テーマ企業インタビュー:磯村産業株式会社
2024年度東京ビジネスデザインアワード
「東京ビジネスデザインアワード」は、東京都内のものづくり中小企業と優れた課題解決力・提案力を併せ持つデザイナーとが協働することを目的とした、企業参加型のデザイン・事業提案コンペティションです。
企業の持つ「技術」や「素材」をテーマとして発表、そのテーマに対するビジネスモデルを含めた新たな製品・用途開発・ブランディング案をデザイナーからの「提案」として募集しています。
2024年度はテーマ9件の発表をおこない、10月30日(水)23:59までデザイン提案を募集中。本年度テーマに選ばれた9社へのインタビューをおこない、技術や素材について、本アワードに期待することなどをお聞きしました。
ものづくりへかける情熱と金属加工技術
その町工場の手にかかると、サラッと描いたイラストが次の日にはあっという間に金属の製品に早変わりする。驚くべきスピードの試作製造と自由自在な金属板の加工技術で、様々な企業の製品製造を下支えする縁の下の力持ち。ベテラン職人の技術と最先端の機械テクノロジーの融合を強みとするその町工場は、葛飾区に創業して72年の磯村産業である。
そんな磯村産業が、なぜ今回TBDAに応募したのか。その裏側には、ものづくりにかける職人たちの熱い思いとデザインへの大きな期待、そして若い世代の情熱があった。
お話:神戸広豊社長、神戸まどか氏、神戸良太氏
長年培ってきた金属板の加工技術
――はじめに、磯村産業の成り立ちと事業内容を教えてください。
神戸社長:磯村産業は、1952年に葛飾区で創業しました。創業以来70年以上にわたり、一貫して金属加工を専門に行っています。なかでも得意としているのは、薄い金属板を加工して様々な金属製品を作ることです。熟練の職人と最先端のレーザー加工もできる機械によって、迅速かつ正確・精緻な加工ができることが当社の事業の特徴です。
――金属加工を70年以上にわたり手掛けられてきた磯村産業ですが、これまでどのような分野の製品を作ってきたのでしょうか?
神戸社長: かつてはパチンコなどの遊技機器部品の製造がメインでしたが、近年では医療機器部品、食品加工器具、車両の内装部品、ロボット部品など、精密な加工が求められる製品を含め、多種多様な製品を製造しています。
――さまざまな製品を作っているということですが、磯村産業で加工できる金属の素材やサイズは具体的には、どのようなものになりますか。
神戸社長:主に取り扱い可能な金属素材は、ステンレス、アルミ、鉄、銅、真鍮、チタンです。その他にもカラー鉄板やジュラルミン、加えてポリ塩化ビニルなどの樹脂を加工することもできます。サイズとしては、爪先くらいの小さなものからキングサイズのベッドくらいの大きさまで加工可能です。大きい製品は70kgほどあるため、3人がかりで加工を行います。溶接・表面処理や塗装などは連携している協力会社で加工可能なため、納品までワンストップで対応することができます。
――その中でも得意とされているのが薄い金属板の精密加工ということでしょうか?
まどか氏:そうです。私たちが取り扱っている金属板は、一番薄いもので0.05mmです。これはポリ袋ほどの薄さになります。
TBDAを知り、「これだ!」と思った
――そんな下町の町工場である磯村産業が、今回TBDAに応募したきっかけとその理由を教えていただけますか。
まどか氏:昨年TBDAで最優秀賞を獲得した富士産業の杉本社長から、TBDAのお話を伺う機会があり、ぜひ参加したいと思って応募したのがきっかけです。応募に踏み切った理由は、このTBDAを契機として、弊社の事業の第二の柱となるようなToC向け製品(一般消費者向け製品)の自社製造を実現したいと考えたからです。
当社はToB製品と言われる対企業向けの受注生産を基幹事業としているため、売上が取引先企業の業績に大きく左右されるという課題を抱えています。その課題を解決するために、TBDAを出発点としてデザイナーさんとの協働をスタートさせ、ToC向けの自社製品を開発・製造して販路拡大することを目指しています。
――これまでToC向けの製品作りにトライされたことはありましたか?
まどか氏:簡単な試作品を作った経験はありますが、一般消費者向けの自社製品を大量生産したことはありません。
――ToC向けの自社製品として、どんなものを作りたいと考えていますか?
良太氏:社内では、アウトドア製品・暮らしの製品・知恵の輪などのアイデアが出ています。いずれも耐久力に優れた金属製品の良さを活かせるのでは、と思っています。
しかし、工場内だけではアイデアが限られていますし、商品開発のノウハウやエンドユーザーとの直接的な意見交換の経験も不足しているため、どんなものでも作れるけれど何を作ったらいいのかわからない、というのが正直な現状です。
そんな中、TBDAの「ビジネスをデザインする」という発想に出会い、「これだ!」と思いました。デザイナーさんとの協働により、ゼロから一緒にToC向けの自社製品を作りたいと思っています。
図面がなくてもアイデアさえあれば
――デザイナーさんのアイデア次第で、どんなものでも製造できるということですか?
まどか氏:はい、その通りです。当社の一番の強みは、自由度の高い加工ができることです。自由度が高いとは、つまり、複雑な幾何学模様の形状に金属板を切断したり、ウネウネと曲がる形状に曲げ加工をしたりして、幅広い製品を作り出せることを意味します。
その加工のクオリティには絶対の自信があります。例えば、弊社が製造している医療機器部品では、身体にフィットする曲線加工が求められる上に、関節の動きを補助し、可動域を制限する耐久性と安全性が求められます。このような高いレベルの要求に対しても、弊社は高品質な製品製造をすることで応えており、お客様にご満足を頂いています。
そしてなにより、弊社では、図面がない状態からでも試作品を作ることが可能です。
――加工用の図面がなくても、アイデアさえあれば製品が作れるのでしょうか?
神戸社長:はい。当社では、日ごろからイラストやイメージ図だけで加工のご依頼をいただくことが多く、図面がなくても職人がゼロから図面を起こすことが可能です。また、最新の機械を導入しているため、Illustratorのパスデータさえあれば、その通りに金属を切断することもできます。そうした対応力の高さは、デザイナーさんのアイデアを具現化するにあたり、大いに役立つものと考えています。
――今回の協働にあたり、デザインにはどのようなことを期待していますか?
まどか氏:消費者にニーズがある製品アイデアの提案や、製造した製品のブランディングを高めていくためにお力添えをいただければと思っています。
ToC向けの製品を作ったご経験やブランディングに関するご知見があれば大歓迎ですが、そうでなくても、私たちに無い経験や知見を持っているデザイナーさんと出会うことで、チームとして一緒に素敵な製品を作ることができたらいいなと思っています。
――製品の販路についてお考えはございますか?
まどか氏: ECサイトでの販売を考えています。人手も少ないので、デジタルマーケティングを活用して、販路拡大を目指したいです。
ワクワクするものづくりを
――若い方もいて活気のある会社の印象ですが、社内の雰囲気を教えてください。
良太:年齢的には、20代から60代までの幅広い社員がいます。社員の半数は30年以上勤めているベテラン職人ですが、厳格な雰囲気はなく、風通しがよく、自由に発言ができる職場です。
――最後にものづくりの魅力を教えてください。
神戸社長:最初は頭の中のイメージだったものが、実際に形になっていくプロセスを間近で体験できることがとても面白いです。それに、試作・改善を繰り返して、製品の完成度を上げていく過程はやりがいがありますし、出来上がると大きな達成感を感じます。
良太氏:私は現場の経験がまだまだ少ないのですが、社長や周りの職人といった大人たちが目をキラキラさせながらものを作っている姿を見ると、自分ももっとものづくりの真髄に触れたいと感じます。今回のTBDAでものづくりの魅力や面白さをより深く体験できるように頑張りたいと思っています。
まどか氏:私は好奇心が旺盛で、「こんなものを作りたい!」と思い立って、さまざまなものを作ってみるのですが、よく「思っていたものと違う」という壁にぶつかります。その瞬間は辛いですが、もがきながら試行錯誤することは、自分自身が成長している実感と隣り合わせで、これこそがものづくりの魅力だと思います。
また、職人たちや社長に助けられながら、みんなで協力してものを生み出していく過程は何よりも楽しい時間です。苦労して作った製品が誰かに届いて、いいなと思ってもらえたら、これ以上ないくらい嬉しいだろうなと思います。
インタビュー・写真:加藤孝司
テーマ名:金属板の自由自在な加工技術と高速な試作体制
テーマ企業:磯村産業株式会社(葛飾区)
各テーマの詳細はこちら:https://www.tokyo-design.ne.jp/designer/#design_theme
2024年度東京ビジネスデザインアワード
デザイン提案募集期間 10月30日(水)23:59まで
応募資格:国内在住のデザイナー、プロデューサー、プランナーなど、テーマに対してビジネスモデルを含めた新たな製品・用途開発・ブランディング案などを提案できる方
応募費用:無料
詳細は公式ウェブサイトをご覧ください https://www.tokyo-design.ne.jp/designer/