公益財団法人日本デザイン振興会 公益財団法人日本デザイン振興会

テーマ企業インタビュー:有限会社ケイ・ピー・ディ

2022年度東京ビジネスデザインアワード

「東京ビジネスデザインアワード」は、東京都内のものづくり中小企業と優れた課題解決力・提案力を併せ持つデザイナーとが協働することを目的とした、企業参加型のデザイン・事業提案コンペティションです。

企業の持つ「技術」や「素材」をテーマとして発表、そのテーマに対する企画から販売までの事業全体のデザイン提案を募ります。2022年度は、テーマ10件の発表をおこない、10月30日(日)までデザイン提案を募集中です。本年度テーマに選ばれた9社へのインタビューをおこない、技術についてや本アワードに期待することなどをお聞きしました。


テーマ:半田付け不要の基板ジョイント導通技術

ウェアラブルデバイスから航空機まで、あらゆる電子機器に必要不可欠な存在であるプリント基板。ケイ・ピー・ディは、2016年より葛飾区にある東京理科大学の葛飾キャンパス内のインキュベーションルームに事務所を構え活動する、プリント基板の回路設計から製作までワンストップで行う会社。基板の製作にとどまらず大学などと連携した研究や技術共同開発し、基板の美しさに着目したアート作品を生み出したそのものづくりは、半田付け不要の基板ジョイント導通技術に発展した。楽しみながら製作するその仕事から未来のものづくりの可能性が見えてくる。


お話:代表取締役 加藤木 一明 氏

■生きた技術で製品開発の上流から携わる

ーー御社は1999年の創業ですが、加藤木さんご自身はどのようにものづくりに携わってこられたのでしょうか?

電気科の学校を卒業後、自動車組立工を経て基板設計の会社で基板設計を10年、その後転職して、回路から基板設計にまつわるものづくりをする開発会社に在籍していましたので、学生時代からものづくりに携わることをしてきました。開発会社では新しい設備を導入するなど軌道に乗りつつあったのですが、入社半年で倒産してしまいました。先行き不透明な時代でしたが、まわりの反対を押し切るかたちで一念発起し好きな基板設計で弊社を立ち上げました。

ーー御社の事業内容を教えてください。

基板設計からスタートした会社になります。回路設計、製造から部品実装、組み立てまで、お客様のご要望に応じるかたちで事業が膨らんできました。

ーー御社の製品はどのようなところに使われていますか?

1999年の創業当時は音響機器や、VHSビデオデッキ、ゲーム機、DJ機器などの基板設計からスタートして、現在はタブレット端末、スタイラスペンなどのなかの基板を製作実装しています。近年では新製品や新技術によるもの、世の中にないものを作って欲しいというご依頼も多く、最近ですとIot機器、大学や企業の研究開発にも携わっています。

ーー製品開発の上流から携わえることが多くなったのですね。

はい。相談ベースから始まり、基板の仕様を決めるところから関わることが多くなりました。

ーー基板設計の会社で企画段階から携わる会社は多いのですか?

いえ、基板設計の会社は大手メーカーからの依頼で図面をもとに製作をすることがほとんどで、基板設計専門会社の場合だとほぼないと思います。通常は企業から回路図を渡され、部品レイアウトし、配線をする設計だと思います。

弊社の場合は自分たちで回路設計から工場に製造を依頼するところまでを、一連の流れでできる会社です。

ーー基板設計に関する提案ができる会社なのですね。創業時からそのような動きだったのでしょうか?

徐々にこのようなかたちになりました。お客様も個人の方から企業までと幅広く、どうしたら実現・製品化できるか、コストの検討からお客様と一緒に取り組むことも増えてきました。ですので結果的に相見積がないような仕事の仕方です。

ーー基板製作もですが、基板に関するコンサルに近い動き方ですね。

そういうところはあるかもしれません。ありがたいことにお取引先様はお客様ではありますが、取引先ではなく会社の一員として思っていただいているところはあると思います。

 ■基板アートから世の中にないものづくりへ

ーー今回応募テーマに掲げていただいた「半田付け不要の基板ジョイント導通技術」について教えてください。

半田付けを不要で基板と基板をジョイントし導通する技術になります。

ーー具体的にはどのようなものでしょうか?

基板ジョイント導通技術は、これまで弊社が長年行ってきた機器開発と、のちほど紹介しますがプリント基板アートを組みあせることで発想された技術になります。基板同士をジョイントするには半田付けをする必要がありましたが、アートから生まれた自由な発想をもとに、半田付けせずに組み合わせることで他をショートせずに導通するジョイント構造基板を開発しました。

2021年には、基板ジョイントを半田付けなしで、柱とLEDの基板をジョイントして電気が通るということをわかりやすくモデル化した、組み立て型のLED Cubeを制作し展示会に出品し、多くのお客様に注目していただきました。

ーーLED Cubeですが、建物の柱のようなものが四隅に4本あり、そこに床がある建築物のような構造体ですね。柱と床を接合している部分がジョイントで、床状のところにポイントとしてあるのがLEDですか?

はい。柱と床(LEDの基板)は、基板の端についた3本、あるいは2本のくわがたの角のような部分で柱に半田付けなしでジョイントしています。

ーーこれは半田付けなしでジョイントされていますね!

はい。そこにバッテリーから回路を通じて電気を通すとLEDが点灯する仕組みです。

ーーすごく面白いですね。

これは4層で100個のLEDが点灯します。バッテリーに接続してすべてが点灯すれば、半田付けせずにジョイントしているだけで断線せずに導通しているということがわかりやすく可視化できるモデルになります。

ーー文字通り一目瞭然ですね。すごいですね。

柱の部分には電源と±、信号のイン・アウトが柱のジョイント部分に4端子ついてそこから導通しています。それらをジョイントしているだけなので、外すとバラバラになり、持ち運びもコンパクトに、自由に組み立てることができる技術です。LEDですのでプログラミングによって色を変えたり点滅させることはもちろん、デジタルサイネージのように文字を点灯させたりすることもできます。

ーー御社では基板の製造や設計だけではなく、基板にまつわるさまざまな取り組みをされていますが、そのモチベーションを教えてください。

とにかく基板が好きなんです。それと基板でいろいろなことができることをアピールしたくて、プリント基板の技術を活かしてつくったのが基板アートです。

ーープリント基板でアート作品ですか?

はい。国内のプリント基板でアート作品をつくりました。「healing leaf」というブランド名で、最小100ミクロンの銀箔で葉脈を繊細に表現した葉っぱのアクセサリーなどのアート作品を製品化しオンラインで販売しています。一見基板には見えないものですが、弊社のプリント基板の技術を使って製作しました。

ーーなぜアート作品をつくろうと思ったのですか?

業界内でも基板は四角いものと思っている人がほとんどで、プリント基板には可能性があって面白いものだということを伝えたいと思い、これまでいろんなチャレンジをしてきました。基板でつくった一点だけでバランスをとる「バランスとんぼ基板」のオブジェなどもそうですが、オリジナル基板を   ドリルルータでカットして羽と胴体の型をつくり、半田付けや接着ではなく差し込みで組み立てる設計をしています。

 ーー半田付け不要な基板ジョイント導通技術もそのようなチャレンジのなかから生まれてきたのですね。

はい。通常の基板設計・製造だけではなく、基板にまつわる新しいことにチャレンジしていくなかで、半田付けせずに差し込むだけで電気が通るのでは?という発想がでてきました。

それともうひとつ後押しになったのが、をしたのが、電子部品不足でコネクタも例外ではなく、樹脂不足などで入手困難な状況で、基板を差すことで代用できないだろうかと考えたことです。

実際に抜き差しをするコネクタ代わりにできるので、マイコンプログラムを書き換えることもできることを伝えたくて、アート作品のディテールをヒントに基板ジョイントを作り込んでいったという背景があります。

ーー 一見無関係にみえるアート作品に取り組んだことで生まれた科学的な新しい発想だったんですね。基板に対する制約のない発想や実践が御社の技術をアピールすることに繋がっていると思います。

弊社はアートに使うプリント基板の設計から自社で行っている会社です。基板設計というと技術的で堅い話になりがちなのですが、半田付け不要の基板ジョイント導通技術も基板アートも、基板に対する新しい入口になってくれているように思います。この2つによって本業の方でもお客様にとっては、相談しやすくなるという状況が生まれたように思います。

■基板の面白さをデザインの力で伝える

ーー「半田付け不要の基板ジョイント導通技術」はいつ頃着手されたものなのでしょうか?

2021年の春からチャレンジを始めて、同年の11月に特許申請をしました。世の中にある半田付け不要基板は、基板と基板をジョイントする樹脂のコネクタをピンで差して導通させているものですが、弊社のものは回路部の基板製造と同時にジョイント部分も一緒に出来てしまうという発想です。

ーー同様なものは世界にあるのですか?

私の知る限り、類似の技術を見たり、聞いたことはありません。

ーー現在、この導通技術を使った製品化の声などはありますか?

はい。昨年秋の展示会出展以降、LEDを増やして文字を浮かび上がらせることはできないか、さらに柱を増やして拡張することは可能かなどの問い合わせをいただいております。ただこのモデルということもあるのですが、ジョイントの構造を通り越してLEDの話になってしまうことは多く、今回のアワードではぜひこのジョイント構造にも注目していただきたいです。

ーーどんな大きさのものがつくれますか?

電源の供給さえ確保できれば、基板自体は工場によっては1m弱ほどのものもできますしジョイントサイズも自由につくることができます。創業以来、小さな基板に回路を詰め込む設計も数多く経験しており、小型化、軽量化も得意で、弊社では2~3mm幅ほどの細長い基板の高密度設計をしていますので、小さなものもつくれます。

ーーあらためて、今回応募テーマの「半田付け不要の基板ジョイント導通技術」の半田付けしない利点と課題はどのようなところでしょうか?

ひとつには半田付け不要で抜き差し、差し替えが可能なことです。半田付けされていると変えることができませんが、規格さえ共通していれば、異なる基板に差し替えて利用することが可能です。導通端子ピンの数の制限もありませし、ジョイント形状や角度だけでなく、基板の形状もどのような形も自由にできますので幅広いデザインにも対応可能です。また、故障などの場合でも全部を取り替えずに壊れた部分だけの交換ですむことのメリットがあると思います。

ただジョイント部の形にしてもこれを共通規格として走ってしまっていいのかというところも現在考えているところです。それをデザイナーさんの力を借りてより良いものに更新していければという思いもあり今回アワードに応募させていただきました。

ーー御社ではファブレスで協力工場に製造を依頼されていますが、今回のアワードでのものづくりはどのようになりますか?

基板設計は弊社でできますし、今回デザインアワードでデザイナーさんとものづくりに取り組むにあたり、工場さんにはすでに協力をとりつけています。量産工場さんも手を上げてくださっているところがありますので、試作、量産の体制も整えています。

ーー基板に関してアイデアベースで相談しながら伴走していただけるのは心強いですね。

私自身、創業の経緯が務めていた会社が倒産して困っていたところで、多くの人に助けていただきここまでやってこられたという思いがあります。自分だけがいい思いをするのではなく、とにかく業界に恩返しをしたいという思いがあります。今回デザインアワードで出会うデザイナーさんにも、基板づくりはクリエイティブで、こんなこともできるんだということも知っていただきたいという思いがあります。それと基板は工場生産品ですが、実はお菓子がつくれるくらいのクリーンルームがあるような清潔に管理された空間で製造されている製品です。そういった部分も知っていただけたら嬉しいです。

ーー現状、今回のアワードで取り組むものはBtoB、BtoCのどちらを想定されていますか?

BtoBに関しては学校教育として実際にプログラムに加えていただいている実績もありますので、教材としてもう少し広げていきたいという思いがあります。一方、基板アートで取り組んできたこととも共通するのですが、一般のお客様に手に取っていただけるものをつくってみたいという思いもあります。今、パズルのようなものも考えていて、組み合わせるだけで導通ができるようなものもつくってみたいです。

実は東京ビジネスデザインアワードの第一回目にも応募しましたが、その時はうまくデザイナーさんとのマッチングが出来ませんでした。今回はその時のリベンジという思いもありつつ、社内でもしっかり予算組みをして再チャレンジしました。

ジョイント機構もアイデア自体はひらめいたのですが、自分たちのものだけにするのではなく、その活用方法も含めていろいろなジャンルの方と一緒に、この技術を発展させていきたいという思いをもっています。

この技術で、付加価値を高めたうえ少量で多品種の方向性での商品化を考えると、私達の業界では設計・製造・部品実装が、デザインの数だけ作業が発生することになります。そのことが業界の発展に繋がると考えておりデザイン数を増やしたいです。

ただ、技術屋の私が考えられるのはLEDを仕込んだキューブで、まだまだアイデアとデザイン次第で可能性がある面白い技術だと思っています。

今回アワードで生まれた製品は、自社のECサイトで販売も視野に入れていますが、プロダクトデザインに限らず、おっ!と思うようなご提案をしていただけるような方で、継続的に協業していただける方とご縁があれば嬉しいです。

有限会社ケイ・ピー・ディ(葛飾区)

テーマ:半田付け不要の基板ジョイント導通技術

企業HP:https://www.kpd-jp.biz

各テーマの詳細はこちら:https://www.tokyo-design.ne.jp/designer/#design_theme


インタビュー・写真:加藤孝司

2022年度東京ビジネスデザインアワード
デザイン提案募集期間 10月30日(日)まで
応募資格:国内在住のデザイナー、プロデューサー、プランナーなど
応募費用:無料
詳細は公式ウェブサイトをご覧ください
https://www.tokyo-design.ne.jp/designer/


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