公益財団法人日本デザイン振興会 公益財団法人日本デザイン振興会

テーマ企業インタビュー:株式会社江北ゴム製作所

2023年度東京ビジネスデザインアワード

「東京ビジネスデザインアワード」は、東京都内のものづくり中小企業と優れた課題解決力・提案力を併せ持つデザイナーとが協働することを目的とした、企業参加型のデザイン・事業提案コンペティションです。

企業の持つ「技術」や「素材」をテーマとして発表、そのテーマに対する企画から販売までの事業全体のデザイン提案を募ります。2023年度は、テーマ11件の発表をおこない、10月30日(月)14:00までデザイン提案を募集中です。本年度テーマに選ばれた11社へのインタビューをおこない、技術についてや本アワードに期待することなどをお聞きしました。


テーマ:独自のゴム配合設計と幅広い加工技術

ゴム製品は用途に合わせて適切に選ばれたポリマーと呼ばれるゴムの原料に多種多様な薬品を添加することで、耐久性、耐薬品性などさまざまな機能を持った材料を製造することができる。長年ゴムにまつわる工業製品をつくってきた江北ゴム製作所は、そのゴムの配合から製造、設置までをワンストップで行える足立区にある会社。コンベヤベルトをつなげる加工から始まり、今ではゴムに関わる製造を1φの小さなものから5メートル超のものまで、チャレンジ精神を持ってものづくりをするその思いを聞いた。


お話:株式会社江北ゴム製作所 代表取締役社長 菅原健太氏

■働いているみんなが誇れる仕事を

ーー1962年に創業されましたが、菅原さんで何代目になりますか?

私の母方の祖父がゴムメーカーに勤務後に創業した会社で私で3代目になります。創業当時は高度経済成長期の真っ只中、燃料に使う石炭などを運ぶコンベヤベルトをつなぐベルトエンドレス加工から始まりました。創業初期には、いち早く西ドイツに社員を派遣し、身につけてきた常温で強力に接着できる「自然加硫接着剤」を採用し、ベルトエンドレスの先鞭をつけました。次第に搬送ローラーやコンベヤベルトの駆動プーリなどの金属ローラーにゴム巻き付け一体成形しスリップ防止だけでなく、耐摩耗性、油に強いゴムなど機能性を持ったゴム自社で作り始めました。

ーーゴム製品を製造するだけではなく、機能を持ったゴム自体を用途に合わせて製造する現在の体制はその頃から始まっていたのですね。

そうです。

ーー菅原さんご自身の経歴も教えてください。

私が育ったのは現会長である2代目社長であった父が、創業の地である東京とは別につくった工場がある山梨県富士吉田でした。子供の頃は富士山が目の前にそびえ、工場からの音が聞こえるような環境で育ちました。

大学では経済学を学びましたが、そのまま金融に進んでも面白くないと思い、ゴム関係で上場している企業に入社しました。

ーー家業に近い分野に就職されたのですね。

特に深い意味はなかったのですが、5年ほどいたら居心地が良くなってしまい(笑)、それで退社をして家業に入るため山梨に戻りました。そこで営業と工場長をやりましたが、当時は作っている社員も分からないまま仕事をしているような感じでした。でも、どうせ逃れることが出来ないし(笑)、自分の一生の仕事としてやるからにはそれではつまらないので面白いものを作りたいと思いました。それで営業を頑張って、アミューズメントパークやゲームセンターで使うワクワクするようなものを手がけられるようになりました。どうせやるなら働いてくれている社員たちが家族に誇れるような仕事がしたいと思ってこれまでやってきました。

■他社がやらないことにこそチャンスがある

ーーゴムはポリマーといわれる原料に用途別にいろいろなものを添加して作られるものだそうですが、基本的なゴムの知識を教えてください。

ゴムはコロンブスが1493年の二度目の大西洋を横断の際に西インド諸島のエスパニョーラ島で現地の子供たちがゴムまりで遊んでいるのを見て発見したものです。しばらくはさほど利用価値はなかったそうですが、1839年にアメリカ人のグッドイヤーがゴムの加硫方法を発見し、あくまで植物から取れる原料であったゴムの工業用材料としての利用が始まりました。

ーー300年近い歴史を持つ工業用ゴムですが、どのように作られているのでしょうか。

ゴム製品は原料ゴムが多くの加工工程を経ることで作られます。まずは用途に見合った原料ゴムを選ぶことが大切で、その種類は、ウレタンゴム、フッ素ゴム、アクリルゴム、シリコーンゴムなど大元となるようなゴムがさまざまにあります。それに20〜30の薬品を様々な比率でブレンドすることにより、出来上がったゴムにいろいろな機能を持たせることができます。それはゴムをつくる企業しか分からないもので、いわば料理のレシピのようなものです。

ーーまさにその多様さはレシピそのものですね。

ゴムと薬品を混ぜただけではすぐに千切れてしまいゴム製品にはなりません。焼物のように圧力釜に入れて熱を加え化学反応させる「加硫」という工程を経て高分子同士が結びつくことではじめてゴム独特の弾性を持つことができるのです。

ーーオリジナルのレシピでゴムが製造出来る御社ならではの強みはどのようなところだとお考えですか?

ゴムを扱う会社の中には材料のゴムを仕入れて成形するだけというところもありますが、弊社では今お話をした製品の材料となるゴムを自社で調合して作ることができるところでしょうか。

ーー機能や用途に合わせたゴムそのものを自社で作ることが出来るのですね。

そうです。弊社ではゴムの大元になるポリマーに薬品を添加することによって機能を持ったゴムを自社で作る専門的なノウハウを持っています。弊社の工場内だけでフットワーク軽くものづくりが出来る環境だと思います。

まさにレシピ作りから、自社のスペースで原料を調合し、製品のテストをすることが出来ます。それとOリングならOリング、シリコンならシリコンだけと分業しているところが多いのですが、うちはゴムに関することなら全て出来ると言っても過言ではありません。他社で断られたがなんとか出来ないか、という相談も時々頂きますが、それこそが技術を磨くチャンスだと捉えています。他社が断った仕事の中にこそ面白さがあると思っています。そうして開発してきたいわば困り事解決の商品群があるのが私たちの強みです。

ーー現在ではゴムにまつわる自社製品も手がけられていますが、まずはチャレンジしてみるその思いの源を教えてください。

これまでやったことがない仕事でも、なんでもトライしてみようというチャレンジ精神が弊社の社風といいますか。以前、お客様がゴムとウレタンフォームを間違えてご相談にこれらたことがありました。ですがこれは面白そうだと思い、ウレタンフォームの製造の仕方を知り合いに聞き社外の仲間に協力をしてもらい、今ではウレタンフォーム製品も作れるようになりました。そのようにお客様からの困りごとに対応しながら、ゴム製品以外にもフッ素樹脂コーティングなど、いろいろな技術を身につけてきました。

ーーゴム製品の約90%が実は車などに使われるタイヤだそうですが、御社では大量生産のゴム製品も手がけられていますか?

数がありすぎるものもあり、自動車製品は多くの会社さんがやっていることでもありますので対応していないものもあります。というのも安さを求めて数をつくっていたら企業としても疲弊してしまうし、私としては設備産業になってしまったら面白くないからです。弊社で手がけるものは大量生産品よりも中量品が多いです。金型を使った細かい製品ですと農業用機械などに使われる振動を抑えるゴム部品、ガソリンが漏れないようにするパッキンなど、医療系では血液分析装置のゴム部品なども山梨の工場では得意なこととしてやらせていただいています。それ以外では、他社があまりやりたがらないような手間がかかることを請け負うということをキーポイントして仕事をさせていただいています。

ーー手間がかかることですか?

はい。耐摩耗性や耐薬品という機能を持ったゴムをつくる中で、例えば、パッキンを取り付ける蓋を支給してもらいゴム部品を金具に焼付一体成形し、タンクの中に入って防食ゴムを貼るゴムライニングまでも工場内だけでなく、時に出張工事として弊社で請け負っています。そうすることで組み立て工程でのパッキンの入れ忘れを未然に防ぐことにも繋がり、お客様からは非常に喜ばれています。ゴムを製造する側としてもパッキンだけを大量に生産して納品するよりも単価を上げることにもなります。人口が減少していく中、人が嫌がることをなるべく肩代わりすることが大事だと思っています。コンベヤベルトのエンドレスというところから始まったことですが、社会や誰かの役にたつこと、喜ばれること、それがひいては社員のモチベーションアップと、社員にとって誇りのある仕事になるのではないかと思い日々仕事に取り組んでいる会社です。

■ゴムで世の中にない新しい価値をつくる

ーー今回のアワードへの参加理由と、掲げていただいたテーマについて教えてください。

弊社で開発した機能性を付与したゴム材料で世の中にないものがつくれたら面白いと思ったことがきっかけでした。ものをつくる側の人間として常々思っているのは、自己満足では意味がない、ということです。イマジネーションに溢れた空想的な物作りを追求することにも意味があると思いますが、私は世の中で今なにが求められているのかを考えながら、ゴムを使って人々のニーズに応えるのが私たちの使命だと考えています。

これまで弊社ではお客様からの依頼や、困っている声に応えるために、物作りの技術を磨いてきましたが、それは言い換えれば受注仕事です。お客様の思いに応えたい一心で研究を重ね、レシピを開発し、同業がやらないような技術も磨いてきました。ゴム製品作りの技術をたくさん身につけて、できることも増えてきた今だからこそ、そろそろこちらから仕掛けていきたいと思い今回アワードに参加させていただきました。

ーーそんな中、テーマでもあるコロナ変異株にも効果のある抗ウイルス特性を持ったゴムも開発されたのですね。これはどのようなものでしょうか?

私が社長に就任してしばらく経ち、これから益々仕掛けていこうと思っていた矢先に世界的なパンデミックが起こりました。弊社ではこれまでも、お客様の声に応えるかたちで様々な機能をもったゴム製品を手がけてきたことはこれまでお話をしましたが、身近に触れるゴム製品だからこそ、抗ウイルス特性を持ったゴムが作れたら社会の役に立つのではないかと考え開発しました。試験でもコロナウイルスに効果があることが証明されており、今では弊社が作る一部の既存製品にも標準的に装備をしており、既に世の中に広まっています。ですが、目に見えない技術でもあり、それがあるのが一般のお客様には浸透していないのが現実です。

変異株にも対応する抗ウイルスゴムの配合も作れたので、それを使って世の中の役に立つことをしたいとなった時に、何をしていいか分からない。現状はこんなゴムが出来たということをお得意様に提案をすることしか出来ません。ですので、目に見えないものではあるけれど、科学的な試験で効果が証明されているものの価値を伝えるためにデザインがもつ力を使いたいと思っています。

ーー先ほど目に見えないからその価値が伝わりにくいとおっしゃっていましたが、具体的にはどのようなことが可能だとお考えですか?

この材料がもつ効果を見える化することで、機能面や形の面でデザインとコラボレーションが出来たら良いのではないかと考えています。あと、B to CでもB to Bにしても、どのように、あるいはどこで販売するのが効果的なのかも私たちには分かりません。ですので今回アワードで出会う方には販売面でもアドバイスやお力を頂けたら嬉しいです。今回テーマにさせていただいた抗ウイルスゴムだけでなく、独自のレシピでスライムのように柔らかいゴム、木の板のように固いゴム、跳ねたり縮んだり、落下した生卵が割れない衝撃吸収ゴムなど、いろんなゴムをつくることができます。こんなものをゴムで作れないか?というご相談でも構いません。こんなゴムが世の中にあったらいいのでは?というものを一緒に考えていただきたいです。

ーー今回のアワードでの出合いにどんなことを期待されますか?

普段から開発分野の方とはお付き合いをさせていただいていますが、いつも励みになるのが、私たちの工場や技術を見ていただいて、こんなことが出来そうだと思っていただける時です。ですので今回応募をご検討いただく皆さんにも、ぜひ弊社の技術を見ていただき、その可能性を探っていただけたら嬉しいです。私たちには当たり前すぎて見えていない、気付けていないだけでそこにある価値や可能性を見つけていただき、その可能性を新たな価値として具現化する”発想”に期待したいです。一点ものでも量産ものでも、まずは新しいことにトライできることを楽しみにしています。

ーーどんな人と出会ってみたいですか?

単なる空想ではなく、私たちのものづくりを理解していただける方と出会ってみたいです。ゴムが持つ可能性に着目していただき、見た目の面白さを追求してご提案していただくことでも構わないのですが、それを作って商品化して管理して販売するところまでを一緒に考えていける方ですと、ビジネスモデルも広がるのではないかと思っています。私たちの技術を知っていただいた上で、こんな機能を持たせた素材を作り、こんなものを作ったらどうか?ということをご提案していただける方と出会えたらありがたいです。

ーー応募を考えているみなさんにメッセージをお願いします。

長年自社で開発力を身につけてきました。ですが、HPやSNSを活用した発信力にも課題があります。自社で開発した困りごと解決の商品群をつくり、江北ゴム、あるいは別会社なのか、しっかりとしたチャンネルをつくってB to C、B to Bに売れるようにしていくのが理想です。現状は日々の仕事に追われて、まだその前の前の段階にいるような状況です。今回のアワードでの取り組みが決まったら、弊社では技術と時間をしっかり割けるようようにしつつ予算も組みますので、まずは自由な発想でぜひみなさんのご提案を頂けますようお願いします。

インタビュー・写真:加藤孝司


株式会社江北ゴム製作所

独自のゴム配合設計と幅広い加工技術

企業HP:https://www.kouhoku.co.jp

各テーマの詳細はこちら:https://www.tokyo-design.ne.jp/designer/#design_theme


2023年度東京ビジネスデザインアワード

デザイン提案募集期間 10月30日(月)14:00まで

応募資格:国内在住のデザイナー、プロデューサー、プランナーなど

応募費用:無料

詳細は公式ウェブサイトをご覧ください https://www.tokyo-design.ne.jp/designer/

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