テーマ企業インタビュー:株式会社オータマ
2022年度東京ビジネスデザインアワード
「東京ビジネスデザインアワード」は、東京都内のものづくり中小企業と優れた課題解決力・提案力を併せ持つデザイナーとが協働することを目的とした、企業参加型のデザイン・事業提案コンペティションです。
企業の持つ「技術」や「素材」をテーマとして発表、そのテーマに対する企画から販売までの事業全体のデザイン提案を募ります。2022年度は、テーマ10件の発表をおこない、10月30日(日)までデザイン提案を募集中です。本年度テーマに選ばれた9社へのインタビューをおこない、技術についてや本アワードに期待することなどをお聞きしました。
テーマ:高透磁率材料パーマロイと板金加工技術
1964年に創業し、特殊合金であるパーマロイを用いた製品を専門に手がけるオータマは、少量多品種の磁気シールドの製造に特化したメーカー。パーマロイは鉄とニッケルによる合金で、見た目は鉄やステンレスと変わりがなく、板金や塗装などの加工もできる金属。しかし、磁性焼鈍(熱処理)をすることで磁界に対する特性が向上し、そのもので覆った外部または内部からの磁界を遮蔽する性能を持つことから、製品などを磁界からシールドする装置の材料に用いられる。 磁気特性をもったパーマロイのその機能性に着目したあらたな活用法が求められている。
パーマロイを使った板金加工技術
ーーまずは御社の業務内容を教えてください。
創業時から材料のパーマロイの調達、加工、水素による磁性焼鈍とよばれる熱処理まで一貫しておこなっている会社です。それに伴い磁界の測定もおこなっています。お客様のご要望により、研究開発目的に使われる磁気シールドルームやボックスなどの設計・施工、自社開発製作を行っています。
ーー御社が扱うパーマロイという金属について教えてください。
鉄とニッケルの合金になります。パーマロイは磁性焼鈍という熱処理をすることで、磁界からシールドする磁気特性が向上し、金属自体が磁界を集めやすくなります。
磁性焼鈍をしたパーマロイは磁界を集めやすくなると同時に、磁界をすぐに手放すという特性も持ちます。その特徴から磁気シールドと呼ばれる部品や磁界を集める集磁部品に最適な材料になります。
ーー磁界を集めやすく手放しやすいことは熱処理を施したパーマロイならではの特性なのですね。御社では自社で板金をされていますが、パーマロイはどのような加工ができる材料ですか?
パーマロイ自体は特殊合金といわれますが、他の金属、例えば、鉄、ステンレス、アルミなどと見た目も加工性もほぼ違いはありません。重さはステンレスとほぼ同じ金属です。ですのでそれらの金属でできる、板金加工、機械加工、(ヘラ)絞り、表面処理も塗装、メッキなどの加工方法での加工が可能です。
ーー逆に、他の金属でできて、パーマロイでできない加工はございますか?
加工としては特にありませんが、熱処理後の磁気特性が向上したパーマロイへの加工は極力行いません。理由は、磁気特性が向上したパーマロイに加工してしまうと特性が劣化してしまうためです。ただ、形状を優先する製品の場合は、熱処理後に加工することもあります。
ーー御社では磁気シールド特性をもったパーマロイで長年製品を手がけられていますが、磁気遮蔽と集磁はどのようなものに使われることが多いのでしょうか?
パーマロイは磁界に弱いものを磁界の影響から防ぐことを目的に用いられます。それと磁界を集めることを目的とした部品などで使用されています。
通信機器や放送機器、半導体関連の電子ビーム、電子顕微鏡や医療器などの磁界を遮蔽する用途に使われています。身近なものですと、時計、音響機器、補聴器です。集磁目的では、モーターなどに使われています。ブラウン管テレビの時代には、鉄塔や電柱などの影響で画像が歪むことがあったそうで、そのシールドにパーマロイが使われていたこともありました。あとユニークなものですと、オーディオアンプにもパーマロイが使われています。
ーー大きさは大小どのくらいの加工ができますか?
小さなものですと先ほどのオーディオの小型パーツもつくれますし、大きなものですと、7×6mの磁気シールドルームを最近つくりました。
磁界を集め、受け流す
ーー普段から磁界という存在をなんとく意識はしているものの、目にみえないものですし、なかなかイメージがしづらいですね……。
私もこの仕事に就くまで忘れていました(笑)。実は磁界は小学校の理科の授業で誰もが学んでいるものなんですよ。磁界にはいくつか種類があります。一番身近なものですと地球からでている地磁気というもので、コンパスが必ず北をさすように、地球自体が大きな磁石になっています。それと、つねに建物の鉄筋や鉄骨、磁石からでる磁力のような、一定で時間で変化をしない直流磁界よばれるもの。車やエレベーターなど磁界をもった大きなものがそばを通ることで一定で時間で変化をしない磁界が歪む直流磁界変動。コンセントやケーブルなどから発生する交流磁界があります。
弊社でカバーするものが多いのが車やエレベーターなど大きなものがそばを通ることで生じる直流磁界変動です。これは人間の目にはみることも感じることもできないものです。
ーー逆に人間が感じたり見ることができる磁界はあるのですか?
ビーム系のものは装置を使えばみることができます。それはみなさんがお持ちのスマホなどの基板をつくる際に照射する細いビームがありますが、その細いビームが磁界の影響を受けることで歪みます。弊社の仕事ではそれをパーマロイのシールドでカバーすることを企業から求められることが多いです。
ーーパーマロイはどのように磁界を防ぐのでしょうか?
ステンレスとパーマロイで同じ形状のケースをつくり、それで基板に照射するビームをクルックス管に照射した磁界の影響を実験したものがあります。回転した磁石をクルックス管に近づけると磁界が乱れビームが歪みます。ステンレスでつくったケースでビームを囲ってもシールド材ではないので、磁界の影響を受けてビームが歪みます。一方、シールド材であるパーマロイでつくったケースで囲うとビームは、磁界の影響が減り真っすぐ照射されます。
パーマロイが磁界をシールドする仕組みは、磁界を集める特性によりパーマロイのなかを磁界が通り、手放す特性によりパーマロイを迂回して外ににがします。
ーー金属のなかを通り、迂回して逃がすとは?
パーマロイという素材は、鉄やステンレス、もちろん空気などと比べて、うねうねした磁界をものすごく集めてくれます。ただ集めるだけだと磁石のように、磁界のかたまりになり磁化するのですが、パーマロイが磁石や鉄などと異なるのは、磁界は集められるけれども手元にはもっていられないのですぐに手放してしまうことです。その原理を使うと、集めるけど違う方向に受け流す、いなすことができます。
シールドというと反射したりバリアするようなイメージを持たれる方が多いと思いますが、パーマロイは磁界をバリアするのではなく迂回させる材料ということです。
ーーなるほど。
弊社の磁気シールドルームは、床天井を含めて6面囲っているのですが、囲むことで磁界を集めて迂回させる必要があるからです。
ーーそれでは、磁界から守りたいものの前や横に「パーマロイの壁」を建てるだけでは磁界から完全には遮蔽することにはならないのですね。
そうです。バリアではないので「壁」だけだと、磁界は壁の内側を回り込み、直近は守れるかもしれませんが、生活空間としては磁界ゼロにすることはできません。しかもパーマロイの直近は磁界の影響をものすごく受けやすく性能が悪いんです。
ーーパーマロイに穴を開けた場合、磁界はそこをめがけて入ってきませんか?
磁界は穴を通りますが、目標地に到達する前に周りのパーマロイが吸収して受け流してくれます。
ただ、実用面から考えると密閉したり、6面すべてを覆うことは使用方法やメンテナンス面を考えると不可能です。しかし、磁界の影響が強い方向に対してシールドするという考え方もありえます。球体は無理でも磁界を受け流す理想的な形状は円状ですので、筒ものをつくることが多いです。
ーー例えばですが、磁界からの影響を嫌ってパーマロイでつくった部屋や家に住むことは現実的に可能ですか?
電磁波過敏症という方がいらっしゃって、実は時々そのようなご相談があります。ですが価格面が相当高価になり、実際には難しいのが現実です。
ーー他の金属と比べてかなり高額になるのですね。
パーマロイで4メートル四方の部屋をつくると普通に家一軒分ほどの価格になります。それと穴も窓もないほうがいいので、単にパーマロイで囲むだけですと、エアコンもテレビも設置することができず住む家としては現実味がありません。でも切実なお問い合わせは多いです。
ーーでも実際には存在しているんですよね?
個人様向けにはありませんが、設備としてはたくさんあります。極論を言いますと、それがないと携帯電話はつくれません。携帯電話などの電子機器をつくるには半導体が必要になります。半導体をつくるための半導体製造装置は電子ビームを使用しているものがあります。電子ビームは磁界の影響を受けるため、磁界対策のために磁気シールドルームが必要になるためです。
「磁界」を活かしたものづくり
ーー御社で扱うパーマロイにはPBとPCというものがありますがその違いについて教えてください。
磁気シールドとしての機能性、透磁率、磁界の集めやすさ、手元にもっていられる時間の違いになります。用途によって異なりますが、磁界を集めやすく手放しやすい、高透磁率なのはPCで、PBはPCに比べると磁界を集める量は減りますが手元にもっていられる時間は増えるという違いがあります。
ーーパーマロイの磁界を集めやすく手放しやすいこととは少し異なる、PBは磁界を手元に持っていられるとのことですが、それにはどのような機能があるのでしょうか?
磁界を測定するような装置の場合、できるだけ磁界を集められるというメリットがあります。
ーーちなみに今回のアワードでは、どちらのパーマロイの使用が想定されますか?
デザイナーさんのご提案次第だとは思いますが、世の中に多く流通しているのは磁界を集めやすいPCになります。
ーーPCですね。
少し厄介なことをお話してもいいですか?
ーーはい、もちろんです。
磁界はヘルツという1秒間に生じる波の波形で表すのですが、一般的に携帯電話などは5ギガヘルツで、5ギガヘルツまでいくと磁界ではなく電波になります。
ーー磁界と電波は違うと?
そうです。ざっくりとお話をすると低い周波数帯のものが磁界、高い周波数帯のものが電波で、パーマロイによる磁気シールドは1ヘルツ以下での遮蔽用途が主になり、キロヘルツ以上のものは電波シールドになるのです。
ーーそれほど微細な磁界でしたら、私たちの暮らしに困ることはないのでは?
日常生活で困るかといえば、困りません。ですが電子ビームがでる装置や医療機器などの精密機器ですと、大小に関わらず磁界が悪さをして困らせます。そして磁界をシールドするものと、電波をシールドするものとでは違うんです。
ーーいいことを伺いました。電波と磁界、混同してしまいがちですね。
地磁気のような止まっている磁界を動かすものはパーマロイでシールドするのですが、携帯電話やWi-Fi、電子機器、マイクロウェーブなどの電波を遮蔽するときは鉄系の材料を用いてシールドします。シールドの仕方も、電波は反射、磁界は迂回となります。お客様はよく間違えられるのですが、電波をシールドする会社と磁界をシールドする会社は別です。ですが間違って問い合わせがあった場合にはお互いが紹介しあう共存関係にあります。
ーー知りませんでした。それは興味深いですね。
ざっくりとですが、電子顕微鏡、半導体を作るための装置に影響があるものが磁界で、ラジオ、携帯電話などは電波になります。
今回のアワードでいただく提案も、磁界と電波の違いをご理解いただき、案をいただいても違う、ということが起らないように、この点はご留意いただければと思います。迷われたら、どんな小さなことでも構いませんので事務局経由でご質問やご相談をいただければと思います。
ーー今回のアワードで出会う人にはどのようなことを期待されますか?
磁気シールドのような磁界に対する対策だけではなく、パーマロイの磁界を集めて受け流す、磁界 磁場をコントロールする特性にご注目いただきたいです。その上で我々の製品以外で、どんなことに活かすことができるのかも含め、素材自体の面白さを一緒に考えていただけたら嬉しいです。
私たちが日々つくっているのは検査部品などのあくまで裏方です。目に見えないところに使われることが多い技術であり、世の中で目にするような製品をつくっている会社ではありません。ですので今回のアワードでは社員のモチベーションを上げることもそうですが、会社ができることを増やし、さらに大きくしていくためにも、お客様に手にしていただけるようなものをつくりたいという希望があります。
それとものづくりの部分も活かして会社としての知名度をあげていくことも目標です。世の中には、金属でキャンプ用品など日用品を手がけ成功されている板金屋さんの例もありますが、弊社の場合は単に板金加工の技術だけでなく、磁界を活かしたものづくりを目指していきたいと思っています。
ーー最後に、応募する方へのメッセージをお願いします。
世の中に私の知る限り、パーマロイ製品というものはありません。つくることができれば世界初、しかも絶対おもしろいものができると思います。例えば金属のアクセサリーはたくさんありますが、磁界を使ったものはありません。わかりにくい技術ではあると思いますが、なんでも構いませんのでまずは相談してください!
株式会社オータマ(稲城市)
テーマ:高透磁率材料パーマロイと板金加工技術
企業HP:https://www.ohtama.co.jp/
各テーマの詳細はこちら:https://www.tokyo-design.ne.jp/designer/#design_theme
インタビュー・写真:加藤孝司
2022年度東京ビジネスデザインアワード
デザイン提案募集期間 10月30日(日)まで
応募資格:国内在住のデザイナー、プロデューサー、プランナーなど
応募費用:無料
詳細は公式ウェブサイトをご覧ください
https://www.tokyo-design.ne.jp/designer/