公益財団法人日本デザイン振興会 公益財団法人日本デザイン振興会

テーマ企業インタビュー:合同会社YSコーポレーション(2)

2022年度東京ビジネスデザインアワード

「東京ビジネスデザインアワード」は、東京都内のものづくり中小企業と優れた課題解決力・提案力を併せ持つデザイナーとが協働することを目的とした、企業参加型のデザイン・事業提案コンペティションです。

企業の持つ「技術」や「素材」をテーマとして発表、そのテーマに対する企画から販売までの事業全体のデザイン提案を募ります。2022年度は、テーマ10件の発表をおこない、10月30日(日)までデザイン提案を募集中です。本年度テーマに選ばれた9社へのインタビューをおこない、技術についてや本アワードに期待することなどをお聞きしました。


テーマ:有限要素解析の実施とコンサルティング

物理的な影響が製品などの挙動にどのように影響するかをコンピューターソフトを使って解析する有限要素解析(FEA)という技術がある。これは現代のように、精密なものや、巨大なものなどが安全に存在し続けるために欠かせない、世の中のほとんどのものに用いられている技術だという。40年近くに渡りFEAの技術者として多くの企業や組織、モノづくりに関わってきた経験をもつ正司康雅氏がいま課題としているのは、FEAで正確に解析するための技術や知識を広めること。世の中でどのようにこの技術が用いられ、正しい解析結果のためにどのようなことが必要とされているのか話をきいた。


お話:代表取締役 正司康雅氏

■見えないモノをみえるようにする

ーー2014年9月の創業だそうですが、御社の創業の経緯を教えてください。

1984年にプラントの会社に入社しました。それから今の会社を立ち上げる2014年まで、有限要素解析(FEA)の構造解析を用いたエンジニアリングを行って5社で社員として働きました。詳しくはプラント3社、有限要素解析のソフトの会社が1社、機械部品メーカーに1社になります。そのなかで主な仕事はトラブルシューティングと設計に参画していました。5社目に勤めた韓国のサムスン物産を退社後帰国しましたが、年齢的なこともあり再就職ではなく、長年積み上げてきたFEAを使って何かサービスができないかと考え立ち上げたのがYSコーポレーションになります。

ーーFEAは初めて聞いた技術なのですが、バーチャル環境でなにかをするものなのでしょうか?FEAとはどのような技術であるか教えてください。現状どのようなことに利用されている技術ですか?

今風の言葉でいえばバーチャル環境なのでしょうが、聞きなれた言葉ではシミュレーションでしょうね。FEAは有限要素解析の略語になり、ソフトを使ってモノの挙動を解くためのコンピューターシミュレーション技術のことです。ひらたく言えば、コンピューターのなかに現実と同じものをモデルとしてつくり、それに負荷をかけてどのように振る舞うかをみることです。

上手に使えば、実際のモノがなくてもそれが後にどのようになるのかを知ることができ、モノが壊れた場合には、実際にはどのように壊れたかを知ることができる技術になります。

とくに、外からは見えないモノの内側や、断面の内部なども見ることができる技術です。ただ完璧にやらないと正しい挙動をシミュレーションすることはとても難しいという、難点があります。

ーー私たちの馴染みのあるところですと、どのようなところで使われていますか?

シビアな設計が必要な場面では、ほとんどすべてに使われています。たとば、航空機、ロケット、自動車、電車、プラント、ハイテクな医療機器などの設計です。車が衝突によりつぶれる様子をシミュレーションしたものがありますよね、みなさんが多く目にするものですとあのような図だと思います。

ーーとても身近な技術なのですね。有限要素解析(FEA)に取り組み始めたきっかけを教えてください。

最初の会社に入社して、一番初めに担当した仕事だったからです。やってみるとこれが面白くって。それ以来会社が変わっても有限要素解析の専門家として関わり続け、起業までしてしまいました。

ーーもともと数学が得意だったのですか?

得意ではありませんでしたが、子供の頃から物理は大好きでした。いまでも「笑わない数学」、「プロジェクトX」、「コズミックフロント」という、科学系の番組が好きでよく見ています。

ーーそもそも有限要素解析(FEA)はどんなことを解析するために開発された技術なのでしょうか?

もともとは1950年代に、NASAがロケットを飛ばすためにつくった技術で、設計の際に必要な技術として開発されました。飛ばすとなると軽くて、しかも壊れてはいけない。それを紙と鉛筆でやるのはしんどいですよね。それでコンピューター上でできないかと最初につくったのが「Nastran(ナストラン)」というソフトでした。有限要素解析が日本で最初に使われた例は、日本初の高層ビルである霞が関ビルの設計で、目的は地震対策としてその際の挙動を知るためでした。

ーーそれは興味深い話ですね。現代でもモノをつくるためにまず試作品をつくりますが、それに近いことなんですかね。

近いのですが、試作品をつくれるものはいいんです。ですが、ロケットを試しにひとつつくってみるというわけにもいきませんよね。それと同じものがコンピューター上でできれば、値段も何十万分の一くらいでできますからハッピーなわけです。

ーーコンピューターの発展、発達とともに進化していった技術なのですね。

その通りです。モノに力をかけるとどこかの部分が凹むのは想像できますよね。それを計算でやってみなさいと言われても無理ですよね?だとしたら、近似でも良いので計算できたらありがたいです。ただ、全体を近似するのはすごく難しいけど、小さいところだと少し変形するだけなので近似できるんです。だから一部分を切り出して、少しずつ近似していって、それを全部まとめると、大きなものの動きがみえてきます。無限には切れなくて小さく切ったときにその一つをメッシュとか要素と呼び、数が有限個なので、有限要素解析なんです。

ーーそれで有限要素解析なんですね。お聞きするとものすごく面白い技術ですね。

面白いでしょ?わけがわからないものがわかるようになるので、そこがいいんです。

■FEAを使って正しく解析する

ーー解析には手順があるのですか?

はい。まず形をつくり、それをメッシュといいますが小さく切っていきます。そのままだとふわふわしているので境界条件といってどこかを固定し、それに荷重をかけて必要な条件を決定します。ここまでで解析をする準備ができました。そこから計算という解く作業があり、その結果を見えるかたちに出力をします。最後は解析結果の評価です。しかし、これを全部80点をとるような優秀なエンジニアがやるととても精度が低いものにしかなりません。満点をとれる完全にわかっているエンジニアがやらないと、十分信頼性のある構造解析はできないのです。

ーー難しいですね……。そこで大切になってくるのが「正しく再現する」ことなのですね。

正解、その通りです(笑)。ですが、合わないのです、答えが。シミュレーションは誰がやっても同じ答えに帰結するわけではないのです。

そこで弊社では最後の「評価」を指標に解析を実施していきます。評価指標をしっかり考えたあと、そのために必要な出力を決定すれば、それを導くための形と境界条件とメッシュは自然に決まってきます。

このように現実的にはFEAは、何をどう評価するかを先に決めてから実施するものです。目的、すなわち評価を先に決めてから形にもっていく発想ですね。ただ、そのことが実際にFEAソフトを使っている技術者にもあまり理解されていません。

評価でもっとも重要なのは、その解析が正しいかどうかを判断する能力です。正しい判断をするためには、正しい知識を身に着けていることとと、勘、それに想像力が必要です。

いくつかの段階ごとに仔細に、しかも正しくモデル化したりその都度評価したりしないと正しい解析、つまり、実機をきちんと再現できる解析にはなりません。しかも現状なかなか合わないと技術者が諦めているところがあるんです……。

ーーFEAを扱う技術者自身が諦めている。それってあやういですね。

そうですよね。それがいまの世界の技術です。これはFEAに携わる技術者すべてにいえることなのですが、少しずつの違いが大きく結果に影響することを認識したうで解析を行わなければない。それをすべての解析者が認識する必要があるのですが、実際にはそうなってはいないのが現状です。

ーーその上で解析結果があまり信用されていない現状があるとお聞きしました。

結局は人間が頭を使ってやるしかない。その昔、霞が関ビルは10個に分割していましたが、いまや同じ規模でしたら一千万に分割することができます。それでとりあえずは解けてしまうので、結果、技術者は頭を使わなくなってきています。このままでは日本があぶない、だからこのことを正しく解析する仕方を広めたい。今回のアワードではそれを一緒に考えてくれる方とも出会いたいと思っています。

ーーそれを解決するために必要なこと、御社で取り組んでいることを教えてください。

解決に必要なことは社員教育に尽きます。弊社では企業の社員教育や解析についてのコンサルティングを行いながら、社員の技術のレベルアップに取り組んでいます。各企業様とは下請けではなく技術的な部分の指導的立場としてお付き合いをしています。

ーー正司さんはご自身は現在有限要素解析(FEA)でどのようなことをされているのでしょうか?

設計、あるいはトラブルが起こった際、どんなことが起きるか、あるいは起きた事象に対しては、どんなことが起きたのかをコンピューター上で再現して、設計やトラブル処理のお手伝いをしています。それと、お客さんが実施する解析が正しい結果になるようにコンサルティングを行っています。

ーー御社で使用しているFEAソフト「Abaque」社での勤務経験もお持ちとのことですが、そこで得たものを教えてください。

やはり、もっとも大きいのはFEAソフト「Abaque」を使う技能になります。信頼性が高く多機能なソフトゆえに知識があるほどできることが無限に広がります。あらゆる分野での適用方法や、あらゆる機能の使用方法について学び身につけました。また、教える側としてセミナーの講師もしていましたので、実際の現場で教え方について学べたことも大きく、独立した現在にもそれが活きています。

ーー先ほどの解析の手順のところでお話がありましたが、FEAには「荷重」が必要だそうですが、荷重とはどのようなことでしょうか?また荷重を計測できるソフトウェア「True-Load」について教えてください。

極論をいえば、FEAを行う理由は「挙動を知りたいから」です。挙動というものは、モノに対して何らかの働きかけがあって初めて、出現するものです。この働きかけることをFEAでは「荷重」といっています。

ただ、この荷重が正しくどのようなものかわかっていないと、結果として正しい挙動がわかるはずもありません。ですが実際には荷重は適当に決められていることが多く、その帰結として正しい評価や判断を得ることが難しいのが現実です。それが現在のFEAに対する世間のあまりよくない評価につながってしまっています。

ソフトウェア「True-Load」はその解決策のひとつのツールです。True-Loadを使えば、FEAの結果と実際のモノを動かした際に発生する歪みの計測から、作用する荷重を計算できます。そこで得た結果を次の設計の知見や

データとして有効利用することができます。弊社ではこの荷重を計測できるソフトウェアTrue-Loadの国内販売も行っています。

■よりよく状況を改善する仕組みづくり

ーー製品の性能と信頼性の予測と改善や、物理的な試作品と試験の削減など、有限要素解析(FEA)を活用することでできることがあるそうですが、有限要素解析の本質的な部分はどのようなことだとお考えですか?

わからないことを見えるようにすることです。

ーーわからないこと、見えない状況もみえるようにすることができる有限要素解析とは、あらためてどのようなことでしょうか?

モノの内部の状態は見えませんよね?それを見えるようにしたり、挙動が速すぎて見えないものをゆっくり動かしてみたりすることなどです。

例えば、ねじが緩む仕組みは、その動きを詳細にみることでその原理を究明しました。トラブルで実際に起きたことを再現することができれば、なぜそれが起きたかをお見せるすることができます。それができれば対処法への大きなヒントを得ることができるのがFEAの大きな利点ではないでしょうか。

ーーFEA解析で高い精度を得るために重要なことはどのようなことですか?

すべて正しい情報を入力すること、そして答えがわかっていることです。そのためには物理現象をしっかり理解して、結果をイメージできる知識と経験が必要になります。

ーーFEAにはどのような可能性をもった技術だとお考えですか?

世の中、当たり前にあっても、目に見えないものが多くあります。それを知るためにはFEAはとにかく強力なツールなので、正しくきちんと使うことができれば、いろいろなことをもっと深く理解できるようになる技術だと思います。例えば、交通インフラなどで悲惨な事故や事件が時に起きたりしますが、そのようなトラブルが起きないような設計や予測に寄与することができる技術ですし、FEAを武器にして設計をより早く正確に行うこともできます。また、トラブルが起きた際にもすみやかに正確な対策をうつことができるようになるはずなのです。

ーー現在のお仕事に繋がる事柄で正司さまが影響を受けたものや人を教えてください。

世の中のFEAの達人たちです。大学時代の先生、歴代務めさせていただいた会社の上司と先輩、それと、実際の現場で起きたトラブルもですし、会社員時代の無茶なクレームをしてくるお客様などです(笑)。おかげで、ある解析ソフトの国際ユーザー会議ではセッションのベストペーパーに選ばれたこともあります。それと、工学博士であり、機械、総合技術管理の技術士でありASMEのフェローでもあります。

ーー「東京ビジネスデザインアワード」は様々なジャンルのデザイナーやプランナーと協業するプロジェクトですが、デザイナーとの協働にどのようなことを期待されますか?

とにかく、正しいFEAについての理解と認識をFEAを必要としている企業をはじめ、世の中に普及させることです。私は一技術者として普及に務めてはきましたが、一人ではどうしても限界がありますし、正直どんなやり方があるのかわかりません。実際に世の中に普及していて、社会にとって絶対に価値のある技術ですので、一緒に考えていただきたいと思っています。

ーーデザイナーやプランナーはどんなことができるとお考えですか?

私ができないことは「広める」ことです。限りある人ではなく、知らない人にみてもらえるように、ウェブなどを魅力的にできるといいと思っています。まずはデザイナーのみなさんとは、設定が少し違うだけで答えの出方がまったく違うものになるということを一緒にみていただきたいです。それと評価の全体像と、解析というものの作業の流れ、考え方の流れのデザインでしょうか。お金を生み出す仕組みも考えるつもりです。

ーーFEAのビジネスにおける活用方法や、難しいFEAについて社会にやさしく伝える方法を考えることなど、デザイナーやプランナーとどのようなことが可能だと思いますか?

FEAはすぐれた技術で、正しく使えば非常に強力なツールになります。ただこの技術に40年携わってきた技術者である私が言うのも憚れますが……、FEAそのものが難しい技術であって、その核心は言葉にするのも図にするのも難しいのです。それをFEAとは関わりのないデザイナーの方がわかるような伝え方を考えていただけたら、それもひとつのビジネスになると思います。そしてそれをいかに広め、この技術で世の中に役立つモノづくりにつなげたい。そのためのプランニングとビジネスデザインができると嬉しいです。

ーー御社の強みはどのようなところだとお考えですか?

第一に、FEAに関する深い知見です。実績としては、これまでプラントや機械部品など実機のトラブルシューティングにFEAを使ってきました。それと、実機か解析ソフトのどちらか一方の知見をもった会社やエンジニアはいても、両方を兼ね備えていることは極めて少なく弊社ならではの強みであると思います。

ーー有限要素解析(FEA)は他にどのようなものづくりに応用可能かお考えでしょうか?

自社ではナットしかつくっていませんが、顧客さえいらっしゃればモノの設計にもトラブル処理にも使うことができます。

ーー有限要素解析(FEA)が今よりも広く世の中に浸透することで、世の中はどのように変わるとお考えですか?

FEA自体はすでに浸透している技術です。FEAが世の中を変えるのではなく、誤ったFEAが浸透してしまっている現状に危機感をもっています。FEAが正しくできるようになれば、トラブルが減ったり、未然に防いだり、今より短時間でより正確な設計をすることもできるようになるのです。そうすれば、日本の技術力が向上し、世界的な競争力も今より高くなるでしょう。


合同会社YSコーポレーション(武蔵野市)

テーマ:有限要素解析の実施とコンサルティング

企業HP:https://ys-corp.biz

各テーマの詳細はこちら:https://www.tokyo-design.ne.jp/designer/#design_theme


インタビュー・写真:加藤孝司

2022年度東京ビジネスデザインアワード
デザイン提案募集期間 1030(日)まで 

応募資格:国内在住のデザイナー、プロデューサー、プランナーなど
応募費用:無料
詳細は公式ウェブサイトをご覧ください

https://www.tokyo-design.ne.jp/designer/

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