公益財団法人日本デザイン振興会 公益財団法人日本デザイン振興会

2025TBDAテーマ企業インタビュー:株式会社humorous

2025年度東京ビジネスデザインアワード

「東京ビジネスデザインアワード」は、東京都内のものづくり中小企業と優れた課題解決力・提案力を併せ持つデザイナーとが協働することを目的とした、企業参加型のデザイン・事業提案コンペティションです。

企業の持つ「技術」や「素材」をテーマとして発表、そのテーマに対するビジネスモデルを含めた新たな製品・用途開発・ブランディング案をデザイナーからの「提案」として募集しています。

2025年度はテーマ8件の発表をおこない、10月29日(水)23:59までデザイン提案を募集中。本年度テーマに選ばれた8社へのインタビューをおこない、技術や素材について、本アワードに期待することなどをお聞きしました。


テーマ名:電源不要、トップクラス性能の高輝度蓄光素材

テーマ企業:株式会社humorous【目黒区】

企業HP:https://humorous.jp

『暗闇と共存し、暗闇を演出する高輝度蓄光』

遊び心を大切にものづくり、開発を行う株式会社humorousが着目する高性能蓄光は、太陽光や照明などの光を蓄えて暗闇で自己発光するシンプルでどこか昔懐かしい技術。身近な暗闇で発光するホビーのようなツールから、災害時や混雑時の暗闇で人々の行き先を示すものとして、大切な役割を担うこともある縁の下の力持ちのような存在だ。材料となる蓄光顔料は環境負荷もゼロ、製品は電源に依存せず環境にもやさしい。防災用途だけでは物足りない。世の中の困りごとに役立つ蓄光を使ったものづくりが目指す世界とは。 

お話:株式会社humorous 代表取締役 田村勇気氏


9番バッターがクリーンナップに。

ーーエンタメのアプローチで社会課題を解決する企画会社として2022年に創業されたそうですが、田村社長の経歴と、創業、独立の経緯、仕事内容を教えてください。

もとは広告代理店で映画やドラマの制作に携わってきました。ですので株式会社humorousは、会社員時代とは全く異なる仕事として創業しましたので「独立」感は全くなく、完全リセットで「リスタート」いう感じでした。エンタメに長年携わり感じていたのは、エンタメとは感情に訴えるもので、まだ可視化されていない人間の感情を言語化することに独特の強みがあるということです。エンタメ業界で働く人たちが、それを「エンタメ」で表現する一方で、私は次第にそれを実社会に転用したいと思うようになりました。

それで最初は企業に所属しながら、有志によるクリエイティブチームをプロデューサー、アートディレクター、プランナーなどの仲間たちと立ち上げ、トップクリエーターと共同で作品を壁画やアニメーション制作していました。

その時の活動が「グッドデザイン賞」をいただいたり、メディアで注目していただいたりしたのをみた時に、エンタメの中だけでなく身近な環境にエンタメが求められ、活躍できることを肌で感じることができたんです。それで事業化を本格的に検討し立ち上げた会社が株式会社humorousでした。

ーーわあ、なんだか楽しそうですね。創業の背景にはそのような思いがあったのですね。

はい。主にストリートで展示する作品を作っていたことからアート活動をはじめたのかな?と思われる方もいましたが、humorousでは再現性や汎用性があって横展開ができるプロダクト化や仕組み化をしたいと思っていました。なので自分たちではhumorousを「コンテンツ開発企業」だと思っています。それと一時的な「展示」や地域限定の「作品」ではなく、恒常的なインフラにできないかと考えていました。LEDやプロジェクターのように、そこにあった素材やテクノロジーのひとつが「蓄光」でした。ですが、それはあくまで「9番バッター」のような存在だったんです。

ーー9番バッターですか?

そうです。実はもっと先にバッターボックスに立とうとしていた華やかなテクノロジーやプロダクト候補がいました。ですが、法律の規制などもありクリーンナップたちが打ちあぐねている間に、地味で目立たなかった9番バッターが先に出てきた、という感じでした(笑)。

ーー御社にとって蓄光は、当初はそのような存在だったのですね。面白い。人も含めて生き物は暗闇に光るものに吸い寄せられ集うと思うのですが、そういった意味でも暗闇に光る「蓄光」は人の感情に触れるものだと思いました。それでは田村さんの「蓄光」との出合いを教えてください。

スマートシティ文脈の中での「スマート街路灯」や「路面演出装置」に取り組んでいました。当初はプロジェクションマッピングや路面に照明を仕込んだコンテンツを考えていたのですが、先ほど申しましたが法規の問題やニーズの部分で実現までに課題があり、時間をかけて取り組む必要がありました。その時のテクノロジーの様々な選択肢の一つに蓄光塗料があったんです。

ーー9番バッターとして、代打のようなかたちで蓄光が控えていたのですね。

はい。ある日、お客様から「最新の蓄光技術で暗闇対策をやってみたい」とお声をいただきました。

ーーついに。

世の中にないなら自分たちで作る

暗闇の課題対策のひとつのアイデアとして面白いとは思っていましたが、自分たちは、えっ、この子は地味ですけどでいいんですか?という感じでした。ですが実際にやってみたら、人手不足による施設管理・電気工事・維持管理の負担軽減、電気代高騰の解消など、大がかりにならないコストで設置ができる蓄光は、時代にマッチしていることがわかりました。それと場所にもよりますが、暗闇をゼロだとして街灯を100だとすると、光源としての街路灯の存在自体がToo Muchに感じたのもその理由のひとつです。暗闇と街路灯の中間に選択肢が一切存在しない違和感も蓄光に可能性を感じた理由のひとつでした。

ーーぼんやりと、美しくほのかに光る蓄光は、確かにその中間の存在ですね。

そうなんです。選択肢がない以上、そうなるのは当たり前なのですが、「暗がり」に対して「照明」しかないという思い込みが世の中にはありました。それで、ないなら我々が作ろうとなり蓄光素材に着目しました。それで実際に高輝度蓄光を入手して自宅のあらゆる場所で使用してみたところ、確かにこれは暗闇空間における選択肢のひとつになり得ると確信しました。糊の弱いポストイットが新たな市場を作ったように、微弱な発光が新しい用途を作れるのではと感じたのです。

照明の役割は暗闇を排除するものと思われていますが、弊社の高輝度蓄光「ナイトコンシェルジュ」は暗闇を演出する、暗闇と一緒に過ごすという位置付けです。

ーーそれが照明と「ナイトコンシェルジュ」との違いですね。

はい。離れた場所を明るくする照明とは異なり、高輝度蓄光はまわりを明るくする機能はありませんが、自ら発光し、自らの存在を健気に訴える、暗闇の中で暗闇を生かしてくれるというものだと思っています。そもそも「ナイトコンシェルジュ」は照明ではありません。「ナイトコンシェルジュ」を暗闇に対してこれまでとは異なる価値を持ったツールにしたいと思いました。 

ーー「蓄光」する仕組みをあらためて教えてください。

蓄光自体はご存知のように大昔からありました。例えば田舎の親戚のお家に行くとよく見かけていた室内灯の紐の先に付いている青白く光るパーツですね。蓄光とは光を蓄えて発光するもののことです。日中の太陽光(紫外線)や人工照明の光をエネルギーとして蓄えて、その蓄積したエネルギーの放出と吸収を繰り返して光を出します。

ーー御社が扱う「高輝度蓄光」とはどのようなものですか?

蓄光が世の中の技術の進歩でより長く強く発光できるようになったものが「高輝度蓄光」です。東日本大震災後に、高台に逃げる時の避難標識などにも使われています。建物や地下鉄駅などにある非常口サインにも使われています。時計の文字盤やおばあちゃんの家の電灯に使われていたものが、時を経て人の命を守るものに進化していったんですね。人々の命を救ったり、こんなに社会に役立っているものなのに、防災以外の用途にはほとんど使われていないことがもったいない技術だと思いました。

ーー高輝度蓄光が光る色は青色だけですか?

緑と青は蓄光顔料が最も輝度パフォーマンスを発揮する発色ですが、わたしたち人間には暗闇において青色を最も完治する「プルキニエ現象」があります。それと、青色は色盲の方にも健常者の方と同じ色を識別できるユニバーサルカラーです。しかも、心を鎮める効果もあり、英国グラスゴーでは街灯の色を青色にしたら犯罪が減った事例もあります。他の色もあるにはありますが、上記の理由などから現在弊社の蓄光製品には青色を採用しています。

ーー高輝度蓄光を使ったプロダクトはどのように作るのでしょうか。

もともとの原料は無毒・非放射性で安全性の高いアルミン酸ストロンチウム系の蓄光の顔料です。テーマとなる高輝度蓄光素材は「ナイトコンシェルジュ®」という名称で商標登録済です。それを材料に、アルミ板やシート材、塗膜材に一次加工をします。さらに用途や使う場所によって二次加工をしてさまざまなプロダクトを作ります。

ーーどのくらい光を受けることで発光が可能で、最長発光時間はどのくらいですか?

環境にもよりますが1時間以上の紫外線の吸収で発光するようになります。十分な蓄光で電源なしで12時間継続して発光させることができます。晴天はもちろん、曇天や雨天時、そして屋内のあかりでも蓄光できることは意外と知られていません。

ーー掲示板などのプロダクトとした場合、発光は半永久的ですか? 

蓄光部分はメンテナンス不要で半永久的に使用していただくことができます。屋外の防災標識に使われているくらいなのでとても耐久性があります。ただ、設置環境にもよりますがアルミや樹脂などの母材自体は劣化の可能性があり、10年を目安にご使用いただけますとお伝えしています。

ーー先ほど安全性の高い素材だというお話がありましたが、蓄光顔料自体の環境負荷の問題はいかがですか?

環境負荷ゼロで問題がありません。意外と思われますが無機物であり、燃やしても有害物質が出ませんし、人体への影響もありません。捨てる際も一般産業廃棄物として処分していただくことができます。

難題にエンタメの王道、「逆転劇」で応えるアイデアを

ーー御社の製品はこれまでどのようなところに使われてきましたか?

電源が引けない場所での暗闇の安全を守る用途として、施設管理、鉄道会社、行政自治体などに採用していただいています。暗闇を活かすデザインや空間演出の用途としても、アウトドア施設、屋外アート、観光コンテンツ、ホテルの客室演出、エンタメ活用などの実績があります。周囲を明るくすることができないことを逆手にとり暗闇の中でのガイド的な役割を持つものですと、JR東日本さんの鉄道橋衝突抑制対策です。設置により衝突報告数が実証期間中ゼロになりました。視認性を高め、事故を減らすという本来の目的を果たしただけでなく、それ自体が撮影スポットになり、地元では「エヴァンゲリオンゲート」と呼ばれる人気スポットになりました。「マイナス」を「ゼロ」に戻すだけでなく、一気にプラスの価値に変身しました。エンタメ視点も活用し、蓄光をさらに次のところに持っていくことができる事例だと思います。

ーー面白いですし、そこに見る人の感情に訴えかけるエンタメの発想が活きているのですね。

エンタメには多くのお客さんが大好きな、「逆転劇」という黄金のテンプレートがありますよね。問題児がスターになる。私はそれを実社会でやりたいと思っているのです。課題の強い場所ほど燃えます(笑)。

ーー「ガイド」ではなく「コンシェルジュ」とされたようにそれは製品名に表れていますね。

そうです。照明を点灯して、あとはどうぞお通りくださいというよりも、そっと「エスコート」をするという感覚でしょうか。

ーー今回のアワードへの応募動機を教えてください。

展示会に出展すると、好意的なリアクションをいただくのですが、多くの方に言われるのは、主に不動産に使われている、固定設置されることの多い「ナイトコンシェルジュ」を、持ち運びの出来る製品にして欲しいという声でした。弊社でも高輝度蓄光による小物などはノベルティとして作りました。ですが雑貨やホビー用品を「ナイトコンシェルジュ」でやるのは少し違うのでは、課題が弱いのでは、という思いをずっと持っていて二の足を踏んでいました。

せっかく「ナイトコンシェルジュ」でやるのであれば、困っている方にとってなくてはならないもの、知ってしまった以上手放せない何か強いパートナーになるようなBtoBや、BtoC市場への展開を視野に入れたもの作りをしたい。そういったことをクリエイターの方とデザインの川上のところから一緒に考えていければ、ものづくりに深みが出るのではないかと思い応募させていただきました。

ーー蓄光のもとになる顔料はどのような材料にも塗布することは可能でしょうか。

ある程度の硬さがあるものであれば金属、木材、プラスチック、建物や路面の躯体など、ほとんどのものに塗布することができます。ですが、比重の思い蓄光顔料を塗るのは専門知識と技術が必要になり、対応できる職人が極端に限られてしまい、また日数がかかるためコストが大きく跳ね上がります。したがって、予め制作しておいた筐体を現地に行って取り付けるケースが一般的です。

お客様のご要望やお困りごとから、たくさんの製品が送り出されています。忖度のないリアルな本音を伺い、課題本質と仮説を立て、すぐに蓄光以外の他技術も束ねる。この技術チャレンジとスピード感も弊社の強みです。

最近では、再剥離可能なシートでデザイン差し替えや再利用が可能な蓄光プレート。ご希望の入稿デザインをどこにでも貼り付けできるステッカー製品など新技術が続々とデビューし、採用が始まっています。

そして、日中は美しい乳白色が、夜間には青色発光し、照明が当たると反射発光する1枚3役のシート状の新技術「ブルーラグーン」がこの夏に完成しました。雨にも強く、柔軟な素材が特徴で、身につけたり、製品に貼付することを前提に開発しました。今回是非使用してみたい技術のひとつです。

ーー優れた素材である高輝度蓄光はどのようなシーンで使われたら効果的だと思われますか?

個人的には光源のない夜の海、夜道のペットの散歩、暗い時間帯に歩く子供さんや高齢者向けの安全対策、夜の作業現場やアウトドアシーン、病院や介護空間などが気になっています。例えば漆黒の海では電源も引けませんし、真っ暗な屋外での移動や作業シーンなど課題の強い場所で、高輝度蓄光素材である「ナイトコンシェルジュ」が自らを知らせる存在として活躍するのではと思っています。

面白いエピソードがあります。リピーターのお客様から「ナイトコンシェルジュに求めるのは明るさや照度ではない。光っているという事実なんだ」と言われたのです。
「僕はここにいるよ」と伝えるのが本製品の特性や役割であるとの示唆であり、核心を突いていると思いました。

これまでは不動産に対する固定したシーンなどBtoBBtoG製品と限定的な使用でしたが、「動くナイトコンシェルジュ」の使用方法は、花火大会での来場者整理の誘導員装着ツールやナイトジップラインでのお客様の着用ハーネスなど以外ほとんど実施例がありません。この段階で用途やシーンをあえて決めつけることはせず、限定しない自由な発想でデザイナーさんの本領発揮をしていただけるような、協働していただけるデザイナーさんの代表作となるものを一緒に作って行けたらと思っています。

ーー最後に、応募を検討している皆さんへのメッセージをお願いします。

展示会などでも子供たちが行列を作ってナイトコンシェルジュを試そうと順番待ちしていたこともあり驚きました。どこか懐かしい、誰にでもわかるシンプルなテクノロジーで、そして嫌われない、稀有な存在だと改めて感じました。私の前職であるエンタメももともと庶民のものだと思っています。カッコいいものを作るよりも、ニッチでもロングセラーとなる、お客様のバディになるようなものを作りたいと思っています。困っている方の役に立ちたいというのが私たちの何よりの原動力です。どうぞよろしくお願いいたします。


インタビュー・写真:加藤孝司


2025年度東京ビジネスデザインアワード https://design-award.metro.tokyo.lg.jp/award.html

各テーマ8件の詳細はこちら https://design-award.metro.tokyo.lg.jp/designer/#design_theme

デザイン提案募集期間:10月29日(水)23:59まで

応募資格:国内在住のデザイナー、プロデューサー、プランナーなど、テーマに対してビジネスモデルを含めた新たな製品・用途開発・ブランディング案などを提案できる方

応募費用:無料

詳細は公式ウェブサイトをご覧ください https://design-award.metro.tokyo.lg.jp/designer/

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