公益財団法人日本デザイン振興会 公益財団法人日本デザイン振興会

テーマ企業インタビュー:有限会社オクギ製作所

2023年度東京ビジネスデザインアワード

「東京ビジネスデザインアワード」は、東京都内のものづくり中小企業と優れた課題解決力・提案力を併せ持つデザイナーとが協働することを目的とした、企業参加型のデザイン・事業提案コンペティションです。

企業の持つ「技術」や「素材」をテーマとして発表、そのテーマに対する企画から販売までの事業全体のデザイン提案を募ります。2023年度は、テーマ11件の発表をおこない、10月30日(月)14:00までデザイン提案を募集中です。本年度テーマに選ばれた11社へのインタビューをおこない、技術についてや本アワードに期待することなどをお聞きしました。


テーマ:ワイヤーカット放電加工による微細・精密金属加工技術

放電によって生じる高熱を利用し工作物を精密に加工する放電加工。東久留米市の閑静な住宅街にあるオクギ製作所は、髪の毛よりも細いワイヤー線を用いた放電加工技術「ワイヤーカット放電加工」をいち早く導入した金属部品加工に特化した町工場。なかでも精密加工が可能な油仕様のワイヤーカット放電加工機による技術は他社の追従を許さない。近年では研究分野に活動のフィールドを広げる唯一無二の技術の新たな活用法が求められている。


お話:取締役 和氣直道氏

電気が通る材料であればなんでも加工ができる

ーー創業の経緯を教えてください。

私の祖父が1951年に創業した会社です。折り物の組み立て工場からスタートし、部品加工、プラスチックのプレス加工を行うようになりました。2代目である私の父の代から「ワイヤーカット放電加工」を中小企業としては割と早い段階から取り入れました。現在の事業内容はワイヤーカット放電加工による受託部品加工をメインに行なっています。

ーー和氣さんは前職でウェブSEのお仕事をされていたそうですが、オクギ製作所への入社までの経歴を教えてください。

高校と大学は理系で学生時代はロボットを作っていました。当時公開された『リアル・スティール』というロボットバトルの映画があり、そのリアル版のテレビショーに学生代表で出たこともあります。ロボットを作る上で必須のプログラムに興味を持ち、卒業後はそのスキルを磨きたいという思いもありウェブSEの道に進みました。4年ほど勤めたのちに父親からの誘いもあり2018年から現職に就きました。現場を知ることから始めて現在はほぼ全ての業務に携わっています。


ーー御社は長年ワイヤーカット放電加工を手掛けられ高度な技術をお持ちですが、入社当初はどのような印象を持ちましたか?

子供の頃はプラスチックのプレス加工が中心で量産をこなしていました。機械音も大きく忙しそうな感じだったのですが、私が入社した当初はワイヤーカット放電加工が中心の事業となり、量産から試作品づくりに変わってきていたこともあり、昔と比べると工場が静かになったと感じました。

ーー早速ですが、御社が得意とされる「ワイヤーカット放電加工」とはどのような技術でしょうか?

放電加工にはいくつか加工法があり、弊社で行なっているのは電極に細い金属ワイヤー線を使うワイヤーカット放電加工です。電極には0.2ミリ程の真鍮などの細線を使用し、それを工作物に近づけた状態で放電を起こし、糸のこぎりの要領で被工作物を切断する加工方法です。

放電加工自体は雷のような放電現象により発生する熱を利用して工作物を溶かし、任意の形状に仕上げていきます。雷を使うためにワイヤー線と加工物の間に隙間がないとできません。なぜなら接触したらせっかくつくった電気がそのまま流れてしまうからです。

ーーワイヤーカット放電加工の優れているところを教えてください。

加工物に非接触で加工ができるので、金属を細く加工し、アルミ箔のような薄い金属を正確に切ることも得意です。それとどんなに固い金属でも電気が通れば速度の違いこそあれ高精度に加工ができます。一般的に切削加工が苦手だとされる焼き入れした金属でも高精度に加工することができます。珍しいものですと金やプラチナにも加工実績があります。それとワイヤー線はどんなに太いものでも0.3ミリほどで、ドリル加工と比べてはるかに小さなアールで加工をすることができます。四角い角穴をあける際や角の尖った精密な部品の加工で綺麗な形状ができ、高い寸法精度、面精度で加工ができる優位性があります。

もちろんデメリットもあります。樹脂などの電気が通らない素材は加工ができません。切削と比べると加工時間が遅いこと、ワイヤーも消耗するため機械に大量のワイヤーを巻きつけたボビンを取り付け、ワイヤー線自体を動かしながら加工します。使い捨てになりますのでどうしても加工単価が高くなる傾向にあります。

長年の研究で蓄積してきた技術とノウハウ

ーー作業自体はどのように行うのでしょうか?

絶縁性の加工液の中に工作物を沈めて作業をします。弊社の特徴としては作業内容により水(イオンを除去した脱イオン水)と油(抵抗値の高い油)の二つの方法を使い分けています。しかも長年技術とノウハウを蓄積してきましたので、弊社では0.03ミリ程の極めて細いワイヤーから0.25ミリまでのワイヤーを使った高精度加工を得意としています。

ーー液体の中での加工、しかも水と油と種類があるのですね。

はい。空気中でも、放電中は数千度の熱を持つため高熱でワイヤーが断線してしまいます。そのため用途などにより、冷却装置のついた水か油の中で作業をするのですが、機械もそれぞれ水仕様・油仕様の放電加工機が必要になります。弊社では両タイプを保有しており、日本にも数社しかない、ワイヤーカット放電加工に特化した特殊な会社という位置付けです。

ーー加工液が水タイプと油タイプの機械で、できることの違いを教えてください。

いくつかありますが、水中加工と油中加工ではメッキ処理の際など、あとあとの錆の発生に大きく影響します。水の場合、どんなに工夫を行なっても錆が発生しやすく、その後の加工に支障を起こすこともあり、お客様にとっては大ダメージに繋がることがあります。

水に比べて油タイプではさらに細い線を使用できるので、より精度の高い加工ができます。

もちろん水タイプにも、油と比べて作業時間の短さや、低コスト、取り扱いのしやすさなど、優れている面もあります。

ーー水と油、作業工程においてその違いはどのように生じるのでしょうか?

まずは水と油の工作物への抵抗値の違いです。水に比べて油は抵抗値が高く、この抵抗値の高さが製品の仕上がり面の精度、そして微細加工も含めさまざまな加工対応する幅広いワイヤー線径使用可否に繋がります。

ーーちなみに加工機の上下にワイヤー線が繋がった状態で作業をしますが、工作物の中央部の加工はどのように行うのですか?

そこがよく誤解されるのですが、このOKUGIのプレートや、弊社で作った鉄で作ったジグソーパズルのようなものは、中に入るものと外側になるものは別々に加工をします。

ーー内と外を別々に?

はい。ひとつの金属の塊からすっぽり抜いたように加工をするのではなく、たがい違いの部品を製作して、それを後ではめ合わせているんです。そのため加工物に最初にワイヤー線が通る穴を用意し、そこから金属を溶かし始めて削り出し、出来上がった複数のものを重ね合わせるとこのような製品になります。

ーー驚きました。とても複雑で精密な作業なんですね。ワイヤーカット放電加工自体は、産業の現場には珍しくない技術だと思うのですが、御社ならではの強みはどのようなところにあるとお考えですか?

先ほどの水と油ですが、ワイヤーカット放電加工をされている一般企業の多くは、管理のしやすさなどから水仕様が中心です。油タイプを持っているところが少ないということは、逆にいうと世の中からのニーズが少ないとも言えるわけです。ですが、弊社の場合は社長が将来を見越して両方の加工機を早期に保有し研究を重ねてきたことで、技術と異なる状況に即座に対応できるノウハウを蓄積することができました。

ーー他社よりスタート地点が早かった。

そうです。現在世の中の流れとして、より精度の高い加工が求められる傾向にあります。だから加工をするための経験値と知見があり高い精度での加工ができる弊社に依頼が集まるという好循環が生まれています。

多彩な放電加工技術で未来のものづくりを

ーーどのような分野のお仕事をされていますか?

技術を導入した頃は時計の歯車を作っていたそうです。その後は一般的な機械部品、プレス加工の際の金型製作などです。分野でいいますと半導体製品の検査部品、宇宙・真空関連、マイクロ鉗子といった医療部品、レーダーや通信機器に使われる導波管の部品、大学の研究室との協働開発のお仕事もさせていただいております。

ーー御社でお持ちの設備について教えてください。ワイヤーカット放電加工機以外にはどのような設備をお持ちですか?

旋盤、ボール盤、フライス盤など一般的な加工機、プレス機が一台あります。ワイヤーカット放電加工は貫通での加工なのですが、貫通ではない止め穴での加工もできる型彫放電加工機、細穴放電加工機もございます。また弊社では工作物の複雑な形状の測定や評価などができる三次元測定機を20年前から導入し、自社製品の品質保証や品質向上に活用できる技術も保有しています。

ーーこれはすごいですね。加工面の状態を確認したり、製作した製品の状態を自社で精密に確認できることは、ヒューマンエラーを未然に防いだり、御社の仕事の信頼性アップにつながりますね。ものづくりをする上で大切にしている哲学、目指している企業像を教えてください。

日頃から「先端技術の屋台骨になる」ということを意識して仕事に取り組んでいます。ワイヤーカット放電加工はニッチな加工分野にはなりますが、それをしっかり把握していただくためにも、この技術でできるということを伝えるのも私たちの仕事だと思って日々取り組んでいます。

ーー東京ビジネスデザインアワードへの応募動機を教えてください。

自社製品と量産品の開発の契機にしたいという思いを持っています。弊社の仕事は研究など特殊な部品加工を請け負っていることもあり一品一様であったり、加工の際に出る削りかすを常時取り除く必要があり、人のいる時間しか作業ができません。自動化に向けた社内検討はしているものの弊社の場合、量産する自社製品を持たないので、それができないことが経営上のネックになっています。

昼夜、毎週末に機械を動かして作る自社の量産品を手がけたいという思いを持っており、デザイナーさんにご提案をいただけたらと思い応募させていただきました。

ーー 一般の方に届くもの、ということでしょうか?

はい。展示会に出展をしましても、どんなところに使う技術なのと言われることが多く心苦しく思っていまして……..。この技術が持つ精度、そしてこの技術を使えばこんなことができるという、見せ方の部分でも何かできればと思っています。

ーーデザイナーとの協働に期待することを教えてください。

私には考えられないようなデザイン性があるからこそ成り立つようなものも作ってみたいです。弊社が得意とするワイヤーカット放電加工の技術を使ったものづくりでそれを実現したいし私自身見てみたいという思いがあります。以前各パーツの境目がわからなくなるジグソーパズルを作りましたが、これがとても好評で東久留米市ブランド品にも認定されました。境目のわからない寄木細工のからくり箱を金属を使ってできないかと考えたこともあります。

ーーちなみに金属には着色など装飾は可能ですか?

もちろんです。アルミでしたらアルマイト処理、メッキ処理など金属に施せるものでしたら協力企業にお願いすることができます。それと金属それぞれで色や柄が異なります。異素材の組み合わせにより、金属自体の異なる色や柄の組み合わせなど、素材の特性を活かしたものづくりも面白いと思っています。

ーー今回のアワードでお考えのビジネスモデルを教えてください。

to C向けのビジネス展開、ワイヤーカット放電加工が高価になってしまうことを考えると、世界が注目する日本のものづくりの技術を背景に海外の富裕層向けの製品の開発なども可能性があるかなと思っています。クラウドファンディングの活用など、私自身が考えられることだけでもいくつかパターンがあると思っています。

ーー出会う方はビジネスモデルを一緒に考えてくださる方でも可能ですか?

はい。デザイナーさんの思いを大切にご提案の方向性は限定したくはありません。世間ではマイナーな加工方法ですが、そのすごさを活かしたビジネスモデルを一緒に考えてくださる方も大歓迎です。どうぞよろしくお願いいたします。

インタビュー・写真:加藤孝司


有限会社オクギ製作所

ワイヤーカット放電加工による微細・精密金属加工技術

企業HP:https://okugiss.jp

各テーマの詳細はこちら:https://www.tokyo-design.ne.jp/designer/#design_theme


2023年度東京ビジネスデザインアワード

デザイン提案募集期間 10月30日(月)14:00まで

応募資格:国内在住のデザイナー、プロデューサー、プランナーなど

応募費用:無料

詳細は公式ウェブサイトをご覧ください

https://www.tokyo-design.ne.jp/designer/

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