公益財団法人日本デザイン振興会 公益財団法人日本デザイン振興会

テーマ企業インタビュー:FSテクニカル株式会社

2021年度東京ビジネスデザインアワード

「東京ビジネスデザインアワード」は、東京都内のものづくり中小企業と優れた課題解決力・提案力を併せ持つデザイナーとが協働することを目的とした、企業参加型のデザイン・事業提案コンペティションです。

企業の持つ「技術」や「素材」をテーマとして発表、そのテーマに対する企画から販売までの事業全体のデザイン提案を募ります。2021年度は、テーマ12件の発表をおこない、11月3日(水・祝)までデザイン提案を募集中です。本年度テーマに選ばれた12社へのインタビューをおこない、技術についてや本アワードに期待することなどをお聞きしました。


お話:代表取締役社長 藤田正吾氏

命を守るビル外壁不燃化の技術を社会に広めるために

FSテクニカル株式会社は長年ビル外壁の改修を行い、独自工法の指導・普及、建築用の開発機材のリース・販売を行っている会社。自社で開発した技術で世界中に多くの特許を取得し、独自の新工法を生み出し続けている外壁改修機材開発のスペシャリストだ。自社がもつ技術を世の中に広めるための実行力のあるデザインやアイデアが求められている。

■異分野の発想で生みだしてきた外壁改修技術

藤田社長は元々化学メーカーの技術者をされていたとお聞きしました。 

はい。柏化学工業の技術部に15年所属していました。現在FSテクニカルで開発している技術の基礎はそこで学ばせていただいたものです。営業も数年経験させていただき、技術に加え世の中の構造について自分なりに学ばせていただきました。その基礎があり弊社を立ち上げ、全世界に特許をもつ技術を築いてきました。

研究者として経験が現在の唯一無二の技術の開発に繋がっているのですね。

そうです。創業のきっかけは、建築とは違うところで得てきた知識を建築の中に持ち込めば、新しい商材をつくることが出来ると考えたからです。そこで最初に開発したのが、ビル外壁改修における低騒音、低振動、無粉塵で、環境にも配慮しながら穴をあけることが出来る湿式二軸低騒音ドリルでした。ありがたいことにその低騒音の技術開発が評価され、ビルの外壁の改修に関するご依頼を多くいただくようになりました。

それはどのような技術でしょうか?

ビル外壁改修の注入工法に特化した技術になります。ビルの外壁の落下を防止するには、モルタルでもタイルでも、ドリルで外壁に穴を開けて、そこにエポキシ樹脂を注入して固まらせるピンニング工法という従来工法があります。これにはもともと注入した樹脂があふれるなどいくつかの課題がありました。それを解決すれば世の中にない商品、技術になると考えました。そこで開発したのが一層浮き部及び最深部に確実に樹脂を注入することできるニュークイック工法というものでした。それがいくつかの大手企業の日本全国3600棟のビル外壁のスタンダード標準に採用され弊社のスタートになりました。

御社の代表的な技術である外壁改修技術「FST工法」についても少し教えていただけますか?

これは弊社で開発したニュークイック工法を超える、さらに新しい技術を開発したものになります。ビル外壁の仕上げには、下塗り、中塗り、上塗りと幾層にもなっているのが通常で、外壁剥離もその層毎に発生します。

従来の工法では全ての層に安定的に樹脂を注入することはニュークイック工法を含め、非常に困難でした。それを解決するのがビル外壁に穿孔する湿式二軸低騒音ドリルと、0.1mmの空隙から何層剥離部にでも樹脂注入が可能な多層空隙注入ノズルを使用した今わたしたちがビジネスを展開しているFST工法という外壁改修技術です。

この技術により何層剥離部にでも確実に樹脂を注入し、外壁を補修することが可能になりました。

ビル火災から命を守る新技術

そこで今回のテーマとしていただいた「ビル外壁の完全不燃化技術」というものになりますが、これはどのような契機から生まれた技術でしょうか?

ご存知のように日本は先進国の中でも世界有数の地震大国といわれています。関東大震災レベルの首都直下型地震が今後30年に70%の確率で起こるといわれていて、その死者のうち70~80%は火災で死亡するといわれています。これはわれわれ業界が行っていることを否定してしまうことでもあるのですが、現在のビル外壁改修工事はエポキシ樹脂を使用しています。又、タイル業界ではエポキシ樹脂系接着剤による接着張り工法が推奨されております。我々の実験ではエポキシ樹脂は290℃で固定力がゼロになるという結果になりました。火災に対してまったく効果がない事が分かりました。業界ではエポキシ樹脂による施工が最良なものとして普及している現実があります。もし震災でビル火災が発生したら……。それはどうなるのかと考えたわけです。 

それでビル外壁の完全な不燃化という問題解決に取り組まれたのですね。

そうです。それで3年前にその技術の開発を始め、ビル外壁の不燃化というテーマで弊社が開発したのがFSセメントスラリー注入工法という新しい技術です。

我々が開発したセメントスラリーは800℃で1ピンあたり37㎏の固定力があり、国土交通省の指針では1平米あたり16本の施工を行いますから、1平米あたり592㎏の固定力があり火災が発生しても絶対に落ちません。

先日国土交通省にこれからのビル外壁の改修技術は不燃化の方に指導していただきたいと申し伝えさせていただきました。公的機関に知らせる手段を模索しています。今回デザインの力でこの技術を広く伝え、社会に浸透させることができないかと思い応募テーマとさせていただきました。 

FSセメントスラリー注入法とは具体的にどのような工法でしょうか?

ビル外壁改修の際に可燃性の樹脂ではなくセメントを使用する工法です。

これまでもポリマーセメントスラリーというコンクリート補修材はあったのですが、注入すると剥離部に留まらずだれてしまい固着しにくく使用することが躊躇されるという声がありました。

弊社では塗料などに使われる技術をセメントに応用し、静止状態では形状を保ち、振動などのエネルギーを加えると流体化する技術を開発しました。さらにセメントスラリー用に改良した多層空隙注入ノズルやポンプを使い外壁内の剥離した部分に注入します。

そうすることにより外壁剥離内でもたれずに円周状にセメントが広がり、たれることなく留まり剥離面を固定することが可能になり、ビル外壁の完全不燃化が可能になりました。この技術を普及させることで火災時に犠牲になる人を少しでも減らし社会貢献に繋がるのではないかと考え、その普及に向けたアイデアをデザイナーの方に一緒に考えていただきたいのです。

安心をもたらすインフラのデザイン

今回は建築の技術者ではなくデザイナーとの協働になるわけですが、デザインのどのようなところに期待されたのでしょうか?

私たちは地元東京に震災が発生した際に避難経路や緊急輸送道路、避難施設、病院、学校などのビルの壁や壁面が燃えて落ちて人々が危険に晒されることを、この不燃化の技術で未然に防ぐ方向に導いていきたいという希望を持ってこの技術に取り組んでいます。

当初デザインとは物の形のような目に見えるものや手に触れられるものをイメージしていましたが、そうではないことを知りました。今回デザインに求めているのは、震災や火災に対する完全不燃化の技術を社会に浸透させるアイデアです。まずは国や都といった公的機関を動かす組織をデザインしてほしいと思っています。

技術面だけではなく、有益な技術を社会に伝えていく仕組みづくりとしてのデザイン…。

そうです。どんなに世の中の役に立つ技術であっても活用する側の組織や社会がこちらを向いてくれなければ元も子もありません。これらを行なっている業界や企業がこちらを向いてくれるためにはどうすればいいのか。

今はコロナ禍の中で人々の危機意識はそちらに向いていますが、今回のアワードへの参加をきっかけに目の前に迫っている危機に対して私たち専門家は何ができるのか、それを今一度考えていただきたいと思っています。

安心安全な社会や暮らしを守るインラフとしての技術を世の中に浸透させることですね。

そしてこれは弊社が独占してできるようなものではなく、業界全体、社会全体が応用しなければ実現しない技術です。弊社では現在「FST工業会」として120社ほどの施工会社の団体がありますが、日本全体にこの工法を広めるためにはそれでは足りません。不燃化の技術を広めると同時に、技術を伝え、技術を身につけた職人の組織作りも必要になってくるでしょう。

人々の役に立ちたいという思いを背景にした壮大なビジョンをお持ちですが、どのような思いが藤田社長のものづくりへのモチベーションになっているのでしょうか。

なにより人命の遵守が基本です。そして社員や家族を守り、世の中の人のためになりたいということでしょうか。人が困ったこと、うまくいかないこと、そういうものを解決していく。それが私のものづくりへの思いであり信念です。

御社の最大の強みと課題と思われていることを教えてください。

これは日本中見渡してもほとんどないと思うのですが、弊社がもつ技術はすべてがすべて自社で設計してつくり上げた世界にひとつしかないオンリーワンの技術であるということです。

ですので弊社のすべての売上は当社の特許をベースに生みだしています。ただ、弊社の特許品にフジタ式拡底アンカーという、打ち込んだら絶対に抜けないアンカーというものがあるのですが、価格が既存のものよりも高くて売れません(笑)。よくあることですが、どんなに優れていて良いとわかっているものでも世の中ではどうしても価格が安いことが優先されたり、企業同士のお付き合いがあって市場参入ができないという現状があります。伝え方がまだまだ私どもでは不十分なのですが、良くても売れないし、思うようには広まっていかない。そのようなジレンマを日々課題としてもっています。

最初にもありましたが、御社の技術を社会に伝えるコミュニケーションの部分が今回求められていることのひとつですね。そのためにどんなデザイナーと出会ってみたいですか?

弊社の特許はすべて人に役に立つことを念頭に開発している技術です。それを社会に実装するためにも、ひとつには今の建築業界の流れをどうすれば変えていけるのか。そのための組織をデザインしたいというところで思いをひとつにしていただける方とぜひ出会ってみたいです。一緒に国や東京都、日本中を動かしていきたいと思っています。



FSテクニカル株式会社(葛飾区) https://fs-tec.co.jp

テーマ:災害に強く安全性の高いビル外壁の「完全不燃化技術」

平成18年2月設立。従来より行われてきたビル外壁の剥離落下防止技術に誤りがあることに気付き、新しいビル外壁の剥離落下防止技術「FST工法」を開発、販売を行う。当社のモットーは絶対に嘘は言わないこと、ごまかしをしないこと。製品は全て従来技術では到達しえない高い安全性、安全率を確保した優れた商品である。この技術を多くの方々に活用していただき、社会インフラの安全の確保や国民の方々の安全安心を守るために貢献したい。現在行われているパネル工法を除く改修工事の全て(ピンニング工法、ネット工法、接着張り工法、外断熱工法)が可燃化工法であるため、現在の市場の全てを不燃化工法の市場に変換することを目指している。

インタビュー・写真:加藤孝司


2021年度東京ビジネスデザインアワード
デザイン提案募集期間 113(水・祝)まで 

応募資格:国内在住のデザイナー、プロデューサー、プランナーなど
応募費用:無料
詳細は公式ウェブサイトをご覧ください

https://www.tokyo-design.ne.jp/designer/ 

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