公益財団法人日本デザイン振興会 公益財団法人日本デザイン振興会
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テーマ企業インタビュー:GLASS-LAB

2018年度東京ビジネスデザインアワード

東京ビジネスデザインアワード」は、東京都内のものづくり中小企業と優れた課題解決力・提案力を併せ持つデザイナーとが協働することを目的とした、企業参加型のデザイン・事業提案コンペティションです。

企業の持つ「技術」や「素材」をテーマとして発表、そのテーマに対する企画から販売までの事業全体のデザイン提案を募ります。2018年度は、テーマ9件の発表をおこない、10月25日(木)までデザイン提案を募集中です。

本年度テーマに選ばれた9社へのインタビューをおこない、技術についてや本アワードに期待することなどをお聞きしました。


二つの技術で心をゆさぶる製品を提供する

お話:GLASS-LAB CEO 椎名隆行氏

1950年創業のガラス加工業を家業に持つ椎名隆行さんがGLASS-LABを立ち上げたのは4年前。もの作りの街から、サードウェーブコーヒーなどのカルチャーの街として変貌を遂げた清澄白河に位置し、伝統技術である平切子を長年手がけ続けている。小さな工場には全ての機械がベルトで連動する研磨機が、小さく音をたてながら稼働している。線ではなく面を作るモダンな平切子と、サンドブラスの高度な技術の融合によるもの作りが期待されている。

 

現代ではレアな平切子という技術

ーー隆行さんで何代目ですか?

GLASS-LABとしては私が初代になります。

ーーそうでしたね。母体となる工場はどなたが立ち上げたのですか?

68年前に祖父がこの地に創業しました。

ーーそんな椎名さんがGLASS-LABを立ち上げた経緯を教えてください。

4年前に立ち上げたのですが、私自身家業は継がないと決めていました(笑)。学生時代にたまに家にバイトをしたりするのですが、まあつらくて一日やってられないんですよ。それで大学を出て不動産のポータルサイトの会社に就職をして10年ほど働いていました。独立はあまり考えていなかったのですが、会社の気風として先輩たちがどんどん独立をして行きました。ある年齢になった時に、自分でも何かをやってみたいという思いが強くなってきました。広告系とITのノウハウと人脈を生かして独立しようと思ったときに、それと何を掛け合わせれば自分の武器となるのかと考えたときに、ガラスの加工業を始める人っていないだろうということでGLASS-LABを立ち上げました。

ーー工房があるエリアは今コーヒーの聖地としても注目されていますね。

そうですね。近くにブルーボトルコーヒーなどサードウェーブ系のコーヒー屋さんが出来てから、若い人たちがたくさん来る街になりました。それまでは寺町なので賑わうときは唯一お彼岸の頃だけというよう街だったんですよ。それこそ近所のおじさんがステテコを履いて歩いているような街でした。

ーー工場見学もされているそうですね。

街が賑わい始めたタイミングで工場見学をスタートし、一階で物販も始めました。週末にはガラス加工体験も開催しています。日々の業務としては個人のお客様のガラスへの名入れサービスや、企業様の別注制作をしています。 


ーー今回の応募テーマは平切子とサンドブラストということですが、まずは平切子について教えてください。

平切子は切子といっても工芸品としての切子ではなくて、主にガラス作家さんやガラス工房さんのサポート役になります。江戸切子との大きな違いは、加工に使う刃になります。平切子はガラス製品の底面を平にすることがメインの技術で、江戸切子が山型の刃を使って線で表現するのに対し、大きな刃を使って面を作っていく切子です。祖父は江戸切子と平切子の両方が出来たそうです。

ーー同じ切子でも方法が全く異なるのですね。

そうです。江戸切子は伝統工芸の見直しもあり、職人さんが増えているのですが、平切子は現在では全国でも10軒くらいしかないそうで、今やレアな切子屋さんになってしまいました。そんなレアな技術であるのならば、きちんと表に出して上げるのもいいのかなと思って今回のテーマの一つにさせていただきました。

 

ーーもう一つのサンドブラストについて教えてください。

サンドブラストは私の弟(有限会社椎名硝子代表取締役)が職人としてやっています。基本的にサンドブラストの使い方としては名入れが主な仕事です。ガラスのトロフィーやグラスに入れるものが一般的で、サンドブラスト自体にさほど細かい技術は求められていません。そんな中、弟は手先が器用で、どれだけ細かな作業が出来るのかと突き詰めた結果、0.15mmという極めて細かな細工が出来るようになりました。

サンドブラスト自体はコンプレッサーの圧力と細かな砂を使ってグラスの表面に彫刻をする加工法です。細かな彫刻が難しい理由は、彫刻をする際にマスキングシートを用いるのですが、細工が細かければ細かいほど剥がれやすくなってしまいます。それを剥がさずに0.15mmをキチンと出して行く技術は、どこに使えば一番役に立つのか、どのように使ったら皆に喜んでもらえるのか、作り手である自分たちにとっても正直分からないんですね(笑)。そこにも今回皆さんのお知恵を拝借できればと思っています。

 

受け継ぎ革新する技術力で自社の可能性を追求する

ーー江戸切子と平切子の最大の違いを教えてください。

江戸切子が線で表現するのに対し、面を作るところです。刃にガラスの側面を押し付けて平に仕上げていきます。逆に江戸切子の機械や加工道具ではピタッとした面を作ることは出来ません。

ーー細工がないという意味ではシンプルな技術なのでしょうか?

シンプルはシンプルなのですが、めちゃくちゃ難しいです(笑)。私もやったことがあるのですが、削った後を見るとボコボコで全然平たくならないんです。



ーーとても繊細な技術なんですね。作業はすべてぶっつけ本番になりますか?

江戸切子も平切子も制作にあたっては割り出しといって下書きをして削るのが一般的です。

ーー平切子に関しては裏方的な仕事とおっしゃっていましたが、現在どのようなものを手がけていますか?

商品としては現在はグラスが中心になります。ガラスは透明なものですから液体との相性が良いと思っています。あとはピアスなどアクセサリー系にもチャレンジしています。ガラスとしての特徴は高い透明性だと思います。それは輝きも含めてアクリルやプラスチックとはまったく違います。


ーーITの仕事をされていたそうですが、他業種からみた、このガラス加工業界の課題と可能性とはどのようなものだとお考えですか?

私自身口を出す立場にはないので課題をあげることはできませんが、可能性に関してはまだまだあると思っています。弊社はガラス加工業なので、ガラス自体を作ることが出来ません。ですが、ガラス加工に関しては平切子とサンドブラストの可能性を追求している作り手はまだあまりいないんです。サンドブラストにしてもせいぜい名入れ程度で、デザイン的要素を切子と混合させた新しい表現が出来るのではないかと思っています。弊社では水を入れると桜が広がる、平切子とサンドブラストを組み合わせた桜柄のグラスを作っているのですがそれも良い例になると思います。

ーーデザイナーとの製品作りを進める段取りはどのようになりますか?

デザイナーさんからの加工依頼はこれまでもありましたが、うちの技術を使ってデザイナーさんと一緒に何かを作るのは僕らにとっても初の取り組みになります。

私自身デザインの力ってすごいと思っていて、最近この地域のイベントにも関わっていて、デザイナーさんと話す機会が増えているのですが、デザインの価値を皆で議論したことがありました。この先10年20年と価値を生み出し続けるものがデザインにはあると思っていて、ものすごく面白い世界だと思っています。

 

ーーその気づきはすごいですね。

ここ1年くらいでデザインについて少しは語ることが出来るようになったと思っています(笑)。彼らが生み出しているものが何なのか、ようやく最近分かるようになってきました。私の立場としては職人の気持ちも汲みつつ、デザイナーさんとともに歩んでいけるような、ハブの部分はしっかりできるのかなと思っています。

ーー近所には美味しいコーヒー屋さんもたくさんありますし、打ち合わせに来るのも楽しそうですね。

クライアントさんには必ず工場に来てもらってから打ち合わせをするようにしています。そうすると弊社の技術も分かっていただけるので、話がいい感じに進みますし、双方のアイデアも広がります。こんな人がこんな風に作っているんだと知っていただくためにも、ぜひ工場には足を運んでいたただきたいですね。

ーーGLASS-LABが目指すことを教えてください。

うちの社では「心ゆさぶる」と言っているのですが、買ってくださる方、贈られる方に、買って良かったと思ってもらえる、心ふるえる体験をしていただけるようなものづくりを心がけています。

この仕事をしていて印象に残っていることは、お客様で、お世話になった元上司の独立祝いの品をご依頼してくださった女性がいました。その女性とは、打ち合わせと8回を超えるデザイン修正を重ね、何度も何度もやりとりをしました。お祝いの品は、上司の方が立ち上げた新会社のロゴを彫刻した、世界で一つのオリジナルグラスが完成しました。私としては最多のデザイン修正数でとても印象的でしたし、女性の方に、元上司の方もとんでもなく喜んでくれたと報告をいただいておりました。それから1年後にGLASS-LABが出展していた展示会で、グラスを通じて弊社の事を覚えてくれていた元上司の方が僕に会いにきてくれたんです。わざわざ足を運んでご挨拶をいただいた上に、すごく喜んでくださって何度もお礼を言ってくださり、お話しているうちに、二人してその場で泣きそうになってしまったことがありました。その時は、僕自身も心ゆさぶる体験で、本当に嬉しかったですね。

そんな風にひとつでも多く私たちが作るグラスによって心をゆさぶることができたら。そういった意味では、商品というかパッケージ、体験も含めてみなさんの心をゆさぶることができるものをデザイナーさんと一緒に手がけることが出来たらと思っていますので、どうぞよろしくお願いいたします。


GLASS-LAB(江東区)  https://glass-labo.com/

“平切子“と“サンドブラスト“を掛け合わせた「特殊硝子加工技術」

1950年(昭和25)から続く硝子加工業の新ブランド。江戸切子の中でも線ではなく面を作る「平切子」の加工、表面に砂などの研磨材を吹き付け、グラスやガラス工芸品に美しいデザインを施すサンドブラスト加工においては、他にないほどの高い技術を持つ。また、工場見学や硝子加工体験などを通じてお客様と硝子をつなげる活動も続けている。


インタビューと写真:加藤孝司


2018年度東京ビジネスデザインアワード

募集期間 10月25日(木)まで
応募資格 国内在住のデザイナー、プロデューサー、プランナーなど
応募費用 無料
詳細は公式ウェブサイトをご覧ください

https://www.tokyo-design.ne.jp/award.html


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