公益財団法人日本デザイン振興会 公益財団法人日本デザイン振興会

テーマ企業インタビュー:株式会社Rinnovation

2021年度東京ビジネスデザインアワード

「東京ビジネスデザインアワード」は、東京都内のものづくり中小企業と優れた課題解決力・提案力を併せ持つデザイナーとが協働することを目的とした、企業参加型のデザイン・事業提案コンペティションです。

企業の持つ「技術」や「素材」をテーマとして発表、そのテーマに対する企画から販売までの事業全体のデザイン提案を募ります。2021年度は、テーマ12件の発表をおこない、11月3日(水・祝)までデザイン提案を募集中です。本年度テーマに選ばれた12社へのインタビューをおこない、技術についてや本アワードに期待することなどをお聞きしました。


お話:CRO 清水 広大氏

■自然素材のバガスを使ったエシカルなものづくり

食物繊維を豊富に含み、食物やバイオ燃料などにリサイクルされているさとうきびの搾りかす「バガス」。世界最大の農作物でありながら、不要部分は廃棄されることも多いさとうきびの搾りかすが近年ものづくりの素材として注目を集めている。Rinnovationはバガスをアップサイクルしたデニムやスーツなどアパレルを中心に、センスのあるユニークな新商品開発に取り組んでいる。サスティナブルな素材であるバガスに新たな付加価値をもたらすデザインが求められている。

自然素材×デザインの相乗効果を目指す

-御社の創業の経緯を教えてください

2018年に、地域創生を目的に、地域経済の活性化や新たな産業創生をしていく会社として創業しました。今回のバガスをアップサイクルした繊維は、沖縄のさとうきび創生事業の一環として生まれました。

弊社では「衣」「食」「住」「環(環境・循環)」の4つのテーマにもとづいたものづくりを掲げ、沖縄を中心に「SHIMA DENIM WORKS」という自社ブランドを展開したり、沖縄の伝統文化やものづくりとコラボレーションをさせていただいたり、地方自治体やJAなどの課題解決のためのコンサルティングを行なったりしています。

-現在エシカルな素材として注目されるバガスですが、どのような経緯でバガスを使った製品を手がけようと思ったのでしょうか? 

沖縄のさとうきび農家さんでつくっているさとうきびを圧搾した際に発生する繊維状の搾りかすが、再利用されずに捨てられている状況に対して何かできないかと考えたのがきっかけでした。

-バガスは燃料などとして再利用されていると聞いたことがありますが、主にどのように使われているものなのでしょうか?

ブラジルやタイなどの世界のさとうきび生産大国では、バイオエタノール等への有効活用がなされていますが、それ以外の国ではごく一部のバガスが家畜の飼料や燃料などに使われているのみで、大半は活用できておりません。

-食料やバイオ燃料としても注目されていますよね。御社ではテキスタイルとしてファッションからのアプローチでバガスのものづくりを展開されていますが、現在どのようなアイテムを展開されていますか?

沖縄県内の職人とコラボレーションしたジーンズ、小物、かりゆしウェアを展開しています。その他にも、日本でデニムの生産量1位を誇る広島県福山で作ったデニムや受注生産をしているオーダースーツなどを展開しています。

-今日清水さんが着用されているのもバガスのスーツですか?

はい。ウールとさとうきびの糸の掛け合わせで仕立てたスーツ生地になります。

-さとうきびの搾りかすはまずはパウダー状に加工すると思いますが、御社ではバガスのどの段階からものづくりを始められるのでしょうか?

搾りかすの状態で仕入れています。沖縄の工場でそれを乾燥粉砕しパウダーにしてそこから和紙にし、和紙を撚り合わせスリット状にした和紙糸(特許取得済)になるという流れです。

-廃棄されてしまう搾りかすからひとつひとつ手をかけて製品になる素材を作っているのですね。すべての工程が沖縄ですか?

パウダー化までが沖縄で、和紙は伝統的な美濃和紙で有名な岐阜県美濃市、撚糸と織布の工程は広島県福山で行なっています。

-すべてがその道の本場で生産されているのですね。現在展開されている製品はどのようにデザインされているのですか? 

社内や知人からのアイデアをもとにしたり、他社からのオーダーに合わせてデザインしています。

-今回の応募理由とテーマについて教えてください。

時代的にはものをつくる上でも消費をする上でも、エシカルが大切なキーワードになっています。これまで取り組んできたことをベースにし、今回のアワードをきっかけにスケールアップしていきたいという思いがあります。それにともないデザインという部分に着目しました。弊社にはデザイナーがいないという課題があり、今回プロのデザイナーさんの案をもとにしたものづくりを通して、時代のニーズに合っているだけでなく、デザイン性も高い商品展開をしていきたいと思い応募させていただきました。

自然な風合いが生み出す多様な表情

-バガスという素材の特にみてもらいたい部分とはどのようなところですか?

ひとつにはバガスに含まれるリグニンという成分による消臭効果です。そして和紙糸は綿の約半分の重さで吸湿保温性があり、製品にしたときに軽い仕上がりになるのが特徴です。バガスの和紙糸を使用していることで麻に近いさらっとした肌ざわりとなり、製品にした時に品のある独自の光沢感がでます。この個性を生かしたものづくりができないかと考えています。

-どのような生地に仕立てられますか?

現在弊社では、インディゴ、チノ、生成、琉球藍を使った藍染の生地を展開しています。これに加え、パウダー化したバガスで、沖縄の紅芋や黒糖を配合したエシカルな金平糖も作りました。

-金平糖は色も鮮やかで美味しそうですね。バガスから作ったデニム生地はふんわりとした軽さやフォーマルからカジュアルまで対応する品のある生地の質感が魅力ですが、製品化する上で加工面で難しい点はどんなところですか?

今回のアワードでの製品づくりにおいてデザインをする際に、デニムはオンスの厚みを加味していただく必要があると思っています。アパレルの場合ほかの生地でもそうなのですが、厚すぎるとミシンで縫えないものもあります。厚みに関してはデザインの際に製品によって、より良い生地を相談させていただければと思います。

それと現在ストレッチ生地が好まれる傾向にありますが、バガスを使った生地自体は伸縮性がありませんので、たとえば体にフィットするようなオーダースーツを仕立てる際には採寸を厳密に行うことで対応しています。それと生地に関しては最低ロットがありますので、一点ものを製作する際はご相談させていただければと思います。逆にある程度数が見込めるものに関しては企画からの製作にも十分ご対応が出来ますので何なりとおっしゃってください。

 -もう少し素材についてお聞きしたいのですが、バガスのパウダーから漉いた和紙の状態での使用は可能ですか? 

これまで和紙の状態で製品をつくってほしいというご依頼をいただいたことはありませんでしたがつくるもの次第では可能かと思います。

-個人的にはバガスの自然の色合いに温かみを感じる和紙としての素材にも可能性を感じます…。バガス生地は御社ではどのくらいの厚みのものがつくれますか?

現状ですと、シャツ用で5オンス、スーツ用で6.5~8.5オンス、ジーンズ用で12オンス~14.5オンスをご用意しています。

素材や製品の大量生産・大量廃棄をしないという方針ですので、生地の在庫はタイミングごとに変動しています。

 -着心地は通常のコットンでつくるジーンズやチノパンと変わりがないのですか?

デニムに関しては通常のヴィンテージデニムと同様に、その方のライフスタイルに合わせて着込むほどに生地に風合いが出てきます。デニム好きの方にはお馴染みのアタリやヒゲが生地に浮き出て味わいのある一着に育つところも魅力の素材です。

環境に配慮したものづくりでより良い循環を生み出す

-今回初の外部のデザイナーとの協働になりますが、どんなところに期待をされますか?

今の私たちの製品はベーシックなデザインのものが中心になっています。毎日に彩りをもたらしてくれて、今の時代にあったデザイン性の高いもの、機能性をもったものなどをご提案していただけると嬉しいです。

-実際にものづくりを進める際には清水さんとタッグを組んで行う形になりますか?

はい。東京でしたら代表の山本と私と東京のスタッフで対応させていただきます。沖縄にもスタッフがおりますので、連携しながらできればと思います。

-実際につくるのはどのようなプロセスになりますか?

縫製に関しては弊社がお願いしている工場でもできますし、ご提案いただいたり、新規に探すこともできます。企画やデザインから一緒にディスカッションをさせていただくイメージです。

-御社との協働の場合、製品化するもののデザインという側面が強いと思いますが、ビジネスモデルのプランニングにも関わってくる部分もあるかと思います。デザイナーがビジネスモデルのデザインについて関わることは可能ですか?

デザイナーさんにいただいたご提案による弊社の「デザイン」と「ビジネス」のスケールアップを目指しています。ビジネスモデルを含めたご提案やご意見もぜひいただきたいと思っています。

-琉球藍の藍染もできるそうですが、染めの段階から関わることも可能ですか?

十分に可能です。実際の糸から製造をしていますので、現在はコットンとウールをかけ合わせて反物をつくっていますが、ご提案によっては別の何かの素材と掛け合わせてつくることもできます。

-生地づくりの段階から携わることができれば、ものづくりの幅も広がると思います。そんなところにも搾りかすを仕入れるところからものづくりをしている御社の強みになりますね。ちなみに糸の状態でのバガスパウダーはどのような割合で配合されていますか?

糸ですと、バガスとバショウ科のマニラ麻を掛け合わせることで糸の強度を補填しています。バガスの配合の割合は何をつくるかによって変わってくるのですが、デニムで30%ほどバガスが入っています。

-日々どのような思いでものづくりをされていますか?

ひとつには地域経済の活性化、沖縄のさとうきび農家さんの現状を知り、廃棄される搾りかすの価値を創出し、6次産業化することでさとうきび産業の発展に貢献したいという思いがあります。また、地球環境を考えたときに、土に還る生分解性を意識しています。アパレル業界が長年抱えている、環境破壊、海洋汚染、大量生産・大量廃棄による環境負荷の問題解決に繋げたい。これは「Renovation」と「Innovation」を掛け合わせた社名にも込めているのですが、つくるだけでなく、製品を回収してリサイクルする仕組みや、自然な状態で土に還る仕組みも考えたものづくりをしています。

清水さんご自身も環境問題には昔から危機意識をお持ちだったのでしょうか?

いえ、実は昔はそうでもなかったんです。私自身前職が通信機器メーカーの営業をしており畑違いのところからこの業界に飛び込んできました。ですのでアパレル業界に関わるようになったところがスタートで、この業界の楽しさや喜びに加えて、環境面に対して問題意識を持つようになりました。弊社の取り組みも認知度というところではまだまだですが、アップサイクルをコンセプトにしたノベルティ製作のご依頼を頂いたり、OKINAWA Startup Programに採択していただいたり少しずつ前に向かって取り組ませていただいております。弊社のモットーであるエシカルやサスティナブルはこれからますます必須になっていくと思いますので、業界の中でも先を行く取り組みになっているという自負はあります。

 -現在どのような販路をお持ちですか?

沖縄の店舗がメインです。そこで、外部の企業様からご依頼いただき製品製作や、生地の提供をしています。また、自社のECサイトでも販売しています。オリジナルスーツなど受注生産で販売している商品もございますので今回デザイナーさんとのものづくりでもこの販路は活かすことができます。

-今回のアワードではどんなデザイナーと出会ってみたいですか?

弊社では思いつかないようなバガスを用いたアイテムはまだまだあると思っていますので、こんな商品どうですか、というようなアイデアベースで構いませんのでいただけたら嬉しいです。それと私どもは現状衣食住の中で「衣」が主流となっていますので、食や住の部分でのラインナップが加わると、さらにスケールアップできるのかなと思っています。現在、人々のライフスタイルは文字通り多様化しているように、今回のご提案に関してもアパレルのみでとは思っていません。

-最後にデザイナーに向けたメッセージをお願いします。

バガスの和紙ひとつとっても伝統産業の職人さんにつくっていただいたり、弊社の製品はいくつもの生産者さんに関わっていただきつくっているものになります。ですので今回のアワードでも目にみえる部分だけではなく、つくり手の思いの部分も訴求できるような商品ができたらいいなと思っています。ぜひコラボレーションをしてみたいと思っていただけたら嬉しいです。素晴らしい提案をお待ちしております。

株式会社Rinnovation(文京区) https://www.rinnovation.co.jp

テーマ:さとうきびの搾りかすから生まれた「サスティナブル素材」

2018年に地域ブランドの価値向上や、地域の経済活性を通して「地域創生」を目指す会社としてスタート。沖縄でのさとうきび創生事業として、バガスをアップサイクルした繊維を開発。既存の高環境負荷素材(石油由来のポリエステル等)の代替素材の開発も行う。地方自治体やJA等の課題解決を行なうコンサルタントと、バガス生地から製品を作り出す縫製スタッフで構成されており、若い社員の採用に力を入れ、zoomの活用等コミュニケーションのとり方を工夫している。現在は、1gでも多くのバガスをアップサイクルすることを使命としており、今のビジネスモデルを他地域や他食材にも横展開させスケールアップを図ることで、更に多くの未利用資源の価値や可能性を広げてくことを目指す。「未利用資源のアップサイクルの先進事例となり、その方法を世界へ広げていく」ことをビジョンに掲げ、有効活用する余地のある資源を「原材料」と捉え、アップサイクルがスタンダードな考え方となる社会づくりに寄与していきたいと考えている。

インタビュー・写真:加藤孝司


2021年度東京ビジネスデザインアワード
デザイン提案募集期間 113(水・祝)まで 

応募資格:国内在住のデザイナー、プロデューサー、プランナーなど
応募費用:無料
詳細は公式ウェブサイトをご覧ください

https://www.tokyo-design.ne.jp/designer/  

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