公益財団法人日本デザイン振興会 公益財団法人日本デザイン振興会

テーマ企業インタビュー:株式会社新晃社

2021年度東京ビジネスデザインアワード

「東京ビジネスデザインアワード」は、東京都内のものづくり中小企業と優れた課題解決力・提案力を併せ持つデザイナーとが協働することを目的とした、企業参加型のデザイン・事業提案コンペティションです。

企業の持つ「技術」や「素材」をテーマとして発表、そのテーマに対する企画から販売までの事業全体のデザイン提案を募ります。2021年度は、テーマ12件の発表をおこない、11月3日(水・祝)までデザイン提案を募集中です。本年度テーマに選ばれた12社へのインタビューをおこない、技術についてや本アワードに期待することなどをお聞きしました。


お話:取締役社長 森下晃一氏 生産部 本部長 川口工場長 正木将氏 企画部 エバンジェリスト 徳重正彦氏 生産部 次長 轟守氏

■特殊印刷で楽しくなるものづくりを目指す

情報を伝達したり、物の意味や価値を伝えるなど、印刷物にはさまざまな用途や役割がある。その中でも特別なインクや加工法によって独特の風合いをもたせることが出来る特殊印刷は、情報伝達としてのツールとしてだけではない印刷物の楽しさを提供しているもののひとつだろう。手にした人々がワクワクするような印刷を手掛ける特殊印刷への思いと可能性について話を聞いた。

印刷物で今までにない体験をつくる

—1985年創業ですが、創業の経緯を教えてください

私の父が創業した会社で、今期で36期になります。創業時は印刷に関するデザインの仕事が中心でしたが、次第に店頭POPの印刷の仕事が増え機械を増やしていきながら、パンフレット、チラシ、名刺などに仕事の幅が広がっていきました。

15年前にUV印刷を始めたあたりから、特殊印刷を追求した仕事が増えてきました。現在では今回テーマとさせていただいたカレイド印刷という広⾊域印刷、アルミ蒸着、擬似エンボス加工などさまざまな特殊印刷を手掛けることで技術を築いてきました。



—どのような思いから特殊印刷にシフトしていかれたのでしょうか?

印刷には情報や事実を伝えるという用途がありますが、私たちが特殊印刷でやりたいと思ったのは、まんべんなく広く仕事をこなすということ以外に、特定のニーズをもったお客様の選択肢を増やすとともに、印刷でできること、楽しさを伝えたいという思いがありました。

—印刷を通じたコミュニケーションを豊かにしたいという思いをお持ちだったんですね。

そうです。印刷物というものはそれを目にした方に手に取っていただくことが重要です。印刷物にとって残念なのは、見られることなく捨てられてしまうことです。そうならないためにも印刷物自体を面白がってもらえるようにつくることが私たち印刷に携わるものの使命だと思っています。



—実際にどのような変化がありましたか?

ひとつには疑似エンボス加工を始めるまでは私たち自身にも印刷物を触ってもらうという感覚はありませんでした。ですので触れることで面白がってもらったり、インパクトが残る体験というのはとっても良い経験になりました。

—今回のアワードへの応募のきっかけを教えてください。

今年の5月に昨年の東京ビジネスデザインアワードに参加されていた千葉印刷さんにお会いして、こちらのアワードを教えていただいたことがきっかけでした。

—そうでしたか。

その時千葉印刷さんにお話を伺って思ったのは、デザイナーさんと一緒に私たちの技術で何かをつくり、それを世の中に発信することができたら楽しいだろうなということでした。これまでも仕事をする上で、弊社で手がけさせていただいた販促物や本などが、書店さんなどに流通しているのを見ることはつくる喜びに繋がるからでした。



特殊印刷技術を組み合わせた多様な印刷

—今回のテーマを選ばれた理由を教えてください。

まずはUV印刷について簡単にご説明をさせていただきます。UV印刷とはUV硬化型のインクを使用したオフセット印刷のことで、UV(紫外線)に反応する特殊なインクで印刷したものに、紫外線を照射することでインクを瞬時に乾かすことができる印刷になります。それによって普通の印刷では難しい変わった素材に印刷ができたり、瞬時に乾くためすぐに特殊加工などの後加工を施すことが出来ます。また、その結果納期も短縮できるというメリットがあります。

—いいことづくめの特殊印刷に関してどのような課題をお持ちだったのでしょうか?

私たちは印刷を通じて技術の追求はしてきているのですが、我々が持つ技術を使ってできることを考えるのは得意ではありません。今回のアワードでは私たちの想像を超えるような技術の使い方という部分でお手伝いをいただいたり、助けていただきたいと思い応募をいたしました。

—御社でできる特殊印刷の組み合わせ技術についてその特徴を代表的なものを教えてください。

ひとつひとつの技術でもそれぞれ優れた特性を持っています。さらにそれらを組み合わせることで新しい何かが生まれる可能性をもっています。たとえば特殊印刷のひとつでアルミ蒸着があります。これは真空容器の中でアルミニュウムを加熱蒸発させてあらかじめ印刷を施した紙やフィルムの表面にアルミの薄膜を付着させることで印刷物に金属的な輝きをもたらします。弊社ではさらにそこに疑似エンボス加工で立体感を施したものがあるのですが、そのような形で弊社の特殊印刷の技術を組み合わせたもので何かできないかと考えています。


—確かにアルミのような光沢をもった紙、そして疑似エンボス加工により平面なのに立体感があって表情が豊かな紙になっていますね。他に代表的な組み合わせの技術にはどのようなものがありますか?

ラミネート加工の一種で和紙PPがありますが、これは和紙のような風合いと見た目、手触りを感じることができる印刷法です。紙だけでなくポリプロピレンのクリアファイルにも和紙の加工を施すことができ、広告物等、付加価値のある印刷物に使用され、上品な風合いで好評をいただいています。和紙PPにはUV印刷の前と後に加工をする2種類の方法があり、それぞれ異なる見え方をするのが特徴です。さらにここからステップアップできるようなコラボレーションを開発したいです。



—このような技術は特殊印刷が出来る印刷会社さんでしたら一般的な技術なのでしょうか?

UV印刷機があれば出来ない技術ではないと思いますが、どこにフォーカスをあてるのかによって変わってくると思います。実際UV印刷をしているすべての会社さんが特殊印刷というジャンルで突き進んでいくことを選択しているわけではありません。

私たちのものづくりの根幹のひとつにあるのが、印刷で面白いものを作りたいという思いです。たとえば冊子は四角い形でなければならないと考えるのではなく、もっと違う形であってもいいと考えられるか考えるのかどうか。違う印刷技術の組み合わせもそうですが、アレンジを効かせながらワクワクするような印刷物をつくっていきたいと思っています。



—印刷物としてはもちろん、その後どういった加工が可能なのかということも教えてください。たとえば、特殊印刷を施した物をパッケージの組箱など立体物にする場合、実際にどんなものができるのか、また立体にした場合すじ折りなどの負荷がかかったときの耐久性について教えてください。

折るなどをして負荷がかかる部分の印刷を抜くなど、デザインの部分での工夫で割れを目立たなくすることは可能かと思います。あとエンボスの印刷面は糊をはじいてしまうことがありますので、そういった部分はエンボスを避けておくといった工夫も必要かと思います。これまでの経験上、立体物の場合90°に折ることが多いと思うのですが、糊の部分に疑似エンボス加工が入らないようにこちらの方でデータ上で修正することで割れない工夫をすることもできます。あとは素材の選定もですが、割れそうな厚さであればバックを薄い色にしたり、一般的な箱を作る注意点と同様でいいかなと思います。この辺りは進めさせていただきながら実現できるようにいたしますのでご安心ください。



サイズ的にどのくらいの大きさまでつくれますか?

UV印刷 疑似エンボス加工ということで考えますと、印刷用語でいう半裁サイズ、B2まで可能です。厚さに関して実績としてもっているのは0.4ミリまで可能です。

印刷はU字でまわっていくタイプではなく紙が平らな状態で送られていって印刷にかけられるということですね。

そうです。

業界にはない自由な発想で価値あるものづくりを

ものづくりへの思いで大切にしていることを今回のアワードでのものづくりへの思いを交えて教えてください。

普段から考えていることのひとつは、つくる側が楽しんでいないと本当にいいものはできないということです。できるからやる、ということでは平凡なものしかつくれません。まずは自由な発想のなかからお互いができることを最大限発揮し、ものをつくっていくことが楽しいはずと思っています。

かつては量ありきで仕事をしていた部分もあったのですが、最近ではデザインや加工にこだわった新しいものをつくり出そうというなかで、どうしたら実現できるのかということに頭を大きく悩ませてきました。ですが考えることは本来楽しいことだと思っています。印刷が好きな人間ばかりが働いている会社ですので、仕上がりの美しさを考えながら仕事をするのは楽しいです。

どんなデザイナーとものづくりをしてみたいですか?

私たちの製造業としての殻を破っていただけるような、想像を越えたご提案をしていただける方とご一緒してみたいです。ご提案に関して制約は一切ありませんが、個人的に好みであえていうとすれば、カラフルでPOPな楽しくなるようなものがつくれたらいいかなと思います。それと普段立体物のデザインをされている方が多いと思うのですが、こんな立体物はつくったことがない…と私たちを悩ませるようなご提案をいただいても逆にワクワクしながら取り組めるかと思います。



ビジネスモデルについてはどのように想定されていますか?

小売に関して販売する場所をもっていない現状ではありますが、それに関しては私たちが勉強をすればできる範囲のことだと思っています。まずはデザイナーさんと楽しみながらものをつくっていき、それが自然とビジネスモデルになっていくのが理想です。

ただ初めてのことですので想像がつかないことではあるのですが、それがビジネスになるようにやっていきたいと思っています。

私自身冒険好きな性格というのもありますが、いつもとは違う、時には枠を破っていろんなジャンルに進出していくことも企業にとって大切なことだと思っています。

普段お仕事をいただきながらものづくりをすることが私たちを支えているもののひとつとしてあるのですが、今回のような新たな取組から生まれたものが、次のお仕事に生きて必ず繋がってくると思ってとにかく楽しみです。



株式会社新晃社(北区) https://www.shinkohsha.co.jp

テーマ:広色域の印刷表現と立体的質感を表現する「印刷技術」 

1978年(昭和53年)巣鴨で創業。1985年(昭和60年)株式会社新晃社として法人化、荒川区で自社の印刷工場稼働開始。デザインデータの作成、製版から印刷、製本などの後加工、内職作業、発送まで社内でワンストップシステムで提供している。UV印刷による特殊印刷・特殊加工が強み。「私たちは、変わります。成長し続けます」という会社のビジョンに向けて、一人ひとりが、目標や施策を設定し、継続性のある経営を目指して未来に向けチャレンジしている。印刷物だからできること、印刷物にしかできないことで、顧客の問題解決を使命とし、高付加価値やオリジナリティを加えられる、印刷ツールを世に送り出していきたいと考えている。

インタビュー・写真:加藤孝司


2021年度東京ビジネスデザインアワード
デザイン提案募集期間 113(水・祝)まで 

応募資格:国内在住のデザイナー、プロデューサー、プランナーなど
応募費用:無料
詳細は公式ウェブサイトをご覧ください

https://www.tokyo-design.ne.jp/designer/  

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