「中小企業×デザイン」を考えるー2025年度TBDA審査委員インタビューー
「企業とデザイナーの協業において大切なことはなんですか?」
東京都が主催し公益財団法人日本デザイン振興会が企画運営を行う「東京ビジネスデザインアワード(TBDA)は、東京都内の中小企業が持つ固有の「技術」「素材」などに対して、優れた課題解決力と提案力を併せ持ったデザイナーとの協業を通じて、新商品や新規事業の開発を促進するアワードです。
2026年2月3日に行われた「2025年度デザイン提案最終審査」では、審査会という枠組みを超えて、その場に集まる方々が「中小企業とデザイン」について考える機会にしたいと、審査委員会へ事前インタビューを行いました。
審査委員のみなさまに投げた問いは「企業とデザイナーの協業において大切なことはなんですか?」
それぞれのお立場や職能から感じること、実際にご自身が大切にしていること・実施していること、期待することなどをお話しいただいています。
2025年度審査委員会
秋山 かおり プロダクトデザイナー|STUDIO BYCOLOR [審査委員長]
谷口 靖太郎 デザインエンジニア
日髙 一樹 特定訴訟代理人・弁理士 /デザインストラテジスト|日高国際特許事務所所長
坊垣 佳奈 株式会社マクアケ 共同創業者 / 顧問
宮崎 晃吉 建築家|株式会社HAGISO 代表取締役
八木 彩 アートディレクター /クリエイティブディレクター|アレンス株式会社 代表取締役
柳沼 周子 バイヤー| 株式会社エンファクトリー
https://design-award.metro.tokyo.lg.jp/archive/outline/2025/
秋山 かおり | プロダクトデザイナー
デザイナーと各企業それぞれの取り組みを通じて、どのようなことを感じられたでしょうか?
TBDAを通して、新たな一面が見えた企業もお有りなのではないでしょうか。
最終審査会では、デザイナーとの協業を行う前後で生まれる '企業らしさ' の変化を、毎年楽しみにしています。柔軟な姿勢で取り組むことができた企業とデザイナーほど、清々しい景色が見えたはずです。
以前、「デザイナーとの協業は、企業にとって強力なファンができること」というお話をさせていただきました。企業の魅力を感じ取り、社外から客観的に'推し'てもらうことで、対外的に企業の魅力が伝わりやすくなります。
企業とデザイナーの協業で大切なことは、とてもシンプルですが、お互いを尊重し合い、柔軟な姿勢で取り組むことだと思います。さまざまな取り組みが、小さくても大切な気付きを社会に生み出すと信じています。
谷口 靖太郎 | デザインエンジニア
デザイナーは理想的な体験や優れた意匠を構想することを仕事としています。その積み重ねによって、まず目指すべき理想像を描く姿勢が自然と身についています。技術やコストといった現実的な条件を踏まえながらも、その理想をいかにして実現へと導くかに思考を巡らせているのです。
一方で、企業は収益性を基盤として活動しています。ビジョンの実現を目指す一方で、資金は組織が存続し成長していくための血液のような存在であり、それなくして事業は成り立ちません。多くの企業は、理想を追求したいという思いと、ビジネスとしての現実を見据えねばならないという相反する要請の間で、常にバランスを模索しています。
デザイナーが「まず理想を描く」姿勢は、短期的な課題に追われがちな企業に対して、より大きな視座を提示します。同時に、デザイナー自身が企業経営への理解を深めることは、掲げた理想を現実へと結びつける力になるでしょう。
日髙 一樹 | 特定訴訟代理人・弁理士 /デザインストラテジスト
企業とデザイナーの協業を単なる作業委託ではなく「ビジネス」へと昇華させるには、互いの専門性を尊重した共創基盤の構築が不可欠です。
第一に、デザインを「経営課題の解決策」と定義し、顧客体験の創出や技術ブランディングといった共通の「事業ゴール」を設定することが重要です。双方がデザインを「資産」と捉えるマインドセットを持つことこそが、事業成功の鍵となります。
第二に、知財帰属(譲渡、共有、利用許諾)を早期に明確化し、既存知財と新規成果物を峻別することです。知財の戦略的活用に向けた共通認識を確定させることで、信頼関係の基礎が築かれ、将来的な商品展開を積極的に進めることが可能になります。
第三に、事業プロセスや成果を明文化し、将来的な認識の相違を防止することです。レベニューシェア等の成果報酬型モデルを採用し、双方が事業の当事者として「信頼を構造化」する契約を締結すれば、中長期的な伴走が促進されます。透明性の高い契約によって心理的安全性を確保し、対等な利益配分構造を築くことこそが、協業成功の本質といえます。
坊垣 佳奈 | 株式会社マクアケ 共同創業者 / 顧問
企業とデザイナーの協業において最も大切なのは、「お互いの良さを活かし合う姿勢」だと考えています。
企業には企業の論理や制約があり、デザイナーにはデザイナーの感性や思考があります。同じことが得意ではないからこそ、共通言語が少なく、すれ違いや衝突が生まれることも少なくありません。しかし、「自分にできないことを、この人はできる」という前提に立ち、相手を理解し尊重しようと向き合った先にこそ、本当の協業があるのではないでしょうか。
自身の常識や枠組みを超えてくる発想や着眼点を面白がり、受け入れ、活かしていく。そのプロセスを恐れず、ぶつかりながらも向き合うことで、単体では到達できなかった新しい価値やアウトプットが生まれると信じています。
本物の協業のその先にある、想像もし得なかったアウトプットの数々を、心より楽しみにしています。
宮崎 晃吉 | 建築家
デザイナーと協業するプロセスは、単にお客様にとって魅力ある商品に見えるようにデザインしていく、という意味のみならず、企業の隠れたポテンシャルを分析し引き出していくプロセスにほかなりません。
あるいはインハウスのデザイナーが在籍する企業も多くあるかと思いますが、自分たちも気づいていない自社のポテンシャルを引き出すためには、外部の目線が助けになることもあります。私たちの会社でも、自社プロダクトや店舗を作る時にあえて社外のデザイナーとコラボレーションすることもあります。そうすることで客観的な視点を与えてくれるからです。
理想的には、そうしたプロセスの中で企業のプロジェクトメンバー自らが気づきを得て自分たちの強みや、自分たちだからこそ提供できる価値に気づいていくことです。プロセスのなかで自らの会社や製品に誇りをもてたり、希望を持てることは、結果としてのプロダクトの成否と同じくらい、もしくはそれ以上に根本的な重要性をもつ経験になると思います。
八木 彩 | アートディレクター /クリエイティブディレクター
企業とデザイナーが協業するには、企業側はデザインを理解し、デザイナーは経営を理解する努力が欠かせません。
両者が二人三脚で何かを始めようとする時、想像しているよりも様々な問題が起こるはずです。このとき大切なのは、「相手と向き合う姿勢」だと私は思います。お互いがわかりあうためには、「忍耐強く寄り添う」「わかりやすく伝える」「相手の気持ちを想像してみる」といった、ごく普通の方法しかありません。どれだけ大きなプロジェクトになったとしてもそれは同じで、その過程に近道は存在しません。どうか諦めずに、パートナーと、忍耐強くプロジェクトを進行してほしいと思います。協業が成功すれば、これまでにない発想から新たな商品を開発したり、コミュニケーションを刷新して新たなお客様と出会う可能性が広がるはずです。このアワードから、まだ見ぬ新しい何かが生まれることを期待しています。
柳沼 周子 | バイヤー
私たちの会社の行動指針の一つに「越境」というキーワードがある。型にはまらない、役割に固執せずゴールを見据えて柔軟に動く、別の分野に足を踏み入れ自らを磨く。そんな意味が込められており、互いに越境を推奨し、賞賛し合う文化がある。
企業とデザイナーの協業において大切なことは、制作物やサービスが誰を幸せにするものなのかを双方で明確にすることだと私は考えている。当然のことのようだが、様々な困難がつきまとう協業の過程で、少しずつそれがズレたり、リリースすることそのものが目的化する例は多く目にする。ともすると自分もその罠にはまりそうになることもあるくらいだ。
だからこそ「誰のため」「なんのため」は常に協業の背骨に据える。その上で、双方が役割を超えて限界線を広げ合う。この「越境」のプロセスこそが、可能性の輪郭を一回り大きく描き直し、共創によって拓かれる新境地を私たちに見せてくれるのだと確信している。






