公益財団法人日本デザイン振興会 公益財団法人日本デザイン振興会

「中小企業×デザイン」を考えるー2024年度TBDA審査委員インタビュー(前編)ー

事業推進のためにデザインが求められている理由は?

東京都が主催し公益財団法人日本デザイン振興会が企画運営を行う「東京ビジネスデザインアワード(TBDA)は、東京都内の中小企業が持つ固有の「技術」「素材」などに対して、優れた課題解決力と提案力を併せ持ったデザイナーとの協業を通じて、新商品や新規事業の開発を促進するアワードです。

2025年2月4日に行われたデザイン提案最終審査では、審査会という枠組みを超えて、その場に集まる方々が「デザインとは何か」を考える機会にしたいと事務局が審査委員に事前インタビューを行いました。

前編の問いは「事業推進のためにデザインが求められている理由はなんでしょうか?」

それぞれの職能やご経験から「中小企業×デザイン」についてお話しいただいています。


2024年度審査委員会

山田 遊   バイヤー|株式会社メソッド 代表取締役 [審査委員長]

秋山 かおり プロダクトデザイナー|STUDIO BYCOLOR

谷口 靖太郎 デザインエンジニア / ディレクター|Takram

日髙 一樹  特定訴訟代理人・弁理士 /デザインストラテジスト|日高国際特許事務所所長

坊垣 佳奈  株式会社マクアケ 共同創業者 / 顧問

宮崎 晃吉  建築家|株式会社HAGISO 代表取締役

八木 彩   アートディレクター /クリエイティブディレクター|アレンス株式会社 代表取締役


Q.「事業推進のためにデザインが求められている理由はなんでしょうか?」


山田 遊 バイヤー

この社会に存在している全ての物事がデザインされている、という視点に立てば、企業の事業推進においても、もちろんデザインが必須であることは明らかです。

およそ50年以上前、オーストラリア生まれのアメリカ人デザイナー・教育者であるビクター・パパネックは「生きのびるためのデザイン」の中で「デザインとは、意味ある秩序状態をつくり出すために意識的に努力することである。」と定義しています。

彼の言葉を、事業推進のデザインに当てはめるのではあれば、「事業に社会的な意義に基づいた適切な仕組みを与え、強い意思を持って具体的に前へと進めていくこと。」と言い換えることができるでしょう。

社会に既に数多くの事業が存在する中で、今また新たに事業を起こす際には、未来への可能性、完成度の高さ、客観的な視点などが求められます。つまり、ビジネスへのより良いデザインが必要とされているのです。


秋山 かおり プロダクトデザイナー

多くの出来事が絡み合い複雑化する現代では、純粋で清々しく強い思いが人を巻き込み大きな力になっていくと私は信じています。デザイナーとして'具現化する力'はもちろんのこと、強い思いを持ち続けるためには'未来を想像する力' '人と対話していく力'が予想以上に重要だと最近常々考えます。それは企業の方々が抱える問題に寄り添い突破口を探るのに大切になる部分だからです。

例えば、環境に配慮した新商品の開発を進めるとします。会社としてどう取り組むのか、数字が目標になってしまうケースも未だに多々あるのですが、どんな未来のために、どんな人々のために、と具体的なイメージを伝えながら進めていくことで、事業を進める意味や意義が強まっていくのです。デザインを行う上で「芯」を見つけて清々しく強い思いを持ち進めること、これは多くの人が関わる長い事業計画でも指針になるはずです。


谷口 靖太郎 デザインエンジニア / ディレクター

事業のステージごとにデザインが果たす役割は異なります。

事業の初期段階では、顧客視点でのアイデア創出とその具現化においてデザインが大きな効果を発揮します。一方、事業の成長段階では、顧客との効果的なコミュニケーションを通じて幅広い層にリーチすることや、製品の提供価値を継続的に改善してLTV(顧客生涯価値)を向上させるためにデザインが重要な役割を担います。

TBDAの枠組みでは特に前者の役割に焦点が当てられており、参加デザイナーの皆さんと協業した企業の方々はその効果を実感されているのではないでしょうか。ここで検討されたアイデアが事業として展開された後も、積極的にデザインを活用してコミュニケーションを改善し、新規顧客へのリーチ拡大に役立ててください。製品価値向上による“顧客のファン化”と合わせることで、デザインが事業拡大の重要なドライバーとして機能するでしょう。


日髙 一樹 特定訴訟代理人・弁理士 /デザインストラテジスト

ビジネスデザインは、収益性のある事業を実現するために、デザインを軸にしたイノベーティブな商品開発やブランディング開発のための手法である。市場経済環境が大きく変化し、企業の存在価値を問われる中、企業が持つ優れた技術など経営資産を客観的に分析し、これを活用してユーザーインサイトによる商品化と継続的な商品展開、さらにそれらのブランディングを実行するプロセスからなる。

特に、多くの企業の課題である未経験のユーザーとのインターフェイスに関して、デザインは商品価値を向上させ、ユーザーに強い印象を与えると同時に認知度を高める。継続的なデザイン戦略は、結果的にブランドアイデンティティを構築する。また、商品デザインを通して技術力伝達の媒体ともなる。

社内的には、デザインを通して従業員が自分事として捉えやすくなり、企業への帰属意識や愛着が醸成され、モチベーションの向上につながる。

事業を進める上で肝要な点は、企業はプロセス毎の具体的なデザイン提案に対し、デザイナーと協働で取捨選択し、決断して開発を進めることである。


坊垣 佳奈 株式会社マクアケ 共同創業者 / 顧問

全てにおいて「伝える」という作業をするときに、デザインは大きな力を発揮するなあと思います。

会社経営の経験から例を挙げると、例えば、全社集会で会社の戦略を全社員にわかりやすく伝えるべきシーンなど。

頭の中でイメージしていること、組み立てたロジックも、立場が違えばそう簡単にそれが共有できるわけではなく、それはテキストや言葉だけでは限界があり、やはりデザインの力を借りることでしか、それは解決できないのではないか、といつもそれを作りながらよく思ったのでした。

たくさんの人がいて、それぞれの価値観と目線で日々を生きているわけですから、共通のイメージをみんなで持つ、ということは実はとても難しいこと。しかし、それができた時の力はとても大きい。デザインはそこに向けて走る力を何倍にもします。


宮崎 晃吉 建築家

事業を推進するうえで、プロジェクトには様々な関係者が参加することになるかと思います。メンバーにはそれぞれの立場があり、より良い事業を生み出したい、もしくは進めたいと思っていても、複雑な与件や作り手の思い、届けたいシーン、販売計画…などの多くの情報を同時に並べた議論は平行線になりがちです。
 一方で、デザインの大きな役割のひとつに「捨て去ること」があると思います。いろいろな要件のなかでまずは一旦、的を絞ってばっさりと捨て去ることで、ひとつの切り口を可視化させることができます。それがすべての関係者の総意を代弁するとはいかなくとも、それぞれの頭の中にもやもやと漂っていた考えが形ある実体をもつことでチームそれぞれの次の具体的なアクションに結びつくことはよくあります。その可視化されたものからまたフィードバックを得ていくことで事業が推進する力を得るのだと思います。


八木 彩 アートディレクター /クリエイティブディレクター

ブランドや商品の独自性がこれまで以上に重視されるようになっているからだと思います。

現代は、商品の品質や価格、便利さが標準化し、差別化が難しいコモディティ化の時代だと言われています。このような状況では、人々に「これでいい」ではなく「これがいい」と選ばれることがとても重要になります。つまり、ブランドや商品に対して「好き」という感情を持ってもらうことが必要です。

ここで重要な役割を果たすのがデザインです。デザインは、「オシャレ」「かっこいい」「きれい」といった見た目の魅力をつくるだけではなく、ブランドや商品の思想を整理し可視化することで、独自性を生み出します。ビジネスの成長を支える重要な要素として、デザインを積極的に活用することが、これからの時代においてさらに求められるでしょう。


いかがでしたでしょうか?

これからもTBDAは、さまざまな事例や人との出会いを通じて「デザインとは何か?」を考え、深めて、行動していきたいと思います。

気になった方は、ぜひTBDAの公式webサイトもチェックしてみてください。次回インタビュー後編をお楽しみに。

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