公益財団法人日本デザイン振興会 公益財団法人日本デザイン振興会

テーマ企業インタビュー:泰興物産株式会社

2021年度東京ビジネスデザインアワード

「東京ビジネスデザインアワード」は、東京都内のものづくり中小企業と優れた課題解決力・提案力を併せ持つデザイナーとが協働することを目的とした、企業参加型のデザイン・事業提案コンペティションです。

企業の持つ「技術」や「素材」をテーマとして発表、そのテーマに対する企画から販売までの事業全体のデザイン提案を募ります。2021年度は、テーマ12件の発表をおこない、11月3日(水・祝)までデザイン提案を募集中です。本年度テーマに選ばれた12社へのインタビューをおこない、技術についてや本アワードに期待することなどをお聞きしました。


お話:代表取締役社長 丸田陽氏 開発部 部長 丸田智子氏

柔軟なものづくりで世の中に「ない」をかたちに

プラスチック製品の企画開発から試作、設計、製造までを行い金型製作から一貫した生産体制を強みとしてもつ会社。東京工業高等専門学校との産学連携で「電力量測定IoTデバイス」を開発するなどオリジナル完成品の製作にも取り組んでいる。自社製品として販売できるような提案がデザインに求められている。

■暮らしのそばにある電子製品を

 —これまでどのようなものをつくってこられましたか?

プラスチック射出成形を中心に、プラスチックへの印刷、それと金型の作成、電子回路の製作も若い社員が行なっています。電子部品に関してはケースと回路が同時に出来ますのでスピードをもって開発ができるという強みを持っています。

—金型の製作から印刷までプラスチック製品をワンストップで製品化できる技術と設備をお持ちなのですね。それは創業時からですか?

いえ。創業時はプラスチック射出成形の量産の請負が仕事の中心でした。

—どのように現在の形になったのでしょうか

リーマンショック以降、弊社でも仕事が激減しました。その理由を考えたときにひとつには自社で金型がつくれないことがありました。

—金型を自社でつくれないデメリットとは何でしょうか?

自社で金型製作ができないとコストも高くなり、スピード感を持って対応できないからです。私たち製造業にとってあらゆる面でスピードがないことはデメリットでしかありません。微調整など小回りが効かないことでそのスピードが遅くなり、費用面、開発面でも量産面で大企業や海外には太刀打ちできなくなってしまいます。3Dプリンタで金型の製造を試みたのですが、エラストマー樹脂であれば光造形やFDM3Dプリンタの樹脂型で射出成形ができたのですが実験程度で終わるということも経験しました。それで生き残るためにも絶対金型は必要だということで、10代の学生時代から弊社で働いていてくれている社員が独学で金型を学び、つくれるように腕を磨いてくれました。マシニングセンタとワイヤー放電加工機を導入し、金型をつくる体制を整えました。

—働いている社員さんが若い方がばかりでびっくりしました。しかも皆さん実験精神旺盛に働かれているようにみえました。

はい。若い社員が多く、20歳から25歳と若い人たちに支えられている会社になります。私たちが最年長で皆から年寄り扱いです(笑)。

—今回のテーマについて教えてください。

何が求められているのかを自分たちで考えて、しかもそれを自社でつくれることが私たちの強みです。弊社では金型部門と電子部門が同時に動いて一から製品をつくることができる体制があります。IoTでおおよそのことは出来る世の中になりましたが、IoTであれば全員体制でこの強みを活かし、新しい時代のものづくりができると考えました。

世の中のためになるものを自分たちの技術を使って送り出せれば、自分たちの自信にもなると思いこのテーマにしました。

—電子部品も自社でつくれるというところでその技術を生かしたIoT分野での開発ということですね

はい。少子化が進み人手不足が問題になっています。インターネットを活用しそれを補う技術が注目され、それに対するニーズも広がっています。それと本来頭を使って新しいものを生み出すことが優先されるべきなのに、毎日の記録など、人がやらなくてもいいものまで労働として大切な時間を割かれている状況があります。単調なものは機械がやって、テクノロジーが人をサポートする。そうすればより有益なクリエイティブに集中する時間が生まれるのではないでしょうか。

一方で身近にあるはずのIoTをそう感じられないという声も聞くことがあります。今回、身近にあっていいなあと思える電子製品をつくりたいと思っています。

見えないものを見える化する技術

—電気電子回路を自社で手掛けるようになった理由を教えてください。

3Dプリンタが生まれたことで自分たちで製品を設計して開発することが容易になりました。無料で使える3DCAD、回路設計のCAなども充実してきて、若い人たちもそれを使いこなしています。それにともない電気電子回路を安価につくることができる環境も整ってきたことが理由です。オーダーメイドやワンオフで試作品をつくることが以前に比べて容易になり、それをもとに製品開発の提案をすることもできるようになったのは私たちのような企業にとっては追い風になりました。

—東京高専と開発をしたクラウド上で機器の稼働状態などをチェックスすることができる電力量測定デバイス「C3-less センサー」は、誰かのアイデアを形にできる御社の技術力とものづくりに対する柔軟性が生かされた事例だと思いました。どのようなきっかけがあったのでしょうか。

高専は私の母校で普段からよく出入りをしていました。6年ほど前に東京高専の水戸先生のところで開発をしていた「C3-less センサー」と出合いました。それであのアイデアを見た時にすごく面白いと思ったので私の方からご一緒しませんかとお声がけした経緯があります。 商品化に向け協働する過程で電子部品も弊社で製造することになりました。

—このデバイスのどんなところに惹かれたのでしょうか?

科学や工業を身近に感じてもらえるものが世の中にもっとあったらいいのになと単純に思いました。

消費電力を計測するということもですが、非接触・バッテリーレスでというところに可能性を感じました。何より技術者的な開発は個人的に大好きですし、学生が問題や課題を発見し、これらの仕組みを理解してつくったということにすごくワクワクしました。

—いいアイデアを形にしたいという技術者の思いですね。

はい。少しの気づきで商品をよりよいものするためのお手伝をすることが私たちの喜びです。それでそれを使った人の生活が楽に、豊かにしたい。そしてそれをもっと身近にすることができたら面白いんじゃないかと思いました。

—そこで課題となってくるのが形や伝え方も含めたデザインということだったのでしょうか?

そうなんです。技術の部分は得意でも、世の中によりよいカタチで広めていくためのデザイン性に関しては持ち合わせていないに等しくて……。とりあえずできたからよし、というところで止まってしまっていました。アイデアがすごく良くてもそこから突き抜けていくものがないから結局商品としては弱いものしか出来ていないのが課題です。みなさんがなるほどと思えるものをつくりたいと思っています。

—確かにアイデアを技術で形にすることが出来ても、それが世の中に伝わっていくのは次のステップですよね。

 道具である以上、機能とともに人がどう触るのかということも考えなければ世に伝わっていきません。自分で使うならなるべく素敵なものを使いたいですからね。

データをみて納得するという、どうしても理系の人だけが分かるようなもので止まっているところがありまして……。一般の人が使えるようなところにもって行きたいのですが、それがわからないんですね。

「C3-less センサー」の他に猫の顔の形をした空気の清浄度を色で表す「ガスにゃん」など弊社で製作をお手伝いしたものはあるのですが、そこから先へ進めずに5年ほど経ちました。今回のデザインアワードではデザイナーの皆さんに、形も含めてそうでないところのお手伝いをいただきたいと希望しています。見えないものを見える化していくというところに力を入れていければいいなと思っています。

思考し手を動かして「つくる」確かな技術力

—具体的には、はじめのアイデアの部分からデザイナーに入ってもらいたいとお考えですか?

そうです。弊社の技術とこれまで手がけたものを見ていただき、デザイナーさんの柔軟な発想で私たちのものづくりを刺激していただければ嬉しいです。

—まずはどんなことができそうか構想していただき、御社の技術をみていただきたいですね。

はい。アイデアに対して実現可能性の検証から始まるのですが、これはできないではなく、まずちょっとつくってみようかというところから始めることができる会社です。ものづくりを形からではなく機能から始めることができるのも私たち製造業のいいところだと思います。私たちが苦手としているクリエイティブ面でぜひアイデアをいただきたいです。

—ソフトの部分では、現状どこまで対応が可能ですか?

プログラムといっても幅が広いのですが、弊社では電子回路のハードをつくるところまではできます。例えばスマホで操作するという部分で数字を飛ばすところまではできるのですが、その先であったりインターフェイスのデザインは現状弱く、見た目を動かすコマンドラインインターフェイスやセンサーに反応させていつ何色に光らせるかというようなことは得意としています。

   —御社でつくれるものの最大の大きさを教えてください。

 だいたい手のひらサイズの大きさのものであればひとつの型でつくることが出来ます。それより大きなものも型を複数組み合わせることで対応が可能です。その場合、ここに割線を入れたくないということでもあれば、それを考慮したつくり方をするので大丈夫です。

—素材に関してはプラスチックオンリーですか?

いえ、弊社ではプラスチックの射出成形を得意としていると言いましたが、プラスチックの固執しないのも弊社のスタイルです。金属でとなれば探しますので素材に関しては制約はありません。現代の商品のほとんどは複合品ですから得意分野は専門のところにおまかせした方がうまくいくという考えです。

—どのような協力企業との協働が可能ですか?

ソフトウェア屋さん、ハードの方では設計屋さん、板金加工や切削加工屋さんとも普段からお付き合いがあります。電子回路や金型も試作用は社内で若手社員が制作しますが、量産用や高度なものは社外の専業メーカーさんにいつもお願いをしています。

—最終的に目指すのはB to C、あるいはB to Cどちらでしょうか?

普段B to Bがほとんどなのですが、どちらも考えてみたいです。どちらかというと電気関係は安全性という部分で商品にするにはハードルがあるのは事実なのですが、企画からすべて勉強をさせていただきながら完成品を目指していきたいです。

—ものづくりをする上で大切にしている思いを教えてください。

誰かの役に立つことをやってみたいという思いがひとつにあります。あとは弊社の若い社員はみんな勉強家ですし、吸収も早いんです。ですので、うちの子たちの技術が生きることを私たちとしてもやっていきたいという思いがあります。

—今回のアワードでのものづくりも社長さんを筆頭に若い社員の皆さんが中心になって進めるかたちでしょうか

はい。私が取りまとめさせてはいただきますが、弊社のものづくりは若い社員の皆さんに支えられていますので、ぜひデザイナーさんとタッグを組んでものづくりをさせていただきたいです。彼らは興味をもったらすぐに考えて手を動かしてくれますし、こうしたらできると提案もしてくれます。チームという部分でも楽しみながらやっていただけるデザイナーさんと出会いたいです。まずはこんなふうになったらいいなということをなんでも提案してください。楽しく商品化ができることをいまからワクワクしています。

泰興物産株式会社 (立川市) http://www.tycoh.co.jp

テーマ:電子回路とプラスチックの「設計・試作・加工技術」

設立以来45年、射出成形を行う。5年前より金型部門を設立。東京高専との産学連携により3年前よりIoT部門を設立。筐体のプラスチックから中身の電子回路まで、一貫して設計・試作が可能。他にもUVインクジェット(ミマキ)やレーザー加工機を保有し、意匠性の高い製品の試作から量産加工まで対応している。正社員の平均年齢23歳と若い技術者ばかりで、役員2名と正社員がすべて高専出身者。産学連携による新技術の開発とともに、資格取得にも力を入れている。失敗を笑いに変える社風で新しいことに果敢にチャレンジし、何度やり直しても実現させる技術力を持つ。製品開発を通して「手を動かして考える」本当の技術力を追求し、社会課題に応える製品を生み出す総合力を身に着けるとともに、得られたノウハウを通じて技術・サービスを提供し続けている。


インタビュー・写真:加藤孝司

2021年度東京ビジネスデザインアワード
デザイン提案募集期間 113(水・祝)まで 

応募資格:国内在住のデザイナー、プロデューサー、プランナーなど
応募費用:無料
詳細は公式ウェブサイトをご覧ください

https://www.tokyo-design.ne.jp/designer/  

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