公益財団法人日本デザイン振興会 公益財団法人日本デザイン振興会

2025TBDAテーマ企業インタビュー:株式会社フロント

2025年度東京ビジネスデザインアワード

「東京ビジネスデザインアワード」は、東京都内のものづくり中小企業と優れた課題解決力・提案力を併せ持つデザイナーとが協働することを目的とした、企業参加型のデザイン・事業提案コンペティションです。

企業の持つ「技術」や「素材」をテーマとして発表、そのテーマに対するビジネスモデルを含めた新たな製品・用途開発・ブランディング案をデザイナーからの「提案」として募集しています。

2025年度はテーマ8件の発表をおこない、10月29日(水)23:59までデザイン提案を募集中。本年度テーマに選ばれた8社へのインタビューをおこない、技術や素材について、本アワードに期待することなどをお聞きしました。


テーマ名:多品種の金属表面に豊かなCMF表現をもたらす特許技術

テーマ企業:株式会社フロント【新宿区】

企業HP:https://arc-front.co.jp


『手仕事でつくる金属の豊かな表情』

建築も人も、その存在に時間を内包することでそのあり方は深みを増していくものだろう。長年金属加工を手がけるFRONTは、世の中にないのなら作ろうという精神で豊かな金属の表情を生み出してきた。その唯一無二の金属の仕上の技術を活かし、複数の金属仕上の自社ブランドを立ち上げ、建築の外壁やエクステリア空間を豊かに彩ってきた。建築家やデベロッパーから信頼されるその技で、世の中にこれまでの建築やランドスケープにはなかった価値を作っている会社である。

お話:株式会社フロント 代表取締役社長 松川博行氏、営業部 田村真澄氏


オリジナリティがある金属仕上げ

ーー御社の創業の経緯を教えてください。

昭和42年に私の父である松川兼成が製作金物、建具の会社として高田馬場に創業しました。

ーー具体的にはどのようなものをつくっていましたか?

金属加工によるパネル、庇、フェンス、手摺りなどになります。

ーーお仕事をするパートナーはどのような方になりますか?

新築が多いですから建設会社の一次業者として現場に入り請け負うかたちになります。父が創業した会社はその後一度かたちを変えていまして、昭和55年に「株式会社FRONT」という名前になり今年で45年になります。

ーーFRONTという社名に込めた思いを教えてください。

これも現会長である私の父が名付け親なのですが、最初の社名が「フロンティア」でその会社を畳み、「前向きに」という思いを込めて「FRONT」として再出発をしたと聞いています。

ーー今回のテーマとなっている「各種金属の表面に豊かな表情を作り上げる仕上げ技術」はFRONTになってから始めた技術になるのでしょうか。

そうです。オリジナリティのある意匠性の高い金属を手がけるようになったのは今年で10年目になります。金属というとステンレスでも鉄でもシルバーというイメージが強いと思うのですが、金属に表情、色をつけるというところで、試行錯誤しながら取り組んでまいりました。

ーーこれまで製作金物を長年手がけられてこられましたが、なぜ意匠性を持った金属だったのでしょうか。何か具体的な需要があったのでしょうか?

いや、オリジナリティのある金属を作りたい、こんな金属はいかがですか?という提案のようなところからのスタートでした。それは現在でも同じスタンスになります。

ーー金属の特殊加工というと比較的小さなスケールのものが多いと思うのですが、御社が手がけるものは建築の壁面であったり、大きなものが多い印象です。まさにFRONTの社名の通り、金属加工の最前線を目指しての取り組みなのですね。

そう出来たらいいなと思い取り組んで参りました。

ーー貴社が手がける特殊な表情を持った金属板はとても複雑な表情を持っていますが、どのように試行錯誤をして生まれたものだったのでしょうか。

前置きとしてお話をさせて頂きますが、弊社ではもともと、サビが出るけど腐食しない、朽ちない鉄といわれる耐候性鋼板コールテン鋼(COR-TEN)という金属を扱っていました。コールテン鋼は容易にメンテナンスができない橋や照明の柱など、建築の外構・土木に使われている金属です。これはどのようなものかと申しますと、ご存知のように金属は経年とともにサビが出て劣化していきます。ですが今いったコールテン鋼は錆びても劣化しない、サビでサビを防ぐという構造をもち、いわば腐食したまま永続的に成り立つ合金です。導入こそ高価になりますがメンテナンスフリーのためランニングコストが抑えられるというメリットを持ちます。弊社はその耐候性鋼の研究、サビを活かし意匠性を持った化粧材として磨き上げ製品を作るところからスタートしました。「New RUSTY」「Super C.F.C.」といった耐候性鋼を使った製品を開発し販売してきました。

ですが、サビが浮き出た材は建築では使うことができません。建築の方でオリジナリティのある金属の表情を活かせないかということで2015年頃から研究を開始し、開発したのが今回のテーマとさせていただいた金属「FRONTCRAFT®︎」になります。

ーーコールテン鋼ではなく、既存の金属に御社ならではの金属加工の技術でオリジナリティのある表情を持たせたものが今回のテーマとなった金属なのですね。

はい。そうです。

ーー見せていただいた味わいのある意匠性をもった金属板はステンレスやアルミの金属に磨きなどを施したものだそうですが、同様の表面仕上げは先ほどのコールテン鋼でもできるものなのでしょうか。

できません。コールテン鋼は優れた材ですが長所も短所もあります。先ほど言いました通り、建築物に使う場合、外観にサビが出ることは多くの場合NGになります。であればコールテン鋼での磨きのノウハウを活かしながら、サビが出ない金属でそれを再現し、さらにブラッシュアップをしたのが「研磨模様が施された金属部品材およびその製造方法」として平成31年に特許を取得した弊社の技術を使った「FRONT CRAFT®︎」という仕上げになります。

ーーそうでしたか!ありがとうございます。現状どのようなところでどのように使われている金属になりますか?

加工した金属の表面に、特殊仕上を施したものをさまざまな建築物に使っていただいております。具体的には建築の外壁・擁壁、エントランスパネル、ランドスケープ、モニュメントなど幅広く製作させていただいております。一例ですが、建築家の田根剛さんが設計を手がけられ2020年2月に竣工した「弘前れんが倉庫美術館」があります。こちらは歴史あるれんが倉庫を美術館に再生した建築なのですが、重厚なレンガに単調なステンレスではどうしてもミスマッチになるということで、田根さんの事務所の方がネットで弊社を見つけてくださり、サッシ、扉、インターホンパネルに弊社の「FRONTCRAFT®︎」を採用していただきました。性能的にはステンレスでしか成りたない、でもオリジナルな風合いを持ったテクスチャーが欲しい、そのような時に弊社の技術を活用していただいております。


手仕事で金属に「時間」を内包する

ーー「弘前れんが倉庫美術館」もそうだと思いますが、建築においていかに「時間」を内包させるかはひとつのテーマだと思いますが、そのような場合に御社の技術が活きるのではないかと思いました。

ありがとうございます。もちろん、ピカピカなものが悪いというわけではなく、それ以外の質感や風合いといった選択肢を建築や空間づくりに提案したいと思っています。

ーーカタログを拝見させていただきましたが、普段、街の中で目にしている多くのものが御社の特殊技術で作られた金属であることを知って驚きました。一点一点職人さんが手作りをしているとお聞きしてさらに驚いたのですが、どのように作っているのでしょうか?金属に味わいをもたらしている仕上げは「塗装」によってもたらされているのでしょうか?

塗装ではあるのですが、ベースとなるステンレスやアルミ、メッキ銅板などの材に薬剤や色を入れた(塗装)後に、ディスクサンダーで研磨をかけます。その後さらに塗装をするという作り方をしています。そのすべての過程を職人の手をかけて作るという特徴があります。ですので塗装は塗装であるのですが、塗装に研磨表情を活かして仕上げています。色見本でははかることはできないという点でもただの塗装ではないということになります。

ーー手作業の研磨でムラや濃淡がで生まれる奥行きのある色に仕上がるのですね。

色に関してはイメージや写真などの見本に合わせて作ることもできますし、一枚の中にグラデーションをつけることもできます。。設計の方やゼネコンの担当者との綿密な打ち合わせの後、外注工場で製作・加工をし、所沢にある弊社の仕上げ工場で職人が仕上を行います。人数でいえば5〜6名です。

ーーそんなに少人数体制で!それだけに時間も手間もかかるということですね。

はい。

ーーアワードへの応募のきっかけを教えてください。

弊社ではオリジナルの仕上げ表情を持った金属製品を作る技術はあります。ですがそれをデザインにどう活かすことができるか。それは大きな課題として持っていました。仕上げ表情をデザインと融合させることによって何か私たちでは想像もできないようなものをアワードを通じて生み出したいという思いが一つにはありました。それとすでにあるものをデザインの力でより魅力を引き出していきたいという思いがあります。

ーーこれまでも建築家や施工会社などとの協業をされてきておりますが、そこでもオリジナルの金属加工というものづくりとは異なるクリエイティブの可能性は感じてこられたのでしょうか。

それもありますし、実際に納品させていただいた際に、イメージ通りだった、想像を超えていいものができた、という声をお聞きしてありがたいと思うと同時に、弊社の金属仕上げにさらなる可能性を感じてきました。

ーーこれまでデザイナーが入って御社の製品の開発に携わるということはありましたか?

いいえ。これまではありませんでした。

ーー加工が施された鉄板に触れた際、指紋が表面に付かなかったりと、仕上げのクオリティが非常に高いという印象を持ちました。

ありがとうございます。

ーー材料の耐久時間という意味では、素材にエイジングをかけたような風合いを持っていても、自然に生じるサビなどと異なり、意匠として塗装で施したものであるから、ベースとなる材料の耐久性を備えた製品であるということですよね。

その通りです。弊社製品の耐久性に関してはテストを繰り返しています。塗料が太陽光や温度、湿度、雨などの自然環境にどれだけ耐えられるかをテストする「促進耐候性試験」でも問題がないという結果が出ています。自然な色褪せはあったとしても十分な耐候性耐久性は持っています。通常の塗装を同様に塗装で金属の保護膜を作ることで金属の保護になっています。

ーーどのような金属に御社の特殊塗装は可能ですか?

金属は大きくは、鉄などのサビを出そうとする金属と、サビを防ごうとする金属に分かれます。前者の自然に酸化していく状態をこの塗装で防ぐことはできません。ですので普通の鉄にこの加工を施すことはできません。一方、ステンレスやアルミといった「合金鋼」は自分たちからはサビは出しませんから、このようなものに塗装を施すことができます。


金属加工の楽しさ

ーーこれほどまでに優れた材料でありながら、現状どのような課題をお持ちなのでしょうか?

ひとつはコストが高く、一般の塗装などと比べると割高になるということです。それとすべて手作業で作っているものですから、大量生産には向かないことです。1日に作れる量も限られています。

ーー製作に関してはハイテクよりもローテク、であるということですね。

はい。しかも職人の技術スキルも関係してきます。作り手の育成に関しても数ヶ月経験を詰めばすべての工程ができるというものでもありません。作り手の育成も課題といえば課題です。

ーー他にございますか?

これはひとえに弊社の力不足であるのですが、まだまだこの塗装技術が知られていないことです。単に金属の仕上げという部分では通常の塗装でも遜色ないわけです。ではいかに特殊な塗装を選んでいただくのか。そこには弊社が作るものの付加価値を「価値」として理解していただける方を増やしていかなければならないということとも繋がっているのかなと思います。

ーー金属への独自の色味、精緻な仕上げ、奥行きのある味わい深い風合いを施すことができきる唯一無二の技術とセンスが御社の強みだと思いますが、仕上がりの色味に関して、濃いもの、薄いものなどトーンのバリエーションはどの程度できるものなのでしょうか。

もちろん淡い色味に仕上げたり、色に関しては比較的に自由自在につくることができます。

ーーベースとなる材に模様などを施し、その柄を塗装によって浮かび上がらせることも可能ですか?

はい。ベースとなる金属自体の加工になりますが、金属にエッチングによって柄などの模様が施されたもので製作したことがあります。塗装をしても金属板自体のエッチングは残りますのでそれを利用し、それまでのエッチングでは出すことができない質感を出すことができます。

ーー色や質感しか考えたことはなかったのですが、金属のエッチングパターンの段階からデザイナーが関わることは可能ですか?

はい。もちろんできます。エッチングもそうですがブラストパターンなど、素地感といった金属の表情を残したぬくもりのある製品の製作も可能です。ただ、見たことがないものを作ることは如何様にもできますが、それをいかに商流にのせるかというところまでをデザイナーさんと一緒に考えていければと思います。

ーー曲げたり切ったりなど、加工に関しては加工が先ですか、塗装が先ですか?

曲げてから塗装をします。このようなパイプものに関してはパイプを溶接して形を作ってから、溶接箇所など細かなところも含めて塗装して磨いて再び塗装をしています。

ーーそれはすごい技術ですね。形になってから加工ができるのですね。大小どのような大きさのものでも加工が可能ということですね。

はい。バイブレーション、サンダーが入る大きさと形であればできます。

ーー本アワードではビジネスモデルはどのように想定されていますか。事前のヒヤリングではB to Bを希望されていますが、B to Cは可能性としてはいかがですか?

B to Cのような直接販売ということは可能性を感じないというのが正直なところです。B to Cのものを小売店さんなどで販売していただくということが弊社としてできるかといえば未知数ということです。OEMでということもありうるかもしれませんが、方向性としては弊社の方で販売チャンネルを作って金属小物を販売するということも現状考えていませんが個別のアイデアとしてはご検討させていただければと思います。

ーー松川さんが考える金属を扱う面白さはどのようなところにあるか教えてください。

建築部材には様々ありますが、金属は思いのほか自由に扱える素材です。一つの材料だけで局面を作ってモニュメントのようなものを作ったり、さまざまな加工ができる材料です。弊社では「金属の可能性を、無限大に」というスローガンを掲げています。金属の可能性とは、「美しさ」「汎用性」「無限の可能性」にあります。加工も仕上げも合わせてオリジナルティを持ってご提案できるところが弊社のものづくりの強みであり、金属の面白さだと思っています。


インタビュー・写真:加藤孝司



2025年度東京ビジネスデザインアワード https://design-award.metro.tokyo.lg.jp/award.html

各テーマ8件の詳細はこちら https://design-award.metro.tokyo.lg.jp/designer/#design_theme

デザイン提案募集期間:10月29日(水)23:59まで

応募資格:国内在住のデザイナー、プロデューサー、プランナーなど、テーマに対してビジネスモデルを含めた新たな製品・用途開発・ブランディング案などを提案できる方

応募費用:無料

詳細は公式ウェブサイトをご覧ください https://design-award.metro.tokyo.lg.jp/designer/


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