テーマ企業インタビュー:中興化成工業株式会社
2020年度東京ビジネスデザインアワード
「東京ビジネスデザインアワード」は、東京都内のものづくり中小企業と優れた課題解決力・提案力を併せ持つデザイナーとが協働することを目的とした、企業参加型のデザイン・事業提案コンペティションです。企業の持つ「技術」や「素材」をテーマとして発表、そのテーマに対する企画から販売までの事業全体のデザイン提案を募ります。
2020年度は、テーマ9件の発表をおこない、11月3日(火・祝)までデザイン提案を募集中です。本年度テーマに選ばれた9社へのインタビューをおこない、技術についてや本アワードに期待することなどをお聞きしました。
お話:中興化成工業株式会社 代表取締役社長 庄野直之氏、広報・秘書課副主事 野崎英俊氏、開発本部マーケティング部主任 塚形昂生氏
1963年に創業したフッ素樹脂加工メーカー。今回のアワードでは中興化成工業が長年の開発期間を経てつくり上げたフッ素樹脂ファブリックをテーマとした。この素材は東京ドームや高輪ゲートウェイ駅の屋根などにも使われる熱に強く極めて耐性の高い素材である。ユニークな特性をもったこのファブリックの新しい使い方が求められている。
顧客の声を反映したものづくり
ーー御社の業務内容について教えてください。
フッ素樹脂を素材にしている製造業です。フッ素樹脂についてはフライパンコーティングに使われる「テフロン」を想像していただけるとわかりやすいと思います。特徴としては熱に強く溶けない素材で、ベタベタとほかのものがくっつかないという点が挙げられます。一言でいうとタフな樹脂で、簡単にいうということをきかない素材なわけです。
ーーといいますと?
ほかの素材がくっつかないということです。フッ素樹脂ファブリックは薄いガラス繊維など工業用クロスにフッ素樹脂を含浸させたものを焼き付け、それを何度か繰り返してつくります。一般的には溶かしたりくっつけたりすることを加工といいますが、私たちの仕事は要するに「くっつかない」という特徴をもった素材の言うことをきかす、そのようなタフな素材を加工して製品をつくるということが仕事のコアな部分になります。
ーーよくわかりました。
それと私たちが普段つくっているのはB to Bといわれる産業用向けの製品になります。顧客に向けて訴求するというよりもこのようなものを作ってほしいというお客様からの要望に基づいて部材をつくったり、こんなことに困っているという課題を聞いてそれに合わせたものをつくるということが従来の仕事です。
ーー今回のアワードでフッ素樹脂ファブリックをテーマに選んだ理由を教えてください。
理由は2つあります。1つ目はガラスなどの耐熱性のある繊維にフッ素樹脂をコーティングしてつくるフッ素樹脂ファブリックというものはユニークかつ当社の強みにしている製品だからです。それをつくるための設備の技術も多く有しています。
2つ目は当社はフッ素樹脂ファブリック以外に多くのフッ素樹脂製品をつくっていますが、その多くが先ほどお話しをしたようにお客様の依頼があってつくる、ある意味受け身な製品です。ところがファブリックを中心にした製品に関しては、顧客に直接訴求するような製品デザインが出来る分野だと考えています。具体的には、当社の製品に「クックシート」というものがあります。この製品はフッ素樹脂ファブリックをつかって、一般消費者向けに製品化したものです。フッ素樹脂の特性として熱に強くほかのものがくっつきませんから、洗って何度でも使えるという利点をもっています。
ーー確かにフッ素樹脂の特徴を日常においてわかりやすく示している製品開発ですね。
はい。しかしながら、性能がよくても工業製品のメーカーがつくる製品だけに、いまひとつそそらないといいますか。このような製品には印刷で装飾したものなどがあると思うのですが、私はものが売れるか売れないかを決めるのは、そそるか、そそらないかだと思っています。ですが私たちには技術はあっても「デザイン」と言えるようなものをつくるアイデアがありません。これはひとつの例ではありますがその部分を今回なんとかかたちにしたいと思っています。
ーー御社のフッ素樹脂ファブリックの製品で特徴的なものはどのようなものがありますか?
みなさんに身近なものでいいますと東京ドームの屋根が特徴的な製品になります。これは、厚手のファブリックを使用した建築用途の製品です。
当社の製品を使ってバッグやアパレルをつくりたいという思いがあっても、それを具現化する発想はどうしてもありません。われわれはいわゆる反物屋というか生地屋であり、そこからデザインというものに橋渡しすることができていない現実があります。
劣化しないタフさをもったユニークな
ーーフッ素樹脂ファブリックの特徴をもう少し教えてください。
先ほどタフだと言いましたが、先ほどの東京ドームの屋根を例に挙げると、あれだけ直射日光や雨などにさらされると10年もすればほとんどの素材であれば劣化してきます。ですが当社のフッ素樹脂ファブリックは4〜50年はまったく劣化しません。そのような耐候性、防水性に加え、光も12%ほど通しますので昼間は照明がいらないほどです。ものがくっつかないので汚れは雨水によって自然と流れ落ちていきますし、変色もしません。極めて無機物に近いともいえるくらいにタフな素材が当社のフッ素樹脂ファブリックです。
ーー素材はガラス繊維がベースのファブリックにはどのようなものがありますか?
スタンダードなシート状のファブリックとメッシュのものがあります。
ーー先ほどガラス繊維というお話がありましたが、フッ素樹脂ファブリックのベースとなる素材には種類はあるのでしょうか?
製品をつくるには高温で焼き付けるという工程があり、普通の繊維ですと溶けてしまいます。ですのでガラス繊維やアラミド繊維などの耐熱繊維である必要があります。
ーーということは熱に耐えられてフッ素樹脂樹脂を含浸させることができる素材であれば可能ということですか?
だいたい400度ほどの熱に耐えられる素材でないと基材自体がやられてしまいます。防弾チョッキにも使われるアラミドクロスは素材自体が高価で製品の素材には少し不向きですが、ガラス繊維の場合は比較的安価に使えて強度が高いという特徴があります。ただガラス繊維は折れやすいですがアラミドクロスは折れによく耐えます。一方アラミドクロスは紫外線に弱くガラスクロスは強いなどどちらにも一長一短があります。
ーーなるほど。フッ素樹脂ファブリックも非常に繊細なタッチの薄いものから比較的厚手のものまであるんですね。
薄いもので70ミクロン、厚いもので1000ミクロンまでつくることができます。
ーー色はどうですか?
ガラス繊維にフッ素樹脂を含浸させて焼き付けると薄いベージュのような色になります。それが1ヶ月くらい日光にあてると茶色い部分を紫外線が分解して真っ白になるという特徴があります。先ほど申し上げたように、ほかのものを弾くということは、そのままでは色も塗れません。最初に言うことをきかすのが当社の仕事であると言いましたが、印刷出来るフッ素樹脂ファブリックも開発しましたので色をつけること、印刷することはできます。ただ問題は着色材自体が有機物でしたので、屋外で太陽光にさらされると色が褪せてしまうことです。
ーーモノをつくるときに色のバリエーションは重要ですよね。そうすることで活用の幅も広がると思います。
そうだと思います。現在は無機顔料を使い色褪せのないものをつくることにチャレンジをしているところです。
ーー切ったり貼ったり製品を加工することに関してはいかがですか?
カッターナイフで簡単に切ることができます。貼ることに関しては貼る加工をすることで可能になります。
ーー先ほど東京ドームの屋根の話がありましたが、建築用に使われることが多いのですか?
フッ素樹脂ファブリックに関して、建築用として使われるのは全体の2割程になります。当社では応接室の障子紙の代わりにフッ素樹脂ファブリックを使っているのですが、インテリア素材としても有効だと思っています。
親切心をもってお客様の課題解決のために
ーーフッ素樹脂ファブリックの開発の経緯を教えてください。
最初はお菓子のパッケージのヒートシールとして開発しました。お菓子のパッケージをよくみていただくと周辺の融着部分に細かい格子状の模様がありますが、それがフッ素樹脂ファブリックの表面の跡になります。ヒートシール自体がプラスチックに熱をかけて圧着しますが、圧着ができても機械で熱をかけた部分も熱で溶けてくっついてしまってはシールはできません。熱板の当たる部分に当社のフッ素樹脂ファブリックが貼ってあるからこそスムーズなヒートシール作業が可能になります。これが最初に使われて今でも多く使われているものになります。
創業当初、工業用繊維クロスにフッ素樹脂を重ねて塗ることは困難を極めました。そのために機械も自社で設計しました。最初は小さなものから、ドームの屋根に使用するような4メートルほどの幅のものをシワも寄せずに均一につくれるようになるまでにはブレークスルーが必要で10年以上かかっています。それまで失敗続きでスクラップの山でした。
ーーフッ素樹脂ファブリックを使うメリット、素材としての可能性を教えてください。
透光率に関しては現在12%ですが、ドームの中で天然芝が生える50%までもっていくのが現在の夢です。それと太陽光発電システムを組み込むことは私たちのグランドチャレンジです。屋外で使用しても劣化しない、ものが付きにくいので例えば「汚れても水で簡単に洗い流せる」という点は大きなメリットになるのではないかと思っています。
ーーお客様のお手伝いをする上で大切にしている思いを教えてください。
ものづくりは手段でお客様の課題に対しソリューションを提供するのが私たちの仕事だと考えています。お客への「どうしましたか?」という姿勢を入口にしており、そのためにも常に親切でありたいと思っています。
ーー今回どんなデザイナーと出会ってみたいですか?
知識に凝り固まっている頭を打破していただけるような自由なアイデアをお持ちの方とご一緒したいです。当社のクックシートもそうですが、課題解決力はあっても訴求力が弱い。一般の方にも知っていただけるようなB to Cの商材の開発にも取り組んでみたいと思っています。どのようなアイデアがでてくるのかをとても楽しみにしています。
ーーデザイナーへのメッセージをお願いします。
技術には自信を持っていますし、素材や性能にしても最高級のものであると自負しています。まずはこんなものは出来ますか?というようなアイデアレベルの声で構いません。そうしてディスカッションをしながら、われわれに欠けているものを補っていただき、新しいものを一緒につくっていくことができれば嬉しいです。
中興化成工業株式会社 (港区)https://www.chukoh.co.jp
テーマ:機能性と高強度を兼ね備えた「フッ素樹脂ファブリック」
1963年、フッ素樹脂の総合加工メーカーとして創業。フッ素樹脂の持つ特長を生かして建築、半導体、自動車、医療、食品加工、通信などさまざまな分野でフッ素樹脂加工製品を製造。顧客のさまざまな課題・ニーズに応えるため、各部署のスタッフが一致協力して親切心をもって真摯に取り組んでおり、スタッフ同士はもちろん上司でも何でも相談し合えるざっくばらんな社風。九州の言葉で「どげんしたとですか?」という親切精神のもと、ユーザーの課題に向き合い一緒に解決していく姿勢を大事にしている。
インタビューと写真:加藤孝司
2020年度東京ビジネスデザインアワード
デザイン提案募集期間 11月3日(火・祝)まで
応募資格 国内在住のデザイナー、プロデューサー、プランナーなど
応募費用 無料
詳細は公式ウェブサイトをご覧ください