳なども作っています。
ーー製品は紳士物のみですか?
女性もののお財布やハンドバッグなども一部では作っていますが、98%ほどが紳士物になります。というのも紳士と婦人ものとでは革を漉く厚みなど作り方も異なります。紳士ものの財布はスーツの内ポケットに入れることが多いので、なるべく薄くする必要があるからです。そのために合わせの部分の革を薄く漉いて全体の厚みを整えています。
ーー御社の技術には0.2ミリの薄さまで、0.1ミリ単位で革を漉く高度な加工技術がありますが、それは革の厚みに繊細な調整が求められる紳士ものの財布を長年手がけてきたからこそ磨かれてきた技術なのですね。
おっしゃる通りです。へり先も薄くしたり角の部分を菊の花びらのように処理するのは紳士ものの特徴でもあると思います。肉の部分の厚みも調節しています。カーフは0.9ミリしか肉の厚みがありません。スマートにすっきり胸元に入る財布です。
ーー製品はどのようなところに流通していますか?
百貨店さんや専門店さんが中心になります。それと弊社では100%OEMの生産をしていますので、自社ブランドはございません。紳士のお財布、ビジネススーツに合わせるようなビジネス寄りの製品を昔から作り続けています。ですが同じお財布でもサイズの大きさや、カードが入るようなものなど、時代や流行によって変わっています。
ーー本ビジネスデザインアワードのテーマにもありますが「90%以上を手作業で行う」という部分での御社の製品の特徴とこだわりについて教えてください。
製造には機械も使いますが、ほとんどの工程を職人の手で作っているのが弊社の革製品の特徴になります。糊付やミシンなどの工程には職人の手仕事が欠かせません。手作業は職人それぞれの技術ですので、その職人一人ひとりの技でお客様に喜ばれる製品を創業以来作り続けてきたという自負があります。
縫製をするところが技術と思われがちですが、革小物作りには先ほどの4つの工程すべてがそろってひとつの技術になります。ミシンを踏む人、くみ上げる人だけがうまければ良い製品が作れるというものではありません。今回は弊社がもつすべての技術を用いて、新しい何かに転換していただけるような案を期待しています。
ーー裁断、版押し、革漉き、縫製という4つの技術について詳しく教えてください。
裁断に関しては商品のパーツが分かっていないと裁断が出来ませんし、効率良く革を裁断する目が必要になります。裁ったものに関してもきちんとチェックをしています。革漉きに関しては広く漉き過ぎても厚く漉き過ぎても薄く漉き過ぎてもいけません。それは縫製の段階で職人に分かってしまいます。この厚さで漉けば仕上がりはこうなるということが分かっていないと良い製品は作れませんし、商品の良し悪しに反映してくる大事な仕事です。
ーー素材となる革にはどのようなものを使っていますか?
国内の革屋さんを通して仕入れています。国産、海外産半々くらいで、牛、豚、ディア、羊、コードバンなどを使っています。なかでも牛が80%ほどで、牛の中でもソフトなものやハードなものなど、作るものによって異なりますが、革屋さんから入ってくるものをきちんと社内で選別する作業も大切です。OEMの製品になりますので、先方が使いたい革のご要望がありますが、弊社には革を見立てる職人もいますので、弊社としてもこのような革がありますとご提案させていただくこともあります。
使うたびに愛着が増す革という素材
ーーお客さんは国内が多いですか?
弊社では問屋さんと言いますが、国内がほとんどです。ですが、国内の方でも海外のブランドをやっている場合もあります。
ーー工場にある道具も使い込まれているものが多かったのですが、長年使い続けている道具が多いのですか?
小さな道具に関しては職人自ら自分が使いやすいように作っています。菊よせの道具や糊を塗るときの竹べら、ねんなどは、入社して数年経ったら職人自らに作らせています。道具は自分が製品を作りやすいように変形させていきます。
ーー御社のものづくりのこだわりを教えてください。
私も元々職人ですし、会社の中枢にいる人間もしっかりものづくりを知っていることが私たちの強みになります。作ることが出来ないと指示をすることもできません。
ーーものづくりの喜びを教えてください。
自分で作ったものが形になることが、ものづくりの最大の喜びになります。お客様に長く愛用していただく製品を見た時も嬉しいですね。弊社では修理も承っているのですが、大切に使い込まれた製品を見ると、この製品をここまで使ってくれているのだと嬉しくなります。時々デパートや専門店の売り場に行って自分たちの製品を見ることも作り手冥利に尽きる喜びですね。
ーーこれまでOEMのみを手がけてこられて、今回のビジネスデザインアワードに応募された背景には、自社のオリジナル製品を手がけたいという希望があったのでしょうか?
これまでも思ってきたこともあったのですが、メーカーとして名前を知っていただく機会を少しでも作っていけたらと思っています。これまでOEMとしてお客様第一でやってきましたし、これからもお客様を大切にしながらも、これからの時代あらゆる垣根を取払いながら新しいものづくりをやらなければいけないと思っています。
ーーそこにはどのような問題意識や課題があるとお考えですか?
そうですね。日本ではまだまだですが、海外ではキャッシュレス化が進んでいます。そうするとお財布の形態も変わって来るのではないかと思っています。そんな時代を見据えたものづくりをしなければいけない、ということも一つ課題として思っているところです。
ーーそんな中、やはりこだわるのは革という素材ですか?
はい。ものづくりに携わっている以上、何かにこだわりがあるべきではないでしょうか。ただ時代に合わせているだけでは、流されて違う方向に行ってしまいます。
ーー経年変化というか、他の素材にはない愛着が湧いてくるのも革という素材の特徴だと思います。
そうなんです。革も経年変化するものとしないものがあって、紳士ものは経年変化するものが多く、婦人ものは変わることを嫌います。というところも弊社が紳士ものが多い理由です。革は使うほどにつやが出て良いものになる革を選んでいますので、愛着を持って使っていただきたいと思っています。
ーー先ほどお話があったように、世の中の流れは時代とともに変化していきます。これからは守り続けるところと変わるべきところのさじ加減が重要になってくると思います。御社が今後目指して行く方向性について教えてください。
基本のところをしっかり押さえつつ、自分たちに何が出来るのか試行錯誤しながら、未来をしっかり考えていく必要があると思っています。そういった点では時代が変わっていく中で、革で何が出来るのかいつも考えています。この業界も厳しい時代があって、その頃アジアに生産拠点を移したところもあります。そのような会社さんは今大変苦労をされていると聞きます。弊社は自社製、日本製にこだわってきたおかげで、今もなんとかやらせていただいています。そこで大切になってくるのが先ほどからお話している「基本線」です。
その上で何にどうチャレンジしていくことができるのか、今回のビジネスデザインアワードではデザイナーの皆さんと一緒に考えていければと思っています。私たちは長年財布作りに携わってきましたので、財布しか頭にありませんが、私たちが財布作りで蓄積してきた技術で、どんなものを作ることができるのか、その部分での提案にも今回とても期待しています。
株式会社石川(江東区)http://www.iskwjp.com/
1968年(昭和43)の創業以来、革製品の財布、名刺入れ、手帳カバーなどをOEMにて手がけてきたメーカーである。業界主催の革製品技能試験紳士小物部門では、2016年度の6回目までに全国で最高位の一級合格者12名の内、7名を当社から輩出している。一級職人を増やすべく若手の人材育成にも力を入れている。
インタビューと写真:加藤孝司
2018年度東京ビジネスデザインアワード
応募資格 国内在住のデザイナー、プロデューサー、プランナーなど
応募費用 無料
詳細は公式ウェブサイトをご覧ください
https://www.tokyo-design.ne.jp/award.html