テーマ企業インタビュー:有限会社プレジール
2021年度東京ビジネスデザインアワード
「東京ビジネスデザインアワード」は、東京都内のものづくり中小企業と優れた課題解決力・提案力を併せ持つデザイナーとが協働することを目的とした、企業参加型のデザイン・事業提案コンペティションです。
企業の持つ「技術」や「素材」をテーマとして発表、そのテーマに対する企画から販売までの事業全体のデザイン提案を募ります。2021年度は、テーマ12件の発表をおこない、11月3日(水・祝)までデザイン提案を募集中です。本年度テーマに選ばれた12社へのインタビューをおこない、技術についてや本アワードに期待することなどをお聞きしました。
お話: 梅澤剛臣氏
■伝統的な「裂地」ものづくりの魅力を広く伝える
伝統織物「裂地(きれじ)」は職人の枯渇によって失われつつある素材であり技術だ。裂地を使ってハンドバッグやクラッチバッグなど美しい装身具を手掛けるのがプレジールのものづくりの特徴。今では貴重なものとなって久しい裂地を材にした、現代に見合ったものづくりのアイデアが求められている。
■失われつつある裂地バッグの縫製技術の継承
—創業の経緯から教えてください。
1966年に祖父が職人兼バッグ卸の会社「有限会社秀巧房」として創業し、1999年に社名を「有限会社プレジール」に変更しました。曽祖父も戦前から煙草入れ、煙管入れ、合切袋などを手がける江戸袋職人をしていまして、1937年のパリ万国博覧会に出品されたバッグの制作を担当し金牌を受賞しました。
—ものすごい歴史があるんですね、創業の地もこちらですか?
創業は荒川区東日暮里になります。あのあたりは昔はバッグの生産者さんたちがとても多かったエリアだったそうです。
—これまでどのようなものを手がけてこられましたか?
伝統的な江戸袋物をベースにスタイルを現代的に変えたものづくりを行っています。帯地や着物地と言った裂地(きれじ)でハンドバッグをつくっています。私自身も江戸袋物を手掛けていますが、関東地方在住の職人さんの手による手作りのハンドバッグ、そのほかには江戸袋物とも呼ばれる合切袋、煙草入れ、巾着袋など幅広いものづくりを行っています。皇族方がお使いになられる和装バッグの制作にも携わらせていただいています。
—布のことをキレということは知っていましたが裂地と書いてきれじとは一般的な言葉なのでしょうか?
たいがいの方は読めないかもしれません。そういった意味では一般的ではないかもしれませんね。
—貴重な素材はどのように調達されているのでしょうか?
制作は完全にOEMのため、お客様から支給された裂で制作をしています。主に帯地、織物になります。
—御社で手がけた製品はどんなところに並んでいるのでしょうか?
私たちからお納めさせていただいたものに関してはどこに並ぶかは教えていただいていません。お客様の売り場、たとえば百貨店さんや呉服屋さんなどの店頭、あるいは顧客様のオーダー品になるのだと思います。OEMとして制作しお納めさせていただいた皇室方のバッグに関しては、テレビなどを通じて目にすることはあります。
—製品を仕立てる職人さんは全国にいらっしゃるのですか?
裂地バッグに関しては東京と大阪がメインの産地になります。東京では一人の職人がサンプル、型紙制作、生地裁ち、縫製、仕上げまで一貫制作をするところが多く、大阪では分業制でそれを職人がまとめるという制作体制をとっているところが多いようです。いずれにしても職人の高齢化が極端に進んでいる業界ではあると思います。
—今回のアワードへの応募理由を教えてください
実は昨年も応募させていただき、今回あらためてリベンジをさせていただきました。先ほど業界的に高齢化が進んでいると申しましたが、具体的には私どもの職人は若くて69歳、主力の職人さんは74歳です。つくり手募集は現在も行なっていますが、応募はゼロです……。ある学校に募集を出した際は一人応募があったのですが、現状を聞いて自信がないということで採用には至りませんでした。
—人材的になかなか厳しい世界なのですね。
袋物の組合にも募集の相談をしたことがありますが、そんな無駄なことはしないほうがいいと言われたこともあります。裂地職人の道というのは知られていませんし、若者に引き継がれていないという厳しい現実があります。
技術を受け継いでいかないとこの世からなくなってしまうということで、今回は裂地バッグの縫製技術の継承という部分に着目し応募させていただきました。
■脈々と受け継がれてきた日本の裂地文化
—TBDAではデザイナーとのマッチングによるものづくりになるわけですが、どのようなことができそうか現状の想定で構いませんので教えてください。
裂地のバッグというのは和装のもので、着物を着ているときにしか持てないと思われている方が多いと思います。そういった意味では着物市場自体も需要が減少してきている中では将来は明るくありません。
今回は裂地の技術を残すためにデザイナーさんの新たなお知恵を拝借して、バッグとはまったく違うジャンルのものを生み出したり、とにかく素材を見ていただき、バッグをつくるにしても私どもでは思いつかないようなアイデアを賜われるのではないかとすがるような思いで期待をしています。
—これまでデザイナーとの協働はありますか
デザイナーさんとのお仕事は荒川区のマッチング事業でやらせていただいたこともあるのですが、裂の扱いになれたファッションを得意とされる方との出会いはありませんでした。今回、私どもの業界を広く知っていただく機会にしていただくとともに、裂やファッションを得意とされる方のアイデアを聞かせていただけることも期待しているところです。
—今回のテーマの業界の未来を担うという部分には技術の継承への思いもあると想像しますがいかがですか?
技術の伝承もそうですが、そもそもこういったものがあることをご存知ない方がほとんどだと思うんです。知っていただくきっかけにもなればと思いました。
—梅澤さんが感じる裂地のバッグの魅力はどんなところですか?
欧米をみていただくとわかるのですが、バッグは革のものがほとんどで裂のものはあまりありません。日本には着物、帯など裂の文化が脈々と受け継がれてきました。それらがすべてなくなってしまう可能性があるのは寂しいことだと感じています。代々続いてきている文化を残すための活動に結びつけられればという思いでやっています。
—裂地のバッグや小物はそもそもどのように生まれてきたものなのでしょうか?
着物をつくるにあたり反物を一反単位で使うのですが、かつてはお仕立てをして着物にしたあとの残りの生地は捨てていたようなんです。余った裂を有効に活用しようということで着物とお揃いの裂で、共地のバッグや草履の鼻緒つくりを始めたということのようです。
—もったいないからの有効活用、裂にはそんな歴史があったんですね。裂をパッチワークのようにして仕立てたバッグもとても素敵ですね。
こちらは切嵌(きりばめ)という特殊な技術を使ったもので、あまり裂を一枚に仕立ててバッグにしています。
—今までつくられたバッグのデザインは梅澤さんが手掛けているのでしょうか?
実は和装のバッグにはデザインというものがあるわけではありません。ただ弊社で現在手掛けている、ちまたで「利休バッグ」や「ほうらいバッグ」といわれているものは、私どもの創業者が生み出したといいますか、その誕生に深く関わっています。そのような場合には創造性が深く関わっているとは思います。OEMで制作のご依頼をいただくときには、既存のバッグを参考にご依頼をいただくことがほとんどです。これまで弊社の製品ではあらたにデザインをひいてつくることはほぼありません。その意味でも魅力ある商品を生み出すことで、一人でも多くの方に職人になりたいと思っていただけることも期待しています。
■高い縫製技術の継承と伝承をするためには
—今後はオリジナルもやっていきたいという思いもお持ちですか?
はい。裂地を生かした新しいカタチが生み出せるのであればぜひ取り組んでいきたいです。
—裂地バッグの制作の流れを教えていただけますか?
職人に相談した上で弊社内にて素材を大まかにカットし、芯材料、部材を手配し、職人に届けて仕立てもらうという流れになります。
—裂は通常先方が手配するとおっしゃっていましたが、今回は裂を扱う、選ぶというところからデザイナーに入っていただくことは可能ですか?
はい。裂の選択も含め、何かに仕立て上げるという広い意味でアイデアをいただきたいというイメージでとらえています。
—縫製上で扱いが難しい素材はありますか?
裂であれば扱うことができない素材はありませんが、形にもよりますが厚すぎるものや薄すぎるものは難しい場合があります。というのも革の場合は「漉く」ことで対応が可能となりますが、裂は革と異なり漉くことができないからです。
—なるほど。デザインについてはいかがですか?
例えば弊社では、サコッシュもつくっていますが、現代的なものも含めてデザインはさまざまなものに取り組んでみたいです。素材と合わせてどうつくり上げていくかという感じになるかと思いますが、縫製の技術に関しては弊社で長年受け継いできた技術がありますのでいかようにもなると自負しています。なんでもおっしゃってください。
—それは心強いです。ビジネスモデルに関してどのようなことを想定されていますか?
弊社は社長と二人でやっている会社です。たいそうなことはできないのですが、OEMだけでは将来は一層難しくなるのは目に見えています。オリジナル商品や、これが弊社の商品ですと声高に言えるようなもので商売ができるモデルに変えていければと思っています。単なるB to BからB to Cへの転換ではなく、弊社のビジネスモデルの強化と考えています。
—素材の美しさや扱いかたも含め、とにかく美しい仕立てに魅了されるのですが、梅澤さんが考えるこの仕事の面白みを教えてください。
職人さんたちは何十年もこの仕事に携わってきていますが、どれだけお褒めの言葉をいただいても、まだ納得した商品をつくりきれていないと話します。死ぬまで修行という職人魂がこの仕事にはあるということでしょうか。若い方にもこの仕事の魅力や奥深さを感じていただければと思っています。
—定年のない元祖リモートワークともいえる仕事ですからね。
はい。完全在宅で、みなさん最後まで現役でやられているところがすごい仕事だと思います。
—今回どんなデザイナーとものづくりをしてみたいですか?
我々の縫製技術に着目してくださり、こんなものができそうだというアイデアをお持ちの方でしたらとても嬉しいです。
—お聞きする感じですと地方の職人さんや織物問屋さんにはたくさんの貴重な生地が眠っていそうですね。そんな生地との出会いのところから梅澤さんにお手伝いをしていただくことは可能ですか?
はい。現在では織物にたずさわっている方々は高齢化して、現代のネットとは無縁の世界ですごされている方ばかりです。実際に足を運ばないと分からない、眠っているものはたくさんあるのではないかと想像しています。
—そのような今は眠っている歴史ある生地を現代に蘇らせ発掘させるプロジェクトを立ち上げることも、素晴らしい日本の織物と技を後世に伝えるためには意義のある仕事になるかもしれませんね。
そのようなことも出来たらより面白いものになるかもしれません。デザイナーさんとの出会いにより、裂地の技術の伝承も含めて面白い科学反応が生まれることに期待をしています。
有限会社プレジール(世田谷区) https://www.plaisir-bag.com
テーマ:業界の未来を担う「裂地袋物縫製技術」
パリ万国博で金牌を受賞したバッグを手掛けた職人である曽祖父の意思を受け継ぎ、1966年6月に創業。創業者である祖父は和装バッグの定番「利休バッグ」や喪服に合わせるバッグ「喪バッグ」というジャンルの誕生にも深く関与。現在は、父と息子2人の会社で裂地バッグをOEM制作。皇室方が使われる和装バッグのOEM制作も担当している。バッグ制作を担うのは長い修業期間を経て独立した職人たち。彼らは独立採算制でそれぞれの自宅の一室を工房としてバッグ制作に取り組み、日々その技術を修練している。各職人たちが持つ、帯地や織物といった裂地をバッグに縫製する技術は国内トップクラス。裂地縫製職人に新たな地位や価値を与えることを自社の使命と考え、製造卸から、オリジナル商品で商売が出来るメーカーへと脱却を図る。大きな収益を上げることで、職人の育成等にも本格的に取り組み、消滅間近な業界に新たな息吹を与えられるよう努めたい。
インタビュー・写真:加藤孝司
2021年度東京ビジネスデザインアワード
デザイン提案募集期間 11月3日(水・祝)まで
応募資格:国内在住のデザイナー、プロデューサー、プランナーなど
応募費用:無料
詳細は公式ウェブサイトをご覧ください