テーマ企業インタビュー:株式会社協進印刷
2021年度東京ビジネスデザインアワード
「東京ビジネスデザインアワード」は、東京都内のものづくり中小企業と優れた課題解決力・提案力を併せ持つデザイナーとが協働することを目的とした、企業参加型のデザイン・事業提案コンペティションです。
企業の持つ「技術」や「素材」をテーマとして発表、そのテーマに対する企画から販売までの事業全体のデザイン提案を募ります。2021年度は、テーマ12件の発表をおこない、11月3日(水・祝)までデザイン提案を募集中です。本年度テーマに選ばれた12社へのインタビューをおこない、技術についてや本アワードに期待することなどをお聞きしました。
お話:企画設計 シニアアドバイザー 千田建一氏
■アイデア満載の紙器でものづくりの楽しさを伝える
紙を立体にすることは創造力がカタチになることでもある。長年製品パッケージを手がけてきた協進印刷。なかでも糊貼り不要で、再使⽤可能な回転組⽴式紙トレーは、紙トレーが持つ機能性とともに、紙を折り造形する楽しさを持ったそれ自体がデザインマインドを備えたものだ。デザイナーが絶大な信頼を寄せ、長年紙器設計に携わってきた協進印刷 シニアアドバイザーの千田建一氏にそのものづくりへの思いを聞いた。
■糊貼り不要で組み上がるユニークな立体物
—御社は紙器パッケージのエキスパートとして知られていますが、これまで手がけてこられたものにはどのようなものがありますか。
紙パッケージの製造を手がける印刷紙器専門メーカーで今年の11月で70周年を迎える会社になります。創業の地である世田谷区若林の本社にラボとして設計部門、デザイン部門、製版部門があり、福生工場には印刷機、打抜機、製函機、自動ラック倉庫等がありワンストップの環境にあります。
主に医薬品関係のパッケージを手がけておりまして、佐藤製薬さんの「ユンケル」のパッケージには長年携わらせていただいております。そのほかにも美容・健康製品パッケージ、食品パッケージ、販促用什器など、さまざまなものを手がけさせていただいております。
特に板紙といわれる厚い紙、それと一般的な商業印刷ですとカタログ、チラシなどをやっています。電子化の時代になってから紙媒体が減少しているのですが、店頭に並ぶ商品パッケージに関しては変わらず忙しくやらせていただいております。
—今回のアワードへの応募理由を教えてください
弊社で開発した成形のための糊やステッチが不要、再使⽤可能な紙器は工業製品にも知育玩具には展開できる環境にも優しくアイデアに溢れた製品です。なかでも回転組⽴式紙トレーは面白いアイデアなのですが、業界で知られているだけで一般にはほぼ知られていません。どうしても工業的な要素が強いものですのでより広く知って活用していただけないかと思い、今回このテーマで応募させていただきました。
—どのような経緯で開発されたものなのでしょうか?
もともとは商品を保管、輸送する紙トレーとして開発したものなのですが、別パーツを使用せずに1枚の紙で設計しているところに特徴があります。最初は2010年にロッテさんのガムのトレーとして提案させていただき採用していただき製品になりました。(2010年日本パッケージングコンテスト GOOD PACKAGING賞 包装アイデア賞受賞)。
組み立てには糊貼りが不要で慣れれば誰でもかんたんに組立することができ、何回でも繰り返し使うことができ、資材も少なく経済性にも優れています。
—パッケージ用にデザインされたデータをもとに、一枚の紙を打ち抜き加工をするだけで、立体の紙トレーになるのですね。
はい。今日はサンプルで色の白いものでお持ちしましたが、両面色付きにしたり、模様を印刷した紙を使用して作ることももちろん可能です。これは私がデザインしたものなのですが、組み立てると飛行機や亀、自動車などに見えるものにもなります。これはお子さんの知育玩具としてお使いいただくことを想定してデザインしました。
—これは楽しいですね。一枚の紙でこんなにユニークな形のものが作れるとは驚きです。
お子さんにも喜んでいただければと思って作りました。世の中には紙を使って組み立てる立体の工作物はいろいろ出ているのですが、多くのものは切り貼りをするものや空き箱を利用するもので、一枚の紙でできるものがあれば、もっとかんたんで楽しいのではないかと思いました。
しかもソフトとハードの要素があり、アトラクション的な面でもいいかなと思っています。ハード面では蓋を付けて工業用用品の通い箱にお使いいただける製品もあります。
糊を使っていませんから部材などを工場に送り、返送の際には畳んで平らにしていただければ輸送コストも抑えられます。そういった意味でもアイデア次第で多方面でご活用していただける技術だと思います。
今回もグラフィックやプロダクトデザイナーさんのお知恵をお借りして面白いことをしてみたいと思っています。
—工業用もあるのですね。現在協進印刷さんで主に使用している紙の大きさと厚さを教えてください。
大きさは1100mm×800mmで、厚さは板紙ですとグラムで260gから600gほどのものまで、ダンボール素材はやっていないのですが、eフルートダンボールは加工できます。実は私は以前ダンボールの設計もしていましたので、板紙だけでなくダンボールの設計もできますので何でも言っていただければと思います。
—糊貼り不要、再使⽤可能な回転組⽴式紙トレーは、一枚の板で、しかも糊を使用せず組立てできるということが肝になりますね。
糊を使っていないから簡単に平面になります。組み立てはやっていただければ分かるのですが、意外とわかりにくいんです(笑)
—確かに……。もとは一枚の紙に切り込みや折目があるだけですので、原理はわかっていても組立図面がないと最初は分かりづらいところはありますね。先ほどラボもあるとおっしゃっていましたが、試作はそこですぐに制作できるということでしょうか?
はい。デザイナーさんにイラストレーターなどでおおよそのデザインをしていただければ、それを私どものラボで製図化したものをデータにして、カラープリンターで出力、そしてカットする事もできますので、すぐに試作をつくることができます。
■子どもも大人も楽しめるものを
—先ほど知育玩具にというお話がありましたが、ほかにはどんなものを想定されていますか?
業務用のものだけでなく、ソフト面においても可能性があると思います。子供も大人も問わず楽しめることで、老人の脳活やリハビリなどにも活用できるものができると思います。小型名刺などにして組み立てていただいたり会社案内のツールにも使えそうです。
—それとやはり平面になるのは持ち運びなど輸送面でのメリットも大きいですね。
一枚の平面でできていますので、糊付けして組み立てた紙器に比べて、必要な時に組み立てればよいので、在庫的にも最小限のスペースで管理ができるメリットがあります。
—想定されるビジネスモデルとしては、御社はB to B向けにこれまで製品を手掛けてこられましたが、今回はB to C向けにチャレンジしたいという思いが強いですか?
それはもちろんあります。まずは楽しんでいただけるものができたら嬉しいですね。カラフルなグラフィックを施したり、両面使えますのでユーザーの方にもご自身で絵を描いてもらったり自由に楽しんでいただけるものができたらと思います。
—デザイナーとの協働についてどのようにお考えですか?
これまでもデザイナーさんのものづくりのお手伝いをしてきたのですが、紙の専門的な知識もそうですが、アイデアはあるけど、どうすれば立体になるのか分からないという声を聞くことがあります。平面のデザインは慣れていても、特に立体となるパッケージに関しては悩まれる方が多く、どのような展開をすればいいのか困っているという要求があります。その際には私の方ですぐにご相談にのらせていただき、CADソフトで設計しカットをさせていただいております。
—心強いですね。これまでにデザイナーとの協働にはどのようなものがありますか?
毎年紙の専門商社の竹尾さんでデザイナーさん向けのセミナーを開催させていただいておりまして、主にグラフィックデザイナーさんとはお付き合いをさせていただくことがあります。最近ですと、オールライトグラフィックスの高田唯さんと竹尾の青山見本帖で竹尾さんのファインペーパーを合紙しダンボール化したファインフルートを使用した紙製ケース「FLUTE BOX」を制作し製品化していただき、この商品は2021日本パッケージングコンテストで日用品・雑貨部門賞を受賞いたしました。又、SPREDさんともお仕事をさせていただきました。
—デザイナーからの一番多い質問はやはり紙器の構造ですか?
はい。立体パッケージの構造です。というのもダンボール箱に関してはJIS規格があるのですが、一般紙器に関しては形やそれを組み立てるための構造を概念的にまとめた構造集のようなものはありません。というのもドラッグストアの店頭ひとつをとってみても、四角い箱だけでなく、商品のボトルのフォルムに沿うようにデザインされたものなど、さまざまな形の紙器が並んでいますよね。だから紙の立体の構造と一言で言っても実に多様で分かりにくいんです。先ほどの回転組み立て式のガムのトレーもそうですが、パテントフリーで一般に公開されています。個人的にも構造集のようなものを作っているのですが、そうすることでパッケージの楽しさが広がっていけばいいなと思っています。
■人にも環境にも優しい紙パッケージ技術
—協進印刷さんにとって紙器の役割とはどのようなことだとお考えですか?
輸送などの際のダメージから大切な商品守る役割がひとつ。それと商品に付加価値を付ける役割、新しい価値を創造したりといった、お客様の課題や悩みを解決したり、手にしてくださる方にとって喜びをもたらすという役割があると考えています。
—今回のアワードでやってみたいことはどのようなことでしょうか。
店頭に並ぶ多くのものが紙パッケージに入っていますので、毎日皆さんお使いになられている割には意外と知られていないのが現状だと思います。テーマにさせていただいた糊貼り不要で再使⽤可能な紙器設計の技術を広めることもそうですし、紙器の設計のおもしろさを知っていただくひとつのきっかけにもしたいと思います。
—再使用できることも現代的な問題意識に近い考え方ですね。
近年いわれているSDGsもそうですが、つくる側としましても人にも環境にも優しく、再利用も含め持続可能なものづくりには意識的になるのは当たり前で、パッケージに対する意識も変わってきているのを感じます。「脱プラ」ともいわれていますが、多くの素材の中で紙は環境負荷の少ない素材ですので、紙パッケージには多くの可能性があると思います。
—千田さんが考えるものづくりへの思い、大切にしていることを教えてください。
以前、日本包装技術協会の業界誌から原稿の依頼があり、これまでの自分の仕事について考えたことがあります。そこでぴったりあてはまったのが、建築家のミース・ファン・デル・ローエの「less is more」、より少ないことは、より豊かなことであるという言葉でした。パッケージにはいろいろな要素があるのですが、大切なのはその中にある一番大切な要素を見つけることなんです。
私の設計の考え方は引き算の設計で、なるべくわかりやすく、部材も少なくということをずっとやってきました。
もうひとつは使う人の立場になって考える「ユーザビリティ」です。パッケージは特に誰もが扱いやすいものでなければなりません。そんなことを考えながらこの仕事に携わってきました。
—長年お仕事をされてきて、喜びを感じるのはどのようなときですか?
そうですね……。たくさんあるのですが、携わらせていただいた製品がコンテストに出品されて光栄にも賞をいただくことがあります。そうしたときにお得意様の喜んでいる顔をみることが、何よりこの仕事をやっていてよかったと思う瞬間のひとつです。
—ありがとうございます。今回どんなデザイナーとやってみたいですか?
一緒に考えて楽しくお仕事をさせていただける方であればどなたでもぜひという思いでいます。コロナ禍にあってリモートで仕事をすることがありますが、英語はそれほど得意ではないのですが、海外のデザイナーさんとのお仕事も面白いかもしれませんね。
—今回、紙の箱でパッケージということでハード的な部分での提案になるのかなと思ったのですが、千田さんのお話を伺って、誰かを楽しませたり喜ばせたりというソフトの部分がパッケージデザインのベースにあるんだということにあらためて気づきました。
その通りです。二次元が三次元になる過程をみるだけでも何か新しい気付きが生まれると思います。ですので今回のアワードでも私どものパッケージの技術を多様に使っていただき、ユーザーの皆さんの感覚を刺激するようなものづくりができればと考えていますのでよろしくお願いいたします。
株式会社協進印刷(世田谷区) https://kyoshin-pr.co.jp
テーマ:糊貼り不要、再使⽤可能な「紙器設計技術
1951年印刷紙器専門メーカーとして、東京都世田谷区若林にて創業。福生工場1期工事さらに2期・3期工事完成。「顧客を感動させられる工場」を目指し、高品質・高付加価値のパッケージを提供している。ISO9001取得。受注の約40%が大変管理の厳しい医薬品のパッケージであり、その他食品、菓子、化粧品、日用品・雑貨、ファッション関係のパッケージ等を製造。営業、制作、工場は幅広い年代で構成されていて、管理職には若い人や女性も登用され働きがいのある環境。社内での温かい言葉がけや思いやりを持つことを大切にする、優しい社風である。SDGsの(つくる責任、つかう責任)を念頭にパッケージをつかう側の立場にたち、よりストレスのない使い心地の良いパッケージ作りを心がけている。困った時に気軽に相談できる受け皿として、またそれに対して適切なアウトプットが出せる企業を目指している。
インタビュー・写真:加藤孝司
2021年度東京ビジネスデザインアワード
デザイン提案募集期間 11月3日(水・祝)まで
応募資格:国内在住のデザイナー、プロデューサー、プランナーなど
応募費用:無料
詳細は公式ウェブサイトをご覧ください
https://www.tokyo-design.ne.jp/designer/