公益財団法人日本デザイン振興会 公益財団法人日本デザイン振興会

テーマ企業インタビュー:株式会社佐藤製作所

2023年度東京ビジネスデザインアワード

「東京ビジネスデザインアワード」は、東京都内のものづくり中小企業と優れた課題解決力・提案力を併せ持つデザイナーとが協働することを目的とした、企業参加型のデザイン・事業提案コンペティションです。

企業の持つ「技術」や「素材」をテーマとして発表、そのテーマに対する企画から販売までの事業全体のデザイン提案を募ります。2023年度は、テーマ11件の発表をおこない、10月30日(月)14:00までデザイン提案を募集中です。本年度テーマに選ばれた11社へのインタビューをおこない、技術についてや本アワードに期待することなどをお聞きしました。


テーマ:手作業で美しく溶接する銀ロウ付け技術および金属加工

金属は人類の歴史の中でも紀元前から使われてきた材料。それを道具として使うために人間は様々な加工方法を探究し開発してきた。銀ロウ付けも金属の歴史と同様の長い歴史のあるいわばプリミティブな金属加工方法。今年で創業67年を迎える佐藤製作所は金属加工と銀ロウ付けを共に得意とする都内でもめずらしい会社である。都心にほど近い東急電鉄東横線の学芸大学駅前の商店街に位置し、ベテランと若手が切磋琢磨しながら日々ものづくりを行う現場は活気に溢れている。


お話:常務取締役 佐藤健哉様、生産管理部 今村優希様、佐々木彩佳様、森下なな様

■失われつつある銀ロウ付けという技術

ーー1956年に創業されましたが、創業当時はどのようなことをされていましたか。

元々は金属の板を打ち抜いて加工をする金属のプレス屋として創業しました。その後、お取引様からの依頼ではじめたのがロウ付け、はんだ付けといった特殊な溶接の仕事でした。長年その技術を磨き、現在は通信、自動車、医療などさまざまな業界の金属加工の受託仕事を中心に行なっています。量産ではなく多品種少量生産を得意としている会社で、最近ではデザイナーや建築家からの個人的なご依頼で雑貨やインテリアなども手がけることも多くなりました。

ーー今回の応募テーマについて教えてください。

銀ロウ付け、金属の切削、板金の抜きや曲げといった弊社が得意とする技術を全面に押し出したいと思いこのテーマを選びました。

ーーまずは銀ロウ付け技術について教えてください。

日本では珍しくなった金属と金属を溶接する技術の一つで、銀ロウという接合する材料より低い融点を持った合金を使い、接合したい二つの金属をガスバーナーを用いて接合する技術です。溶接というとマスクやゴーグルを着けて火花がばちばちと上がるようなものを想像されるかもしれませんが、銀ロウ付けはそういったものではありません。一般的に溶接は接合したい二つの金属を熱や圧力を加えて溶かし押し付けて溶接しますが、銀ロウ付けは元々の材料となる母材は溶かさずに、ガスバーナーで金属自体を900度ほどに熱し、くっ付けたい部分に銀ロウという特殊な金属を押し当て、それを熱で溶かして接着剤のように流し込み接合する技術になります。ちなみに銀ロウ付けは「ロウ付け」の一種で、弊社では銀ロウ付け以外にも、銅ロウ付け、アルミロウ付け、皆さんご存知の「はんだ付け」は「ロウ接合」になります。

ーー銀ロウ付けならではの得意としていることを教えてください。

銅や真鍮の溶接を得意としていたり、異なる金属同士を溶接することを得意としているのが大きな特徴です。普通の溶接ですと鉄と銅の溶接は難しいのですが銀ロウ付けだと比較的容易という強みもあります。

それと材料を溶かさず変形させずに溶接ができますので、加工難易度の高い製品、接合により形状を変えたくない極小部品、極薄部品のようなものの溶接にも優位性があります。工芸品など見た目を綺麗に仕上げたいものにも向いているのもそれが理由です。

ーー逆に銀ロウ付けが苦手としていることはございますか。

アルミと真鍮の組み合わせなど特殊な例はありますが、基本的には一般に流通している金属であれば銀ロウ付けを用いることができます。

ーー 御社のウェブサイトに掲載されている動画で拝見したのですが、金属の細長い棒で溶接する様は子供の頃に工作の授業で体験した「はんだ付け」に似ていますね。

そうですね。定義上では450℃以上でロウ付け、それ未満ですとはんだ付けという区分になります。銀ロウ付けには細長い棒状のものをよく使いますが、ペーストや板状のものもあります。

ーーそれが接着剤のような役割をして二つの金属が一つの部材として接合されるのですね。銀ロウ付けとはんだ付けの大まかな違いを教えてください。

耐熱性の違いがあります。例えば800℃という状況下で使われるヒーターの部品の場合、はんだですと溶けてしまいます。そのような箇所で使われる部品ですと銀ロウ付けがベストになります。強度に関してははんだ付けはどうしても弱くなるので、機械に取り付けるような部品はロウ付けにします。ただ何でもロウ付けが優れているわけではなく、温度が高い分ロウ付けには技術的な難しさが伴います。それと温度が高いほど金属を痛めてしまうリスクも高くなります。はんだ付けは仮に失敗してもやり直すことができるメリットがあります。コスト面では銀ロウ付けの合金には銀が入っている分はんだ付けに比べてコスト高にはなります。

ーー銀ロウ付けは主にどのようなところに使われる技術でしょうか。

配管などのパイプとパイプの接合など目に見えない部分に多く使われている技術です。弊社では材料の調達から加工、加工後の表面処理まで一括での請負もしていますが、加工で作れる形であれば加工の方が早く作れるものもございます。逆に加工ですとコスト高になってしまうような部品はロウ付けで対応します。

ーープロトタイプやオーダーメイドの一点ものの加工にも優位性がありそうですね。

はい。あとは金属製品や部品の修理にもロウ付は優位性があります。

■職人の手による細やかなものづくり

ーー 一般の方から金属製品の修理にも応えていらっしゃるとお聞きしました。

はい。弊社では銀ロウ付けを知っていただきたくて、新卒入社4年目の佐々木が中心となり「銀ロウたより」を発行して商店街に面した入口にも設置しています。最近もご近所さんから長年愛用されているやかんの修理のご依頼をいただきました。一般の方向けの修理専門の窓口もあるんですよ。弊社は学芸大学駅前の商店街の中にある会社なので、土地柄もあってか皆さん気さくにご相談にいらっしゃいます。「銀ロウたより」は弊社ホームページでもご覧いただけます。

ーー昔は都心に当たり前にあった暮らしに身近な町工場というあり方が懐かしい感じがします。御社ではインターンシップも行っていますが、その背景には町工場の金属加工技術や銀ロウ付けという失われつつある技術の普及と職人技の継承という課題もお持ちですか?

はい。弊社はベテランと技術継承をしている若い職人がバランスよく在籍している会社です。営業先では銀ロウ付けをしてもらっていた会社がやめてしまったからなんとかして欲しいという切実な声を聞くことが少なくありません。この技術を未来に繋げていくという使命感を持って行っています。

ただ、昔は銀ロウ付けや溶接を使わないと出来なかった形状も、今は3Dプリンターを使えば一体で作れる時代になりました。今後も銀ロウ付けが残って欲しいと思いつつも、10年後、20年後のことは分かりません。ですが銀ロウを使った創意溢れる細やかな加工やものづくりは職人の技ならではであり、どんなに最先端の技術が生まれた未来であってもきっと差別化できる技術だと思っています。

ーーもう一つ長年のお仕事である金属加工に関してはいかがですか?

弊社で出来る金属加工は、大きく分けると切る、切削、曲げるの3通りです。切ることですが、板や棒を切断することに加え、金型を使えばさまざまな金属を自由な形に切り抜くことも出来ます。切削ではドリルなどを使い金属のかたまりに溝や穴、段差をつけてさまざまな形状を成形することが出来ます。さらにベンダーマシンを使いいろいろな太さの金属の棒を自由な角度に曲げることが出来ます。このように切る、切削する、曲げるに銀ロウ付けを組み合わせたものづくりが都心で出来るのが弊社の強みになっています。

ーーこれらの技術に向き合いながらものづくりをされていますが、日々の仕事の面白さを教えてください。

銀ロウ付けに関しましては、先ほど技術継承のお話がありましたが、職人の高齢化により技術が途絶えてしまう会社さんが少なくありません。継承されない理由には銀ロウ付けならではの技術的な難しさがあります。他の金属加工と違い銀ロウ付けは職人が腕を頼りに火を使って加工をする技術です。火は数値化することが難しく、バーナーで熱していても見た目では金属の正確な温度は分かりにくい。ですがきれいにしっかりロウ付けをするには金属の温度が重要です。毎日の仕事の中で完璧な製品を仕上げるには職人の勘が重要になります。教わる人によって火の当て方や温度、あぶる時間も変わってきて、仕上がりにもいい意味でその職人らしさがあらわれてくるのが銀ロウ付けのよいところでもあります。3Dプリンターでも自由な形が作れる時代にはなりましたが、銀ロウ付けならではの自由度や優位性はまだまだあると日々仕事をしながら思っています。

ーー銀ロウ付けにおいては接合される金属が主役で、銀ロウはあくまで縁の下の力持ち的な役割だと思うのですが、金属を溶かさないなど優れた機能面に加えて見た目の面白さで、銀ロウ付け自体が主役になる可能性はあるとお考えですか?

そうですね……、具体的には思い浮かびませんが、異種金属の繋ぎ合わせが出来るという点では、真鍮と銅などそもそも異なる色味を持った金属同士を付けることが出来る銀ロウ付けならではの活かし方はあると思います。

例えば磨き加工をすることで接合部を目立たせることなく銀ロウ自体のラインを意匠のように仕上げるのは、他の溶接では出来ない個性的な仕上げです。それとこれは継承の難しさにも直結しているのですが、つくり手の熟練度や個性によって仕上がりが変わってくるのが銀ロウ付けであると先ほどお話しましたが、だからこそアート性と唯一性を持ったものを生み出す可能性を秘めた技術だと思います。金属や銀ロウの焦げ目を意匠としたり、銀ロウ自体は融点が低く金属の上でバーナーで熱すると水の波紋のように広がります。それを造形として活かすデザインはあるのかなと思っています。

ーー実際溶接した箇所は焼けたように残るのですか?

処理を施さなれければそれ自体としては焼けたような仕上がりになります。大体が見えない箇所に使われることが多い技術です。コスト面もありそのままでというご依頼が多いのですが、銀ロウ付けで仕上げた製品を見える箇所に使う場合や、お客様からのご要望があれば磨いて仕上げることもあります。

ーー磨くと溶接面は綺麗になるのですか?

溶接面の焼け跡が見えないように綺麗に仕上げることが出来、それこそ金継ぎのように繋ぎ目をあらわした仕上げにすることも可能です。銀ロウ付けは人の手の加減で行う金属加工方法です。工業的な部分だけではなく、つくり手の思いも込められた製造方法だと思います。

■希少だからこその魅力と価値

ーー今回のアワードでのデザイナーなどとのマッチングによるものづくりにおいて、金属加工と銀ロウ付け以外に御社ではどのようなことが出来ますか。

ロウ付け、はんだ付け、プレス、曲げ、穴あけ、銀ロウ付け後に製品を鏡のように磨くことも出来ますし、金属加工に関してはほぼ弊社内で出来ます。協力会社さんに依頼をすればメッキや塗装も出来ます。取扱材料は、真鍮、銅、アルミ、ステンレス、鉄、純銀、セラミック、プラスチックなどです。

ーー本アワードを通じて伝えたいことを教えてください。

認知度も低い技術ですし、現在ではやっている人も少なく、この技術を魅力的だと思っている人もいないというところに逆に可能性を感じます。弊社は0.01ミリ単位の高精度を頭と手を頼りに生み出すことができるすごい技を持った職人ばかりがいる会社です。

ただこれは弊社の強みでも弱みでもあるのですが、あくまで受託加工をメインでやってきたことで、高精度でのものづくりは得意なのですが逆にものづくりしか出来ないとも言えるわけです。事業拡大のためにもものづくりの魅力を伝えたいけれどその仕方が分からない。安く見積もられることも多くて、この技術の価値を伝えることが出来たら、普段の仕事にも絶対いい方向に活きてくると思っています。そこにも注力するために今年度から「開発・広報部」を立ち上げましたが具体的方向性はまだ示せていません。これは弊社内のことでもあるのですが、今回のアワードをきっかけにPR面の強化にも繋げていければと思っています。

ーーデザイナーやプランナーとの協働と本アワードに期待することを教えてください。

これまでほぼ手がけることが出来なかった自社製品を実現する良いきっかけになると思って参加したいと思いました。B to Cの商品を作るにしても工業にしか携わってこなかったので一般の消費者の皆さんのニーズも分かりません。私たちなりにオリジナル商品を作ろうと試行錯誤はしているのですが、経験値がゼロのところでいきなり自社だけで製品を作って成功させるのはだいぶ厳しいと思うんです。そういった意味でも長い目でお付き合いをしていただけるデザイナーさんとの出会いを期待します。

弊社にはこれまでデザインという概念はありませんでした。それを実現するはじめの一歩としたいです。初期段階からアイデアを共有し合い、楽しく一緒にものづくりが出来る方と出会ってみたいです。

ーー例えそれが使われているところが目には見えなくても、使う誰かのために製品を丁寧に美しく仕上げるという工夫そのものがデザインだと思い敬服します。今回のアワードでの取り組みにおけるビジネスモデルはどのようにお考えですか?

銀ロウ付け、金属加工をしている会社は弊社以外にもありますが、それを両軸で、しかも高いクオリティで出来るところはかなり絞られてきます。そこが弊社の強みだと考えています。ともすれば銀ロウ付けは接着剤としてしか見られない危惧もあり、そこを主役に見立てることは私たちでは出来ません。アワードを通じたこれからの取り組みでビジネスモデルも一緒に構築していきたいと考えています。

ーー例えばこんなお店で販売したい、この商品でこんな展示会に出てみたいという具体的な着地点というか通過点をイメージすることもビジネスモデルを考える入り口になると思います。

確かにそうですね。そういった意味ですと今年初めて東京ギフトショーに出展したのですが、普段考えないこともみんなでいろいろ知恵を絞りあったことを思い出しました。デイリーユースなものも良いのですが、海外展開にチャレンジできるような付加価値のある商品、百貨店のハイブランドコーナーに置いてある、少し背伸びをして手に取るような憧れの高級品を弊社の技術で作るのが理想です。

ーーそれは応募を考えているデザイナーにも提案の参考になると思います。あと、物単体ではなく、御社のものづくりの技術と人など「ものづくり」をトータルで伝える仕組みは、技術と共に製品を伝えていく上で有効なツールになると思います。

他社が出来ないことをやるというのが弊社のスタンスです。それはものづくりにおいてもそうですし、これからの技術継承とつくり手を育てていくという人材育成においても同様です。弊社にとっては技術と共に人が財産です。その世界観も含めて伝えていきたいと思っています。

インタビュー・写真:加藤孝司


手作業で美しく溶接する銀ロウ付け技術および金属加工

株式会社佐藤製作所

企業HP:https://sato-ss.co.jp

各テーマの詳細はこちら:https://www.tokyo-design.ne.jp/designer/#design_theme


2023年度東京ビジネスデザインアワード

デザイン提案募集期間 10月30日(月)14:00まで

応募資格:国内在住のデザイナー、プロデューサー、プランナーなど

応募費用:無料

詳細は公式ウェブサイトをご覧ください https://www.tokyo-design.ne.jp/designer/

BACK TO TOP

NEWS LETTER

JDPより最新のデザインニュースをお届けします。
ご登録は無料です。お気軽にご利用ください!

  • GOOD DESIGN AWARD
  • GOOD DESIGN Marunouchi
  • GOOD DESIGN STORE
  • DESIGN HUB
  • 東京ビジネスデザインアワード
  • TOKYO DESIGN 2020
  • SANSUIGO