公益財団法人日本デザイン振興会 公益財団法人日本デザイン振興会

「デザインに恋したアート♡アートに嫉妬したデザイン」プレス説明会レポート

大阪中之島美術館で開催されている展覧会「デザインに恋したアート♡アートに嫉妬したデザイン」のプレス説明会での発言趣旨をお伝えします。

登壇者:大阪中之島美術館 館長 菅谷富夫氏、大阪中之島美術館 学芸員 植木啓子氏(本展覧会の企画構成担当)、Panoramatiks 主宰 齋藤精一氏(本展覧会の企画構成監修担当)

日時:2023年4月14日(金)
会場:大阪中之島美術館 ホール

(文責:日本デザイン振興会)

この展覧会の企画構成を担当した大阪中之島美術館の学芸員植木啓子さんから、展覧会の趣旨を説明しました。


植木学芸員:
大阪中之島美術館は構想時から、アートとデザインの2つを柱とし、それをいろいろ探りながら、昨年2月に開館しました。そしてこの1年間、アートとデザインに関わる展覧会を複数開催してきましたが、この2つががっちり組んだものや、混じり合った展覧会は実現に至っていません。

アートにもデザインの分野にも各々専門家がいて、切磋琢磨しながら様々な研究・検証をずっと行っています。「アートとデザインとは一体何だろうか?」という、我々学芸員の原点であり、多くの美術館にとっても大きなテーマを、どのように展覧会として紹介したらいいかを考えてきました。

そうした中、公益財団法人日本デザイン振興会の矢島さんが作った「デザイン:アート=◯:◯」というカードを見る機会がありました。
そのカードには近現代の様々なアートとデザインの作品があり、「これはデザイン寄りかな?」「これはアートとデザイン真ん中ぐらいかな?」といった、まるでトランプやカルタを遊ぶような感じの話を4年ほど前にしました。それがこの展覧会の原案となるものです。


アートとデザインの境界を考察する企画は、フォーラムという形式ならすぐに開催できますが、美術館であればやはり実物の作品を示す展覧会というスタイルで、観覧者自身に体感してもらうのが最も相応しいと考えました。
また、美術館という文化施設が、持続可能性をどれだけ高めていけるかが現在大きな課題であり、「美術館の立ち位置」や「美術館ができること」「美術館と観覧者の関係性」などを真摯に考えていく必要があります。

そして、これまでの美術館の展覧会は、学芸員がその専門性をいかし、様々な文脈や研究成果を示す場でしたが、今回の展覧会は、逆の立場をとっています。

観覧者の考えを学芸員に教えていただくという新しい展覧会のスタイルをとり、そのことで従来にない研究成果を観覧者へお返しする契機になるとよいと考えています。そうした意味でも、記念すべき1周年の展覧会となっています。

約70名の作家による約110点の作品という非常にボリュームのある展覧会になっています。そして作品1点1点が平等の扱いで、どの作品が重要か、そうではないといったヒエラルキーは全くありません。

観覧者一人一人が主役になれる展覧会にするため、作品と純粋に対話してもらうように作品解説は会場内から省きました。これは一つの実験的な試みで、観覧者と共に新しい美術館のスタイルを築くきっかけになると考えています。

今回の展覧会の構成は、齋藤精一さんに大きな力をいただきました。この後は、齋藤さんに説明をお願いします。


次に、企画構成監修をされたPanoramatiks 主宰の齋藤精一さんが構成の意図を説明しました。

齋藤氏:
今回の展覧会は、「展覧会の発明」になると実は思っています。また「小旅行の控えめなコンシェルジュ」と呼んでいるのですが、これがこの展覧会の肝だと思っています。

最初に日本デザイン振興会の矢島さんが作成されたカードを植木さんが見て、理解・共感されたことからこの展覧会は始まり、私に声をかけてくれた時点では、既に展覧会の骨子である「デザイン:アート=◯:◯」という構想はできていたので、私はそれをどう観覧者に体験していただくかを考えました。

大阪中之島美術館は40年ずっとデザインとアートの両方を扱う準備をされてきましたが、この展覧会は非常に大きなチャレンジを体現されています。多種多様なコレクションを収蔵していますが、足りないものは他の美術館から借りて今回の展覧会ができました。「都市型の美術館や文化施設はどういう役割があるのか?」「キュレーターとはどういう役割で伝えていく仕事であるのか?」などは、コロナ禍になって大きく考え方が変わったと思っています。

私自身も奈良の山奥を歩く芸術祭「MIND TRAIL」をやっていますが、これはノンキュレーションで、作家に土地の文脈を紡いだ作品を制作してもらいますが、全体の文脈は観覧者に委ねるスタイルをとっています。

会場の個々の作品には、説明文は省いていますが、例えば倉俣史朗の椅子を見た子どもは、単なるきれいな椅子だと捉えると思いますが、美術に関心がある方は、MoMAに所蔵されているアート作品だと思うはずです。

私も国立デザインミュージアムをつくる活動をやっていますが、デザインとアート、クラフトの境界線は引けません。この議論を続けても「みんなで決めていくもの」とか、「人によって境界線が変わるもの」などと、ずっと議論はループしてしまいます。

「展覧会の発明」と言ったのは、その境界を観覧者に考えてもらい、最後に集計結果をデジタル映像で見てもらう仕組みにしました。そうした意味で、観覧者と美術館の関係性を変える意欲的な実験でもあります。

集計結果を出口で見たり、図録には詳細な解説がでていますので、答え合わせをしてみてください。そして作品のバックグラウンドを知った上で、もう一回、来館したくなる展覧会だと思っています。

美術館のコレクション展というのは、バリエーションがでづらくフラットに見えたり、押し付けているようになりがちですが、今回の展覧会は、所蔵品の新しい見せ方を提示したとも言えます。

また今回発明されたこの展覧会のフォーマットは、地域の美術館や文化施設のあり方を再定義できると考えています。

タッチパネルで体験しながら、自分でキュレーションする展覧会。「小旅行の控えめなコンシェルジュ」にのって体験し、考え、最後に学んでいく展覧会です。口頭で説明しても伝わりづらいので、会場で一人ひとりが体験してください。

次に、来場された記者からの質問に答えました。

<質問1>
*展覧会の名称「デザインに恋したアート♡アートに嫉妬したデザイン」は、どのような意味でつけたのでしょうか?

植木学芸員:
この名称も、日本デザイン振興会の矢島さんから提案いただいたのですが、いろいろな想いが詰まっています。

展覧会のタイトルにしてはまず長過ぎますが、敢えて普通の展覧会タイトルの表現にはしたくなかったのです。また、分かりやすい言葉を使いたかったのですが、少し刺激的で「これは一体何だろう?」と、美術やデザインに興味がない方も振り返ってもらえるようなタイトルにしたかった。ツッコミがあるところも話題になるかなと思っています。

実施にどれほどの意味があるかと問われると、実際私も困ってしまいます(笑)。
ですが、互いに同時代的に刺激しあっているアートとデザインの作品を一堂に集め、実際目で見てみると、恋愛関係のような不思議な感覚があります。

菅谷館長:アートとデザインの一方が恋して、一方が嫉妬してというのはどうなんだと最初は思っていました。
芸術の世界の中にはヒエラルキーの問題があって、アートや工芸、もしくは写真、版画はどんな位置なのかという問題を孕んでくるので、穏便なタイトルにした方がいいと意見もありました。
ですが、逆にいろいろ考える機会にもあるので、このタイトルに落ち着いた経緯があります。

<質問2>*展示作品はどのような視点で選んだのですか?

植木学芸員:
今回の展覧会は、約70名の作家による約110点の作品で構成されていますが、作品選びは本当に最後まで悩みました。
当館が所蔵しているコレクションは膨大ですので、少しでも多くお見せしたいという意図はありました。

昨年のオープニング企画で開催した展覧会と重複する作品も一部ありますが、そこでは出せなかった大型作品は積極的に出したいと考えました。コレクションの多様性を知っていただく意味でも。

当館の準備室時代にコレクションの補強ができない苦しい時代がありましたので、その頃のものは、隣の国立国際美術館や四国の高松市美術館など全国の美術館からお借りして補強しました。
美術史・デザイン史において、社会や芸術界に与えたインパクトや重要性のレベルを揃えるという基準を持って選出しました。それは美術館としての責任だと思っています。

また、会場の大きさや、様々な状態の問題を勘案して今回のラインナップとしました。


開館1周年記念展「デザインに恋したアート♡アートに嫉妬したデザイン」

会  期:2023年4月15日(土) – 6月18日(日) *月曜日(5/1を除く)休館
開場時間:10:00 – 17:00(入場は16:30まで)
会  場:大阪中之島美術館 4階展示室
観 覧 料 :一般1600円(団体1400円)高大生1000円(団体 800円)中学生以下無料
主  催:大阪中之島美術館、読売新聞社
協  力:公益財団法人日本デザイン振興会、Panoramatiks、BYTHREE、株式会社伏見工芸


◎関連イベント

齋藤精一が聞く  森村泰昌、「美術かアートか、それが問題だ!」

開催日時:2023年5月28日(日) 13:00-14:30(開場12:30)
登壇者:森村泰昌(美術家) 齋藤精一(Panoramatiks 主宰)
会  場:大阪中之島美術館 1階ホール
定  員:150名 *事前申込制
参 加 費  :無料 *観覧券が必要


学芸員によるギャラリートーク

開催日時:2023年4月22日(土)、5月20日(土) 各日10:30-11:30
会  場:大阪中之島美術館 4階展示室
定  員:30名
参 加 費  :無料 *観覧券が必要


詳細は公式WEBサイトをご覧ください。



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