テーマ企業インタビュー:東洋工業株式会社
2018年度東京ビジネスデザインアワード
「東京ビジネスデザインアワード」は、東京都内のものづくり中小企業と優れた課題解決力・提案力を併せ持つデザイナーとが協働することを目的とした、企業参加型のデザイン・事業提案コンペティションです。
企業の持つ「技術」や「素材」をテーマとして発表、そのテーマに対する企画から販売までの事業全体のデザイン提案を募ります。2018年度は、テーマ9件の発表をおこない、10月25日(木)までデザイン提案を募集中です。
本年度テーマに選ばれた9社へのインタビューをおこない、技術についてや本アワードに期待することなどをお聞きしました。
独自のレシピによるワックスブレンドの高い技術
お話:東洋工業株式会社 代表取締役社長 藤井省吾氏
昭和33年にキャンドル製造メーカーとして設立された東洋工業株式会社。工業用のろうそくから、独自のレシピでワックスと精油のブレンドにこだわったオリジナルキャンドルまで幅広いワックス製品を手がけている。自社の工場で試作を重ね、オリジナリティのある製品を手がけるなど、ものづくりへの意識の高さにも特徴がある。熟練した技術を生かした、キャンドルという枠を超えたワックス製品の提案が求められている。ストーリーのあるものづくりで注目される東洋工業の代表取締役の藤井省吾さんに話を聞いた。
原材料にこだわったものづくりを
ーーキャンドル製造をする以前は鉄鋼業をされていたそうですが業態転換をされたのはなぜでしょうか。
私が先代から聞いているのは終戦後しばらく経ち鉄鋼の需要がなくなり、輸出の時代を迎えるにあたり洋ろうそくの製造に切り替えたという話でした。
ーー当時は輸出用に洋ろうそくを始められたのですね。
はい。日本の当時の生活文化に洋ろうそくは一般的ではなかったのですが、ヨーロッパではライフスタイルの必需品でした。それでドイツからキャンドル製造の機械を輸入して、この事業を始めたと聞いています。
ーー機械自体珍しかったのですか?
当時は本格的な洋ろうそくを製造する機械は日本にはありませんでした。日本のライフスタイルを変えていくというよりも、これから日本の生活文化も変わっていくということを見据えて、輸出を主にした会社を始めたそうです。
ーー今はどんなものを作っていますか?
長いこと教会で使うような細長いキャンドル、スパイラルキャンドル、クリアカップキャンドルなど業務用のキャンドルがメインでしたが、小売りに使えるようなものが最近はメインになっています。当時と変わらず洋ろうそくを中心に作っていますが、時代が変わっていく中で最近では流し込みのアロマキャンドルなど雑貨よりの商品にシフトしていきました。
ーー現在の御社の代名詞でもあるアロマキャンドルはいつ頃から製造されているのでしょうか?
香りの旅をテーマにした弊社のアロマキャンドルシリーズ「ヴォヤージュ」が出来たのが2005年です。それまでは自社のオリジナル商品は無く、キャンドルメーカーとしてオリジナルアイテムを出すきっかけになりました。
ーー当時は世の中では雑貨屋さん全盛の時代で、ライフスタイルショップが出始めた頃ですね。東洋工業さんのキャンドルは製造、原材料、精油は全て日本製にこだわっているとお聞きしましたが、キャンドルの原料について教えてください。
主原料としてさまざまなものを使っているのですが、いわゆるパラフィンワックス、植物系のパームワックスなど、アロマキャンドルに関しては5種類の原料をブレンドし、香料を添加して作っています。
ーーワックスのブレンドがキャンドルにとって肝になるのでしょうか?
ブレンドが肝になると思います。一口にブレンドといっても、表面の仕上げをなめらかにするブレンドもありますし、口径に会わせた燃焼具合などはブレンドの仕方で決まってきます。ブレンドの仕方は各キャンドルメーカーがこだわっている部分だと思います。
ーーブレンドは匂いや色だけでなく、仕上がりにも影響してくるのですね。
大きく影響してきます。香りものであれば、香りももちろん変わってきますし、最終的な製品の仕上がりにも関係してきます。
専門家ならではの技が生み出す上質なアロマ製品
ーーアロマキャンドルは2000年前後を中心にヨーロッパ製のものが日本にも多く紹介されました。こんなにいい匂いのキャンドルがあるのだと驚いた記憶がありますが、当時は日本にはアロマキャンドルはなかったのでしょうか?
おそらく国産のアロマキャンドルはなかったか、あっても一般的ではなかったと思います。私自身この会社に入ったのは2004年なのですが、当時、海外もののアロマキャンドルが大人気で、日本でキャンドル製造をしている者にとっては市場を広げてくれたとてもありがたい出来事でした。そんな中、入社してすぐに、自分の会社はキャンドルメーカーなのになぜそのようなラインナップがないのか疑問に思いました。それが自社でアロマキャンドルを製造するようになったきっかけです。
ーー藤井さんはアロマの技術者のライセンスをお持ちですが、もともとアロマに造詣が深かったのでしょうか?
当時はアロマに関する知識はありませんでした。独学から始めて、オリジナルのアロマキャンドル「ヴォヤージュ」を作ることをきっかけにアロマのライセンスをとりました。
ーーそうだったんですね。アロマキャンドルを作る上で欠かせない素材を教えてください。
精油とキャンドル専用の香料が必要になります。精油はもちろん自然由来のナチュラルなものですので良いものなのですが、キャンドルとして使う上で熱に強いものである必要があります。というのも精油には熱に弱く香りがたちにくいものがあるからです。キャンドル専用の香料と、天然由来の精油をブレンドすることで弊社のアロマキャンドルは生まれています。
ーー現在職人さんは何名いらっしゃいますか?
東京の工場が2名、三重県鳥羽にある工場に2名、各工場にサポートで2名ほどの職人がいます。
ーー今日工場も拝見しましたが、キャンドル作りはその行程のほとんどが手仕事なんですね。
業務用のものは機械でも作りますが、アロマキャンドルを作る際にはどうしても手作業が多くなります。商品自体は職人が手作業でひとつひとつ型やグラスに流し込んで作っています。先ほど工場でご覧になっていただいたように、ワックスを注ぐ際にはヤカンも使いますし、小さなものだと急須も使用します。愛着をもってしっかり丁寧に作っています。
ーー香りに関してですが、どんな香りも作れるものなのでしょうか?
香りに関しては無限だと思います。例えば焼き肉の香りも作ることができるんですよ(笑)。そのような食欲をそそるものから、五感に訴えかける香りなど、さまざまな香りを作ることができます。
ーー調合はどのようにするのでしょうか?
例えばリンゴの香りといったときに、リンゴの香料がある訳ではありません。リンゴのような香りを作るパーツを、技術を頼りに調合することで作ります。弊社ではアロマの天然の精油を使うものが私の専門で、それ以外のものは香料メーカーの調香師さんにお願いしています。
最終的には私がブレンドした精油と調香師が持っているものを組み合わせて作るのですが、すぐに思い通りの香りを作れることもあれば、どこまでいっても平行線の場合もあり難しいプロセスです。香りは表現が難しいので、調香師との阿吽の呼吸という部分もあります。回数を重ねていくとだんだん思い通りのものが出来るということもあります。
ーー東洋工業さんのキャンドル作りは少量生産、大量生産のどちらにむいていますか?
弊社では一回で40リットル程度の釜でキャンドルを作りますので、100〜1,000くらいの単位で作るものを得意としています。それと微妙な色を表現する際に、釜を変えることでどうしても若干色が変わります。ロットは釜で完了した方が同じクオリティのものは作りやすいという傾向があります。
お客様のオーダーを受けて作るオリジナルに関しては100個からとご案内しているのですが、単価は上がってしまっても実際は10個20個なんてことも少なくありません。
ーーデザインに関しては型に流して作るものなど、ワックス製品であれば、どのようなものでも製作可能ですか?
はい。型ものこそ表現の幅は大きいと思っています。人形のような形や燭台のような複雑な形もいくつかの型を使うことで作ることができます。
ーー型の制作はどちらでされていますか?
個人のフィギュア作家さんにお願いしています。今は3Dプリンターを使うことも出来るのですが、職人さんの手彫りで作ることが多いです。
ーーこれまでオリジナル商品はどのようなところに流通していますか?
量販店さんというよりは、全国にあるオーナーさんの顔が見える雑貨屋さんなどの小売店さんがほとんどです。
ーー別注ものも数多く手がけていらっしゃいますね。
そうですね。アパレルメーカーさん、インテリアメーカーさん、百貨店さんともお仕事をさせていただいています。
ーー東洋工業さんならではのものづくりの利点について教えてください。
ロットについては無理のないところで出来ますし、造形ものに関しても自由に作ることができます。香りに関しても自社でGRASSE TOKYOという香りに特化したブランドもやっていますのでいろいろお応えできると思います。それと火を灯すキャンドルはもちろん、蝋=ワックスを使ったほかのアイテムや工業製品を作ることも出来ます。タイヤに使われたり、クリームやリップなど、ワックスにはさまざまな用途があります。私たちがまだ思いもつかないような用途があるのかなと思っています。
ーー東京ビジネスデザインアワードに期待することを教えてください。
キャンドルメーカーでいることで、逆にワックスの可能性に対してどうしても視野が狭くなってしまっているところがあります。ですのでデザイナーの皆さんには新しい意見をいただきたいと思っています。私たちにとって難題であっても、ぜひ挑戦してみたいと思っています。キャンドルに関してはレシピや経験があるので、形にしやすいと思うのですが、ワックスを素材として捉えた提案など、キャンドルから少し離れたことにもチャレンジしてみたいと思っています。
東洋工業株式会社(江東区)http://candles.co.jp/
ワックス(ロウ)のブレンドにこだわった「キャンドル製造技術」
1947年(昭和22)創業。原料の精製から製造まで、メイドインジャパンにこだわり、キャンドルを国内外に展開するキャンドル専門メーカー。純度の高い植物性ワックス、パラフィン系ワックスを使ったキャンドルを製造。ブライダル(ウエディング)・葬祭・レストラン用などの業務用キャンドル、またフレグランスキャンドルなどを製造しており、自社商品はもちろんブランドのOEMも多く手掛け、キャンドルのある生活を提案している。
インタビューと写真:加藤孝司
2018年度東京ビジネスデザインアワード
応募資格 国内在住のデザイナー、プロデューサー、プランナーなど
応募費用 無料
詳細は公式ウェブサイトをご覧ください
https://www.tokyo-design.ne.jp/award.html