公益財団法人日本デザイン振興会 公益財団法人日本デザイン振興会

「中小企業×デザイン」を考えるー2024年度TBDA審査委員インタビュー(後編)ー

企業とデザイナーが協業することで何が期待できる?

東京都が主催し公益財団法人日本デザイン振興会が企画運営を行う「東京ビジネスデザインアワード(TBDA)は、東京都内の中小企業が持つ固有の「技術」「素材」などに対して、優れた課題解決力と提案力を併せ持ったデザイナーとの協業を通じて、新商品や新規事業の開発を促進するアワードです。

2025年2月4日に行われたデザイン提案最終審査では、審査会という枠組みを超えて、その場に集まる方々が「デザインとは何か」を考える機会にしたいと事務局が審査委員に事前インタビューを行いました。

後編の問いは「企業とデザイナーが協業することで何が期待できるでしょうか?」

それぞれの職能やご経験から「中小企業×デザイン」についてお話しいただいています。

前編はこちら。


2024年度審査委員会

山田 遊   バイヤー|株式会社メソッド 代表取締役 [審査委員長]

秋山 かおり プロダクトデザイナー|STUDIO BYCOLOR

谷口 靖太郎 デザインエンジニア / ディレクター|Takram

日髙 一樹  特定訴訟代理人・弁理士 /デザインストラテジスト|日高国際特許事務所所長

坊垣 佳奈  株式会社マクアケ 共同創業者 / 顧問

宮崎 晃吉  建築家|株式会社HAGISO 代表取締役

八木 彩   アートディレクター /クリエイティブディレクター|アレンス株式会社 代表取締役


Q.「企業とデザイナーが協業することで何が期待できるでしょうか?」


山田 遊 バイヤー

現代の社会の中で、人間が1人だけで生きていくことはおよそ不可能だと言って差し支えないでしょう。そして法人も1つの人格、どんな小さな企業でも様々な他者、つまりステークホルダーが関わることによって、活動を続けています。

 さらに、現在はそれぞれの人格に専門領域が細かく分化されています。自分自身の専門領域外にある事柄については、独学して、自らできるようになるか、もしくは外部のパートナーと協業する他ありません。

そして、人間には左脳と右脳があるように、社会には定量と定性、双方の概念が存在することで成立しています。定量はデータを取れば測れること、ただ、数字に重きが置かれている企業活動においては、どうしても定性自体、専門外の分野に陥りがちな傾向にあります。

 デザイナーは、そんな専門外の領域を埋め、1人で進むには遠く困難な道を、共に伴走してくれる、企業にとっては頼もしい存在と言えるかもしれません。


秋山 かおり プロダクトデザイナー

子供や海外の方など、情報や文化、習慣が異なる相手とのコミュニケーションでは、普段は説明を省くところも改めて丁寧に考えるきっかけになりますよね。デザイナーと企業の協業も、それぞれの専門性が異なることで、対話を通じて気が付かなかった優れた技術や自分たちの魅力に目を向ける良い機会となるのです。

協業を進める上で大切なのはお互い納得しながら進歩退歩を繰り返し、双方で学んでいくこと。信頼を重ねていくこと。デザイナーは企業の壁打ちとなり、企業が自走するきっかけを与え、並走する役割だと思います。協業の中では思いもよらぬ壁や落とし穴が現れることがありますが、デザインの素養が生きる場面は多く、それぞれの立場から共に乗り越えることが出来ると絆が強まっていきます。長い期間一緒に走り続けることで、ものづくりの高みを目指す良いパートナーと出会えることは、企業だけでなくデザイナーにとっても大切なことなのです。


谷口 靖太郎 デザインエンジニア / ディレクター

デザイナーの最大の特徴は非言語的な表現を操る力にあります。購買判断の多くは論理よりも感情に基づくため、ターゲットの感情に訴えかける非言語的な表現が伴う製品は市場で成功する可能性が高まります。

リソースに乏しい企業でもデザインを活用することで感情に訴える製品を具体化し、その価値を高めることが可能です。このため、私はデザインを「貧者の武器」と捉え、規模の小さな企業こそ有効に活用すべきだと考えていますが、うまく実践されるケースは多くありません。リソースに余裕のない企業の経営者がデザインに投資を振り向けることは稀ですし、振り向けたとしてもデザインに対する理解度が高くなければその効果は最大化されないからです。

TBDAは大きな投資を伴わずに優れたデザイナーと協業できる貴重な機会です。この機会を通じ、テーマ企業の皆さまがデザインの性質を深く理解し、今後のビジネスに活かしていただけることを期待しています。


日髙 一樹 特定訴訟代理人・弁理士 /デザインストラテジスト

デザイナーと企業の協業により、企業の既成概念を超えた革新的な価値創造とその実現が促進され、企業の成長が加速される。

協業による具体的な効果は、次の点が挙げられる。

①企業に新しい発想や視点をもたらし、革新的な価値創造のコンセプトが提供される。

②企業の技術など経営資産にデザイナーの創造力を組み合わせることで、新たなサービスやプロダクトなどの商品開発が促進される。

③ユーザーインサイトに基づく商品デザインとそれらの広告宣伝により、仮説的提示(デザイン提示よる受注型販売)を含めユーザーへ効果的な発信ができる。

④客観的視点から企業の魅力を顕在化し、ブランディングの方向性とその具体的戦略を見出すことができる。

⑤魅力的な商品提供による市場競争力の向上、商品発売後のユーザビリティなどの改良、改善さらに時系列で戦略的な商品展開が可能となる。

⑥商品デザインを媒介として、社員とのコミュニケーションが円滑に進み、商品化の目的に向かって協働することで、社員のモチベーションやスキル向上が期待される。


坊垣 佳奈 株式会社マクアケ 共同創業者 / 顧問

「ここにデザインがあれば」「ここにデザインのプロがいれば」そう思ったことは、数えきれないくらいあります。

Makuakeという応援購入プラットフォームを運営してきた中で、新しいアイデアフルなものがたくさん消費者の手に直接渡っていくのを見てきました。

特に期待を多く寄せられ、たくさんの注目を浴びるものには、やはりアイデアのその先の「デザイン」にまで意識が届いているものが多く、それは有形・無形にすぎなかったな、とそう思います。

たくさんの「届けたい」人に興味を持ってもらい、手に取ってもらい、愛されるものにしていくために、「デザインの重要性」を企業には気づいて欲しいし、デザイナーにはその手助けをして欲しい、そう願っていますし、この場がその一歩となりますよう、私も引きつづき全力で携わらせていただきます。


宮崎 晃吉 建築家

デザイナーと協業するプロセスは、単にお客様にとって魅力ある商品に見えるようにデザインしていく、という意味のみならず、企業の隠れたポテンシャルを分析し引き出していくプロセスにほかなりません。

あるいはインハウスのデザイナーが在籍する企業も多くあるかと思いますが、自分たちも気づいていない自社のポテンシャルを引き出すためには、外部の目線が助けになることもあります。私たちの会社でも、自社プロダクトや店舗を作る時にあえて社外のデザイナーとコラボレーションすることもあります。そうすることで客観的な視点を与えてくれるからです。

理想的には、そうしたプロセスの中で企業のプロジェクトメンバー自らが気づきを得て自分たちの強みや、自分たちだからこそ提供できる価値に気づいていくことです。プロセスのなかで自らの会社や製品に誇りをもてたり、希望をもてることは、結果としてのプロダクトの成否と同じくらい、もしくはそれ以上に根本的な重要性をもつ経験になると思います。


八木 彩 アートディレクター /クリエイティブディレクター

独自性を持つ商品やブランドを生み出すことが期待できると思います。

デザイナーと企業が協業するには、企業側はデザインを理解し、デザイナーは経営を理解する努力が欠かせません。その上で協業が成功すれば、これまでにない発想から新たな商品を開発したり、コミュニケーションを刷新して新たなお客様と出会う可能性が広がります。

デザインの効果は短期的には目に見えにくいこともありますが、長期的にはブランドの認知度や信頼性を高め、持続的な成長を支える投資価値の高い要素です。特に日本の中小企業は、独自性のある技術や文化を持つ企業が多く、デザイナーとの協業によって唯一無二の商品やブランドを生み出す可能性が十分にあります。企業やブランドの成長を目指す選択肢の一つとして、デザインの力をぜひ取り入れてみてください。



TBDAの最終審査会場では、デザインを意識するビジネスパーソン、ビジネスを意識するデザイナー、自治体機関の方など、異なる環境や価値観を持った方が集まります。

企業やデザイナーは、おかれた立場や過ごす環境など違う者同士が出会い、毎年新しいビジネスの化学反応を見せてくれています。

ぜひ、TBDAの取り組みや、今回の審査委員インタビューを参考にしていただけたら幸いです。

TBDAは来年度も開催予定です。(※本事業は令和7年度歳入歳出予算が令和7年3月31日までに東京都議会で可決された場合に実施します。)

気になった方はぜひ、TBDAの公式webサイトもチェックしてみてくださいね。

https://design-award.metro.tokyo.lg.jp/award.html

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