テーマ企業インタビュー:モノコトデザイン株式会社
2022年度東京ビジネスデザインアワード
「東京ビジネスデザインアワード」は、東京都内のものづくり中小企業と優れた課題解決力・提案力を併せ持つデザイナーとが協働することを目的とした、企業参加型のデザイン・事業提案コンペティションです。
企業の持つ「技術」や「素材」をテーマとして発表、そのテーマに対する企画から販売までの事業全体のデザイン提案を募ります。2022年度は、テーマ10件の発表をおこない、10月30日(日)までデザイン提案を募集中です。本年度テーマに選ばれた9社へのインタビューをおこない、技術についてや本アワードに期待することなどをお聞きしました。
テーマ:IoT・ブロックチェーンを活用したエビデンスプラットフォーム技術
ブロックチェーンとはオープンな分散型台帳技術といわれ、ネットワーク上での取引履歴を暗号技術で1本の鎖のように時系列に繋げ、高度なセキュリティを担保しながら多くの人が分散して管理することを可能とする技術。その特性上、一度書き込み、シェアしたデータの改ざんが困難なことから、2008年にそのコンセプトが発表されて以降、金融商品の取引を中心に広まり、現在さまざまな分野への活用が進められている。鍵の管理をスマートに安全にできる「スマートキー」の開発、ブロックチェーン技術を用いた開発のコンサルティングなどを行うモノコトデザイン株式会社は、このブロックチェーンを活用したモノづくり、コトづくりを通じて、よりよい暮らしづくりをミッションと掲げる。先端技術とデザインとのより良い融合によってもたらされる未来像とはどのようなものだろうか。まだ可視化されていない社会や企業が抱える課題に対し、どう向き合うかが求められている。
お話:代表取締役 谷口 勝男 氏
何をもってエビデンスとするか?
ーー2018年創業ですが、御社の創業の経緯と、事業内容を教えてください
IoTとブロックチェーンの技術を活用して、何か新しいことをやってみようという思いから、モノコトデザインを立ち上げました。業務内容としては、スマートロックを始めとする、自社商品の製造、販売と、IT関連商品の開発支援を行っています。
ーー谷口さんがこの道に進んだきっかけを教えてください。
前職でスマートコミュニティなどの、電力計測×地域活性化で、新事業開発を検討していたころに、ブロックチェーンの技術に出会いました。IoTとブロックチェーンで、電力計測とは異なる、新しい切り口で何かやってみたいと考え、現在の会社を設立した経緯があります。私自身はブロックチェーン技術を専門に行っている技術者ではありませんが、弊社にはブロックチェーンを専門にやっているメンバーがおります。
ーーブロックチェーンはインターネット以来の発明とも言われているそうですが、効率化、不正防止、改ざん不可、リスク軽減などで近年注目されているこの技術とその特性を教えてください。
いろんな言い方をされていて、そう表現する方もいらっしゃいますね。もともとはビットコイン(仮想通貨)のベースに使われている技術になります。具体的にはデジタル上の情報をやり取りする際には、それが真実でないと困ってしまいますよね。嘘がつかれていないことを証明しながら価値の交換をする際に使われていて、そのアプリケーションのひとつが仮想通貨になります。複数の人たちがデータを改ざんできない状態でみられるということがひとつの特性であり、利点であると思います。
ーー仮想通貨がデジタル上で安心安全に流通するためのある種のインフラということでしょうか?
そうですね。最近ではNFT(Non Fungible token:代替不可能なトークン)などが話題になっていますが、金融関連の商品が比較的先行して実運用されていくなか、私たちはブロックチェーンを金融以外の事業へ適用していきたいと考えています。たとえばブロックチェーンの仕組みを根拠に証明書を発行するなど、複数の事業者で改ざんできないデジタルデータを取り扱える仕組みを提供していきたいと考えています。
ーー身の回りですとどのようなところに使われることが想定される技術なのでしょうか?
様々なシステムへの適用が考えられます。たとえば温度などのIoT情報の計測、制御を行い、そのデータをインターネットなどの通信網を経由し、サーバへ蓄積、分析、表示させる際に、データのエビデンス情報を付加することを想定しております。また、その情報を遠隔から監視、制御するようなシステムなどへの利用も考えられます。
ーー御社は現在どのような分野でお仕事をされていますか?
弊社のプロダクトである「スマートロック」に関しては、様々な利用エリアが想定されますが、おもに中小規模事業者さまのオフィスや、施設管理事業者さま向けにご提案しています。
今回のテーマにもあるエビデンスプラットフォームについては、物流分野における、HACCP や食品サプライチェーン、コールドチェーン DX の観点で、クリティカルデータの真正性とトレーサビリティの遠隔監視、保証、共有を管理出来るバリューチェーン化促進プラットフォームを提供しています。さらに食品物流の DX を加速化させ、業務効率化と品質向上化の大幅な改善を同時に目指しており、これらに興味をお持ち頂けるユーザ企業など、物流関連の企業さまへ展開しています。
ーーエビデンスプラットフォームとは聞き慣れない言葉ですが、どのような意味がある言葉でしょうか?
世の中にはまだない言葉でわれわれの造語になります。端末側で収集した情報を、サーバ側に上げて、それを端末やパソコンでみるのがいまやられていることです。
ですがただみているだけだと、一方でそこに上がっている情報がもしかしたら誰かが書き換えたものかもしれず、それが本当に正しいことであるのかは判断できません。
ブロックチェーンのシステムの特長は、端末で収集した情報を、サーバに上げるだけでなく、同時にそれらのデータを隠蔽した状態で、エビデンスサーバ側にも書き込んでいるところです。これによりIoTデータの真正性を検証可能にして、物流サーバにあるデータが正しいか否かの判定を行えるようにしています。そうすることでその情報を使っていいかどうかの判断をすることができます。ブロックチェーンを使った時点で、そこに書かれたものが書き換わえられたものかどうかが一目瞭然です。そのようにその情報をみることで、それが正しいかどうかを判断できる仕組みをエビデンスプラットフォームとして提案しています。
ただ注意したいのは、何でもかんでも、エビデンスを残す必要はないと考えているので、どのような情報であれば、コストを払ってまで、エビデンスを残したいかというのは、今後の事業化の上で検討すべき重要なテーマになってくると思います。
ーー具体的にはどの程度の範囲でエビデンスを残せばよいと谷口さんご自身はお考えですか?
物流分野においては、たとえば共同配送や受発注の自動化、物流在庫の適正化、人的ミスの軽減などの業務の効率化や、SDGs、環境配慮指向などの、本分野における課題解決です。さらに食のきんきやコンタミ防止、商品の流れ、配送品質の可視化など、食の安心安全を支援する付加価値サービスなどでしょうか。また、AIで正しい分析を行うための元データの信頼性を向上させる、など、様々な支援が考えられます。今回のアワードでは、新しい分野でのエビデンス活用の創出にも期待を寄せています。
技術がもたらすこれからのサービス
ーーもう少しブロックチェーン技術について教えてください。谷口さんはどのようなところに惹かれましたか?
ブロックチェーン技術により、データの真正性を検証可能な状態にして、複数の事業者がデータを共有し合えるようになることで、事業者の連携が生まれ新しいサービスが提供できるようになるのではないかというところがひとつあります。
ただ、ブロックチェーン技術は道具の1つでしかありません。私自身はそのサービスによって皆さんが少しでも便利に感じる、面白いと思って頂けるようなもの、仕組み、をご提案するところに、モノづくりの魅力を感じています。
ーーブロックチェーンで出来るのはどのようなことですか?
人によって、様々な説明の仕方があるようにも思いますが、ひとつにはデータの真正性を検証可能にすること、ではないでしょうか。
私自身はブロックチェーンで何かをしたいというよりは、課題を解決するために、ブロックチェーンの特性を利用する、ということかと思っています。技術にこだわりすぎずに、でも頭の片隅にあることで必要な時に最適な場所でそれを利用することができるとも考えています。これがあることで何ができるのか、ということを考えていきたいと思っています。
ーーユニークなところですと、どのようなことに活用可能だと考えられているのでしょうか?
良い事例が浮かびませんが、減価する通貨で宇宙ゴミの問題を解決したいと言っている方を知っています。
ーー宇宙ゴミですか……。壮大なテーマですね。「ブロックチェーンを活用したエビデンスプラットフォーム技術」という今回のテーマを選んだ理由を教えてください。
これからますます運用例が増えてくる技術だと思っており、これらを使いどんなことができそうか、事業モデルを含めて、デザイナーの皆さんと一緒に考えてみたいと思ったからです。
ーー高齢者の支援システムへの活用も視野に入れられているとお聞きしました。
はい。ニーズとしては、日本の高齢化率は年々高まっており、2015年時点(内閣府データ)、65歳以上の高齢者の単独世帯は約592.8万人(1980年は88.1万人)で、未婚率、離別率も増加しています。一方で、子供との同居は減少傾向にあるため、買い物困難や、転倒など室内事故による緊急時の対応の遅れ、節電(冷暖房未使用)による無自覚な健康リスクの増大など、一人暮らしの高齢者は、様々な課題を抱えています。
具体的には高齢者の個食、買い物支援などの利便性、生活の質を向上させながら、一方で、たとえ一人になっても、安心安全に、これまで過ごしてきた場所で暮らしていける、自治体や医療機関などを含めた、地域の柔らかな見守りを支援することなどです。そのなかには、地場の企業も関わって、持続可能なサービスが提供できることなどを例にあげて、複数の事業者が、データを共有しあう仕組みを提供することを描いてみました。
配送時間、状態の証明や、薬や商品を本人が受け取ったことの証明、お弁当の栄養やカロリー情報の証明など、エビデンスが必要なものからそうでないものまであるかもしれませんが、複数の事業者がデータを共有し合うために、エビデンスプラットフォームを活用する一つの例としてご紹介しました。それ以外にも、様々な社会課題、事業モデルが考えられるのではないかと思います。
ーーお客様からの声や要望で多いのはどのようなことですか?
お客様の声は、これから集めていきたいのですが、高齢者が明るく元気に過ごせるということは、その地域に住む人々の暮らしも豊かになり、その地域で活躍される企業の利益にもつながっていくのではないかと考えています。
ブロックチェーンを背景にもったプラットフォームづくり
ーー御社ではブロックチェーン技術を使ったプロダクト「スマートロック」も手がけれています。こちらは工事不要で届いてすぐに既存のドアの鍵部分に取り付け可能なものだそうですが、これはスマホアプリで操作するものでしょうか?
そうです。持ち主がアプリ上で操作することで、鍵の受け渡しをすることなく、別の誰かがロックを解除することができるというものになります。設定時間を過ぎると鍵自体が消えてなくなってしまうので、複製されたり紛失する心配もなく、誰がいつロックを解除したという履歴も残ります。ただ、スマートロック自体は世の中にもあって、データを暗号化した上で、モーターを回して既存の鍵を開けるといったように、機能を鍵の受け渡しに特化させています。単機能でつまらないという方もいるかもしれませんが、鍵がたくさんあって困っている人、安心安全に鍵の受け渡しがしたいと考えている人にとっては便利な技術だと思います。
現状はこのスマートロックはブロックチェーンを使わない運用になっていますが、例えば、地域通貨と鍵の権利を交換するなど、そのベースにブロックチェーンがあれば、その先には嘘のない情報の交換が可能になってくるのではないかと考えています。
ーー鍵の受け渡しというような単なるモノのやり取りではなく、そこに技術があることでその先に多様な未来を描くことができるところにワクワクします。それがこれからの技術の特徴なのかもしれませんね。谷口さんがモノづくりやコトづくりで大切にしていることを教えてください。
楽しみながら、新しいことにチャレンジしていくことでしょうか。
ーーデザインアワード応募への動機を教えてください。
たまたま目に触れたことと、ちょうどこの技術を活用して、何ができるのかを考えていたところでした。ビジネスデザインアワードが掲げる、様々な技術や素材に、デザイナーのアイデアや視点を掛け合わせて新しい可能性を生み出す、「企業とデザイナーで起こす、ビジネスの化学反応」という言葉に共感し、応募させて頂くことになりました。
ーー現在抱えている課題と、それに対してどのような問題意識をお持ちか教えてください。
とにかく、ひとつの企業でやれることは限られていると思っています。それを乗り越えるためにも、複数の人が集まって、お互いが今あるものを持ち寄り、とにかく何かをやってみることで、新しい景色がみえてくるのだと思っています。例えば、弊社にはスマートロックがあって、ウチはこんなことができるというところから始まって、異なる可能性をもったもの同士が一緒にやってみるということでもいいと思うんです。やれることからひとつずつ前に進めていきたいです。
それとエビデンスプラットフォームに関しては、技術そのものというよりも、システムをどこで、どう使われることが最適であり価値があることなのか、それが現状探りきれていないところも課題のひとつです。
ーー今回どのような人と出会ってみたいですか?
技術やスキルは問いません。課題や問いを持っていて、とにかく新しいことを楽しんでチャレンジしてくれる方々と共に、知恵を絞っていきたいです。
ーーこれまでデザイナーなどとの協働はございますか?
正直それほどデザイナーか否かを意識したことはありませんが、これまで、社内のメンバー含め、自分にない技術や能力を持った方々や、様々な企業さまと連携してきました。
ーー本アワードでの取り組みはBtoB、BtoCなど、どのような展開を想定されていますか?
事業の性格上、BtoBの事業モデルですが、BtoBtoCなどの展開もあるように思われます。
ーーどのような提案に期待しますか?
まずは、エビデンスプラットフォームで何ができるかを一緒に考えていただきたいと思っています。私自身この素材をどのように活かしていいのかわからない状態にあります。
IoTやブロックチェーンなどの最新のIT技術を活用して、様々な社会課題を解決できる、新しいサービス、持続可能でオープンな情報共有プラットフォームづくりをぜひ一緒に考えていきたいと思っています。みなさんどうぞお願いいたします。
モノコトデザイン株式会社(中央区)
テーマ:IoT・ブロックチェーンを活用したエビデンスプラットフォーム技術
企業HP:https://monokotodesign.co.jp
各テーマの詳細はこちら:https://www.tokyo-design.ne.jp/designer/#design_theme
インタビュー・写真:加藤孝司
2022年度東京ビジネスデザインアワード
デザイン提案募集期間 10月30日(日)まで
応募資格:国内在住のデザイナー、プロデューサー、プランナーなど
応募費用:無料
詳細は公式ウェブサイトをご覧ください
https://www.tokyo-design.ne.jp/designer/