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「どうしたら一人一人のデザイン力を向上させることができるか」。この問いは、誰のデザイン力向上を優先させるべきかという意味で、戦略的な視点が求められます。今デザインを最も必要としているのは誰か。産業サイドの人間なのか、それとも生活者なのか。振興機関は、まず振興の対象となる人々を選択し、彼らのデザイン力を効果的に呼び覚ます方策を実施していきます。デザインの指導や人材育成セミナー、発表展示会やデザインコンクールなどなど。その方策は様々ですが、いずれの場合でも、振興機関はデザインのもつ「呼び覚ます力」を充分に発揮できる人材、すなわち優れたデザイナーとともに活動を展開していきます。
デザイナーとは造形表現が巧みな人材ではなく、そのデザインによって、人々のデザイン能力を呼び覚まし、向上させることができる人たちと理解すべきでしょう。デザイナーはその課題難題に直面している人の協力を得て、一つの解決策をデザインしてみる。いわば仮説です。この仮説をもとに多くの当事者が自らのデザインを繰り広げる。またデザイナーもデザインをさらに進化させる。そしてこれを何回も何回も繰り返していく。様々なデザインが競い合ってくことによって、当事者たちはより高度なデザイン力を身につけていくことができます。
デザイン振興機関の役割は、それらしい解決策を提示することではありません。解決をしなければならない課題を抱えた当事者が、デザインと出会う機会を創り出すことです。そして彼ら自身がデザインする手助けをすることです。その活動は、様々な人々がデザインを繰り広げていく「舞台をデザインすることと」と説明できるでしょう。最初は小さな舞台から、そして彼らのデザイン力が向上してくれば、次第に大きな舞台へ。また良い観客を集めるかも重要な課題です。広範で深遠な課題になればなるほど、舞台上の登場者のみでは解決が難しくなります。舞台の上と観客が一体になれる構造を創りだしていくことによって、そうした難解な課題を共有し解決していこうとする「デザインコミュニティ」が産みだされていきます。